軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第332話 水竜の正体

『これ……アープ、か?』

ライトの目の前にいる、たった今卵から孵化したばかりの首長竜のような水竜。ライトはその姿に見覚えがあった。

その記憶が正しいかどうかを確認するために、ライトは先日クエストイベント報酬で得たスキル【詳細鑑定】を発動して水竜を見た。

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【アープ】

このサイサクス世界のどこかにいる、と言い伝えられている水神。

全ての水を司る神であり、アープの意に従わぬ水はこの世に一滴たりとも存在しない、とも言われている。

基本形態は水竜だが、条件が整えば人型や天使など変幻自在に姿を変えて陸地での活動も可能になる。

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『ああ、やっぱりアープだったか』

『つーか、アープってBCOでは騎士団で討伐するモンスターだったんだが……こんな誕生秘話やら特性?があったんか』

『しっかし、これ……どうすりゃいいんだ?』

やはりライトの記憶通り、この水竜はアープという水神だった。しかし、ライトの知るBCOでのアープと今目の前にいるサイサクス世界のアープは、見た目は酷似していてもその設定はかなり違うようだ。

まずライトの知るアープとは、レイドボスの一種だ。レイドボスに挑むには、勇者候補生であるユーザーが『騎士団』と呼ばれるクランを結成することが必須であり、騎士団を結成するとクラン単位で一日一回挑戦できる『討伐任務』というコンテンツがプレイ可能になる。

そしてその討伐任務にもレベルが設定されており、レベルの数値が高いほど難易度が上がる。アープの任務レベルは15段階中の4、ゲーム開始後序盤あたりに実装されたレイドボスだった。

そうは言ってもレイドボスなので、HP70万以上の手強い敵であることに変わりはないのだが。

それら諸々の情報を、ぼんやりとアープを眺めながら記憶の海の中でサルベージしていたライト。ふと気がつくと、生まれたてのアープがふよんふよん、ふよよーん、と泳ぎながらライトのもとに近寄ってきた。

長い首に幅広の扁平状の胴体、そこから生える海亀のような四肢に短い尾。前世の地球で言うところのプレシオサウルスのような姿をしている。全体的な大きさは、ライトの全身より一回り小さいくらいか。

卵から孵化したばかりの赤子だからか、鮮やかな牡丹色の瞳が何とも愛くるしい顔つきだ。

身体は瑠璃色に輝く鱗で全身覆われていて、頭部には目と口があり、人間の耳にあたる部分に背びれのような 鰭(ひれ) が左右に一つづつ、計二つついている。そして額には瞳と同じ牡丹色の一際大きな宝石があり、そこから 鶏冠(とさか) のように生えた鰭が背中まで続いて 鬣(たてがみ) のようになっている。

眉間より少し下には、小さな一本の角がちょこんと突き出ていた。

そんな見た目も愛くるしくて愛嬌たっぷりのアープが、そのつぶらな瞳でライトをじっと見つめてくるではないか。

アープの真っ直ぐな視線を受け、戸惑うライト。そもそもこのアープはライトの中ではレイドボスだったのだから、ライトが困惑するのも無理はない。

『ええええ……これホントどうすんの……可愛過ぎるんですけど!』

『でも、大きくなったら未来のレイドボスになるんだよなぁ……幼体でこの大きさなんだから、成体となるとかなりの大きさになるんだろうし……BCOのアープも、今のイードの体格と同等かそれより少し大きいくらいだったし』

『……それよりもだな。そもそもレイドボスを飼うとか―――いや、飼うまではいかずとも手懐けたり仲良くするなんてことは……果たしてできるもんなのか?』

ライトは頭の中でぐるぐると必死に考えるも、その答えは一向に出てこない。

そんなライトをアープがどう思ったのかは分からないが、何とアープの方からライトの左頬に己の頬をすりすりと擦り寄せたではないか。

これは明らかに親愛の情を表しており―――孵化するための餌として聖なる餅を山ほど食べた効果なのか、鱗で覆われてなおもっちりすべすべのもち肌ほっぺのアープがライトに頬ずりをし続ける。

その反則的なまでに愛らしい姿に、思いっきり胸を射抜かれるライト。

仰け反るライトの、クッハァァァァッ!という小さな呻き声とともに、ズドギャーーーン!という効果音がどこからともなく聞こえてきた、気がする。

『うああああッ!やっぱり可愛いいいい!』

『無理!このままここに置いてきぼりにするなんて絶対無理!とりあえずここから連れ出そう!』

『もともと水神なんだから、祀り方や育て方次第で善神に導く方法はいくらでもあるっしょ!』

ライトはアープの幼体をそっと抱き抱えながら、湖底神殿を出た。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

