軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第397話 氷蟹と砂漠蟹

プロステスでの調査やその報告を終え、冒険者ギルドの転移門でラグナロッツァに戻ってきたライトとレオニス。

時刻は午後の一時を少し回った頃、お昼ご飯の時間である。

「ライトは家に戻ってラウルと昼飯食ったら後は好きにしていいぞ。つか、昨日今日探索でかなり動き回ったから身体休めとけよ」

「うん、分かったー。レオ兄ちゃんはどこか出かけるの?」

「ああ、魔術師ギルドに行ってピースに魔物除けの呪符の作成依頼出してくるわ」

「あ、そういえばそんなこと言ってたね」

「三十枚っちゃ結構な量だからな、来週のプロステス行きまでには作ってもらわなきゃならんし。それに、ピースのやつも机仕事から離れられて大喜びするだろ」

そういえばレオ兄が炎の洞窟からの帰りがけにそんなこと言ってたな、とライトは思い出す。

魔物除けの呪符一枚作成するのにどれくらいの時間がかかるのかは分からないが、発注数三十枚ともなればそれなりに時間がかかるはずだ。

次の炎の洞窟調査は次の土曜日、日数にして六日後。その前日の金曜日には受け取っておきたいので、実質五日間で作ってもらわなければならない。

そのためにレオニスは、魔術師ギルドへの訪問を明日に延ばさずにラグナロッツァに帰ったその足ですぐに行くのだ。

そしてレオニスの言葉を聞いたライトの頭の中には、ピースがレオニスによじ登る勢いでしがみつきながら涙を流して大喜びする姿が浮かぶ。

ギルドマスター専用の執務室で書類の塔に囲まれ続けるよりは、呪符作成の方が余程ピースも気が楽だろう。

「じゃあピィちゃんによろしく言っておいてね。レオ兄ちゃんも気をつけていってらっしゃーい」

「おう、ライトも家でゆっくり休めよ」

ラグナロッツァの冒険者ギルド総本部を出たライトとレオニスは、それぞれ違う方向に歩いていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「ただいまー」

ラグナロッツァの屋敷に戻ったライト、誰もいない玄関ホールで帰還を告げるただいまの言葉を口にする。

普通ならただの独り言で終わるところだが、この屋敷ではそうはならない。ただいまの言葉を必ず拾ってくれる存在がいる。

「おかえり、ライト。初の泊まりがけ調査、ご苦労さん。……つか、レオニスはどうした? いっしょに帰ってきてないのか?」

「あー、レオ兄ちゃんはちょっと寄り道するところがあるって、そのままそっち行ったんだ」

「そうか。ライトは昼飯食ったか?」

「ううん、まだ食べてないんだー。朝もあまり食べてないから、お腹空いちゃった」

「じゃあすぐに昼飯の支度してくるから、その間にライトは着替えてこい」

「うん、そうするね」

ラウルの勧めに従い、ライトは二階の自室で着替えて荷物の整理などをする。

ライトは着替えた後に、マントなどの自分専用の装備品類を畳んで仕舞おうとして、ふと手を止める。

「ラウル、ちょっといいー?」

空に向かってラウルの名を呼びかけるライト。

そこから間を置かずに、ラウルがライトの横に姿を現す。

「どうした、ライト?」

「あのさぁ、このマントや装備品って普通の洗濯とかダメだよね?」

「どれどれ…………ああ、革製品は洗えんな。特にこのマント、かなり特殊な作りをしてるようだし」

ライトが手に持っていた装備品を見たラウルは、すぐにそれらが革製であることを見抜き洗濯不可と断言する。

マントも外側のインフェルノリザードの革だけでなく、内側もちゃんと捲ってみてから凍砕蟲糸の生地の手触りなどを確かめている。

「そしたらラウルの洗浄魔法で綺麗にしてもらえる?」

「お安い御用だ。何なら今ここで洗浄魔法かけてやる」

ラウルはそう言うや否や、ライトからマント他装備品を受け取ると洗浄魔法を発動させる。

ラウルの手の上に乗っていたマントや革鎧などがふわりと宙に浮き、ゆっくりとくるくる回りながら少しづつ綺麗になっていく。

装備品類が完璧に綺麗になったところで、宙に浮いている装備を一つ一つ手に取り洗浄魔法範囲から取り出していく。

全ての装備品を取り出し、装備品から剥がれた汚れだけをひとまとめにして魔法を閉じれば洗浄魔法の完了だ。

「おおお……いつ見てもラウルの洗浄魔法はすごいね!」

「おう、そんなに褒められたら照れるじゃねぇか」

「照れなくていいよ、ラウルの仕事はどれも完璧だし!」

「度重なるお褒めの言葉、誠に光栄だ。さ、じゃあライトは今洗浄した装備を仕舞ってから下に来な。俺は先に食堂に行って昼飯の支度の続きをしてるからな」

「うん!」

ラウルはそう言うと、フッ、と姿を消した。

ライトもラウルに洗浄してもらった装備をクローゼットに仕舞い、階下の食堂に向かっていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「「いっただっきまーす」」

