軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第424話 水の女王の威厳

「ねぇ、レオ兄ちゃん……この子が多分、水の女王様……だよね?」

「ああ。ほぼ十中八九そうだろうとは思うが、当人に聞いてみるまでは断定はできんな」

大きな籠の中、水草のベッドの中でスヤァ……と眠っている、全身が水縹色の少女。

その傍で、ライトとレオニスはそっと様子を伺いながらこしょこしょと小声で話し合う。

「そしたら、起こしてみる?」

「んーーー……どうしたもんかな……」

炎の女王と姿形が完コピレベルでそっくりなことから、この少女が水の女王であると思われる。

だがそれは、当人の口から肯定されるまでは確定ではない。

故に少女を起こして問い質したいところなのだが、実に気持ち良さそうに寝ているところを起こしていいものかが分からないでいた。

ちなみにライトは『気持ち良く寝ているところを起こしたら可哀想』という理由で躊躇しているが、レオニスは違う。

水の女王が寝起きが悪いタイプだった場合のことを考えて悩んでいた。

もしそういったタイプの場合、無理やり叩き起こされたことで激怒する可能性もある。

地上ほど自由闊達に動けないこの水中で、水属性の頂点たる水の女王と衝突するような事態だけは何としても避けなければならなかった。

二人してうんうん呻きながら悩んでいると、ライトの肩に乗っていたウィカがヒョイ、と下りて、寝ている水の女王のもとに近寄っていった。

ライトとレオニスは、ウィカ達の行動を息を呑みつつ見守る。

ウィカは水の女王の顔に近づき、そっと頬を舐めた。

「うなぁーん?」

『……ン……んぁー……ウィカちー……?』

「んにゃあ♪」

『……ふぁぁ……おはよーぅ……』

ウィカが水の女王の頬を舐めたことで、それまで眠っていた水の女王は目を覚したようだ。

のそりと上半身を起こし、腕を真上に上げて背伸びしながら大きな欠伸をする水の女王。その何とも愛らしい仕草に、見ているライトはほっこりとする。

『……えーと……アクア様に、イーちゃんもいるのね……今日はどうしたの?』

自分の左横にいたアクアの胴体をゆっくりと撫でながら、アクアの後ろにいたイードの姿を認めた水の女王は不思議そうな顔をしている。

そしてアクアのいる左横とは反対側の右横に、ふと顔を向ける水の女王。

ウィカの後方にライトとレオニスがいることに、ようやく気づいたらしい。それまでのんびりとしていた彼女の表情が、ピシリ、と固まった。

しばらく無言で見つめ合う三者。

一番最初に口を開いたのは、ライトだった。

「えーと……こんにちは。ぼくは人族のライトと言います。突然お邪魔してすみません」

「俺はレオニス、ライトと同じく人族だ」

「ぼく達、水の女王様に会いにきたんですけど……貴女が水の女王様ですか?」

ライト達の自己紹介に続き、水の女王か否かを問われた少女はハッ!と我に返る。

すくっとその場に立ち上がり、凛とした立ち居振る舞いでライト達に問うた。

『ぁー、コホン……そうじゃ、ワラワが水の女王じゃ』

『して、人の子よ。何用にてここに参った? ワラワのおねむを妨げてまで参る用事じゃ、よもや些事ではあるまいな?』

「「…………??」」

キリッとした表情でライト達を問い詰める水の女王。

周囲の水とは明らかに違う、澄んだ水縹色の身体。地上の光がなくてもキラキラと煌めき美しさを放つ。

滑らかな曲線美を描くボディラインは、可憐な少女とも美麗な女性とも思える神秘と芸術の域に達している。

だが、何故だろう。その声音には今一つ迫力が足りない。

何というか『精一杯背伸びをしているお子様感』がひしひしと漂ってくるのだ。

見た目の麗しさと言葉のちぐはぐさ。如何ともしがたいそのアンバランスさに、ライト達はただただ首をひねるばかりだ。

そんなライト達の様子に『ぉ? ワラワの威光に慄いている?』と変な方向に勘違いした水の女王。

さらに威厳を込めてライト達を威嚇してきた。

『もしも下らぬ理由であれば―――どうなるか、わかっておろうな?』

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

威厳たっぷりにライト達を威嚇してくる水の女王。

もっとも、この場でヤル気満々なのは水の女王だけで、ライト達は争うつもりは毛頭ないのだが。

それでも一触即発とまではいかないものの、両者の間に不穏な空気が漂い始める。

険悪化しかけた剣呑な空気を切り裂いたのは、誰あろうウィカだった。

「うなぁーーーんッ!」

『ふぎゃッ』

何と驚いたことに、ウィカが水の女王に向かって思いっきり叱り飛ばしたではないか。

叱り飛ばされた水の女王も、ウィカの突然の横槍と大喝にビクンッ!と首を竦ませる。

いや、ウィカの後ろにいるライト達からはウィカの表情は全く見えない。だがその背中は明らかに不機嫌オーラを発しており、それ以上に叱り飛ばした声そのものが低音ボイスでとても機嫌が悪い響きだ。

