軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第423話 湖底に広がる草原

目覚めの湖の水の中を、のんびりと遊泳する二人と三体。

ライトはもう何回も水経由の移動を経験しているが、それでもやはり水中散歩というのはワクワクする。

何度も経験しているライトでさえそれだ、初めて経験するレオニスの感動は如何ばかりか。

二人して目をキラキラと輝かせながら、水の中をキョロキョロと見回している。その動きがまた何ともそっくりで、微笑ましい限りである。

ここでライトは、はたとあることを考える。

それは『レオニスとどうやって意思疎通するか?問題』である。

そう、前回の湖底神殿発見時はライト一人だったから何の問題もなかったが、今回はレオニスもいる。

水中で普通の発声しても声自体が伝わらないし、筆談というのも到底無理がある。

前回ライトは単身で会話の必要が全くなかったから、そこら辺をすっかり失念してしまっていたのだ。

ちなみにレオニスの方も、水中探検なんて正真正銘生まれて初めての体験なので完全に失念していたりする。

ライトはしばらくあれこれと考えてみたが、今ここで試せるような良い方法が全く浮かばない。

念話ができれば最も良いのだが、生憎ライトもレオニスも今まで念話に頼るような場面がなかった。

こりゃ地上に戻ってから改めて考えよう、多少のことならジェスチャーで何とか通じるっしょ!という結論に至るライト。

そんなことをイードの腕の中でずっと考えていたライトだが、ふとあることに気づく。

イード達が向かう進行方向が、以前ライトが湖底神殿を見つけた時とは違うような気がするのだ。

ライトは水の住人ではないし、湖底神殿に行ったのだってあの時一回だけだから、この違和感に絶対的な確信は持てない。だがそれでも、どうにもその違和感が拭えない。

まだそこまで深く潜ってもいないのに、泳いでいるところの湖底がよく見える。ライトの記憶では、前回は結構すぐにどんどん深くに潜っていってた覚えがある。

というか、そもそも桟橋からの出立時からしてイード達が泳ぐ方向が違っていた気がする。

『これ、一体どこに進んでいるんだ?』

『アクアが生まれた卵があった湖底神殿とは別の、全く違う場所に水の女王はいるってことか?』

『…………!?』

ライトが懸命に脳内で思考していると、突如ライトの身体にふわっとした感覚が沸き起こった。例えるならそれは、一枚の薄い膜をすーっと通り抜けたかのような感触。

それは本当にほんの一瞬の出来事で、すぐに消えてしまったが確実に何かを通過したことだけは分かる。

思わずレオニスの方を見ると、レオニスもまた何かを探るようにキョロキョロと視線を動かしている。どうやらレオニスもまた先程ライトと同様の感覚を捉えたようだ。

そしてここからさらに不思議なことが起こる。

イードが二本の腕に抱えていたライトとレオニスを、そっと湖底に下ろしたのだ。

「「!?!?」」

突然降ろされたライトとレオニスはびっくりして慌てたが、二人の足はなんと湖底に着き普通に立っている。それはまるで地上で立っているのとほぼ変わらない光景だ。

通常なら水の浮力によって、ライト達の身体は湖面に向かって浮上していくはずなのだが。そうならずにライト達は二本足で立っているのだ。

しかももっと驚いたことに、ライト達が二本足で立っている横でイードもまたいつものように水中遊泳しているではないか。

イードだけではない、アクアもまた普通にふよふよと水中を漂い浮いている。

ちなみにウィカは、変わらずライトの肩に乗っかったままである。

ライトとレオニスは、おそるおそるその場で手や足を動かしてみる。

地上で動くよりは若干身体の重たさは感じるが、それでも普通に歩ける。手や腕も動かせるし、何なら屈伸や腕立て伏せもできる。

ピョン、と飛び跳ねてみれば、ふよん、と少し浮いてぽすん、と着地する。

地上よりもスローテンポだが、地上での動きがほぼ全てできるようだ。

イードの抱っこなしでライト達の自由意思で動けるのはかなりありがたい。

するとここで、ライトの肩に乗っていたウィカが声を発した。

「うなぁーん♪」

「うわッ!」「うおッ!」

「「…………!?!?」」

ウィカの突然の鳴き声に、思わず驚くライトとレオニス。

だがこのことにより、この空間では声が出せることに二人は気づく。

「……レオ、兄ちゃん? ぼくの声、聞こえる……?」

「……おう、しっかり聞こえるぞ」

「ぼくもレオ兄ちゃんの声がちゃんと聞こえる!」

「ここでは水の中でも喋れるのか……!!」

ライトとレオニスは、顔を見合わせながらただただ驚く。

