軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第330話 水底に沈みしもの

ラグナロッツァの屋敷で昼食を済ませた後、ライトはカタポレンの森の家に帰り早速目覚めの湖に向かう。

まずは先に素材集めを済ませてしまおう、とライトは毒茨の球根探しをすることにする。

素材名の中の『毒茨』とは、このサイサクス世界では『デッドリーソーンローズ』という植物系魔物を指す。ローズという名も含まれているくらいだから、その花はパッと見は可愛らしい小薔薇に見える。だがそこは腐っても魔物、決して美しいだけの観賞用の花々とはならない。

獲物を見定めると、強靭な蔓を伸ばして攻撃してくる。蔓だけなら多少縛られたところで平気だが、蔓には非常に鋭い棘が無数に生えていてその棘が刺さると結構痛くて厄介なのだ。

また花粉には神経毒が含まれていて、攻撃として撒き散らしたりもしてくる。この花粉を大量に吸い込むと、全身が麻痺して動けなくなるのでこれにも注意を要する。

もちろんライトはそうした魔物の基本情報を熟知しているので、花粉対策のマスクをガッツリと着用して防御はバッチリである。

さて、確か前にここら辺でデッドリーソーンローズを見かけたよな、というポイントに到着したライト。適当にうろちょろしていると、早速茂みの方から蔓が伸びてきてライトに向かって勢いよく襲いかかった。

その蔓をシルバーダガーで手際よく往なし、物理必中攻撃スキルの手裏剣でデッドリーソーンローズの根本を狙いサクッと地面から切り離して仕留める。

仕留めた後に、蔓の生えていた場所の地面をスコップで掘って球根を取り出す。これで毒茨の球根を一個ゲット!である。

ちなみに球根は根っこをそのまま残して、球根もほんの一欠片だけ残して土を被せて埋めておく。これでまた次のデッドリーソーンローズが早くに芽を出すはずだ。

デッドリーソーンローズは花粉や球根以外の部分、蔓や茨や花弁も素材となるので先程切り離した蔓や花なども全てアイテムリュックに収納していく。

これを今日は十回繰り返せば、素材採取の完了だ。

「これなー、球根だからデッドリーソーンローズ一体につき一個しか取れないのがなー、難点だよなー」

「乱獲し過ぎて絶滅の危機!なーんてことになったら困るし……ま、時間が経てばリポップする魔物に絶滅の危機もへったくれもねぇけどさ」

「これ、どれくらい時間経過するとリポップするんだろ?一日二日とかかかるんかな?」

そんなことを呟きながら蔓を収納していると、何と先程球根を掘り起こして土を被せた場所からもうピョコッと新芽らしきものが見えているではないか。

その生命力の強さ、再生のあまりの早さにライトは目を見張りながら驚く。

「うおッ!新芽出るの早ッ!」

「この分だと半日とか数時間そこらで元通りになりそうだな」

「今回作るのはアンチドートキャンディだっけ、これも複数持っていた方が良いよね。これだけ繁殖力が強いっつかリポップが早いなら、定期的に素材採取しても大丈夫そうだな!」

ピョコッと頭を出したデッドリーソーンローズの新芽を、人差し指の指先でちょん、ちょん、とそっと突っつきながら独りごちるライト。

引っこ抜かれたばかりで再生したての新芽、突ついてくるライトの指を齧ろうと必死にジタバタするも、ヒョイ、ヒョイ、と上手く躱されて噛みつけない。

まだろくな攻撃などできようもない新芽なので、芽の先端が左右にピョコピョコ動くだけの可愛らしいものだ。

「さ、目当ての素材も必要分集めたことだし。イードのところに遊びに行こうっと!」

「デッドリーソーンローズの新芽ちゃん、また来るねー!」

すくっ!と立ち上がり、デッドリーソーンローズの新芽に向かって軽やかな言葉をかけ手を振りながら颯爽と駆け出すライト。

ライトが走り去るその後ろ姿を、デッドリーソーンローズの新芽十株がプルプルと小刻みに震えながら見送っていたような気がするが。多分気のせいだろう。キニシナイ!

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

いつも目覚めの湖の出入り口にしている桟橋に到着し、湖面に向かって大きな声で呼びかける。

「イード、いるー?ライトだよー!」

そのまましばらく待っていると、湖面からそーっとイードが出てきた。今日もその頭にはウィカが乗っている。二匹?はもうすっかり大の仲良しだ。

「イード、久しぶりだね!二ヶ月ぶりくらいかな?」

「キシュルルル」

「はい、これいつものお土産ね!」

「キュイイィィ♪」

ライトはイードの大好物である『魔物のお肉たっぷり激ウマ絶品スペシャルミートボールくん』をアイテムリュックから取り出す。今日はツェリザークの狗狼の肉入りスペシャルバージョンだ。

