軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第438話 遊覧船イード号

イードに抱えられながら、目覚めの湖の中を遊泳するライトとレオニス。

桟橋からイードが泳いでいく方向は、先週ライト達が訪れた水の女王の寝床のある方向とおそらく一致している。

前回の訪問時にも感じた膜のような結界を通過した後、イードがライト達を湖底にそっと降り立たせた。

ここからは普通に会話もできるようになるので、ライト達は少しふわふわした足取りで水中を歩きながら会話する。

「そういえばレオ兄ちゃん。こないだ水の女王様から涙の雫?をもらったけど、あれってどんなアイテムなの?」

「【水の乙女の雫】のことか? 【水の乙女の雫】の前では、どんな宝石も瞬時に色褪せた石ころになる、と言われるくらいに貴重な品だ」

ライトは過日水の女王からもらったレアアイテム【水の乙女の雫】がどんな品物かをレオニスに尋ねた。

ライト自身、あれがどういうアイテムなのかは【詳細鑑定】を通して既に知ってはいる。

だがそれはそれとして、レオニス達サイサクス世界の人々の間ではどのような認識なのかを知っておきたかったのだ。

「確かにとっても綺麗な雫だったもんねー」

「ああ、俺も初めてその現物を見たが、宝石なんて目じゃないくらいに綺麗なもんだったな。まぁ俺も【水の乙女の雫】というのは名前だけは聞いたことがあるってくらいで、実際にどんな効果や意味を持つものなのかは全く分かっていないんだが」

意外なことに、レオニスはアイテム名を聞きかじった程度にしか知らないという。

とはいえそれも仕方ないかな、とライトは内心思う。

そもそも水の女王に会うだけでもかなり困難なことなのだ。そこからさらに【水の乙女の雫】を得るのはさらに難しい。

エリクシル同様に【水の乙女の雫】もまた幻のアイテムとして名を馳せているのかもしれない。

「ていうかさ、アイテム鑑定できる人っていないの?」

「鑑定か……一応冒険者ギルドには買取査定部門に『鑑定』のジョブを持つ者が本部や支部毎に必ず一人はいると思うが」

「その人達に見てもらって、どんなアイテムなのか知ることはできないの? 水の女王様がくれたものだから、何かしらすごい効果とかありそうだよね?」

「ンーーー……」

ライトの質問に、レオニスが若干渋い顔をしながら考え込む。

「売りに出すつもりもないのに、冒険者ギルドの買取査定部に鑑定だけ頼むってのもなぁ……ちょっと気が引けるというか、あれを他人に見せるだけでも結構な騒ぎになりそうだし」

「そっかぁ、それもそうだね。そしたら冒険者ギルド以外に鑑定できる人っていないの?」

「んー、フェネセンくらいになりゃ鑑定でも何でもできそうだが……鑑定に出すとしても、信頼の置ける人物でないとなぁ。物が物だけに、べらべらと外に吹聴されちゃ敵わん」

レオニスの懸念はどれも全て真っ当なものだ。

売る気もないのに貴重なものを鑑定だけさせるというのも、ただ単に見せびらかしている冷やかしにしか思えないかもしれない。

それに、【水の乙女の雫】などという幻の品を収得したなんて話が広まれば、それに肖り群がろうとする輩が大量に涌いてくる可能性も十分にある。

金の匂いを自ら振り撒くような愚行は、控えるが吉なのだ。

「それならアイテムバッグの時のように、歴史的な新発見とか学術的に貴重な品とかで出してみるのはどう? それなら所有者はレオ兄ちゃんのままで、しばらくしたら戻ってくるんでしょ?」

「あー、そっち方面か……確かにそれなら所有権は俺のままで押し通せて、売る売らないも自由選択、という面目は立つか。多少周りは煩くなりそうだが、実際あの【水の乙女の雫】は学術的にも相当貴重なはずだしな」

