軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第398話 受付嬢クレノ

冒険者ギルドの転移門を使用して、ラグナロッツァ総本部からネツァク支部に移動したライトとラウル。

ここネツァク支部にも、当然のことながら受付窓口というものが存在する。そしてその受付窓口には、これまた当然のようにラベンダー色に染まる可愛らしい受付嬢が鎮座ましましていた。

「えーと、クレノさん。初めまして、こんにちは!」

「こんにちは。確かに初めましてだと思いますが、私の名前をご存知なのは何故でしょう?」

「ラグナロッツァのクレナさんからお聞きしました!」

初対面であるはずの子供の口から己の名が出てきたことに、ラベンダー色の受付嬢は少しだけ驚いたような表情でライトに問う。

そう、ライトは転移門で移動する依頼を出しがてら、絶対にネツァクにもいるであろうラベンダー姉妹の情報をクレナに聞いておいたのだ。

ここネツァクにいるのはクレア十二姉妹の七女、クレノ。クレナ曰く『勘の鋭い子』だそうだ。もちろん見た目も声もクレアの完コピである。

「ああー、クレナ姉さんのいるラグナロッツァからいらしたのですねぇ。……というか、貴方方、今奥の部屋から出てこられましたか?」

「はい、今日はネツァクに用事がありまして。ラグナロッツァの転移門を使って移動してきました」

「ふぅむ……貴方が噂のライト君、ですね?」

「はい、クレアさんやクレナさんにもよくお世話になってます!」

ライトが名乗る前に、目の前にいる子供がライトだということに気づくクレノ。さすがはスーパーウルトラファンタs以下略の有能なクレアの実妹である。その鋭さは五女クレナの証言通りで、クレナのお墨付きは伊達ではないのだ。

そもそも転移門を使って街を移動できる者自体がかなり少ない。その上ラグナロッツァから来た子供となれば、もはやライトが真っ先に浮上するだろう。

そのくらいクレア十二姉妹の間でライトの情報が共有されてきている、ということだ。

「先日のアクシーディア公国生誕祭の折、久しぶりに私達十二姉妹が一堂に会する機会があったのですが。その時にクレア姉さんやクレナ姉さんからライト君のお話は伺っておりました」

「え?クレアさん達がぼくのことを話してたんですか?」

「はいー。金剛級冒険者のレオニスさんの子守役で、とてもしっかりとした素晴らしく賢いお子さんだと話題になりまして。姉達も、それはもう口々にライト君のことを大絶賛しておりましたよ?」

「子守役……アハハハハ……」

ライトが褒められるのはちょっぴり嬉しいし面映くもあるのだが、クレア十二姉妹の間ではレオニスの評判は相変わらずなものらしい。天下無双の最強冒険者レオニスをここまで公然と貶せるのは、サイサクス世界広しと言えどクレア十二姉妹くらいのものであろう。

だが、当のレオニスにも多分に子供っぽい部分があるのはレオニスをよく知る者ほど否めないので、ライトも苦笑いするしかない。

「ようこそ我がネツァクの街へお越しくださいました。噂のライト君にお会いできて、私もとても嬉しいですぅ。……して、本日はどのようなご用件でネツァクにいらしたのですか?」

「あ、えーとですね、ノーヴェ砂漠のサンドキャンサーがこの街で高級珍味として買えると聞きまして」

「砂漠蟹ですか? ええ、このネツァクの一番の自慢にして唯一の名産品ですよ」

「やっぱりそうなんですね!」

「ええ。広大なノーヴェ砂漠の縁にいくつか点在する宿場町の中でも、砂漠蟹を手に入れることができるのはここネツァクだけです」

クレノにネツァク訪問の目的を問われ、素直に答えるライト。

ライトの答えを聞いたクレノも、砂漠蟹が名産品であることを認める。

「是非ともその砂漠蟹を買いたいんです。できれば一匹丸ごと欲しいんですけど、可能ですか?」

「一匹丸ごと、ですか? それはまぁ買えないこともないですが……あれ、かなり大きいですよ? どうやってお持ち帰りになるんです?」

「それなら大丈夫です。ここにいるラウルが空間魔法陣使えますので」

クレノの話によると、サンドキャンサーの成体はクレノが両腕を目一杯上下左右に広げるよりも大きいらしい。確かにもとはノーヴェ砂漠に住む魔物だ、普通のサイズである訳がない。

だがクレノの懸念を他所に、ライトは同行者のラウルが空間魔法陣の使い手であることを明かして心配無用と伝える。

ライトの突然のご指名に、ラウルは怯むことなく右親指をグッ!と立てて『俺に任せろ!』アピールをする。

一言も言葉を発することなく無言のまま、親指一本だけで任せろアピールができてしまうラウルはやはり万能執事である。

「まぁ、そうなんですね。ならば持ち運びの心配は無用ですねぇ」

「はい。ですので、もしよければクレノさんオススメの砂漠蟹を売っている店を教えてもらえると嬉しいんですが」

「そうですね……砂漠蟹を一匹丸ごと買えるところとなると、ここネツァクでも一ヶ所しかありませんが。その人達の名前と家の場所をメモに書きますので、少々お待ちくださいねぇー」

