作品タイトル不明
第443話 天翔るビコルヌ
ライトとレオニスが目覚めの湖で『湖底神殿散策ツアー』を楽しんでいた頃。
ラウルは冒険者ギルド総本部に来ていた。
依頼掲示板に貼り出された各種依頼は、基本的に早い者勝ちだ。故に積極的に優良案件を確保したいなら、朝早くに来て依頼掲示板をチェックしなければならないものらしい。
だが、ラウルは先日冒険者登録したばかりのペーペーの新人だ。今すぐ引き受けられる依頼も、紙級と木級までなのでまだ数自体が少ない。
故に朝早くにギルドに駆け込んで、条件の良い依頼を奪い合いする必要もない。朝食後に炊事の片付けや掃除などを軽く済ませ、午前十時頃に冒険者ギルド総本部に顔を出す。
正真正銘の新人冒険者なのに、堂々とした重役出勤である。
ラウルは先日の冒険者登録完了時にもらってきた小冊子『冒険者の手引き~一流冒険者に至るための基礎知識とコツ~』をパラパラと捲る。
その中の『第二章・依頼を引き受けよう』の中の『そのニ・依頼を引き受けるには』を読むラウル。
「ふむ。まずは依頼掲示板を見て、自分に合いそうなものを選ぶのか」
「今の俺だと、階級は紙もしくは木までを受けられるんだな……とりあえず依頼掲示板を見てみるか」
ラウルは大広間の依頼掲示板がある壁の方に向かう。
ここラグナロッツァは大国アクシーディア公国の首都だ。
その大都市に居を構える冒険者ギルドの総本部だけあって、持ち込まれる依頼もものすごく数が多い。
ラウルはたくさんの依頼書が貼られている依頼掲示板の前に立ち、再び小冊子を見ながら確認する。
「右側が単発依頼、左側は常時継続依頼。難易度は下の位置ほど易しいもの、危険度の高いものはより高い位置に貼られる、か」
「そうすると……俺は下側に貼られているのを見ればいいんだな」
小冊子の手引きに従い、早速下側に貼られている依頼書を眺めるラウル。
ビッグワーム退治、廃棄物処理にまつわる運搬や焼却などの各種業務、下水道清掃補助、街路樹の手入れの手伝い等々。
なるほど確かにこれは危険度が低めのものばかりだな、とラウルも納得する。
だがしかし、ラウルには分からない点が一つあった。
それは、これらの依頼書が右側の単発依頼と左側の常時依頼の両方に貼り出されているものも多かったからだ。
何故同じものを両方に出しているんだろう、どちらか一つ出せば良さそうなもんなのに。何か違いでもあるのだろうか?
そんなことを考えながら、ラウルは依頼掲示板の左右を交互に見返す。
そんな如何にも初心者オーラ丸出しのラウル。
その背後から突然声をかけられた。
「よう、兄ちゃん」
「…………」
「おい、兄ちゃん。耳が聞こえねぇのか?」
「……ン? 俺のことか?」
「そうだよ。つーか、俺達以外に今ここにいるのは兄ちゃんだけじゃねーか」
途中肩をポンポン、と叩かれたラウルが振り向くと、そこには三人組の冒険者らしき者達が立っていた。
派手な二角帽子を被り右眼に黒薔薇の眼帯をした、黒ジャケットに胸元をはだけさせた白シャツの筋肉質の男、モヒカンに鼻ピアスをした上半身ほぼ半裸のゴツい巨体の男、目のクマが壮絶に濃い顔面蒼白な黒ローブを着た痩せ型の小柄な男。
どいつもこいつも全員見るからに胡散臭さMAXである。
ラウルの方は、まさか自分に声をかけられているとは微塵も思っておらず、図らずも男達を無視した格好になってしまった。
そのことに瞬時に気づいたラウルは、大振りな羽根の付いたド派手な二角帽子の黒薔薇眼帯男に素直に謝る。
「気づかなくてすまんな。ここの依頼書を見てたもんで」
「いいってことよ。それより兄ちゃん、ここら辺じゃあまり見かけたことのないツラだが、他所から流れてきたのかい?」
「いや、ラグナロッツァに住んでいるが冒険者はこないだ登録したばかりなんだ」
「……ほぅ、登録したての新人ってか」
黒薔薇眼帯男だけでなく、その後ろにいるモヒカンや黒ローブまでもがニヤニヤと笑う。
ただでさえ見た目からして胡散臭さMAXなのに、薄笑いを浮かべることでMAX上限を軽々と突破している。
そんな超絶胡散臭い三人組が、素早くラウルを取り囲む。
ラウルの左側に来た黒薔薇眼帯男が馴れ馴れしく肩を組み、右側には黒ローブモヤシがラウルの腕に手を添え、ラウルの真ん前に巨体モヒカンが壁の如く立つ。
「なぁ、兄ちゃんよ。冒険者デビューしたばかりの兄ちゃんに、そりゃあうってつけの依頼があるんだ。俺達も今からその依頼主のところに行くんだが、いっしょに行かないか?」
「それは、お前らとパーティーを組む、ということか?」
