作品タイトル不明
第1755話 憤竜メテリオタの正体
その後もラーデとファフニールは、ヨトゥンガルズとともにカタポレン産の焼き野菜や果物を食べ、いっしょに昼寝したりして穏やかなひと時を過ごした。
そうした楽しい時間は瞬く間に過ぎていき、不思議の街に出かけていたライト達が帰ってきた。
『パパン、ファフ兄、ヨトゥンちゃん、ただいまー♪』
『お義父様、ファフ、ただいま戻りました。ヨトゥン、良い子にしてましたか?』
「ラーデ、ただいまー!ヨトゥンちゃんとお留守番しててくれて、ありがとうね!」
ファフニール達のもとに戻ったフレア・ジャバウォックやリンドブルム、ライトがそれぞれに親しい者達に帰還の挨拶をする。
ちなみにリンドブルムとフレア・ジャバウォックは、不思議の街から出て不思議の森に入ってすぐに元の身体に戻っていて、ライト達三人はリンドブルムの厚意によりその背に乗せてもらっていた。
無事戻ってきた妻や娘達に、ラーデ達も労いの言葉をかける。
『おかえり。不思議の街はどうだった?』
「サイサクス世界とは違うところもたくさんあって、すっごく楽しかったよ。今度ラーデもいっしょに行こうね!」
『うむ。楽しめたなら何よりだ』
『ラーデもヨトゥンちゃんと楽しく過ごせた? ていうか、お土産の桃とか喜んでもらえた?』
『もちろん。我が持ってきた土産全て、ヨトゥンやファフニールとともに美味しくいただいたぞ』
「それは良かったね!」
ライトとラーデが互いに労い合う間、ファフニールもまた妻であるフレア・ジャバウォックや妹のリンドブルムに声をかけた。
『フレア、君も不思議の街を楽しめたかい?』
『ええ、おかげさまでゆっくりと羽を伸ばさせてもらったわ』
『そうか、それなら良かった。時にリンよ、頼んでいた買い物は無事できたか?』
『もちろんよ!ていうか、買った物を全部レオニスに持ってきてもらったの!』
『何? どうやって持ち帰ってきたというのだ?』
妻を気遣うファフニールだが、妹の思いがけない答えに目を見張りながら驚いている。
小さな人族の身でありながら、ヨトゥンガルズのために用意したベッドを持ち帰ってきたというのだからファフニールが驚くのも無理はない。
そんなファフニール達の会話など構うことなく、レオニスがフレア・ジャバウォックに声をかけた。
「おーい、フレア、さっき買ったベッドはどこに置けばいいんだー?」
『えーとね、この辺りに出してくれるかしら』
「了解ー。頭はどっち向きだ?」
『そっち向きでお願い』
「はいよー」
レオニスはまずヨトゥンガルズの母親であるフレア・ジャバウォックの意向を聞き、それから空間魔法陣を開いて不思議の街の家具屋で購入した大きなベッドを取り出した。
黒い穴から大きなベッドが出てきたのも然ることながら、その巨大ベッドをいとも簡単に持ち上げていることにびっくり仰天である。
『人間よ、その黒い穴は一体何だ?』
「あー、これは空間魔法陣と言ってな、生き物以外の物ならいくらでも仕舞っておけるという魔法でな。たくさんの物や大きな品を運ぶのに便利なんだ」
『ほう、人族とはそのような魔法を使うのか』
「ラーデの持っているアイテムリュック……袋にも、これと同じ魔法を付与してある」
『……そういえば、先程父上が持っておられる袋から様々なものを出しておられたな……』
興味津々に空間魔法陣のことを尋ねるファフニールに、レオニスがきちんと答えながらヨトゥンガルズ用のベッドを適宜設置している。
マットレスの上に敷きパッド、シーツなどを、ライトやラウルとともに三人でテキパキと整えていく。
家具屋が配達不要のオマケにつけてくれた高級枕を置いたら、ヨトゥンガルズ用ベッドの完成だ。
「ヨトゥン用のベッドが出来上がったぞー」
『ささ、ヨトゥンちゃん、あなたのためのベッドよー♪』
「キュルァ?……♪♪♪」
叔母であるリンドブルムが、ヨトゥンガルズを抱っこして新品のベッドに乗せてあげている。
ヨトゥンガルズはきょとんとした顔をしていたが、ふかふかの新しいベッドにご機嫌な様子で寝転がり始めた。
その様子をこれまたご機嫌な顔で眺めていたリンドブルムに、ファフニールが声をかけた。
