軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第178話 神殿訪問

今日はライトが待ちに待った金曜日。ラグナ神殿訪問が行われる日である。

天気の都合で神殿に行く行かないを決めるのは不遜だから、という理由で雨天決行とは聞いていたが、晴れ時々曇りというような天気で雨が降る心配はなさそうだ。

いつも通り教室に集まった学園生達は、一時間目の鐘が鳴ると同時に競技場に移動しA組とB組とC組が並ぶ。

今回の神殿訪問は、三クラス合同で行うようだ。

ちなみに一年生は、ライトが所属するA組からF組まで6クラスある。1クラス20人なので、一学年の人数は全部で120人だ。

例えば今回の神殿訪問などは、一学年全員で一気に見学に押しかけるのは神殿側も対応に追われるし、学園側としても子供達にゆっくりと社会見学させてやりたいという意向もあって、日を分けて行うのだそうだ。

ちなみに今日と来週の金曜日が社会見学日となっており、D組E組F組は今日は騎士団見学に行くことになっている。

来週の金曜日は入れ替わりで、ライト達は騎士団見学に行く予定である。

「―――では皆さん、担任の先生の指示に従って行動してください」

学年主任の先生の言葉が終わると、A組から順に競技場を出ていき神殿訪問に出立していく。

今日のライト達の目的地であるラグナ神殿は、平民門から出て子供の足で15分ほど歩いたところにある。

教師の引率により、子供達はラグナ神殿まで徒歩で向かう。ちょっとした遠足のようなものだ。

担任の先生を筆頭に、学園生達は二列になって歩く。

子供達は横の子と小声で話しながら、学園から歩き続けること15分後。ラグーン学園生初等部一行は、ラグナ神殿に無事到着した。

ライトは今までラグナ神殿に全く縁がなかったため、一度もラグナ神殿に来るところか見たことすらなかったが、その巨大な建物は荘厳の一言に尽きた。

いくつもの尖塔が聳え立ち、まるで白亜の城のような威容は宮殿と見紛うほどの絢爛さだ。

建物の中に入る前に、庭園の見学を先に済ませるようだ。

ラグナ神殿の庭園では、色とりどりの花とともに様々な薬草が栽培されている。

ガイドの神官さんの話によると、ラグナ神殿に常駐しているラグナ教の神官達は呪いや穢れの類いを祓うのが得意だそうだが、回復師や薬師同様怪我人や病人の治癒も担っているという。

