作品タイトル不明
第1758話 ラーデの奥さん、メテオリタ
『ラー君!会いたかったわーーー!』
淡い緑色のオーラを放つ巨竜、メテオリタ。
目覚めた途端に絶叫しつつ、右手をグンッ!とライト達のいる方向に伸ばした。
その動きは目にも留まらぬ素早さだったが、レオニスはラーデを小脇に抱えたまま反射的に反応して上に飛んだ。
そのおかげで紙一重で躱せたのだが、あまりにも突然のことにライトとラウルは初動が遅れて避けきれず、メテオリタの右手に鷲捕まってしまったではないか。
「「グハッ!!!」」
巨大な竜の右手に、二人まとめて鷲掴みにされたライトとラウルが思わず濁った悲鳴を上げた。
「ライト、ラウル!」
思わぬ事態に、レオニスが焦りつつ二人の名を叫ぶ。
咄嗟に高く飛んだおかげでメテオリタの全身像が見えたのだが、その大きさはドラリシオ・マザーと大差なく体長は優に100メートルを超えていそうだ。
そんな怪物に捕まってしまったライト達を救うべく、レオニスが右腕に抱いていたラーデに問いかけた。
「おいッ、ラーデ!あのデカブツを何とかする方法はねぇのか!弱点とかあったら教えろ!」
『ま、待ってくれ、あれと話をさせてくれ』
「そんな悠長なこと言ってられん!このままじゃ二人まとめて握り潰されちまう!」
必死の形相で問答するレオニスとラーデ。
しかし、メテオリタの方は何とものんびりしていた。
『……あら? これ、ラー君じゃないわ』
「「おわッ!?!?!?」」
右手に掴んだモノがラーデではないことに気づいたメテオリタ。
一瞬にして興味が失せたのか、右手に掴んだライト達をポイー☆と後方に放り投げたではないか。
「ラーデ!俺はライト達を救いにいくから、お前はコイツと話し合っとけ!」
『うむ、承知した』
レオニスはラーデを一旦離し、はるか後方に打ち捨てられたライト達のもとにすっ飛んでいく。
一方でメテオリタは、必死にキョロキョロとラーデを探し続けた。
しかし、どうやらメテオリタはぬいぐるみサイズのラーデがあまりにも小さくて、なかなか視認できないようだ。
探せども探せども見つからないラーデに、メテオリタが涙ぐみ始めた。
『ラー君、どこ? どこにいるの? ……ぅぅぅ……』
『メテオリタ、我はここにいるぞ』
『…………ン? どこ?』
『ここだ、ここ、ここ』
『………………』
キョロキョロと周囲を見回すメテオリタに、ラーデが懸命に声をかけ続けた。
そうしたラーデの呼びかけが功を奏し、ようやく両者の視線がバチッ!とかち合った。
『『………………』』
視線がかち合ったまま、両者は無言のまま対峙している。
しばしの静寂の後、先に口を開いたのはメテオリタだった。
『…………ラー君?』
『うむ。我こそは皇竜メシェ・イラーデである』
『確かにその声は愛するラー君にそっくりだし、見た目もかなり似てるけど……私の知るラー君は、こんなちっちゃくなかったわ』
『訳あって、今はこの大きさで過ごしている』
『あなたが本物のラー君である証拠は?』
『今からそれを見せよう』
ラーデのことを疑うメテオリタ。
確かにメテオリタが疑うのも尤もで、彼女が知る皇竜メシェ・イラーデと今のラーデでは大きさが違い過ぎる。
如何に声や見た目が似ていても、俄には信じられないのも無理はない。
そんなメテオリタに、ラーデが踵を返してふよふよと飛んでいく。
そうしてメテオリタからある程度の距離が離れてから、己の力を解放した。
あっという間に体長50メートル程の大きさになったラーデ。
その姿は威風堂々としていて、まさに竜の祖に相応しい威厳に満ちていた。
『……本当に、ラー君だぁ……』
『だから先程も、我はメシェ・イラーデと名乗ったで
あろう? 我は決して嘘はつかぬ。メテオリタよ、これで信じてくれたか?』
『うん、うん……やっとラー君に会えたぁ……』
『これ、そんなに泣くでない……其方に泣かれると、我はどうしていいか分からぬ』
メテオリタの真っ赤な瞳の双眸から、ポロポロと涙が溢れ続ける。
ようやくラーデと会えたことに、感激の涙が止まらないようだ。
そんなメテオリタの純朴な様子に、ラーデがオロオロとしている。
人族同様に、竜であっても女の涙には弱いところがあるようだ。
そして感極まったメテオリタが、ガバッ!とものすごい勢いでラーデに抱きついた。
『うわーーーん!ラー君!ラー君!会いたかったーーー!』
待ち侘びたラーデとの再会に、メテオリタが大粒の涙を流しながらラーデを抱きしめていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
『おごごご……』
メテオリタとの感動的な再会。
それ自体は喜ばしいことなのだが、メテオリタからの全身全霊の抱擁にラーデが小さな悲鳴を上げている。
ラーデが元の姿に戻っても、体長100メートルを越すメテオリタの半分程。
倍以上大きなメテオリタとラーデでは、人間で言うところの大人と子供程に体格差があった。
しかし、ラーデとてこんなところで力負けする訳にはいかない。
ましてや相手はラーデの番、メテオリタ。妻である彼女に押し潰されては、竜の祖としての面子が立たぬ。
がっぷり四つ状態のラーデ、内心では必死になりながらも表向きはあくまで平静を装う。
