軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1756話 サイサクス世界への帰還

ファフニール夫妻の新居を出て、不思議の森からリンドブルムの住処である【修験者の間】に移動したライト達。

ここでリンドブルムとも別れるので、ライト達は彼女の背を降りてから改めて挨拶をした。

「リンリンさん、今日一日ありがとうございました。すっごく楽しかったです!」

『ウフフ、私も今日はとっても楽しかったわ。それに今日は買った物を全部持って運んでもらったし。すっごく楽ちんで助かったわー♪』

「皆の買い物の役に立てて光栄だ」

ライトの礼に、リンドブルムも快く応じている。

大親友のフレア・ジャバウォックやライト達と行く不思議の街へのお出かけそのものも楽しかったが、レオニスが荷物持ちをしてくれたのが何より良印象だったようだ。

『貴方達もまた不思議の街に行きたかったら、遠慮なくここにいらっしゃい。私も不思議の街でのお買い物は楽しいし、何より貴方達はパパンの恩人で大家さんなのだから。いつ何時であっても歓迎するわ』

「ありがとう、是非ともそうさせてもらうわ」

リンドブルムの言葉に、レオニスも破顔する。

普通これらは社交辞令なことも多いものだが、それは人族に限ってのこと。

リンドブルムが他者に対して心にもない世辞を言う必要などないし、彼女はライト達のことを本当に気に入っている。

『いつでもウェルカム!』という彼女の言葉は、嘘偽りない本音なのだ。

そして、リンドブルムの厚意にちゃっかりと乗る者がここに一人。

「今日手に入れた食べ物や食材によっては、足繁く通わせてもらうかもしれん。その時はよろしくな」

『ええ、もちろんそれでもいいわよー。私だって、貴方達に桃や林檎を植えてもらったしねー。てゆか、あの桃と林檎、すっごく美味しくて。私のおやつとして、今ではもう絶対に欠かせないわ!』

「そっか、そりゃ良かった。今度はみかんの木を植える予定だから、向こうでみかんの植樹が成功したらこっちにも植えよう」

『みかん? 何だかよく分かんないけど、貴方が持ってきてくれるものならきっと美味しいわよね。楽しみにしてるわ!』

ラウルの申し出にも笑顔で応じるリンドブルム。

ラウルから初めて聞く『みかん』なるものが何かは分かっていないようだが、それでも何かしら疑うどころか期待している。

こと食べ物や果物のことに関しては、リンドブルムもラウルに全幅の信頼を置いているようだ。

彼女がこんなにもご機嫌なのはラウルが尽力した果樹の植樹、その成果のおかげらしい。

少しでも太陽光代わりになるように、と考えて青白い発光線を常時放つ扉の近くに植樹した影響で、桃も林檎も全て青白い果実となってしまった。

しかし、色こそ奇っ怪だが味は間違いなく絶品。リンドブルムが気に入るのも当然である。

そしてこの【修験者の間】の果樹園に、近いうちにみかんの木も仲間入りすることだろう。

ここで実るみかんも、きっと青白いものになるに違いない。

しかし、リンドブルムは桃や林檎の元の色すらよく分かっていないので全く問題はない。

そうした和やかな会話が弾むも、ライト達との別れは刻一刻と近づいてくる。

リンドブルムが己の鼻先をラーデに摺り寄せながら話しかけた。

『パパン、これからもたまにはこうして遊びに来てくださいね?』

『うむ。我もヨトゥンやファフニールだけでなく、其方の元気な姿も見たいからな。何なら其方もたまにはカタポレンの森に遊びに来よ。我はいつでもあの森のあの家におる故な』