さっきまでライトが散々悩んでいたことが、あっさりと解決してしまった。

だが、悩みなんてものはさっさと解決された方が良いに決まっている。特に今の水中という未知の場所で、レオニスと会話で意思疎通できるというのは正直かなりの朗報である。

「何か、すっごく不思議な場所だね……」

「ああ。俺もこんな不思議な現象は初めて見るが、おそらく水陸両面の特性を併せ持つ特殊な空間なんだろう」

「そうだね……ぼく達が立ったり歩いたりできるその横で、イードやアクアも普通に泳いでいるもんね」

「うにゃあん♪」

ライト達の会話に、まるでウィカが『そーだよー♪』と答えているようだ。

とても不思議な空間だが、現状をある程度正しく認識できたところでライトがイード達に声をかける。

「ここから先はどこに進めばいいのかな? 皆、案内してくれる?」

「クァァァァ♪」

ライトの言葉に真っ先に反応するアクア。

アクアが泳ぎだした方向に、ライト達も歩いてついていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

そうしてしばらく湖底を歩いていったところで、明らかに周囲の景色とは全く様子の違う場所に到着する。

それまで砂浜状だった湖底が、そのエリアにだけ水草が生えているのだ。

水草の丈はライトの膝あたりまであるだろうか。

しかも疎らな数本レベルではなく、花畑のようにかなり密集して群生している。ほぼというか、草むらそのものである。

うっすらとした地上の光を浴びる水草は、柔らかな淡緑色に見える。仄暗い水の中で、水草の群れがゆらゆらと揺蕩う様は何とも幻想的だ。

「ここ……何だろう? お花畑、かな?」

「んー……畑っぽくは見えるが、よく分からんな……」

ライトとレオニスは群生する水草の一歩手前で立ち止まる。

だがイードとアクアは気にする様子もなく、すいすいー、と入っていく。

「イード達は上を泳いでいけるから問題ないけど、ぼく達がこの水草を踏んでもいいのかなぁ?」

「そうだなぁ……水草を踏み潰さないように、気をつけながら歩くしかないだろう。俺が先に歩くから、ライトは後ろについてこいよ」

「うん、分かった」

この水中では、ライト達は宇宙遊泳のようにふわふわとしたスローな動きになる。

普通に歩けば踏み潰してしまいそうな水草でも、気をつけつつ歩けば酷く踏み荒らすことは避けられそうだ。

レオニスが先頭に立ち、水草の草むらをそっと掻き分けつつ二人してそろそろと歩く。

そうしてしばらく水草の草むらの中を歩いていくと、突然レオニスが足を止めた。

自分の膝丈もある水草や足元に注視して歩いていたライト、レオニスの歩行停止に気づかずその背におでこをぶつけてしまった。

スローな動きなので、思いっきりぶつかるなどの衝撃もなく痛かった訳ではないが、突然のことに思わず「のごッ」という変な声が出てしまうライト。

「ど、どうしたの? 何かあったの?」

「ほれ、前見てみ」

ライトの問いかけに、レオニスが手で前を指差しながらライトに答える。

レオニスの言われた通りに前方を見たライト。

そこには大きな籠のようなものがあった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

目覚めの湖の水中探索を開始して以来、これまで一切建造物らしきものはなかった。

だがここにきて初めて、何らかの手が加えられたと思しきものを発見したライト達。

まずはその籠をよく観察することにした。

高さはライトの身長と同程度くらい。

土台は流木や小岩などが積まれていて、その上部に周囲の草むら同様に水草がわさわさと生えている。

縦横は見た感じ十メートル程度、周囲をゆっくりと歩いてみたがほぼ円形状のようだ。

ライト達が籠のようなものを観察している間に、アクアはその円形状の籠の中に入りぽよん、と座る。

イードもその籠の近くでゆらゆらと漂いながらのんびりと寛いでいる。

やはりイード達は、この場所にライト達を連れてきたかったようだ。

「レオ兄ちゃん、どうする? この上に登ってみる?」

「……そうだな。このままここに突っ立っていても何もならん。行くか」

「うん」

ライト達は意を決して、籠の上に登ることにした。

レオニスがライトを抱き抱えながら、軽くジャンプする。

籠の縁にゆっくりと着地し、レオニスが数歩歩いてからライトを下ろす。

二人は籠のほぼ中央に座っているアクアのもとに近づく。

アクアの真横には、一人の少女がすやすやと寝ている。

その顔立ちや体つきは、どこからどう見ても炎の女王に瓜二つ。

その少女こそ、水の女王だった。