「なぁに、そこまで大袈裟なもんじゃない。兄ちゃんも俺達と同じ依頼書を窓口に出してくりゃいいのさ」
肩を組んだ黒薔薇眼帯男が、巨体モヒカンに向けて親指を立ててクイッ、と依頼掲示板の方を指差す。
それを見たモヒカンがコクリと頷き、依頼掲示板の方に行く。
そこから一枚の依頼書を剥ぎ取ってきてラウルに手渡した。
その依頼書を一瞥したラウルは静かに頷いた。
「…………ふむ、良かろう。じゃあこれを窓口に提出してくる」
「おう、俺達ゃ入口のところで待ってるぜ」
ラウルは早速その依頼書を手に、受付窓口へと歩いていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ラウルの依頼が無事受理された後、四人は冒険者ギルド総本部を出て依頼主のいる現場に向かっていた。
緊急性のある依頼ではないので、のんびりと歩いていく。
ラウルを真ん中にして、左右に黒薔薇眼帯男と黒ローブモヤシ、ラウルの背後にはモヒカン。まるっきりラウルを取り囲むようにして歩く三人組。
現場に行く道中、黒薔薇眼帯男が先にラウルの名前を聞いてきた。
「兄ちゃん、名前は何てぇんだ?」
「俺の名はラウルだ」
「ラウル、か。見た目に違わずカッコいい名前だな」
「お前達の名は?」
「俺はバッカニア、後ろのデカブツはスパイキー、そっちのローブはヨーキャってんだ」
ラウルに名を問われた男達。黒薔薇眼帯男が代表して全員の名前を述べる。
黒薔薇眼帯男はバッカニア、モヒカンはスパイキー、黒ローブはヨーキャという名前らしい。
「そうか。今日一日よろしくな」
「おう、俺達ゃ冒険者歴十二年のベテラン先輩だ。大船に乗ったつもりで何でも聞いてくんな」
「そうだぞ、もうすぐ黄金級に上がるバッカニアの兄貴が率いる『 天翔(あまかけ) るビコルヌ』は、ラグナロッツァでもそこそこ名の知れたパーティーだからな!」
「コチラこそヨロシクね……フヒヒ」
この三人組は『天翔るビコルヌ』という名のパーティーで活動しているようだ。
巨体モヒカンが『バッカニアの兄貴』と呼んでいるあたり、パーティーのリーダーは黒薔薇眼帯のバッカニアという男が務めているのだろう。
しかもこのバッカニア、黄金級間近の白銀級だという。もしそれが本当ならば、このバッカニアという男は結構な実力者ということになる。
「スパイキーやヨーキャはどの階級なんだ?」
「俺もヨーキャも黒鉄、バッカニアの兄貴の白銀の一つ下だ」
「三人とも結構上の階級なんだな。だが、今から行くのは紙級の俺でも受けられる依頼だが……お前達のような上の階級が引き受けるのは、よくあることなのか?」
白銀一人に黒鉄二人、レベル的に見れば上寄りの中堅パーティーといったところか。
そんな中堅パーティーが、冒険者登録したばかりの紙級のラウルでも受理される仕事を進んで引き受けるものだろうか?
ラウルの尤も至極な疑問に、リーダーのバッカニアは不敵な笑みを浮かべながら答える。
「ま、そこら辺はな? 俺達なりの事情ってもんがあんのよ」
「そうなのか?」
「そうそう。お前さんも階級が上がっていけばいずれ分かるさ」
事情とやらの詳細は語らずに、のらりくらりとはぐらかすバッカニア達。
「それに俺達、この依頼嫌いじゃないっつーか。むしろ好きな方なんだよな」
「特にバッカニアの兄貴は、この依頼を好んで引き受けるよな!」
「うッせー、お前らだって進んでやってるじゃねーか!」
「バッカ兄ほどじゃないですよ……クフフ」
三人が三人とも、全員怪しい笑顔で会話している。
低リスク低報酬の依頼を好んで受ける中堅パーティーとは、ますます以て不可解である。
そんな会話をしているうちに、四人は今日の依頼書の現場に到着した。
そこは人通りもなく、スラム街と言っても何ら差し支えないくらいに荒れた建物が立ち並ぶ。
罅割れた石畳を隠すかのように、あちこちにゴミが散乱している。
ラウルは初めて来た場所だが、荒廃しきった光景とともに空気もかなり澱んでいるように感じた。
まずは四人の代表として、バッカニアがその建物の入口の前に立つ。
「……じゃ、お前ら、行くぞ。新人の兄ちゃんも気合い入れてけよ」
「おう」
バッカニアは入口の扉に手をかけて、ゆっくりと慎重に開けていく。
建て付けが悪く大きく歪んだ両開きの扉が、ギィィィィ……という軋んだ耳障りな音を立てる。
建物の中は昼間だというのに薄暗く、中の様子もよく見えない。
扉を開けたバッカニアを先頭に、三人組が順番に建物の中に入っていく。
ラウルもその後に続いて入っていった。