軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第366話 ファングの名産品と包丁工房

ファングでの主目的のひとつ『杖職人にワンドの作成を依頼する』を無事終えたライト達。

ユリウスの工房を出た後、昼食を摂ることにした。

「さて。ご主人様達よ、昼飯は何を食う?」

「ファングの名産品って何かあるかな?」

「んー、クレヤや斧職人のところで先に聞いておけばよかったな……とりあえずどこか適当な店に入るか」

ファングの名物グルメ等の情報を事前に集めていなかったので、とりあえず子供連れでも問題なさそうな定食屋と思しき店を選ぶことにする。

食堂らしきいくつかの店を見て歩くライト達。店の看板に鹿のようなモチーフが多いことに気づく。

「何か鹿関係?のお店が多いねー。鹿が名産品なのかな?」

「そうかもしれんな。……あの店なんかどうだ?かなり賑わってるっぽいぞ」

「……そうだな、酒場じゃないようだし、あすこにするか」

ラウルやレオニスが見て、ここなら良さそうだと判断した一軒の店に入った。

元気なウェイトレスが、他の客の注文品を運びながら明るい声でライト達新しい客を迎え入れる。

「いらっしゃい!席は空いてるところにご自由にどうぞ!メニューは壁にかかってるから、ご注文決まったら呼んでくださいねー!」

ウェイトレスに言われた通り、空いてるテーブルに座り壁に掛けられたメニューを見る。

そこには『ペリュトンの串焼』『ペリュトンの唐揚げ』『ペリュトン鍋』等々、ペリュトンという名のついたメニューが並ぶ。

「とりあえず、唐揚げと串焼でも頼むか」

ウェイトレスを呼び止め、ペリュトンの唐揚げとペリュトンの串焼を五人前づつ注文するレオニス。

注文した品が来るまで、待ちがてら次の予定の打ち合わせをすることにした。

「とりあえず二件の用事は済ませたし、後は午後からのアレだな」

「そうだねー。レオ兄ちゃんの方の集合時間は午後の一時だったよね。何時くらいに終わりそう?」

「んー、こればっかりは中の様子というか、実際に蓋を開けてみないことには分からんがなぁ……まぁ日が暮れる前に帰るつもりではあるが」

レオニスの言う『アレ』とは、ラグナ教ファング支部再調査の件である。

極秘調査なので、周囲にバレないように気を遣いながら会話をせねばならないのだ。

「とりあえず帰りは午後の五時に冒険者ギルドに集合な。六時になっても俺が現れなかったら、お前達は転移門で先にラグナロッツァに帰っててくれ」

「はーい。ぼく達はそれまでファングのお店をゆっくり見てるねー」

「ラウル、ライトの護衛しっかり頼んだぞ」

「了解ー」

そんな話をしているうちに、注文したペリュトンの唐揚げとペリュトンの串焼が運ばれてきた。

未知の食材の肉料理に、三人とも臆することなく思いっきりかぶりつく。

見た目も食感も鶏肉に近く、あっさり目だが旨味たっぷりのジューシーな肉汁が口の中に溢れる。

「おお、なかなかに美味い肉だな」

「ペリュトンってラグナロッツァでは聞いたことないよねー」

「これは肉屋にも寄り道せにゃならんな」

熱々の肉料理をはふはふ言いながら食べるライト達。

中でも特にラウルの目がキラッキラに輝く。ラグナロッツァでは見かけることのない肉系食材となれば、ラウルの購買意欲に火がつかない訳がないのだ。

五人前の食事をペロリと平らげたライト達。

ここから先は、二手に分かれての別行動だ。レオニスはクレヤからもらった地図をライトに渡す。

「ライト達も気をつけながら買い物楽しんでこいよ」

「はーい!」「おう」

店を出た三人は、別々の方向に分かれて行った。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「包丁職人バーナードさんの工房は……ここ、かな?」

