軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第367話 ラグナ教ファング支部

ライト達が包丁工房バーナードで、包丁のオーダーメイドをあれやこれやと話し合いしていた頃。

レオニスはラグナ教ファング支部にいた。

門の前にいた衛兵に身分証を見せて、無言で中に入る。ラグナ教関係者には『金剛級冒険者レオニス・フィアが現れたら無条件で中に通せ』という通達が出されており、衛兵達もそれを知っているのでスムーズに中に入れるのだ。

敷地内に入った後、外から見えない位置に移動して空間魔法陣を開く。そこからいつもの深紅のジャケットと大剣を取り出し、着替えたら準備完了だ。

先週の土曜日にアイギスで受け取った、聖遺物用対策アイテムである八咫烏の羽根のアクセサリーはまだ着けない。まずは聖遺物がこのラグナ教ファング支部内にあるかどうか、あるとしたらどの辺りにあるかをまずは見極める必要がある。

そのためには、まずレオニスが破邪効果なしの状態でいなければならない。

着替えを終えたレオニスが、正門からは見えない建物の裏側の方に回る。ラグナロッツァでの事前の打ち合わせで、大教皇エンディやオラシオン達とそこで待ち合わせすることになっているのだ。

裏側に行くと、そこには既にエンディ達がいた。

「よう、大教皇にオラシオン。待たせてすまないな」

「いいえ、お気遣いなく。私達は余裕を持ってこちらに前泊しましたから」

「私も転移門を利用して先程ここに来たばかりですので、全く問題はございません」

エンディとオラシオンが、爽やかな笑顔でレオニスを迎え入れる。

この二人、親の再婚で血の繋がらない兄弟なのだが。雰囲気的にそっくりで、黙っていれば遠からぬ血縁関係があるように見える。

今もその佇まいや微笑み方など本当に似ていて、まるで実の兄弟のようだ。

そんな二人の後ろには、ホロ総主教とともに魔の者達数名が控えている。その中には丘ゴブリン庭師Aリグ、岩ゴーレム守衛Bボリス、草原スライム清掃員Cライノなど、事情聴取時にもいた面々だ。

「いやー、やっぱ住み慣れた我が家ってのはいいもんだな!」

「ホントホント。あっちで皆と楽しく過ごすのもいいんだけども。やーっぱ長年住んでいたファングのこの支部が俺っち達の居場所だぁな!」

「うんうん。ホロっちの木彫り教室も楽しいんだけどねン!」

相変わらずのんびりのほほんとした魔の者達、わちゃわちゃと賑やかな会話を楽しそうに繰り広げる。

余裕を持って前日にこのファング支部に辿り着き、ここで一泊したせいか魔の者達はものすごく上機嫌である。久しぶりの我が家で過ごした喜びで、魔の者全員から『るんたった♪』というご機嫌な音さえ聞こえてきそうだ。

それら魔の者達の発する、ウキウキるんたった♪な緊張感の無さはレオニス達の緊張をも解してくれる。とはいえ、いつまたプロステスで起きたような事態が起きるか分からないので、あまり呆ける訳にもいかないが。

「さて。どこから調べる?プロステスの時と同じく、あまり危険じゃなさそうな職員用の寮から行くか?」

「そうですね、そうしましょうか」

「リグさん、案内をお願いできますか?」

「おっけー!オイラに任しときー!」

レオニスの提案にエンディが頷き、ホロがリグに案内を頼む。

ホロに案内役を任命された丘ゴブリンのリグは、ギザギザのノコギリ歯を見せながらニッコニコの超笑顔で一行の先頭を歩いていく。

リグに案内された建物の職員寮は、平屋のこじんまりとしたものだった。プロステスに比べると、ファングは街の規模としては小さいからだろうか。

全ての部屋の検分を終えたレオニス達は、次に司祭用の執務室がある別棟の建物に向かう。再調査の大本命である教会堂は一番最後に後回し、という訳だ。

ここにも聖遺物の気配はないが、プロステス支部同様に暖炉で様々な書類を燃やした形跡がある。

「ここもプロステス支部同様、勅令を出した日にいろいろと燃やして始末したようですね」

「ああ……これもいつか復元できりゃいいんだがな」

「それまでは、厳重に封鎖して現状を維持するしかありませんね」

司祭執務室を出て、別棟に再び厳重な封印魔法を施すエンディ。そこから一行はいよいよ大本命である教会堂へと向かう。

その移動中にレオニスはふとあることを思い出し、歩きながらエンディに伝える。

「そういえば、去年の暮れにプロステスの領主邸に行って領主と直接会って話す機会があったんだが。ラグナ教に異変が起きたことを悟られて普通にバレてたぞ」

「えっ!?」

「事件発覚の後、悪魔がいた支部は全て緊急閉鎖したろ?その後すぐに他の場所に仮の教会を開いて、支部は建物の老朽化と修繕云々って理由で閉めたらしいな?」

「はい。支部施設の閉鎖理由としては、それが一番もっともらしいかと思いまして……」

「それにしては未だに修繕工事が始まる様子もない、って領主が言っていたぞ?」

「!!……はぁ、やっぱり領主の方々までは誤魔化しきれませんか……」

エンディが肩を落としながら呟く。

そんなエンディに、レオニスがアドバイスをする。

「とりあえず、格好だけでも何らかの修繕作業はしといた方がいいんじゃねぇか?まぁ今更っちゃ今更かもしれんが、修繕するポーズだけでも外部に示しときゃ後でどうとでも言い訳は付け加えられる」