クレノがラベンダー色のベレー帽の中から、メモ帳とペンを華麗な動作で取り出す。メモ帳とペンまでラベンダー色なのも、もはやお約束だ。

メモ帳にスラスラと書き込んでいくクレノの楚々とした所作は、他の十二姉妹同様とても美しい。まるで後光のように輝かしい『出来る女子オーラ』に満ち満ちていて、ライトもついつい見惚れてしまう。

一頻りメモ帳に書き終えたクレノは、書いたメモを切り離してライトに手渡した。

「お店ではなく、ヘラルドさんとリカルドさんという個人の方で通称『ルド兄弟』、ご兄弟で砂漠蟹職人をしております。基本的に兄のヘラルドさんがノーヴェ砂漠でサンドキャンサーを狩り、弟のリカルドさんが砂抜きなどの処理担当をなさっていますが、逆の立場も可だとか。砂漠蟹の美味しさを最も引き出せる熟練の職人として、ルド兄弟はこのネツァクで最も有名な方々なんですよ」

「その人達は、自分のお店を構えていないんですか?」

「ええ。何でも店の管理とか面倒だし? 砂漠蟹を狩って食えるまで綺麗にするだけで手一杯だから? 店なんてやってられっか!とか何とか言っておられましたねぇ」

食料品店や魚市場のように買える場所があるのかと思いきや、何とクレノのオススメは個人の熟練職人兄弟だという。

しかも砂漠蟹専門の熟練職人までいるとは何とも驚きだが、砂漠蟹を食べられるようにするまでに相当の手間暇がかかることを考えれば、その道のスペシャリストがいても何ら不思議ではない。

そして職人というものは得てして頑固一徹で、店の経営など多岐に渡る事務仕事には向いていないのが常である。

「じゃあ、他のお店に卸しているってことですか?」

「そういうことになりますね。宿屋や食堂など、砂漠蟹を観光客に食事として提供したい人達なんかは 挙(こぞ) ってルド兄弟のところに買い付けに行くんですよ」

「そしたら、そのルド兄弟さんのところに買いに行けば間違いなしってことですよね!」

「はい、その通りですぅ」

ヘラルドとリカルド、二人まとめて『ルド兄弟』と呼ばれているらしい。大人気の砂漠蟹職人らしいので、すぐに買い付けできるかどうかは分からないがひとまずルド兄弟を訪ねるのが良さそうだ。

「クレノさん、ありがとうございます!」

「いえいえ、どういたしましてですぅ」

「じゃあ早速ルド兄弟さんのところに行ってみますね!」

「お気をつけていってらっしゃーい」

クレノに見送られながら、ライトとラウルはルド兄弟のもとに向かった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

クレノに書いてもらった地図を頼りに、ネツァクの街を歩くライトとラウル。

こぢんまりとした作りの街だが、砂漠超えの最前線拠点だけあって多くの宿屋が建っている。補給基地としての役割もあるのか、薬屋や食料品店なども見受けられてなかなかの賑わいだ。

そんな賑わいのある通りをだいぶ過ぎて、家や建物なども疎らになりほぼ更地ばかりになってきた頃。目当ての建物が見えてきた。

それは一見普通の民家のように見えるが、建物の向こう側の広大な土地を囲むようにして柵が設置されている。まるで牧場のようだ。

建物はとてもシンプルで、ポストの表札には『ヘラルド』『リカルド』とだけ書かれている。

ここにクレノが言っていた砂漠蟹職人がいるはずだ。

「おーい、誰かいるかー」

ラウルが先頭を切って入口の扉を開けながら、中に向かって声をかける。

普段なら人当たりの良いライトが挨拶担当なのだが、今回は砂漠蟹丸ごと一匹買い付けという商談にも近い取引のため、ここは大人であるラウルに矢面に立ってもらうことにしたのだ。

建物の中は普通の民家と何ら変わらない作りをしている。

声をかけてからしばらく待っていると、奥から人が出てきた。

見た感じ二十代後半くらいの男性で、レオニスやマスターパレンほどではないがなかなか良い体躯をしている。

「はいよー。どちらさんだい?」

「ルド兄弟という砂漠蟹職人さんがいる、と冒険者ギルドの受付嬢から聞いてきたんだが」

「ああ、クレノちゃんからの紹介か? なら玄関先で立ち話ってのも何だから、中に上がってくれ」

男性はそう言うと、ライトとラウルを家の中に招き入れた。

ライト達もその言葉に従い、奥へと入っていく男性の後をついていった。