ライトがレオニスから渡された地図を参考にし、辿り着いた場所に立つ。

ライトの前にある工房には包丁の絵が描かれた看板が掲げられており、入口の扉の上には『包丁工房バーナード』と書かれている。

「ここに間違いなさそうだな。さ、行くぞ!」

ラウルの主目的である包丁職人のもとに来て、妙に張り切るラウル。一分一秒でも早く入りたい!という気合いに満ち満ちている。

ラウルが先陣を切って工房に突入し、ライトもラウルの後について入っていく。

「ごめんくださーい」

ライトが奥に向かって声をかけ、中から人が出てくるまでしばらく待ちながら工房の中を眺める。

ここも斧職人ガラルドの工房同様、接客エリアはさほど広くはない。ガラルドのところよりは少し広い程度だ。

そして壁には戦斧工房と同じく、包丁が額縁の中に飾られてある。だが、戦斧と違うのはその数の多さだ。

大小はもとより長短や幅の広さ等々、それはもう様々な種類の包丁が所狭しとばかりに綺麗に並べられている。

門外漢のライトですら、ほー、こりゃ凄い、と内心感心するくらいのラインナップに、ラウルが魅了されない訳がない。

ぉぉぉ……とラウルが感嘆を漏らしながら、壁に飾られた包丁類を食い入るように眺めている。

そんな風に店内の様子を二人が堪能していると、奥から人が出てきた。二十代半ばくらいの若い女性だ。

「いらっしゃい。どんな包丁をお求めで?」

「ここは包丁のオーダーメイドは受けているか?」

「オーダーメイド、ですか?父を呼んでまいりますので、少々お待ちくださいね」

女性はそう言うと、再び店の奥に入っていった。

「ラウル、オリハルコン包丁をオーダーメイドするの?」

「ああ、この壁に飾られている包丁の中にはオリハルコン製はなさそうだしな」

「そっかぁ。まぁ今すぐ作るんじゃなくても、まずは作れるかどうかとか、作れるとしたらお値段いくらくらいになるかとかは先に聞いておいた方がいいもんね」

「そゆこと」

そんなことをライト達が小声でもしょもしょと会話していると、今度は奥から五十代手前くらいの中年男性が出てきた。

この人が先程の若い女性の父親で、工房の主バーナードなのだろう。

「お客さん、待たせたな。俺はこの包丁工房の主、バーナードってもんだ」

「俺はラウル、こっちはライトだ」

「バーナードさん、こんにちは」

双方簡単に自己紹介を済ませる。

オーダーメイドという特注品を発注するのだ、双方の名乗りくらいは済ませておかねばならない。

「早速だが、包丁のオーダーメイドをご希望だって?」

「ああ。オリハルコンで包丁を一本作ってほしいんだが」

「オリハルコンで包丁!?」

ラウルの要望を聞いた男性が、心底驚いたような顔をした。

もしかして、オリハルコン包丁はやはりとんでもない珍品なのだろうか?

「何だ、そんなびっくりすることか?」

「そりゃびっくりもするだろう、そもそも包丁をオーダーメイドする客なんてほとんどいないんだぞ?」

「……そういうもんなのか?」

「ああ。包丁なんて切れ味良くてナンボの品だし、そもそも武具とは違って生活品だからな」

確かにバーナードの言う通りで、包丁は刃物で立派な凶器にもなるが基本的には武具ではなく生活品寄りだ。

それ故に、武具類よりも『使えればいい』という実用性が重視されがちである。よって、剣や槍、斧等の武器類に比べて強い拘りを持ってカスタマイズするという概念はほぼ無いに等しいのだ。

「じゃあ、今まで包丁をオーダーメイドして作ったやつはいないのか?」

「いや、全くいない訳じゃない。宮廷や貴族の領主邸で働く料理人からの依頼で、特注品として作ったことは何度かある」

「じゃあ俺のオーダーメイドも受けてもらえるか?」

「もちろんだ。だが……そうだな、半年待ってもらえるか?」

「半年?それは別に構わんが、理由を聞いてもいいか?すぐには作れないような、何か特別な事情でもあるのか?」

「いや、特別な事情なんて大層なもんじゃないんだが。単にオリハルコンで包丁を作るという経験そのものがな、俺には圧倒的に不足してるんだ」

接客エリアに飾られた数多の包丁類の中に、オリハルコン製のものはひとつもなかった。つまりそれは、オリハルコンで包丁を作ることなどほとんどないということの証左だ。

それは即ち、包丁職人のバーナードでもオリハルコンという素材で包丁を作った経験がほぼないということにも繋がる。

「包丁の特注品を作ったことも何度かあるにはあるが、それでもせいぜいミスリル製止まりでな。職人として長年包丁を作り続けてきた俺でも、オリハルコンで包丁を作ったことなど一度もないんだ」

「なら、やはりオリハルコンで包丁を作ってもらうことはかなり厳しいのか?」

「いや、そこは包丁職人の意地と誇りをかけて何が何でも作ってみせる。半年という期間はそのための猶予なんだ」

「半年で何とかできるもんなのか?」

「他所の工房―――そうだな、オリハルコンの武器系ならやはり長剣職人が最適か。そこでオリハルコンのという金属の特性をよく思い出してくる」

「ああ、そういうことか」

バーナードの言葉に、ライト達も 凡(おおよ) そのことを察する。

如何に職人と言えど、普段滅多に取り扱わない素材となるとやはり勘が鈍るのだろう。それが年単位のブランクとなれば尚更だ。

しかし、バーナードとてファングに工房を構える職人だ。かつては様々な武具工房で長年修行を積んできた。その際には当然のことながら、オリハルコン相手に格闘したこともある。

