軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第331話 湖底神殿の祭壇

このサイサクス世界には、神殿と呼ばれる場所がいくつかある。そしてそれらは主に二種類に分けられる。

一つはラグナ教神殿や旧教神殿のような、平民レベルの知識でもかなり周知されていて出入りも比較的しやすいもの。

そしてもう一つは、よほど腕の立つ冒険者か実力のある魔導師でもなければ立ち入ることすら困難な場所にあるもの。それは例えば天空神殿や地底神殿、海底神殿などが該当する。

ライトが目覚めの湖の水底で見つけた神殿は、明らかに後者に属するものだった。

『目覚めの湖の底に、こんな神殿があったとは……』

『BCO内であった天空神殿や地底神殿、海底神殿がこの世界にも実在することは、書物などで知っていたが……ここは海じゃなくて湖だから、湖底神殿……ってことになるよな?』

湖底神殿の真ん前まで運んでもらったライトは、イードの触腕から降ろしてもらって神殿の正面に立つ。

水中で湖底に直立姿勢で立つというのはなかなかに至難の業に思えるが、ライトの肩にはウィカが乗っている。ウィカの力によって様々な結界防御や強化を得ているので、呼吸等と同じく水中でも地上と同じことができているのだ。

湖底神殿の外見は、旧教神殿跡地と呼ばれる職業神殿と同じギリシャ風神殿だ。規模としてはかなり大きく、外の柱に守られるようにして中の建物の壁が見える。

とはいえイードは巨体過ぎて神殿内にはとても入れそうにないので、その場で待っていてもらう。

ライトはウィカとともに神殿内部に入っていくことにした。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

神殿内部の入口手前から、中を覗き込むライト。だが、ただでさえここは薄暗い水底、さらに建物の中となると真っ暗で何も見えない。

だが、ここで入らずに引き返すという選択肢はライトの中にはない。とりあえず中に入って暗闇に目が慣れれば、少しは何か見えるようになるでしょ!という考えのもと、ゆっくりと中に入っていった。

そしてライトが神殿内部に一歩足を踏み入れた瞬間、神殿内部にある側廊の列柱上部がぽつん、ぽつん、とドミノ倒しのように連鎖しながら灯りが灯されていく。その灯りは鬼火のような形をしていて、青白い炎が周囲を淡く照らしていく。

鬼火の灯りが灯されたことで、内部構造がかなり見えるようになった。

建物内部は側廊も含めたこの大広間のような空間一室のみのようだ。

青白い炎の灯す淡い灯りの中、ライトはまず側廊の方を歩いてみる。左右二本の側廊ともに特筆するような箇所は見られない。そのことを確認したライトはいよいよ身廊の奥、祭壇のある箇所に向かって進んでいった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

『……こ、れ、は……』

ライトは信じられないものを見るかのような眼差しで、祭壇を見上げながら呟く。

祭壇の中央、ど真ん中に巨大な卵が鎮座ましましているのだ。

ふかふかっぽい座布団?のようなものの上に、デデーン!と置かれたその佇まい。これ以上ないほどの威風堂々さに満ち満ちている。

殻の色は白く、祭壇上にあるとはいえライトがかなり上を見上げるほどだ。その大きさはおそらくレオニスの身長の倍以上の高さがあるだろう。

『これ……まさか、使い魔の卵のように餌を与えて孵化させる、とかいう代物じゃない、よな?殻の色とか大きさとか全然違うし』

『そもそも餌与えるにしたって、ここで出せるようなものなんてないし』

『かといって、持ち帰れるような大きなでもないし……どうすりゃいいんだ、これ』

ライトは祭壇の前でうんうん唸りながら激しく悩み込む。

卵という形態であるからには、何かしらの方法を用いて孵化させることができるのだろう。できることなら、自分の手で孵化させてみたい。

だがしかし、一体何をどうしたらいいのかさっぱり思いつかない。

普通の卵なら体温を用いて温めて孵化させるところだが、ここは湖の水底。水中で人肌で温めるというには相当無理がある。

ならばここはサイサクス世界特有の謎システム『卵に直接餌を与える』が有効そうだが、さりとて水中で与えられる餌など今のライトは所持していない。

ウィカの結界のおかげで着用品類が濡れないことは分かっているので、一応アイテムリュックもともに装備品として持ってきてはいるのだが。

『んーーー、今アイテムリュックに入っているものとなると……エクスポ?ハイポ?エネドリ?ぬるぬるドリンク?……そこら辺はないか』

『後は何があったっけ……魔物由来の素材類はなるべく使いたくないなぁ、そもそも素材類って普通に食えるもんじゃないし』

『食えるもん…………あ』

ライトはここで、とあるものの存在を思い出す。

それは先日の大晦日、ラグナロッツァの屋敷内に降り注いだ『聖なる餅』であった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

