軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第203話 対等な関係

その後ライトはマイページ内に表示される所持金の扱い方を知るべく、ページをあれこれと散々弄ってみた。だが、現実の通貨として直接取り出すことは結局できなかった。

残念なことではあるが、ある意味仕方がないことかな、とも思うライト。

そもそも貨幣や通貨とは国が管理発行するものであって、決してゲームのようにどこからともなく勝手に涌き出てくるようなものではない。

山や地中から採掘できる鉱石や宝石類ならともかく、市場に通用する通貨が国の与り知らぬところでじゃんじゃか増えていったらたまったものではないだろう。

もし大量のG資金を使用すれば、贋金騒動や経済崩壊にまで繋がる恐れもあるのだ。

そう考えると、たとえマイページの所持金が増えようともそう簡単にホイホイと使うことなどできない。

ただし、マイページ内のG通貨にもちゃんと使い道はある。

マイページ内に『ショップ』という欄があり、そこで様々なアイテムが購入できるのだ。

ゲーム内通貨用のショップだからそれほどレアなものが買える訳ではないが、エクスポーションやアークエーテルなどの上級回復剤や武器防具などが買える。

今はショップで買えるものは少ないが、イベントに絡んできた品々が新たに追加されていくはずだ。

それらショップアイテムは現物として取り出すことができるので、実際に消耗品として使用することも可能である。

そしてここが最大のポイントなのだが。『現実のアイテムとして取り出すことができる』ということは、『現実のショップで売却して換金することも可能』ということだ。

つまり、G資金を銀行預金のように直接引き下ろすことは不可能だがアイテム化してから売却という迂回路を経由することで、この世界の通貨への変換も可能になるのだ。

例えばマイページのショップで、1本5000Gのロングソードを購入したとしよう。

これが実際にいくらで売れるかは分からないが、武器屋なり鍛冶屋なりに売り払えばそれなりの金額の現金になるだろう。

また、装備品以外にも回復剤類は各種ギルドで買い取りしてもらえたはずだ。

「よし、使わない装備品や回復剤が溜まったら、いずれ然るべきところにリサイクルとして適度に出していこう。ショップで鎧とか買ったところで、どうせサイズ合わないだろうし」

「流通通貨を勝手に増やすのはマズいけど、物々交換やリサイクルでお金を得るなら何の問題もないよね!」

「もしレオ兄にアイテムの出処を問われたら、フォルが拾ってきたアイテムってことにしよう。森にはいろんな落とし物あるもんね!」

ライトはマイページとにらめっこをしながら、この世界で如何にしてゲームシステムを活用していくかをいろいろと考えるのだった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

翌週土曜日。

ライトは予定通り、再びナヌスの里を訪れた。もちろんその主目的はクエストイベントの進行である。

クエストイベントの2ページ目のお題、クエスト6から10は前回の1ページ目同様回復剤系と黄色のぬるぬるだけなので、余裕綽々楽勝だ。

里の位置は前回の初訪問で把握したので、今度からは目覚めの湖経由ではなく森の方から入ることにする。

里に入ると早速出迎えてくれた長のヴィヒトに、ライトはにこやかに問うた。

「あれからポーションやエーテルは使いましたか?」

「ああ、ライト殿からお譲りいただいた回復剤はとても重宝している」

「そうですか、それは何よりです!ところで今日はですね、お土産として先日のポーションエーテルの上位品を持ってきたんですが……」

「何っ、あれらよりすごい品があるというのか!?」

ヴィヒトが早速食いつくようにライトに聞き返してきた。

ライトは背負っているアイテムリュックを下ろし、中からハイポーションとハイエーテルを取り出す。

「これはハイポーション、そしてこちらはハイエーテルという名で、その名の通りポーションやエーテルよりも効果が高い回復剤です」

「もしよかったらこれらも里の備蓄にいかがですか?ポーションエーテルとともに置いておけば、いざという時に安心ですし」

まるでTVショッピングのバイヤーの売り込み文句のようだが、意外なことにヴィヒトはしばらく黙り込んだままなかなか返事がこない。

どうしたことか、とライトがヴィヒトの顔を覗き込む。

「どうかしたんですか?」

「いや、確かにそれらがあればより安心できることは分かっているのだが……」

「我等にはそのような貴重な品々と交換できるようなものが思いつかないのだ」

「対価を用意せずに、我等だけ一方的に恩恵を受ける訳にはいなかい」

浮かぬ顔の長は悩ましげにその心情を吐露し、その言葉にライトはハッとする。

ライトにとってはハイポーションやハイエーテルなど、腐るほどある余剰品だ。何ならただで譲っても全く問題はない。

だが、小人族からしてみればそうはいかない。何の対価もなしに品物をもらってばかりいるのは、却って居心地が悪いだろう。

それは対等なやり取りではなく、ただの施しだからだ。

他種族から施しを受けねばならぬ程、彼らは今現在困窮している訳ではない。なればこそ、取引は対等なものでなければならない。

たとえそれが取引などという堅苦しいものではなく、あくまでも善意からくる親善的なやり取りであったとしても、何か品物を貰えばそれ相応の返礼品を、と考える。

ただもらってばかりいるだけでは、決して対等な関係にはなれないからだ。

そして、好意の名のもとにアイテムを一方的に押しつけるだけというのも良くない。それではライトとの対等な関係を望む彼らナヌス族のプライドを、甚く傷つけてしまうことになる。