そうした救いを求める人達に十分な治療を施せるよう、自前で薬草園を作っているのだそうだ。

緑の少ないラグナロッツァにおいて、この緑豊かな美しい庭園は信徒のみならず訪れる者全てを癒やすだろう。

建物の中は、外側から見るよりもさらに絢爛だ。

主身廊と側廊には美しいアーチが多用されており、中央交差部は何階分に相当するのかも分からないくらい天井が高く広々とした空間を演出している。

見渡す限りの白い壁も柱も石畳も、傷どころか埃や塵ひとつない徹底した見事な磨き方をされている。

さすがはラグナ教主教座聖堂、大陸全土に教区を持つ世界有数の宗教組織の総本山なだけのことはある―――ライトは見学しながら、内心で感嘆していた。

中央交差部と祭壇のある内陣の境目には、一際大きな水晶が置かれた豪奢な壇がある。ジョブの適性判断の儀式は、この水晶の壇で執り行われるようだ。

ライト以外の学園生達は、ひそひそ声ながらわくわくした空気に包まれる。近い将来、自分達もここでジョブを得る日がくる時のことを想像しているのだろう。

だが、ライトはそれどころではなかった。

神殿の設備の見事さに感嘆する一方で、ライトは自身の体調の変化を感じていた。

入口の前室から主身廊、中央交差部と奥に行くに従ってどうにも身体が重く肌寒くなっていくのだ。

最初のうちはひんやりとした建物だなぁと思った程度だったが、歩を進めるにつれ身体は鉛のように重たくなっていき、肌寒さもどんどん増していく。

風邪を引いて熱が出た時のような悪寒が、一向に止まらない。奥歯がガチガチと音を立てて鳴り、ライトの顔が目に見えて青褪めていく。

ライト自身、我が身に突如起きた異変に何が何だか訳が分からない。だが、その理由を探る間もなく体調はどんどん悪化していく。

やっとの思いで水晶の壇のある場所まで辿り着いた頃には、ライトの全身には脂汗が滲み顔面蒼白だった。

「ライト君、どうしたの?すごく顔色が悪いよ」

ライトの横にいたジョゼが、その異変に気づいて声をかける。

ジョゼの言葉に、それまで興奮気味に水晶の壇を見ていた周囲の同級生達もライトの様子がおかしいことに気づき、心配そうに取り囲む。

「ライト君、大丈夫?」

「本当に顔色が悪いよ、フレデリク先生呼んでくるね」

ぼくなら大丈夫、皆心配しないで。ライトは皆に向けてそう言いたかったが、如何せん歯の根が合わずずっとガチガチ鳴り続けていて普通に喋ることすらままならない。

先程から続く悪寒以外にも、心臓や肺や胃などの臓腑を鷲掴みされたかのような強烈な重苦しい圧迫感に襲われるライト。

もう立つこともままならずその場にしゃがみ込み、イヴリンやハリエットが心配そうにライトの背中を優しく擦る。

そこに、同級生が呼んできたフレデリクが駆けつけてきた。

「ライト君、具合が悪いのかい?」

「……ぁ……」

「かなり具合が悪そうだね、少し側廊の方で休むかい?」

「…………」

ずっと気分が悪くて俯いていたライトは、何とか返事を返したくてフレデリクの顔を見ようと重たい頭と顔を上げた。

その時、フレデリクの背後にあった水晶の壇、その奥にある主祭壇に祀られていた聖遺物がライトの目に飛び込んできた。

それを目にした次の瞬間―――ライトは目の前が真っ暗になり、気を失った。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「………………」

次にライトが目を覚ました時、ライトの目に映ったのはラグナロッツァの屋敷のベッドの天蓋だった。

まだかなり重たく感じる頭を横に向け、半ば無意識に周囲の様子をゆっくりと見回してみる。

周囲には誰もおらず、ライト一人で寝かされていたようだ。

頭だけでなく、身体も鉛のように重たい。動く気力もないライトは、そのままぼーっとしていた。

すると、ベッドの横にラウルが現れた。それに続いてマキシも部屋に駆け込んできて、二人してライトの顔を心配そうに覗き込んでいた。

「……ライト、気がついたか!?」

「ライト君、目が覚めたんだね?良かった……」

大声を出してライトの頭に響かないように、二人とも小さめの声でライトに話しかける。

一方ライトはまだ頭がぼんやりしていて、明朗な思考回路が戻ってきていないようだ。

「……えっと……ぼく、何で家にいるの……?」

「……今日は神殿訪問の日で……皆といっしょに学園から歩いていって……神殿を見学して……」

「…………」

朧げな記憶を辿るように、今日の行動を振り返るライト。

荘厳な建物、緑溢れる庭園、内部である前室に入ってからの違和感、主身廊を進むにつれ増していく悪寒、大きな水晶の置かれた豪奢な壇、そしてその壇の後ろに控えた主祭壇、そこに高々と掲げられた聖遺物―――

気を失う直前に目にした『それ』を思い出したライト。

身体が再び震え奥歯がガチガチと鳴りだし、大きく見開かれたその目には涙が滲みだしている。

「お、おい、ライト、大丈夫か!?」

「起きたばかりなんだから、まだ寝てた方がいいよ!」

「……うう……」

ライトの異変に慌てたラウルとマキシが、再びライトに寝るように促す。

再びベッドで横になったライトは、ふとラウルに問うた。

「ねぇ、ラウル……誰がぼくをこの家に運んでくれたの……?」

「ああ、学園からこの屋敷に使いが来てな。ライトが倒れたって連絡が来たから、レオニスに緊急連絡入れたんだ」

「本当はすぐにでも俺が迎えに行きたかったんだが、あの学園は襟章がないと入れないって話だったからな」

レオニスへの緊急連絡とは、ライトが以前市場へのお出かけの際にウエストポーチに着けて持たせてくれた付与魔法付きのバッヂのことである。

お出かけ用のウエストポーチは、ライトの着替えやら何やらが置いてある二階の元宝物庫に保管されているので、それを使用したのだろう。

「で、レオニスが慌ててすっ飛んできてな。事情を説明してレオニスに迎えに行ってもらったんだ」

「そうだったの……迷惑かけちゃってごめんね……」

「そんなこと気にすんな。俺はこの家の執事だし、ライトは俺の小さなご主人様なんだから」

弱々しい声で謝るライトに、ラウルはライトの頭を優しく撫でながら言い聞かせる。

ライトは視線を泳がせながら、再びラウルに問う。

「……じゃあ、レオ兄ちゃんは?どこにいるの?」

「お前が倒れた後、しばらく付き添っていたんだがな……あまりにも目を覚まさなくて、治療法や何か方法はないかをずっと探してるはずだ」

「えっ……ラウル、ぼくどれくらいの時間寝てたの……?」

ラウルからの意外な言葉に驚いたライト、弱々しい声でラウルに問うた。

「寝てた、というか……丸三日以上起きなくて……今はもう月曜日の夜だ」

「……そんなに……?」

「レオニスにはあの鞄の緊急連絡バッジで連絡しておくから、今はもう少し寝てるんだ」

「……うん……ごめんね……」

まさかあれから三日以上も寝込んでいたとは夢にも思わず、絶句するライト。

そしてまだ顔色の良くないライトに、もう少し寝るように促すラウル。ライトも鉛のように重たい頭と身体が齎す異様なまでの怠さに抗えず、ラウルの言う通りに再び眠りについた。