買取査定の鑑定がダメなら、歴史的発見で学術的貴重品でイケばいいじゃない!というライトの意見に、レオニスも頷いている。

確かにあの【水の乙女の雫】は全く実物が出回らない、とても貴重な品だ。単に稀少品というだけでなく、学術的にも研究する価値はあるだろう。

そしてライトがここまでアイテム鑑定に拘るのには、実は理由がある。

もしかしたらレオニスも自分と同じく【水の乙女の雫】で新たな水魔法が得られるかも?と考えているからだ。

あるいは埒外の人間であるライトでは得られない、サイサクス世界の現地人特有の特典のようなものもあるかもしれない。

兎にも角にもそうしたメリットがあるかどうかを、ライトは知りたかったのだ。

「そしたら今度、歴史的発見ということで冒険者ギルドに提出してみるか。そうすりゃあれが一体どんなアイテムなのか、はっきり分かるだろうしな」

「それが一番良さそうだね」

そんなことを話しながら歩いていると、水の女王がいる水草の草原が見えてきた。

ライト達が近づいていくと、何と水の女王がピョコ、と顔を出してふわりと泳いで自らライト達のもとに駆け寄ってくるではないか。

『レオニス!ライト!いらっしゃい!』

「水の女王様、こんにちは!」

「おう、お待たせ」

『私、貴方達が来てくれるのをずっと待っていたのよ!』

ニコニコとしながら、ライトとレオニスの手を握る水の女王。

イード達も含めた皆で行く初めてのお出かけを、彼女はずっと楽しみにしていたようだ。

「じゃ、皆揃ったところで湖底神殿に行くか」

「うん!」

『あ、ちょっと待って。その前に二人にこれをあげる』

さぁ出かけよう、という段になって水の女王が少し待つように言う。

何事かとライト達が水の女王を眺めていると、彼女は両の手のひらを上にして、目を閉じて何やら念じ始めた。

しばらくすると手のひらの上に何かが浮かび上がり、形作っていく。

『これは私が認めた者にのみ授けるもの。炎のお姉ちゃんがあげた勲章と同じものよ』

水の女王は手のひらの上に出来上がったものを、ライトとレオニス両方に差し出した。

彼女の手から受け取ったそれは、先日もらった【水の乙女の雫】をはるかに上回る大きさ。平べったい円形状のエンブレム『水の勲章』だった。

『これを持っていれば、貴方達人族でも水中で自由に動けるようになるわ』

「……そんなすごいものを、俺達がもらってもいいのか?」

『もちろん!だって貴方達は、これからも私達姉妹のもとを訪ねて、無事かどうかを確認してくれるんでしょう?』

「ああ。炎の女王にそう頼まれたからな」

『だったら私だって貴方達に、その御礼と私のもとを訪ねた証としてこれをあげなくちゃ。これを持っていれば、私が無事だってことが他のお姉ちゃん達にも分かるもの』

水の女王によると、『水の勲章』を持っていれば水中での呼吸など問題なく動けるようになるという。

言ってみれば、水中に潜る度にウィカにかけてもらっていた結界を常時発動しているようなものか。

そういえば、炎の女王からもらった炎の勲章。あれもBCOでは氷の女王に会うためのフラグアイテムとして『氷の洞窟の中で自由に動けるようになる』『氷の洞窟内部の強力な結界を溶かす』といった効果や役割があったな、とライトは内心で考察している。

属性の化身の女王達から授けられる勲章は、どれも皆何かしらの恩恵があるのだろう。

「そうだな……水の女王からもらったこの勲章があれば、炎の勲章同様他の女王達にも信頼してもらえるということか」

『そうそう!だから二人とも、これを肌身離さず持っててね!』

「分かった。そういうことなら、これはありがたく頂いておく」

「水の女王様、ありがとうございます!」

『どういたしまして♪』

『水の勲章』をもらったライトとレオニスは、水の女王に礼を述べた。

ライト達の礼の言葉に、水の女王も朗らかな笑顔で応える。

ライトとレオニスは、水の勲章をズボンのポケットやジャケットの内ポケットなどに大事そうにそれぞれ仕舞い込んだ。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「さあ、じゃあ今から皆で湖底神殿に行きましょう!」

『はーい!』

「じゃあここは、湖の主であるイード大先輩に道案内を願おうか」

「キュイィィィィ♪」

ライトの掛け声に、水の女王が元気良く返事をする。

ライトとレオニスの後ろにいるイードやウィカ、アクアも嬉しそうに待ち構えていた。

湖底神殿までの案内をレオニスから指名されたイード、十本の脚をうねうねさせて張り切っている。

ライトやレオニスを触腕でそっと掴んだかと思ったら、自分の背にヒョイ、と乗せたではないか。

何だか魔法の絨毯に乗せてもらったような図である。

それを見たウィカが便乗し、ライトの肩に乗る。

ウィカを見たアクアが便乗し、ライトとレオニスの後ろに座り長い首をライトの頭の上にちょこん、と乗せる。

仲間達が次々とイードの背に乗るのを見た水の女王、自分も便乗したくてそわそわしているが、どこに入り込めばいいのか分からない。

ライトやレオニスの周りをうろうろしながら、どこに入り込もうか決めかねている。実に愛らしい仕草である。

そんな水の女王の姿を見たレオニスが、己の膝をポン、ポン、と叩いて『ほれ、こっち来て座れ』と示す。

レオニスからの無言のメッセージを理解した水の女王、パァッ!と明るい笑顔になりレオニスの胡座の中にすっぽりと収まった。レオニスの膝にちんまりと座る水の女王、ワクテカ感が顔だけでなく全身から溢れ出している。

ペカーッ☆と輝きに満ちた彼女の笑顔の、何と愛らしいことよ。まるで遠足に行く直前の子供のようだ。

「イード、準備できたよ!出発進行ーぅ!」

ライトの出発進行の掛け声とともに、皆を乗せたイードがゆっくりと泳ぎ始める。

その姿は、さながら遊覧船イード号といったところか。

ライト達を乗せたイード号は、湖底神殿に向かってすいすいと泳いでいった。