湖底神殿の外では、イードがおとなしくライト達の帰りを待っていた。

神殿から出てきたライトはイードのもとに向かい、イードもそれに気づき出迎える。

イードはライトが抱き抱えていたアープの存在に気づき、驚いたような仕草をするもすぐに気を取り直し、ライトごと触腕でそっと抱えて湖面を目指して水中をゆっくりと上昇していく。

薄暗かった水中がだんだん明るくなっていき、程なくして湖面に出た。ひとまずイードはいつもの桟橋のある場所に行き、桟橋の上にライト達の身体をそっと下ろした。

「イード、ありがとう!」

ライトはイードに向けてまずお礼を言い、早速アープの紹介を始める。

「あのね、イード。この子はさっきまでいた湖底神殿、そこの祭壇にあった卵を孵化させた子なんだ」

「アープという種族で水神、水の神様なんだ」

「この子も水属性の子だし、この目覚めの湖で生まれた子だから、しばらくはここに住まわせてもらっていいかな?」

ライトのお願いに、イードは「キュイイィィ♪」と軽快な声で快諾する。だが、当のアープはライトの腕の中でジタバタと軽く暴れる。どうやらライトに置いていかれるのが不服なようだ。

「ッとと、暴れないで、アープ。もしかして、置き去りにするとか思ってる?」

「ごめんね、ぼくは人間だから水の中には住めないんだ。だからってアープをぼくの家に連れていっても、アープが住める大きな水場なんてないし」

「でもね、アープが大きくなっていろんな条件?が整えば、姿を変えて陸地での活動もできるようになるんだって!」

「だから、それまではこの目覚めの湖にいてくれる?ここにはイードやウィカもいるから寂しくなんてないし」

ライトが抱っこしながら語りかける言葉に、アープは都度頷いたり首を横に振ったり傾げたりして意思表示をしている。もともとがレイドボスという特殊な設定のせいか、アープもかなり知能が高いようだ。

それ故にライトの言い分も理解できるのだろう、その長い首を下に向けてしゅん、と俯いている。

そんな様子のアープを見てイードはオロオロし、ウィカも心配そうにアープの顔を覗き込む。

すると、アープが長い首をもぞもぞと動かしたかと思うと、その口に何かが出てきた。その何かを口に咥えたまま、ライトに差し出すような仕草をするアープ。

「ン?これは何?アープからぼくにくれるの?」

首肯するアープの口からそれを受け取るライト。

アープの咥えていたものは、キラキラと七色に輝く一枚の鱗だった。

ライトはその鱗を早速【詳細鑑定】で見てみることにした。

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【水神の鱗】

水神アープの加護が付与された鱗。

アープが認めた者のみに与えられる、信頼の証。

これを所持している者は、水神の威光により水害などには一切遭わなくなる。

水属性や氷属性の攻撃は全て無効化され、火炎耐性も倍増する。ただし風属性と雷属性の攻撃耐性は減るので要注意。

譲渡不可。

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「信頼の証……ぼくを信じてくれるんだね、ありがとう、アープ!」

「そうだ、そしたらぼくもアープに初めてのプレゼントとして名前を考えてあげないとね!」

「アープの名前、何がいいかなぁ……うーん……」

アープという名は種族名であるが、BCOを知るライトにとってはレイドボスとしての呼称そのままでもあることをも意味していた。

これから仲良くしていきたいのに、それでは味気ないし寂しいな、と思ったライト。アープが寄せてくれた信頼に応えるべく、新たに名前をつけようと考えたのだ。

「んー、水神、水……水……そうだ!」

「アープ、君の名前は『アクア』。これからは君のことを『アクア』と呼ぶね!」

ライトはアープの水神という特性から、水を表すラテン語『アクア』を思いついたようだ。

アープもその響きが気に入ったのか、牡丹色の瞳をキラキラと輝かせて何度も頷き首肯した。

「アクア、よろしくね!大きくなって、いつかぼくといっしょにいろんなところを旅しようね!」

「イード、ウィカ、目覚めの湖の新たな仲間としてアクアを迎えてあげてね!」

イードとウィカも、ニコニコとした笑顔でアクアを見つめる。

この心優しい二体なら、ライトにお願いされずともアクアと仲良くして可愛がってくれることだろう。

ライトは腕の中に抱っこしていたアクアをそっと湖面に下ろす。まるで白鳥の子のように湖に浮かぶアクアは、時折ライトの方に振り返りながらもイード達のいる方に泳いでいく。

「アクアが姿を変化させられる条件とか、ぼくも一生懸命調べてくるからね!待っててね!約束だからね!」

アクアからもらったレアアイテム『水神の鱗』を大事そうにその手に持ちながら、ライトはアクアに向かって約束の言葉を交わしたのだった。