軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第439話 アクアの進化

遊覧船イード号に乗って、目覚めの湖の水中を優雅に泳ぐこと十数分。

湖面の近く、水面の浅いところを泳いでいるので日の光が差し込んで周囲もまだ明るい。水中でキラキラと降り注ぐ日の光がとても美しく、幻想的な光景にライトはうっとりとしている。

ライトの横にいるレオニスも、普段は見られない光景に目を輝かせながら周囲を見回しているし、レオニスの膝に座る水の女王もとても楽しそうだ。

浅瀬からだんだんと水深が深いところに潜っていく。

ゆっくりと暗くなっていき、地上の光がだいぶ遠くなってきた頃。ライト達の前に、湖底神殿と思しき人工的な建物が見えてきた。

神殿の前で止まるイード。イードの背に乗っていたライト達はその背を降り、湖底に降り立った。

「……これが、水神アープであるアクアが生まれたという湖底神殿か?」

「うん。ここの奥の祭壇に大きな卵があって、その卵からアクアが生まれたんだ」

「……よし、中に入ってみるか」

「あ、イードはここに残って見張りをしててね。見張りといっても、敵とか来る訳もないだろうけど一応ね」

「キュルルィ」

大き過ぎて神殿内に入れないイードを残し、ライト、レオニス、ウィカ、アクア、水の女王が神殿に入っていく。

「中は真っ暗だけど、大丈夫か?」

「うん。前にぼくが神殿の中に入った時は、柱の灯りが自動的に灯るようになってたよ」

レオニスの心配を解消するために、ライトが見本を示すように神殿の中に足を踏み入れる。

するとライトが言った通りに、側廊の上部がぽつん、ぽつん、と奥に向かって連鎖しながら灯りが灯っていく。鬼火のような青白い炎が、周囲を淡く照らしていった。

「おおお……こりゃかなり高度な作りの神殿だな」

「でね、この一番奥に卵があったの」

ゆっくりと奥に向かって歩いていくライト達。

しばらく進んでいくと、そこにはライトの言う祭壇があった。

その祭壇はとても高く、優にレオニス二人分以上の高さがありそうだ。

目の前に聳え立つ祭壇を見上げながら、レオニスが呟く。

「こりゃまたでけぇ祭壇だな……」

「もう卵はないけど、上に登ってみる?」

「そうだな、せっかくだから登ってみるか」

レオニスがライトを抱えて湖面を蹴って飛び上がる。

ここは水中なので地上のように勢いよく瞬時に登れる訳ではないが、それでも易々と祭壇の上面に辿り着けるのはさすがレオニスとしか言いようがない。

祭壇の上面には、大きな卵が乗せられていた大きな座布団だかクッションのようなものがそのまま残されている。

『ここにアクア様の卵が御座してたのねー』

「クルルゥゥゥゥ♪」

アクアがまるで里帰りを喜ぶかのように、卵のあった場所にぽすん、と座る。

いや、実際にアクアにとってこの場所は生まれ故郷なので里帰りと言っても何ら差し支えはないのだが。

ご機嫌な様子でクッションに座るアクア。すると突然、アクアの身体がほんのりと光り始めたではないか。

「え、ちょ、何、アクア、どうしたの!?」

『……待って、ライト!ここでおとなしく見てて!』

突然の発光に驚いたライト、咄嗟にアクアに近づこうとするも近くにいた水の女王に腕を掴まれて止められる。

ひとまず水の女王の言葉に従い、その場に留まってアクアの様子を心配そうに見守るライト。

うっすらと発光しているアクアの背中、首の付け根辺りが何やら隆起しているように見える。

その隆起が大きくなるにつれ、アクアの発光も強くなっていく。

「「…………ッ!!」」

青白い強烈な光が一瞬光り、ライトとレオニスは思わず腕で目元を隠しながら目を瞑る。

それから数秒ほど経過しただろうか。目元を防いだ腕から光が消えたことを確認してから、そっと周囲を伺うライト達。

クッションに座るアクアの背には、何と一対の翼が生えていた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「これは……翼?」