大晦日の午前深夜に、餅の精霊カガー・ミ・モッチによってアクシーディア公国全域にもたらされた恵みの餅。

翌日昼まで散々掻き集めて、屋根やベランダも含めて敷地内に降った餅をひとつ残らず拾ったその総数2851個。

ちなみにこの総数は一つ一つ餅を出して数えたのではない。この聖なる餅はBCO世界のアイテムとして判定され、ライトのマイページ内に収納できたのだ。

そうと分かればその総数を把握し、アイテムリュックを使えない場面でも取り出し可能にするためにマイページに移動させておいたライト。

ちなみにマイページのアイテム欄での聖なる餅の詳細解説は、以下の通りだ。

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【聖なる餅】

餅の精霊カガー・ミ・モッチが、大晦日の日に人々に分け与え給うた餅。

その餅を食べれば、慈愛溢れる精霊の御心により身も心も大いに癒やされ回復する。

HP1000回復、MP1000回復。

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餅拾いの際にレオニスが『ちょっとした風邪程度ならすぐに治る』とその効能の凄さを力説していたが、確かにHPMPともに1000回復という数値はかなり凄い高性能の回復アイテムであることが分かる。

『この聖なる餅、回復アイテムとしてもかなり優秀だし、カガー・ミ・モッチ自体が神聖属性という珍しい精霊だからこれを卵の餌として与えれば、何かすごいものが生まれる……かも?』

ライトはひとまず祭壇をよじ登り、祭壇の上面に辿り着いてから聖なる餅を一つ取り出し、卵の殻に餅だけが触れるように差し出してみた。

するとその餅は、殻に触れた途端にまるで卵が吸収したかの如く、すぅっと溶けるように掻き消えていく。そして聖なる餅を食べた?瞬間、白くて大きな卵が少しだけふるふる、と震えたように見えた。

それらは使い魔の卵に餌を与えた時とほぼ同じ現象だ。

よし、これは使い魔の卵の孵化と同じ要領でやればよさそうだ。そう確信したライトは、ひとまずウィカに上に上がるように指で指示し、祭壇の卵の上にふよふよと浮かんだ。

そこからアイテム欄で聖なる餅を百個取り出し、マイページパネルから続々と出現する餅を卵の上に降り注ぐように与えていく。

卵は百個全ての餅をほぼ瞬時に平らげた。その間まるで喜んでいるかのように、ふるふると前後左右に小刻みに震えている。

だが、卵の大きさはほとんど変わらないようだ。いや、むしろ引き締まって何だか小さくなっているようにも見える。

とにかく聖なる餅百個程度では、孵化させるまでに全然足りそうにない。普通の使い魔の卵ならともかく、今この目の前にある卵はかなり巨大なのだ。

これは千個以上要るかもしれない、そう思いながらライトは思いきって一気に四百個を追加した。

五百個投入しても、まだまだ孵化する気配はない。さらに五百個追加し、様子を見るライト。

千個食べさせた頃には、目に見える変化があった

まず、真っ白だった卵の殻の色が白銀に輝いて見える。大きさも最初の卵のサイズから四割ほど小さくなった。

今までの使い魔の卵は孵化させる際にはどんどん大きくなっていったので、それとは全く逆の現象だ。もしかして、中身が凝縮しているのだろうか?

ここから先は聖なる餅の数を百個づつ投入し、都度様子を伺うライト。

千五百個を超えた頃、レオニスの背丈くらいの大きさになる。千八百個を超えた頃には『ピシッ』という小さな音とともに卵の殻に一筋の罅が入った。

そして二千個に到達した時に、ライトは餅の雨を降らす手を止めて祭壇前に降り立った。

ライトの背丈より少し大きいくらいに縮んだ卵には、まるでマスクメロンのような網目になった細かい罅が全体的に入っている。

固唾を呑みながら、罅だらけになった卵をじっと見守るライト。そうしてどれくらいの時間が経過しただろうか。

卵の殻が一欠片、二欠片と剥がれ落ちる。そこに出来た隙間を破って出てきたのは―――首長竜のような姿をした水竜だった。