軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第425話 思いがけない福音

「改めまして、ぼくの名前はライト。ぼくのことは、そのまま『ライト』って呼んでくれると嬉しいな」

『ライト、ね。うん、分かったわ』

「俺の名はレオニス。まぁ俺のことも普通に名前そのままで呼んでくれ」

『うん。レオニス、ね』

ライトとレオニスが、水の女王に向かって改めて自己紹介する。

『ところで貴方達、今日は私に会いにきたって言ってたけど……』

「あ、うん。実は炎の女王様に、他の姉妹の様子を見てきてくれって頼まれてて」

水の女王の問いにライトが答え、その経緯を話していく。

炎の女王の体内に穢れという呪いのようなものが埋め込まれたこと、それにより魔力を搾取され危うく生命まで危険に晒されたこと、それらの危機を脱することができたこと、そして他の姉妹も自分のように苦しめられていないかとても心配していたこと、などなど。

「炎の女王様からの依頼の証拠として、勲章ももらってあるんだけど……さすがに水の中で出していいかどうか分かんなくて」

『そしたら、上の小島に行く?』

「水の女王様、地上に出れるの?」

『この湖の中にある小島だもの、全然平気よ』

水の女王からの提案に、ライトはふとレオニスの顔を見た。

レオニスはライトの視線の意を汲み取り、徐に口を開く。

「そうだな、地上に出て話ができるならその方が俺達にとっても楽ではある」

「だよね。じゃあ水の女王様、今から皆で小島に行こう」

ライト達は水草の草原から地上の小島に移動した。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

その小島は、ライト達がいつも釣りなどで使っている小島とは別の島で、かなり小さな島だ。

陸部分にはちょっとした林があり、面積はラグナロッツァのレオニス邸程度。小島周囲は砂浜のようになっている。

小島に上陸したライト、会話に入る前に自分のアイテムリュックをガサゴソと漁る。

「お話するにも何か美味しいものといっしょがいいよねー」

『美味しいものって、なぁに?』

「ちょっと待ってねー、えーと……よし、今日はこれ!」

ライトが取り出したのは、ラウル特製チョコレートクッキーである。小さな籠に十数枚のチョコレートクッキーが入っている。

その後もぬるぬるドリンクの薄黄や茶色などを取り出しては、レオニスや水の女王に渡していくライト。

ライトからぬるぬるドリンク薄黄を受け取った水の女王は、不思議そうな顔でドリンクの小瓶を眺めている。

『これは、なぁに?』

「あ、レオ兄ちゃん、瓶の蓋開けてあげてー」

「了解」

レオニスが水の女王の持っていたドリンク入りの小瓶を一旦受け取り、蓋を開けてから再び手渡す。

蓋を開けてもらった水の女王、小瓶を両手に持ちながらじーっと眺める。そこから先をどうしたらいいか、分からないようだ。

「これはね、瓶の中にぬるぬるドリンクっていう飲み物が入っているんだ。蓋を開けたところに口をつけて飲むんだよ」

ライトが自ら持ったぬるぬるドリンク橙を一口二口飲んで、お手本として見せる。

ライトの反対側にいるレオニスも、ぬるぬるドリンク茶色をクイッと飲む。

二人の様子を左右交互にキョロキョロと見た水の女王は、己の持つ小瓶を眺めてからそっと口をつけて一口飲んだ。

『……!!』

ドリンクを飲んだ彼女の目は大きく見開かれる。

湖という水の世界には存在しないであろうオレンジ味に、衝撃を受けたようだ。

もちろんその衝撃は良い方向に働いたようで、その後コクコクとドリンクを飲んでいる。どうやらオレンジ味がお気に召したようだ。

瓶の半分ほどを一気に飲んだところで、水の女王が一息ついた。

『ぷはー……とっても美味しいわ!』

「気に入ってくれたようで、よかった!良かったら、これもどうぞ」

ライトはラウル特製チョコレートクッキーを水の女王に一枚差し出した。

濃茶色の丸型のシンプルなクッキー。先日買い溜めしたぬるチョコドリンクが練り込まれているスペシャルクッキーである。

「お、これ、こないだのぬるチョコドリンクを使ったやつか?」

「そうだよー。あれを使って早速ラウルがクッキーを作ってくれたんだー」

「どれどれ……美味ッ!」

「でしょでしょー、ぼくも一枚だけ味見させてもらったけどすっごく美味しいよね!」

チョコレートクッキーを早速一枚頬張ったレオニス、その美味しさに吃驚する。

見た目は普通のクッキーなのに、軽く噛んだだけでサクッとした歯もろい柔らかさ、口の中でホロリと崩れて溶けていくような食感、そして口の中いっぱいに広がる芳醇なチョコレートの香りと濃厚な味わい。全てがパーフェクトとしか言いようがない。