『……はい!パパンもどうぞお元気で』

目を閉じラーデに頬ずりするリンドブルム。その顔は、元気に満ち溢れた彼女のいつもとはちょっとだけ違っていて、どことなく寂しそうなものに映る。

しかし、この別れは永いものではない。

これまでラーデが封じられてきた年月を思えば、それこそほんの一瞬。

また会おうと思えばいつでも会える―――この事実に、リンドブルムの顔は笑顔に戻っていた。

「じゃ、またな」

『またね。これからもパパンのことをよろしくね』

「おう、任せとけ」

「リンリンさん、さようならー!」

ライト達はリンドブルムと分かれて、中央の天空島入口に向かう。

小さな人族と妖精、そして父が去っていく後ろ姿が見えなくなるまで、リンドブルムはずっと見送っていた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

リンドブルムの部屋から中央の天空島入口真下に辿り着いたライト達。

全員で上に飛び、中央の天空島外側に出た。

たかだか七時間程度のお出かけだったが、行き先が行き先だけにとても濃密なひと時だった。

久しぶりのような感覚で見上げるサイサクス世界の空は、ライト達の予想通り茜色に色付いている。

「さ、日が暮れないうちにカタポレンの家に帰るか」

「うん!」

中央の天空島入口にある転移門に入るべく、ライト達が移動していたその時。

ラウルが身につけている腕輪から声がした。

『ああ、ラウル、帰ってきたのですね……!』

その声は、神樹ユグドラツィのものだった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「ン? ツィちゃんか、どうした?」

どことなく必死さが感じられるユグドラツィの声に、ラウルがすぐに反応して腕輪に向けて呼びかけた。

ライト達が神樹ユグドラツィの枝をもらい、様々な木工品に加工して彼女の分体を入れて身につけるようになってからもうすぐ二年。

最近では、数言程度の短時間ならユグドラツィの声が届いて直接会話できるまでになっていた。

『それがですね……私のいる場所からすごく近いところに、とても強大な何者かが現れたのです』

「何? そいつがツィちゃんに何かしたのか!?」

『い、いえ、今はまだ直接何かをされたという訳ではないのですが……』

「そっか、それなら良かった……」

ユグドラツィの話にラウルが一瞬気色ばむも、ユグドラツィの無事を知り一同がホッとしている。

しかし、まだ油断はできない。ユグドラツィがこれ程までに慌てるということ自体が稀であり、緊急事態が発生していることに変わりはない。

「ツィちゃん、今すぐそっちに帰るから待っててくれ」

『いいえ、こっちに戻ってきてはなりません!』

「え、どういうことだ???」

すぐに戻るというラウルの言葉に、何故かユグドラツィはさらに慌てたように引き止めるではないか。

ユグドラツィに危機が迫っているというのに、駆けつけるな!というのは一体どういうことであろうか。

『それがですね……その強大な何者かは、貴方達の住む家のある方角に現れたのです』

「そうなんか!? なら、ますますすぐに帰らなきゃならん!ツィちゃん、待っててくれ!」

ユグドラツィがライト達の期間を引き止めた理由、それは何者かが現れた方角にあった。

ライト達が今転移門を使ってカタポレンの家に戻ったら、その強大な何者かと鉢合わせしてしまうかもしれない。

それはとても危険だから、今は帰ってきちゃダメ!という意味で、ユグドラツィは帰還に待ったをかけたようだ。

しかしユグドラツィの話は、特にラウルにとっては逆効果だった。

不審者がカタポレンの家の近くに現れた。しかもそいつは、ユグドラツィが『強大な何者か』と言う程の者。

もしそいつが暴れでもしていたら、ラウルが丹精込めて作り上げた畑が全部潰されてしまうかもしれない。

いや、もしかしたら既に踏み荒らされて全壊している可能性だって大いにあり得る。

それを知ったラウルが、おとなしくしていられるはずもなかった。

慌てたように中央の天空島入口にある転移門に移動するラウル。

ライトとレオニスも取り残されないよう、急いでラウルの後をついて飛ぶ。

ちなみにラーデは、レオニスが鷲掴みにして小脇に抱えられていた。

そうして四人はすぐにカタポレンの家に移動した。

そして移動した先で、彼らの目に真っ先に飛び込んできたものは―――

茜色の空が掻き消されて見えなくなる程の、淡い緑色の光だった。