『リンよ、先程父上にも母上のことをお話ししておいた』
『ぁー、ママンのこと? 百年後くらいには戻ってこられるんじゃなぁい?』
『そうかもしれんな。……ま、いずれにしても母上がこちらに戻られた時には、リンも速やかに馳せ参じよ』
『はーい。知らせてくれたら、サマエルも連れてすぐに駆けつけるわー』
『よろしくな』
母親の帰還に関して、ファフニールとリンドブルムが打ち合わせをしている。
メテオリタの帰還は、子供達にとっても一大事のようだ。
そしてこの話し合いに、いち早く反応したのがレオニスだった。
「ン? あんた達の母親って、どこかに出かけてんのか?」
『ええ、母上はもともとこの世界の者ではなくてね。今は母上の故郷であるガラクシア星に里帰り中なの』
「そ、そうなんか……ラーデ、お前の嫁さんは宇宙出身だったんか」
『うむ。メテオリタという名で、我の倍以上は生きる偉大なる竜なのだ』
「ラーデの倍!? そりゃすげーな!?」
初めて聞くラーデの嫁情報に、レオニスだけでなくラウルも目を丸くして驚いている。
しかし、中でも最も驚いていたのはライトだった。
『え!? メテオリタ!? メテオリタって言ったら、BCOのレイドボスじゃん!!』
レオニスやラウル以上に、目をまん丸にして驚愕するライト。
そう、BCOには『憤竜メテオリタ』という名のレイドボスが存在していた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
『憤竜メテオリタ』―――それは、かつてライトが前世でこよなく愛したソシャゲ『ブレイブクライムオンライン』、通常BCOのコンテンツの一つであるレイドボス討伐任務の中の一体だ。
そのレベルは12と高く、レベル13のドラリシオ・マザーの一つ手前。HP300万超えの超難敵である。
ライトの記憶の中の『憤竜メテオリタ』は、赤茶色の鱗に淡緑色のオーラを全身にまとった非常に美しいフォルムを持つ竜だった。
ただし美しいのは見た目だけで、『憤竜』という名の通りえげつない攻撃力と硬そうな鱗の高防御力は実に厄介だったが。
そんな高レベルのレイドボスが実在すると知ったライト。
今すぐにでも会いたい!と思う程に内心で歓喜した。
しかし、喜ぶにはまだ早い。
現時点では名前が一致しているだけで、ライトが知るメテオリタとリンドブルム達の母メテオリタが同じ者とは限らないのだから。
『……ぃゃ、もしかしたら同姓同名の別の竜かも? ……ぃゃぃゃ、それもないな。だってBCOのレイドボスのメテオリタも竜だったし……』
『てゆか、ラーデの奥さんがレイドボスなのは当然かもしれない。ラーデもその子供達も全員がBCOのレイドボスなんだから、ラーデの奥さんだけレイドボスじゃないってのはむしろ不自然だし』
『こればかりは実際に会ってみないと分からんけど……俺の知ってるメテリオタと同一の可能性はかなり高そうだ!』
脳内で様々な考察をしながらも、興奮を隠せないライト。
それこそ百面相のようにコロコロと表情が変わり続けているが、今回ばかりはレオニスやラウルも『ラーデに奥さんがいた!』という衝撃の事実に心底驚いているので、ライトの百面相も自然と埋もれて誰も気づかなかったが。
ライトはドキドキしながら、ラーデに問うた。
「ねぇねぇ、ラーデ、もしラーデの奥さんに会えた時のために知っておきたいんだけどさ……色とか大きさとか、見た目はどんな感じなの?」
『メテリオタの見た目、か? 我の記憶の中の彼女は……艶やかな赤茶色の鱗が非常に美しく、全身が淡い緑に輝いていて実に見目麗しくて……竜族の中でも、最も崇高な存在だ』
「そ、そうなんだ……レオ兄ちゃん、今ラーデが言ったような竜族って、サイサクス大陸にいる?」
「いや、淡い緑に輝く竜族なんてのは聞いたことがないな……今度白銀にも聞いてみるか」
ラーデから聞いたメテリオタの特徴。
それはライトが知るBCOレイドボス、憤竜メテリオタと一致していた。
念の為にレオニスにも問うてみたが、現役ベテラン冒険者である彼でもメテリオタのような竜は知らないという。
これはやはり、ライトの期待通り憤竜メテリオタとラーデの嫁は同一で間違いなさそうだ。