さすがはラウル、彼にしか作れない極上のクッキーである。

自分の左と右でキャイキャイとはしゃぐライト達の姿を見て、水の女王もまたチョコレートクッキーを一口食む。

ここでもまた彼女の目が大きく見開かれる。

あっという間に一枚食べた水の女王は、ライト達に問うた。

『これ、とっても美味しいから……もう一個食べても、いい?』

「もちろん!一個と言わず、二個でも三個でもどうぞ!」

『ありがとう!』

ライトの快諾に、水の女王は満面の笑顔になる。

パァッ!と明るい顔でライトに礼を言うと、早速二枚目のクッキーを食べる水の女王。

美味しそうにクッキーを食べる彼女を見ていると、ライト達まで和んでくる。

ライトやレオニスもまた二枚目、三枚目のクッキーを食べ、籠の中のクッキーはあっという間に完食となった。

『はぁー……本当に美味しかったわ、ありがとう!』

「いえいえ、どういたしまして。気に入ってくれたなら、ぼく達もとっても嬉しいよ」

あ、ドリンクの空き瓶とかのゴミはこっちにちょうだいねー、と言いつつ片付けていくライト。

美味しいおやつを食べて人心地ついたところで、そろそろ本題に入る。

「これ、さっき言った、炎の女王様からもらった勲章だよ」

『まぁ、本当。間違いなく炎のお姉ちゃんのものね』

「一応俺も同じ物を持ってる」

『あら、本当。こっちのもちゃんと炎のお姉ちゃんの力が感じられるわ』

ライトとレオニスは、炎の女王からもらった炎の勲章を水の女王に見せる。

それを見た彼女は本物と断定した。勲章から炎の女王のオーラや氣といったものを感じ取れるのだろう。

『さっきの話だと、炎のお姉ちゃんとっても大変なことになってたのね』

『炎のお姉ちゃんを助けてくれて、ありがとう』

『ううん、それだけじゃないわ。イーちゃんやウィカちー、アクア様までいつも貴方達に良くしてもらっているって、皆から聞いているわ』

『本当にありがとう』

小島の外周で泳ぎながら遊んでいるイード、ウィカ、アクアの楽しげな姿を見ながら、水の女王がライト達に礼を述べる。

ここでレオニスが、先程から疑問に思っていたことを水の女王に問うた。

「なぁ、一つ聞きたいんだが」

『なぁに?』

「イーちゃんやウィカちーってのは分かるが、アクアだけ様付けなのは何でだ?」

『何でって……それはもちろん、アクア様は水神アープ様だからよ?』

「!?!?!?」

水の女王の思わぬ回答に、レオニスが思いっきり固まる。

『私は水の女王で、水の精霊他水属性の頂点に立つ者だけど。精霊は精霊であって、位で言えば神の方が上よ。アクア様は全ての水を司る神様なの』

『アクア様がこの世界、目覚めの湖に降臨なされたのはつい先日のことだけど。生まれた月日の長さなんて関係ないわ、神様は神様だもの』

『そしてアクア様が生まれてこられたのも、親御様であるライトのおかげ。ありがとう、ライト』

レオニスが固まって動けない間にも、水の女王は話を続ける。

そしてアクアが生まれてこれたことはライトのおかげ、と語り、ライトの手を両手で包みながら礼を言う水の女王。

ライトは内心あちゃー……と思いながらも、ま、これはこれでいっか、レオ兄に説明する手間が省けたしな……となかなかに酷いことを考えている。