「そうですね……後年になって各支部が再開できるかどうかはまだ分かりませんが、実際に壁など傷んでいるところもありますので本当に修繕工事をしてもいいかもしれません」

「修繕工事するにしても、建物の中はなるべくっつーか絶対に弄らない方向で頼む。今後もまだ再調査で立ち入ることもあるかもしれんしな」

「でしたら外壁工事のみ行いましょう。それなら外からも見えて修繕しているアピールにもなりますし」

「そうだな、それでいくか」

一通り話し終えたレオニス達は改めて教会堂の入口に立ち、その扉をじっと見つめる。

大教皇エンディが封印魔法を解き、その手で扉を開いていく。

薄暗い中を睨みつけながら、三人は教会堂の中に入っていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

しん、と静まり返る教会堂。

長期間封鎖されていたせいか、その静寂には不気味さもつきまとう。

まずはオラシオンが先陣を切って教会堂の中に入り、ホロが魔の者達を連れてその後に続く。魔の者達が全員入った後にエンディが入り、一番最後にレオニスが入る。

レオニスが教会堂に足を踏み入れた瞬間、その背にピリついた悪寒が走る。それは、これまでにレオニスがラグナ教関連施設で何度も経験してきた邪気と同じ気配だ。

先に教会堂の中に入っていたオラシオン達が、心配そうにレオニスを見つめている。

「レオニス卿、如何ですか?何か異変はありますか?」

「ああ。俺の魔力を喰いにかかる邪気がここにも漂っている」

「!!」

レオニスの魔力を貪る邪気があるということは、この教会堂の中に聖遺物がある証だ。

オラシオン達は思わず教会堂の中を見回す。

「レオニス卿、その邪気の気配はどの方向から来ているのですか?」

「そうだな……あっちの方向からだ」

レオニスが教会堂の中にさらに数歩奥に入り、ゆっくりと周囲を見回してからとある方向を指差す。

それを受けて、ホロが魔の者達に問いかけた。

「皆さん、あちらには何があるか分かりますか?」

「あー、あっちは物置兼着替え室だぁね」

「うん、物置だぁな」

「 何(なァン) かもッと別のォ、ちゃァーんとした呼び方があッた気ィもするンだけどねン!」

ホロの質問に、リグ達は物置兼着替え室だと答えた。

ライノの答えを聞くに、そこはおそらく聖具室だろう。プロステスではちゃんと聖具室と呼ばれていたが、ここファングではかなり砕けた言い方になっているようだ。

「おッかねぇえりぃと様達は、毎回あすこで着替えとかしてたよなー」

「んだな。他の掃除は俺っち達下っ端の仕事だけど、あの物置場だけは絶対に入るなって毎回キツく言われてたもんなぁ」

「オラなンてさァ、清掃が仕事なァのよ?なのにさァ、あすこだけは 絶(ゼ) ッ 対(テ) ェーに入れさせてくンないからァ、清掃できないンだじぇ?ホンット、しどい話なのねン!」

魔の者達の話によると、ここもプロステス同様幹部以外は立入禁止だったらしい。特に掃除がメイン仕事だったスライムのライノが、当時のことを思い出してかプンスコと憤慨する。

確かに掃除が仕事なのに、物置や着替え室を掃除してはいけないというのはおかしな話である。掃除したくても立ち入ることすらできなかったライノ、さぞかし気持ち的にモヤモヤとした日々を過ごしていたに違いない。

そして魔の者達の証言により、ますますそこに聖遺物がある可能性が高くなった。大事なものがあるからこそ、下っ端達や外部の者をシャットアウトしたのだ。

背の小さいリグやライノの頭をワシャワシャと撫でながら、礼を言うレオニス。

「そうか、教えてくれてありがとうな。ここから先は破邪効果のある防御アイテムを使うから、お前達魔の者は総主教といっしょに教会堂の外の離れた場所にいてくれ」

「うん、分かった。あんちゃんも気をつけてな!」

「破邪アイテムとか使われたァら、オラ達の擬態も解けちゃうかもしれないもんねぃ。外に出た方が安全なのねン!」

「んだんだ。今ここで擬態解けたら、今度こそ魔物の姿に戻っちまうもんなぁ」

聖遺物のある場所が特定できた以上、ここから先は八咫烏の羽根のアクセサリーを装備して挑まなければならない。

その破邪効果に魔の者達が巻き込まれたら、人間の姿に擬態している魔の者達が本来の魔物の姿に戻ってしまう危険性がある。

リグは丘ゴブリンに、ボリスは岩ゴーレムに、ライノは草原スライムに戻ってしまい、再び人の姿に擬態できなくなってしまう。

それだけは、この場にいる全員が何としても避けたかった。

レオニスが改めてホロの方に身体を向き直し、声をかける。

「そういうことだ。総主教、よろしく頼む」

「承知いたしました」

レオニスの指示に、ホロは恭しく頭を下げながら承諾する。

あんちゃん、頑張ってなー!という応援の声をかけながら、ホロとともに教会堂の外に出ていく魔の者達。

レオニス、オラシオン、エンディの三人だけになった教会堂は、再び不気味な静けさに包まれる。

「……さぁ、行くぞ」

レオニスの掛け声を機に、三人は祭壇横の聖具室に向かって進みだした。