そしてメテリオタの特徴を聞かれたラーデ。
朧げな記憶の糸を手繰り寄せる彼の表情は、どことなく嬉しそうに見える。
細君のことを思い出そうとする中で、かつてのメテリオタとの様々な思い出が蘇って懐かしい気持ちにでもなっているのだろうか。
『しかし、我の記憶は千年くらい前のものだからな……必ずしも今のメテリオタと一致するとは限らぬぞ?』
「ぁー、まぁねぇ……千年も会っていなければ、ちょっとくらい違う箇所があるかもね」
「でも、鱗の色とかは基本的に変わらんだろ。体長はどれくらいあるんだ?」
『体長は……今のファフニールやリンドブルムの倍以上はあったと思う』
「「「ばばば倍以上……」」」
新たな情報、メテリオタの体長の予想以上の大きさにライト達が絶句する。
その傍らで、ファフニールとリンドブルムが大きく頷いていた。
『母上は、父上同様偉大なる竜族だからな……母上から見たら、我らなどまだまだヒヨッコであろう』
『そうねー。反抗期真っ盛りのサマエルですら、ママンの前ではすっごくおとなしくなるし』
母の偉大さをしたり顔で語る兄妹。
あの傍若無人なサマエルが、メテリオタの前では借りた猫のようにおとなしくなるというではないか。
リンドブルムが何気なく披露したこのエピソード一つだけで、メテリオタがどれだけ強大かが分かろうというものである。
するとここで、フレア・ジャバウォックがファフニールに話しかけた。
『もしお義母様に会えたら……私やヨトゥンのことを気に入ってくださるかしら?』
『大丈夫、心配は要らない。父上だって君達のことをものすごく気に入ってくださっているんだ、母上だってきっと同じさ』
『だといいのだけれど……』
『何、もし万が一にも母上に気に入っていただけなくとも、君が落胆することはない。いざとなれば私が全身全霊を以って守り抜くと誓おう』
『……ファフ……』
ファフニールの力強い答えに、フレア・ジャバウォックがうっとりとした眼差しで夫を見つめ続ける。
アツアツの新婚夫婦に中てられたら敵わん!とばかりに、レオニスが口を開いた。
「……さ、そしたら結構な時間だし、そろそろ俺達はカタポレンに帰るか」
「おお、そうだな、もう四時を回ってるもんな」
レオニスの帰宅宣言に、ラウルが懐中時計を取り出して時間を確認しつつ同意する。
懐中時計の針は四時を過ぎていて、ライト達がサイサクス大陸に帰る頃には空は茜色に染まっていることだろう。
帰ることが決まり、ラーデがファフニール夫妻に声をかけた。
『ファフニール、フレア、礼を言う。今日はヨトゥンに会えてとても楽しかった』
『こちらこそ、ヨトゥンの成長した姿を父上にお見せできて嬉しゅうございました』
『お義父様、またいつでも遊びにいらしてくださいね!』
「……(スヤァ)……」
ラーデが長男夫妻と言葉を交わしながら、ベッドの上でいつの間にか寝ていたヨトゥンガルズの頭をそっと撫でる。
美味しい土産をたらふく食べて満足したのか、とても穏やかな寝顔をしていた。
そんなラーデの後ろにリンドブルムもいて、にこやかな笑顔で両者を見守っている。
『……さ、そしたら皆、私の背中に乗っていいわよー』
「リンリンさん、ありがとうございます!」
『うむ、リンドブルムよ、帰りもよろしく頼むぞ』
『任せてー☆』
リンドブルムの言葉に、ライト達がいそいそとその背に乗り込む。
レオニスやラウルも「お邪魔しまーす」とか言いつつリンドブルムの背に乗り、全員が乗り込んだところでリンドブルムが兄夫婦に挨拶をし始めた。
『フレジャちゃん、今日は本当にありがとうね。皆でお出かけ、すっごく楽しかったー!』
『リンリンちゃん、私もよ。今日はお買い物に食事に、とっても楽しかったわ。またお義父様といっしょに、いつでも遊びに来てね!』
『ヨトゥンちゃん、叔母ちゃんまた遊びに来るからね♪』
「……(スヤァ)……」
『フフフ、可ァー愛ィーい♪ ファフ兄も子育て頑張ってねー』
『言われるまでもない。リンの方こそ、母上の件をサミーにも伝えておいてくれ』
『はーい!』
兄夫婦とぐっすり寝ている甥姪に挨拶を済ませたリンドブルム。
満足そうな顔で歩き始め、兄夫婦の新居の洞窟を後にした。