しばらくしてようやくフリーズ状態から再起動したレオニス。

だがその再起動も完全ではなく、ギギギ……とぎこちなくところどころ固まりが解けていない。まるでエンスト寸前のポンコツエンジンのようである。

「……え、ちょ、待、アクアってただの水竜じゃないのか?」

『アクア様が水竜? そんなことある訳ないでしょ? ……まぁ見た目は水竜だけど』

「いやいやいやいや……ちょっと待て、待つんだ、待ってくれ、俺の心の準備が追いつかん……つーか、ライト。聞いてた話とだいぶ違うじゃねーか……」

「な、何かそうみたいだね……ぼくも全然知らなかったよ、アハハハ……」

アクアの正体は水神アープ―――衝撃の事実を知らされたレオニスは、未だに理解が追いつかないらしい。

その動きは全く注油が足りていないギアパーツの如しで、グギギギギ……という音が本当に聞こえてきそうだ。

目を点にしながらライトを凝視するレオニスに、ライトもその視線を受けつつ誤魔化し笑いするしかない。

そんなライトに救いの手を差し伸べたのは、水の女王だ。

『アクア様は湖底神殿生まれの、歴とした由緒正しい水神様よ。今まで人族は水神様の御姿を見たこともないだろうし、知らなかったのも無理はないわよね』

「ぉ、ぉぅ、水神アープを見たことのある人間なんていないだろうな……」

『ならこれからは、アクア様は水神アープ様だってことをちゃんと覚えておいてちょうだいね?』

「わ、分かった……」

水の女王の言葉に、レオニスは納得するしかない。

当のレオニスですら、水神アープは書物からその名を知るのみだった。そしてその書物には正確な絵姿は描かれていなかったので、どんな姿をしているかまでは知る由もない。

レオニスがそうなのだから、ライトだってアクアが水神だとは普通分かる訳がないのだ。

そしてライトはライトで内心『助かったー!水の女王様ありがとーう!』と口には出さない礼を述べる。

思わぬところでアクアの正体をレオニスに伝えることができたライトは、別の話題を振ることにする。

「でもさ、とりあえず水の女王様が無事で良かったね!」

「ン?……ああ、そうだな。奴等の魔の手は水中までは及ばなかった、ということだな」

水の女王の無事を確認できたことに、ライトとレオニスは安堵の喜びを示す。

いや、本当のところは二人とも目覚めの湖の中に潜る前から『水の女王は大丈夫だろう』という確信はあった。

もし水の女王が何らかの異変を来たしていたら、このような平穏ではないだろう。炎の洞窟のように、目覚めの湖全体が異常事態に陥っているはずだ。

イードやウィカ、アクアだって無事でいられるとは到底思えない。そうした異常事態は、水の中に入らずとも湖面上からでも伺えるはずである。

だが、今日実際に湖を訪れてもそうした異常な気配は感じられなかった。故に水の女王は無事だろう、と思っていた。

しかしそれはあくまで状況判断であり、やはり水の女王当人に直接会って無事かどうかを確かめなければならない。

結果、水の女王には何の異変も見られなかった。実に喜ばしいことである。

小島の周辺で泳ぎながら、相変わらず仲良く遊んでいるクラーケンのイード、水の精霊ウィカ、そして水神アクア。

ライトとレオニスは彼らの楽しそうな姿を眺めながら、目覚めの湖の平和が保たれている喜びを噛みしめていた。