「だなぁ……原理は全く分からんが、あの祭壇に座ったことで背中に翼が生えたっぽいな」

しばらく呆然としていたライトとレオニスだったが、アクアの変化した姿を見てだんだんと我に返る。

改めてアクアの翼や身体をまじまじと観察するライトとレオニス。

アクアの新しい翼は、首の付け根より少し後ろに左右対称で一枚づつ生えている。

見た目は翼竜などと同じような構造で、傘のように骨と皮膜でできているタイプだ。皮膜は身体の瑠璃色を薄めたような、鮮やかな美しい青色である。

翼以外に変わったのは、額に生えている角が心なしか一回り長く伸びたような気がするくらいか。

アクアのビフォーアフターを熱心に観察しているライト達。

そんな二人を他所に、水の女王やウィカが喜びながらアクアに近づいていく。

『アクア様!進化なさったのね、おめでとうございます!』

「うなぁーん♪」

『ああ、何て美しい翼なんでしょう……こんなに素敵で立派な翼なら、目覚めの湖の端から端まで一瞬で移動できちゃいそう!』

「にゃうにゃうん」

『え、さすがにそれはまだ無理? でもアクア様なら、きっとすぐに次の進化を迎えられるに違いないわ!』

「クルルァ」

アクアの進化を大はしゃぎで喜ぶ水の女王とウィカに、アクアも満更でもなさそうに返事をしている。

アクア達の様子を見て、もう近づいても大丈夫そうだと判断したライトとレオニス。アクア達のもとに寄っていく。

「アクア、新しく翼が生えたんだね。すごいね、おめでとう!」

「キュイィィィィ♪」

ライトがアクアの背を擦りながら褒め称えると、アクアはとても嬉しそうな声で応える。

本当は生えたばかりの翼も触ってみたいが、ここはグッと堪えるライト。まだ出来たてほやほやの翼なので、万が一にも変形したりしては困るのだ。

長い首を下げて、ライトの身体の近くに頭を下ろすアクア。どうやらライトに頭を撫でてほしいようだ。

アクアの希望を察したライトが、その願い通りにアクアの頭を優しく撫でる。

喉をクルクルと鳴らしながら目を細めて喜ぶアクア。何とも嬉しそうにしている姿を見ると、ライトも嬉しくなってくる。

それはまるで、子を褒めた親と親に褒められた子が二人して喜んでいるような、何とも微笑ましい光景だ。

ライトとアクアの仲睦まじい様子を眺めながら、レオニスは水の女王の横に移動して声をかけた。

「これはおめでたいこと、なんだよな?」

『もちろんよ!生まれてからまだそんなに日も経ってないのに、こんなに早く進化なさるなんて……やっぱりアクア様は尊き御方だわ!』

「そうか……水神だからこれからももっと進化していくんだな」

『ええ、アクア様は今よりもっと大きく、もっと強く、もっと美しくなられるわ!』

胸元で両手を組みながら、目をキラキラと輝かせつつうっとりとした表情で話す水の女王。

水の女王ももとは水の精霊なだけに、水神を慕う気持ちが誰よりも強いのだろう。

「でも、あまりでかくなり過ぎてもイードみたいにこの神殿に入れなくなるんじゃないか?」

『それこそ心配無用よ。何てったって、アクア様は水神様だもの。これから先、アクア様はもっと進化なさるわ。そしたら身体の大きさを変えることくらい、余裕でできるようになられるはずよ』

「そうなんか……やっぱ神ともなるとすげーんだな……」

もっと大きく強くなる、と聞いたレオニスが心配するも、水の女王に心配無用と一蹴する。

身体のサイズを自由自在に変えられるようになるなんて、確かに神レベルもしくは相当な能力を持つ高位の存在でなければ不可能だろう。

水の女王の解説に、目の前にいるアクアは水神であることをレオニスは改めて実感していた。

「ちなみにアクアの進化って、これからどんなことが起こるんだ?」

『私も水神様のお傍にいるのはアクア様が初めてのことだから、これまで実際に見たことはないんだけど。でも私には、歴代の水の女王が受け継いできた記憶があるの。だから、ある程度のことは分かるわ』

「ほう。今後の参考として、どんな風に進化していくか聞かせてもらえるか? 次にアクアに会いに来た時に、それがアクアだと全く分からんくらいに変わってたら困るだろ?」

『そこまで大きく見た目が変わる訳じゃないわよ?』

話の流れで、アクアが今後の進化でどのように変わっていくのかを水の女王に尋ねるレオニス。

ライトもレオニスも、毎日のように目覚めの湖に来れる訳ではない。良くて週一で顔を出せればいい方だ。今日はたまたま運が良く進化の瞬間を見届けることができたが、進化の度に毎回居合わせることはできないだろう。

とはいえ、たった一週間そこらで見分けがつかなくなるほどの大変身するとはさすがにレオニスも思ってはいない。

そこは単純に知的好奇心から尋ねてみたことだった。

『んーとねぇ……まず今生えた翼がもっと大きくなるでしょ?』

『それから、四肢も今よりずっと立派に長く美しい流線形になってぇ……』

『身体は多分イーちゃんより大きくなるかな!』

「イードより大きくなるんか……」

水の女王が、指折り数えながらアクアの進化予定像を明かしていく。

イードも相当大きな体躯だが、アクアが進化すればさらにそれを上回るという。

それを聞いたレオニスが、ほんの少しだけ身震いするのも致し方ない。

「アクアの進化ってのは、必ずこの神殿内で起きるのか?」

『必ずしもここでなければ進化できない、ということはないと思うわ。ただ、いつどこで起きるか、何をどうすれば進化するかとか、詳しい条件は私にも分からない。それは神の領域であり、精霊の知るところではないから』

「そうなのか……もし俺達でも何か手伝えることがあれば、進化の手助けをしてやりたいところなんだが。そうか、それは無理か」

水神アープの大まかな成長過程なら水の女王の記憶で分かっても、進化条件の詳細までは分からないらしい。やはり神と精霊では領分が違うのだろう。

レオニスもアクアの進化の手伝いができれば、と考えていたようだが、それが叶えられそうにないことを知り残念がる。

残念そうな面持ちのレオニスを見て、水の女王が穏やかな笑みを浮かべる。

『その気持ちだけで十分よ。アクア様も、貴方達が会いに来てくれるだけでとても喜んでいらっしゃるもの』

『それに……喜んでいるのはアクア様だけじゃないわ。私だって、貴方達が会いに来てくれる約束を守ってくれたことがとても嬉しいもの』

「そうか……そう言ってもらえると俺達も嬉しい」

水の女王の言葉に、レオニスもまた穏やかな笑みになる。

そこに、アクアの背に乗ったライトがレオニス達のもとに近づいてきた。

「レオ兄ちゃーん、水の女王様ー、少し早いけどお昼ご飯にしないー?」

「おう、いいぞー。じゃあ皆で近くの小島に上がるかー」

ライトの提案に乗るレオニス。

湖底神殿の入口で待機していたイードと合流し、湖底神殿近くにある小島に向かって泳いでいった。