ライトとラウル、二人して手を合わせながら食事の挨拶をしてから昼食を食べ始める。

今日のメニューは氷蟹のペペロンチーノに氷蟹のほぐし身たっぷりサラダ、氷蟹のビスク。

昼食どころか晩餐のフルコース料理として出てきてもおかしくないくらいに、豪華で贅沢な氷蟹尽くしのメニューである。

「ンーーー、氷蟹すっごく美味しいー!」

「前にライトがツェリザーク土産でたくさん買ってきてくれたからな。まだたくさんあるぞ?」

「ホント!?そしたら今度蟹しゃぶしてみたい!」

「蟹しゃぶ、か……氷蟹の肉は基本的に熱に弱いんだが、しゃぶ鍋の温度を低温にすればいけるかもしれんな」

「うん、ラウルも氷蟹の調理法を研究しといてね!」

「おう、任せとけ!」

このサイサクス世界で高級食材とされる氷蟹、その氷蟹尽くしを昼間から堪能できる贅沢さ。ライトは氷蟹の美味しさに舌鼓を打ちながら、次なる贅沢メニューのリクエストをラウルに伝える。

ラウルもライトから出されたリクエストの難題を考えつつ、氷蟹の調理法の研究を頼まれたことで意気込みながら請け負う。

根っからの料理人であるラウルにとって、食材の調理法の研究は楽しく遊べるゲームのようなものだ。

あれやこれやと試行錯誤しながら、より美味しく、より理想の味に近づけていく―――それは果てしないパズルに挑むようなもので、これが最も正解と思える調理法でもちょっと切り口を変えるだけで新たな発見に出会えたりする。

食材の調理法の研究とは、ラウルにとってはご褒美にも近い至高の遊戯なのである。

ライトからの課題に早速ブツブツと呟きながら思考するラウル。

そんなラウルを見て、あー、今日もラウルが闘志を燃やしてる。ラウルって本当に料理好きだよね!とライトは温かく見守っている。

だが、ここでふとライトはとあることを思い出しラウルに問うた。

「……あ、ねぇ、ラウル。蟹と言えばさ、ノーヴェ砂漠にサンドキャンサーって蟹がいるの、知ってる?」

「ああ、名前だけは聞いたことがある。実物を見たことはないがな」

「砂漠に住む蟹だけど、食べれるのかなぁ? ぼく、そこら辺詳しくないから全然分からないんだけど」

サンドキャンサー、別名砂漠蟹。それはノーヴェ砂漠に住む蟹型の魔物で、ライトのクエストイベントの最新ページのお題の一つでもある。

ライト自身ノーヴェ砂漠にいつ行けるか分からないので、かつてのぬるぬるドリンク同様に食材としてゲットすることでクリアできないかな?とライトは考えたのだ。

「砂漠蟹な、一応食えるらしいぞ?」

「本当!?」

「氷蟹ほど美味いもんじゃないらしいが、珍味としてそこそこ食えて結構な高級食材だって話だ」

「ン? 氷蟹ほど美味しくないのに珍味で高級食材なの?」

「身についた砂を洗い落としたり真水に三日三晩浸して砂抜きさせたり、普通に食べられるようにするまでの手間がとにかくかかるんだと」

「すすす砂抜き……」

何だかアサリかシジミみたいだな……とライトは内心思うものの、サンドキャンサーの棲息地がノーヴェ砂漠であることを考えればそれは当然のことである。

身の内外に砂がたくさん含まれていて、砂抜きしなければとても食べられたものではないのだろう。口の中でジャリジャリする蟹など、誰も食べたくはあるまい。

「サンドキャンサーって、どこかで買えるのかな? 買えるなら一匹丸ごと買ってみたいんだけど」

「あー、確かノーヴェ砂漠に一番近い街でのみ売っているそうだが……何て名前の街だったかな、えーと……ネツァク、だったか?」

ライトの思惑通り、ノーヴェ砂漠の最寄りの街ネツァクでサンドキャンサーが買えるらしい。

どのような形で売っているのかは分からないが、サンドキャンサーを丸ごと一匹、もしくは爪だけでも買えればイベントクエストが進むかもしれないのだ。これは是非とも買わねばなるまい。

「ネツァクかぁ……ねぇラウル、今からネツァクに行ってみない? ネツァクでサンドキャンサー買えるなら、絶対に手に入れたいんだ!」

「今からか? お前さっきプロステスから帰ってきたばかりだろ、疲れてないのか?」

ライトは今すぐネツァクに行きたい!とラウルを誘う。

食材の買い出しならば、ラウルも乗ってくるだろうというライトの策略である。

だが、ラウルがライトの体調を気遣ってきた。その心遣いはとてもありがたいが、ライトも引くに引けない事情がある。

「実はまた来週もプロステス行くんだよね。ていうか、炎の洞窟調査が終わるまで多分土日はずっとプロステスに通い続けることになるから、今日を逃すといつ行けるか分からないんだ。それに、午後は好きにしていいってレオ兄ちゃんにも言われてるし」

「そうか。そういうことならいいぞ。サンドキャンサーの買い付けか?」

「うん!」

そう、これからの土日はしばらくプロステス行きになってしまうのだ。そうなると、ネツァクに行きたくてもいつ行けるか分からない。ライト的には『行くなら今でしょ!』なのである。

そしてラウルの方も、ライトのそうした事情が分かりネツァク行きを快諾する。普段ライトはラグーン学園に通う身で、自由に出かけられるのは土日しかないことをラウルも理解しているからだ。

「じゃあ、昼飯の皿を下ろしたら出かけるか」

「ありがとう、ラウル!」

願いを聞き入れてもらえたライトが、心から嬉しそうにラウルに礼を言う。

二人は食器を片付け、早々に屋敷を出てネツァクに向かった。