両手でメテオリタの背を優しく撫でながら、努めて冷静に声をかけた。
『メ、メテオリタよ……何故ここに来たのだ? ファフニールからは、里帰り中の其方が近いうちに帰ってくるという連絡があったとは聞いたが……』
『……ン? そういえば、ここ、どこ?』
『ぬ? 其方、ここがどこかも分からずに来たのか?』
『うん……不思議の森かと思ってたけど、よく見ると木の色とか全然違うわね?』
ラーデの問いかけに、メテオリタが一旦ラーデから離れて再び周囲をキョロキョロと見回した。
妻の全力の抱擁から解放されて、ラーデが心底ホッとしている。
どうやらメテオリタは、ここを不思議の森と勘違いしていたようだ。
確かにどちらも森ではあるが、木の色や大きさなど植生が全く異なる。
これを混同するとは、メテオリタは余程のうっかり者かもしれない。
『ガラクシア星から、こっちに帰ってくる時に、とっても懐かしい、匂いがしたの。そしてそれは、ラー君の匂いだ、ってことに、気づいて……全力で、そこを目指したら、ここだったの』
『でも、ここは……ラー君の匂いは、するけど、肝心のラー君は、いないし……お出かけ中なら、ここで待っていたら、帰ってくると思って……グスン』
時折ヒック、ヒック、としゃっくりを交えながら、これまでの状況説明をするメテオリタ。
本来なら不思議の森に帰るはずだったところを、ラーデの匂いを感知したが故にカタポレンの森の方に来てしまったようだ。
今日のラーデは折しも不思議の森を訪ねていたというのに、とんだすれ違いである。
『ふむ……事情は分かった。其方にも改めて、今の我の状況を伝えたいと思う。ついては先程の小さな姿に戻っても良いか?』
『うん、いいわよ。よくよく考えたら、小さなラー君てのもすっごく可愛かったし』
『そしたら其方も身体を小さくしてもらえるか。その大きさのままでは、話をしようにもしづらいし。何より其方に紹介せねばならぬ者達がいる』
『私に紹介したい者? ……あ、さっき掴んだ何かがそれ?』
『そうだ。というか、後で彼らに謝ってくれ。今の我は、あの者達に世話になっておるのだから』
『ン、分かったわ。ラー君がそう言うなら、私もきちんと謝らなくちゃね』
今後のことを話し合うために、あれこれと話を進めるラーデとメテオリタ。
ラーデは普段のぬいぐるみサイズに戻り、メテオリタの方も身体がシュルシュルシュル……と縮み続け、あっという間に10メートルくらいになった。
ただし、ラーデの『それではまだ大きい。もっと小さくなってくれ』という注文に応じてさらに小さくなり、体長5メートルくらいに収まっていたが。
そしてここで、レオニスがライトとラウルを連れて戻ってきた。
「お、ラーデ、何とか話し合いできたか?」
『うむ。其方らの方こそ無事だったか?』
「ああ。握り潰される前に放り出されたのが功を奏したのか、ライトもラウルも無事だ」
『それは重畳。我が妻がすまぬことをした』
ライト達に平身低頭で頭を下げるラーデ。
普通の人間なら、メテオリタの手に捕まった時点で間違いなく原型を留めないくらいにグチャグチャにされているところだ。
そうならなかったのは幸いというか、ライトとラウルの頑丈さはもはや異次元レベルに達しているということか。
申し訳なさそうに謝るラーデに、ライトが慌てて声をかけた。
「そんな、ラーデが謝ることじゃないよ!」
「そうだぞ。見ての通り、俺達はピンピンしてるから問題ない」
「てゆか、そこにいるの、ラーデのお嫁さんなんだよね? 良かったら、ぼく達にも紹介してよ!」
「お、そうだな。ラーデの嫁さんとは初めて会うんだ、ここはきちんと紹介してもらわなくちゃな」
事も無げにメテオリタの紹介を促してくるライトとラウル。
下手をすれば殺されかけた相手なのに、目をキラキラと輝かせて好奇心丸出しでおねだりするとは。
何とも想定外の反応に、ラーデが思わず苦笑いする。
『うむ、我も其方らに我が妻を紹介せねばと思っておったところだ』
「つーか、そろそろ日が暮れるな……ラーデの嫁さんよ、もうちょい身体を小さくできんか? できれば続きはコテージの中でしたいんだが」
『ラーデの嫁さん……何てステキな響き♪』
レオニスのなかなかに不躾な催促に、メテオリタは怒るどころか何故かうっとりとしている。
メテオリタは、他者から『ラーデの嫁さん』などと呼ばれたことなど一度もない。
そのせいか、まだメテオリタの正式な紹介を受けていないライト達が『ラーデのお嫁さん』などと呼ぶしかないのだが、このことにメテオリタはとても新鮮に感じているようだ。
ご機嫌な様子でレオニスの催促に応じるメテオリタ。
最終的には体長約4メートル、地面からの高さ2メートルくらいにまで小さくなった。
『これくらいでいい?』
「ン、これならコテージの中に入れるな。そしたら皆でコテージに行くぞー」
「はーい!」
「ああ、ラウル、すまんが今すぐリンドブルムを呼んできてくれるか」
「了解」
レオニスのOKが出て、早速コテージのある方向に歩き出したライト達。
ラウルだけはレオニスの指示を受けて、一人離れて転移門がある場所に移動していった。
メテオリタもラーデとともにライト達の後をついていく。
そうして人族二人と妖精、二体の竜族がカタポレンの家のコテージに入っていった。