その上細く靭やかな尻尾までもが毛が逆立ち、ペシペシペシペシと地面ならぬ水草面を叩いている。

これはもう間違いなく壮絶に怒っている。

「ウィ、ウィカ? ど、どうしたの? 怒ってるの?」

「うにゃぁーんッ」

「ぼく達は大丈夫だから、そんなに怒らないで、ね?」

「ぬぁーーーんッ」

いつも糸目にニコニコ笑顔のウィカしか見たことのないライト、ウィカのあまりの怒髪天ぶりに怯えながら声をかける。

そしてライト以上に怯えまくっていたのが、他ならぬ水の女王だった。

身体を捩り、プルプルと小刻みに震える水の女王。その顔は今にも泣き出しそうだ。

数瞬の後、観念したかのように水の女王がしおしおと謝りだした。

『ふぇぇ……ごめんなさいぃぃぃ……全く知らない人族だったから、ちょっと偉そうにしてみたかっただけですぅぅぅぅ』

「うにゃっ?」

『もうしませんー……ふぇぇぇぇん』

「……うなぁーん」

目を >< にしながら、ポロポロと涙を溢し反省を口にする水の女王。

その場にぺたんこ座りになり、ぐしぐしと両手で涙を拭っている。

彼女の反省した姿を見たウィカは、ようやく怒りを解いて水の女王の流した涙を拭うようにペロペロと頬を舐めた。

しばらくひっく、ひっく、としゃくり上げていた水の女王。

それもしばらくして落ち着いてきたのか、ウィカを胸元に抱きながらライトとレオニスをじっと見つめた。

『……偉そうなことを言って、ごめんなさい。人の子なんて、初めて見たから……』

『水の女王としての威厳を示さなきゃ!って思って……つい、柄にもないことを……』

『でも、慣れないことなんてするもんじゃないわね。ウィカちーに思いっきり叱られちゃった……』

ぐすん、と鼻をすすりながら懺悔する水の女王。

それまでずっと黙って経緯を見守るしかなかったライト、慌ててフォローに回る。

「い、いえっ、そんな……ぼく達の方こそ、寝ているところに突然お邪魔した訳ですし……」

「それに、水の女王様は本当に偉い存在だし。少しくらい偉そうにしててもいいと思いますよ?」

「あ、でもぼくは素直で可愛らしい今の女王様の方がもっと素敵だと思いますけど!」

懸命に言い募るライトを見て、最初のうちはまだべそをかいていた水の女王も次第に表情が和らいでいく。

『……ふふっ。優しい人間なのね……って、え? この子がウィカちーのご主人なの?』

「うにゃッ」

『そ、そうだったの……話を聞く前から威嚇しちゃった私が悪いのね……』

「クルルルゥ」

『……ええッ? ちょ、ちょちょ、待ッ……この子、アクア様の親御様でもあるの!? うそーんッ!!』

「キシュルルキュイィ」

『イーちゃんとも仲良しのお友達だなんて……わわわ私ったら、ななな何てことを……』

表情が泣き顔から笑顔に和らいだと思ったのも束の間。

今度はウィカやアクア、イードにまでライトの様々な情報を聞かされてあばばばば、と慌てふためく水の女王。

ウィカ達三体の顔をキョロキョロと見回しながら『え? え? え?』と焦りまくる水の女王の、何と可愛らしいことよ。

だが当人にしてみれば、可愛らしいどころの話ではない。

己の失態が『倍率ドン!さらに倍』とどんどん膨れ上がっていくにつれ、水縹色の顔色もズンドコ暗くなっていく。

猫の目のようにくるくると変わる表情に、見ているライトやレオニスは一向に飽きることがない。むしろいくらでも観察し続けられそうだ。

だが、水の女王の次の一言でライトとレオニスが固まる。

『ぅぅぅ……恥ずかしい、もうヤダ、消えたい……』

「えッ!? ちょ、待、待ってください!」

『アープ様にも申し訳が立たない……水の女王失格よぅぉぅぉぅ』

「いやいやいやいや、そこまで恥じ入ることはないんじゃないか?」

『ウィカちーにも怒られたし、イーちゃんも呆れてたし……皆に嫌われちゃったわ……ぅぅぅ』

さめざめと泣く水の女王に、ライトもレオニスも慌てて慰めにかかる。

まぁ確かに彼女が恥じ入り涙に暮れるのも分からないでもない。だがそこまで重大な失態を犯した訳ではないし、何より今ライト達の目の前で水の女王が本当に消えてしまったら、それこそ困るどころの話ではない。

反省するのはいいが、後悔し過ぎて消え入られてはマズいのだ。

しかし、ウィカやイードは慌てることなく水の女王の顔や身体に擦り寄り、頬ずりしたり優しく頭を撫でたりしてあやしている。

アクアもウィカとともに、もう片方の頬に鼻先を寄せて頬ずりする。

皆のその姿はまるで、幼子をあやす優しいお兄さんやお姉さんのようだ。

それまでしょぼくれていた水の女王も、ライト達の言葉やアクア達のスキンシップにより少しづつ顔を上げていく。

まだ少しすん、すん、と鼻をすすっているが、水の女王はライト達を見上げながら口を開いた。

『本当に、ごめんなさい……私のこと、許して、くれる?』

「もちろん!許すも許さないも、ぼく達そんなに酷いことされてないもんね?」

「おう、ライトの言う通りだ。そこまで落ち込むことも、謝るほどのことでもないから気にすんな。そもそも俺達は水の女王、あんたに会いにここまできたんだ。会ってまだろくに話もしないうちに、早々に消えられては困る」

『ぅぅぅ……ありがとう……』

ライトが水の女王に向かって、そっと手を差し伸べる。

ぺたんこ座りをしていた水の女王はライトの小さな手を取り、ゆっくりと立ち上がった。