大きさはバスケットボール大、これを10個。アイテムリュックから次々と取り出してはイードに手渡していく。

ライトからミートボールくんを触腕で受け取るイードも、次から次へと自分の口に持っていってはもっしゃもっしゃと美味しそうに食べる。

ライトがこうしてイードと会うのは、小人族のナヌスの里を探しに来た時以来だ。実に二ヶ月ぶりの再会である。

ラグーン学園に通うようになってから、やはり会う頻度はかなり落ちた。それまでのような、カタポレンの森の中だけでのんびり気ままな生活とは一変したのだから無理もない。

ライトにとってイードは、このカタポレンの森の中で二番目にできた友達だ。

一番最初の友達、銀碧狼の子アルのご飯ために魚介類を捕るべく釣りをしに来たあの日。レオニスが所持していた、巨大な海竜やリヴァイアサンでも一本釣りできる頑丈な釣り竿を手に、レオニスとともにこの目覚めの湖にやってきたライト。

その釣り竿にスペシャルミートボールくん・こぶし大を釣り餌に垂らして、見事釣り上げたのが今ライトの目の前にいる巨大クラーケンだった。

ライトが『イード』と名付け、その後ちょっとした紆余曲折を経て友達となった一人と一匹。今ではすっかり仲良しだ。

「イードと友達になって、まだ半年くらい?」

「キュィ?」

「夏は湖で水遊びできるからイードともたくさん遊べるけど。さすがに冬はそうもいかないからねぇ」

「シュルルゥ」

「ホントはイードとももっと会っていっしょに遊んだりしたいんだけどさ。イカと人間じゃ住む環境からして全く違うどころのレベルじゃないもんね」

「キシュリュリュゥ」

ふぅ……とため息をつきながら、誰にともなく呟くライト。その呟きに、ライトと同じようにまるでため息をつくかのような仕草とともに相槌を打つイード。相変わらず賢くて茶目っ気たっぷりの 巨大イカ(クラーケン) である。

しかしここでふとライトが何かを思いついたのか、はたと顔を上げてイードを見る。

「ねぇ、イード。ウィカの力を借りればぼくも湖の中を探索できるかな?」

「キュィ?」

「うにゃ?」

ライトは今までにウィカの力を借りて、何度も水場を介した空間移動を行っている。その間ライトの身体は水に濡れることなく、また呼吸も普通に行いながらちょっとした水中散策もできている。

水の冷たさは今着ている防寒対策バッチリのアイギス特製コートがあるし、夏ではない真冬のこの季節でもイード達と目覚めの湖の中を遊泳できるのでは?と考えたのだ。

「キシュルル?」

「うにゃにゃぅん」

イードとウィカが、顔を合わせて何やら相談している。しばらく会話っほいようなものを交わした後、二体はお互いに頷き合いながらライトの方を見た。

「うにゃーーーん♪」

「キュイイィィ♪」

糸目の笑顔のウィカに、同じく触腕の先っちょを頭の上で軽く触れて大きな丸を作るイード。どうやらOKのサインのようだ。

これはライトの提案を受け入れられたということである。

早速ウィカがライトの右肩に乗り、ライトの頬に頬ずりをする。それを合図にイードが二本の触腕でライトの身体をそっと包み込み、水中に潜っていく。

水の中に入ったライトは、予想通り陸上での感覚と同じように呼吸ができるし水の冷たさも全く感じない。

まるでマリンスポーツのような景色と水中での独特の遊泳感に、ライトはただただ感激する。

「うわぁ……やっぱり湖の中はすごいね!」

以前に見た目覚めの湖の中での景色を思い出しながら、ライトは存分に水中遊泳を堪能していた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

イードがどんどん水中の奥底に潜っていき、深度も相当深くなって地上の光がだいぶ遠くに見えてきた頃。

水中だけでなく、地上からは見ることのできない湖底を眺めていたライトは、湖底に何かがあることに気づく。

それは自然の岩や水底ではなく、何か人工的な形を象っているように見える。

『……ン?ありゃ何だ?……何かの建物のようにも見えるが……こんな湖底に?まさか……な?』

『でも、絶対に何かある、よな?……ちょっと気になるな』

ライトはイードの触腕をちょいちょい、と突つき、指先でその何かの形のある場所を指してそこに行ってほしい旨をジェスチャーで伝えた。

イードはライトの意図をちゃんと理解し、指差した方向へゆっくりと進んでいく。どこまでも賢いイカである。

全体的にかなり薄暗い水底ではあるが、完全な暗闇ではなくまだ視界は効いている。その場所に近づくにつれて、どんどんとその何かが姿を現していく。

『……え?これは、まさか……』

『…………神殿!?』

ライトは無言のままその顔を驚愕に染める。

目覚めの湖の水底で、ライトが目にしたもの―――それは神殿の形をした、誰の目にも明らかな人工建造物であった。