そうした行き違いや歪んだ付き合い方は、間違いなく今後の両者の関係に暗い影を落とすだろう。

両者ともに良好な関係を築いていくには、ライトもナヌス族から適度に対価を受け取ることも必要なのだ。

ヴィヒトの一族の長としての言葉を聞き、ライトはそれらのことに思い至る。

だがここでライトは敢えて、事も無げに明るく振る舞う。

これ以上ヴィヒトに、要らぬ負い目や引け目を感じさせないためだ。

「あっ、それでしたら!いずれレオ兄ちゃん用に作ってもらう【加護の勾玉】への対価だと思ってもらえればいいかと!」

「…………それでよろしい、のか?」

ついさっきまで浮かぬ顔をしていたヴィヒトの表情が、若干呆けたような顔つきになる。

「もちろん!だって、新しい【加護の勾玉】を作るのに一ヶ月もかかるんでしょう?それってすっごく大変な重労働ってことじゃないですか」

「材料や手間もものすごくかかるんだろうし、そもそも【加護の勾玉】自体がぼくら人族からしたらとても貴重な品ですよ!」

「そんな大変な作業を、レオ兄ちゃんのためにしてもらうんです。だったら、回復剤の100や200くらい差し入れして当然です!」

「何ならハイポーションハイエーテルよりもっといい回復剤の差し入れもしますから!」

ハイテンション気味に捲し立てながら力説するライトに、ヴィヒトも「お、おお……」「え、いや、それほどでも……」とタジタジとなっている。

「レオ兄ちゃんにも話してあるんですよー、ナヌスの里にいっしょに遊びに行こうね!って」

「あっ、そういえばレオ兄ちゃんもナヌス族の集落がここにあるってこと、知ってましたよ」

「彼らにとって俺はバカでかい巨人サイズだし、そんな俺と遭遇して小人族を驚かせても可哀想だから会ったことはないって言ってたなぁ」

「でもレオ兄ちゃんも、ナヌスの里に来れる日を楽しみにしているって!」

「……って……ん?ヴィヒトさん、どうしました?」

ライトのおしゃべりは留まることを知らない。

だが、声が止んだヴィヒトの方にふと目をやると、顔を赤くしながら固まっているではないか。

「彼の御仁が、我等ナヌスのことをご存知、だとぅ……」

「さすがはカタポレンの守護者たる御仁、我等のような小さき者をすら把握しておられるとは……」

「その完璧さ、我等も見習わねばなるまい」

何やらブツブツと呟いたかと思うと、ハッと我に返る。

「そうだ、こうしてはいられん!彼の御仁がこの里への訪問を楽しみにしてくださっているならば、我等も一刻も早くその期待に応えねば!」

「ライト殿、新しい回復剤有り難く頂戴いたす!品は里の若い者達に預けておいてくれると助かる」

「我はまた作業に戻るため少々席を外す。何、ライト殿も気を楽にしてゆるりとご滞在くだされ。では、失礼するッ!」

両の拳を握りしめ、使命に燃える長はライト以上にハイテンション気味に捲し立てたかと思うと、バビュン!とどこかに走り去っていってしまった。

長の走り去る背中を呆気に取られながら見送るライトだったが、同時に安堵もした。

最初の方で感じた、ナヌス族側の負い目や引け目。そういったものも今のやり取りで払拭できたに違いないからだ。

小人達は誰一人として知らないことだが、ライトはライトでイベント報酬という立派な対価を貰っているのだ。

もちろんそんなことは口が裂けても言えない絶対の秘密だし、万が一話して聞かせたところで理解を得られるはずもないのだが。

いや、それどころかむしろ彼らの与り知らぬところで報酬を貰っている分、ライトの方が罪悪感を抱えているくらいだ。何も知らない小人達を利用しているようなものなのだから。

だが、イベントで得られる報酬云々を抜きにしても、ライトはナヌスの人達とこれからも交流を持ちたかった。他種族との交流、それ自体が尊く得難い縁なのだから。

ヴィヒトの言いつけ通りにライトのもとにやってきた若い者達に、ハイポーションとハイエーテル各30本を渡していく。

その後は前回のように、小さな子供達と遊んだりひと仕事終えた若い者達と会話を交わしたりと、ナヌスの里の滞在を心から楽しむライトだった。