バーナードはかつての修行中の頃の感覚を取り戻すべく、他の工房でオリハルコンを触らせてもらおうと考えたのだ。

「そうか。そしたらまた半年後にここに来ればいいのか?」

「ああ、それまでにはオリハルコンの扱い方や感覚をしっかり取り戻してくる」

「分かった。……あ、ちなみに今日は包丁の柄で使ってもらいたい素材も持ってきているんだが」

ここでラウルがさらにオーダーメイドの注文を出す。

そう、せっかくのオーダーメイドだ、素材は包丁の刃だけでなく柄にも拘らねばならないのだ。

「柄の素材の持ち込みか?木製の柄なら、うちにも最上級の素材を取り揃えてあるが」

「そうか?もし神樹ユグドラツィの枝以上に良い物があるなら、それも検討したいと思うが」

「ブフッ!」

ラウルが口にした思いもよらぬ素材名に、バーナードがたまらず盛大に噴き出す。いくら最上級の素材を取り揃えていても、さすがに神樹系の素材までは確保していないようだ。

そりゃあねぇ、神樹の枝なんて代物が出てくるとは普通は思わないよねぇ……とラウルの横でライトは内心思いながら苦笑いする。

「し、神樹の枝だと……さすがにそんなとんでもない代物はうちにもない」

「そうか。じゃあ予定通り、俺の持ち込みの神樹の枝で柄を作ってもらえるか?」

「ああ、了解した。しかし……神樹の枝なんて伝説級の素材を持ち込みされる日が来るとは、夢にも思わなんだな……もしかして、オリハルコンも刃の素材として持ってきているのか?」

「ああ。金属の塊状態だが、オリハルコンは持ってきてある」

バーナードの問いに、ラウルはその場で空間魔法陣を開いて神樹の枝とオリハルコンの塊が入った革袋を取り出す。

ちなみにこのオリハルコンは、ラウルがレオニスにおねだりして譲ってもらったものだ。

ラウルの両手いっぱい分くらいある大きめの革袋に、ぎっしりと詰まったオリハルコン。革袋から塊をいくつか取り出したバーナードが、またも驚愕する。

「ぉぃぉぃちょっと待ってくれ。インゴットでもない塊状態なのに、何でこんな純度高いんだよ……」

「ん?何か問題でもあるか?」

「ぃゃ、これで包丁を作ること自体は何の問題もないが……」

バーナードが半ば呆然としつつ、ラウルの顔を改めて見ながら問いかけた。

「神樹の枝にこのオリハルコン、そして空間魔法陣まで使えるあんたは一体何者だ?高名な冒険者か魔術師か何かか?」

「いや?俺はただの料理人で、一介の執事だ」

「料理人で執事?……料理人なら包丁をオーダーメイドで作るのは道理だが、それにしちゃいろいろと規格外過ぎないか?」

「まぁまぁ、そこら辺はいいじゃないか。後は作成の代金だな。オーダーメイドの依頼料として、いくらが適切なんだ?」

「ん?あ、ああ、そうだな……普段オーダーメイドなんて滅多に受けないからな、依頼料なんて決めてないんだが……」

明らかに只者ではないラウルの正体を問うバーナードに、ラウルはお茶を濁しつつオーダーメイドの依頼料がいくらになるかを質問する。

なかなかに上手い煙の巻き方である。

「以前宮廷の料理人からオーダーメイドを受けた時には、材料費込みで18万Gで引き受けた。今回は材料費は全部持ち込みでこちらの用意はないから……そうだな、5万Gでどうだ?」

「何だ、そんなに安くていいのか?」

「俺の人件費だけだからな。それに、俺の感覚を取り戻すために半年も待たせる訳だから、多少はサービスしないとな」

過去のオーダーメイドの実績を参考に、バーナードはオリハルコン包丁の製作費を5万Gと提示した。

思っていた以上に安く感じたラウルに、その価格で不満はない。とはいえ、持ち込みで材料費分が安くなるとはいえ包丁一本に5万Gはかなりのお値段だが。

オーダーメイドの大まかな取り決めが決まったところで、ラウルとバーナードは握手を交わす。

「また半年後に来る。オリハルコン包丁の出来上がりを楽しみにしている」

「ああ。俺もこんな貴重な品を使って仕事をさせてもらえて光栄だ。絶対に良い物を作り上げてみせる。楽しみにしててくれ」

「ああ」

今年の年始に掲げた目標の実現に向けて、大きく前進したラウル。その顔にも自然と笑みが浮かぶ。

そしてバーナードの方も、『神樹の枝を柄に使った世界一贅沢なオリハルコン包丁』などという前代未聞の仕事を前に、魂が震える程の歓喜に身震いする。

ライトも固く握手を交わす二人を眺めながら、喜びの笑顔に満ちていた。