軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1754話 ラーデの番にしてファフニールの母

ファフニールが『母上』と呼んだ存在。

それは『メテオリタ』という名の竜である。

ラーデの年齢は推定四千歳を超えるが、メテオリタは五桁を優に超える。

ラーデがこのサイサクス世界の竜の祖であるのに、何故その番であるメテオリタの方が年上なのか―――実はこれには、ちゃんとした理由がある。

彼女の名『メテオリタ』は、隕石という意味を持つ『メテオリト』からきている。

つまりメテオリタはサイサクス世界の外側、宇宙生まれでサイサクス外生命体なのだ。

そしてメテオリタには二つ名があって、それは『憤竜』というものだ。

その由来は文字通りで『メテオリタが 一度(ひとたび) 真の憤怒に至れば、空から無数の隕石が降り注ぎ全てを滅ぼす』という恐ろしい話からきている。

果たしてそれが本当に事実なのかどうかは今のところ不明だが、全くの出鱈目ということもないのだろう。

そう、『火のないところに煙は立たぬ』のである。

『メテオリタは、今どこにいるのだ?』

『母上は、今から九百年ほど前に『ちょっと実家にいってくるわねー』と出かけられました。それ以来、こちらにはまだ一度も帰ってきておられません』

『そうか……で、メテオリタがどうかしたのか?』

『過日母上からの思念が届きまして。『そろそろそっちに戻るから、よろしくねー☆』というものでした』

『そろそろ戻る、か……あれの言う『そろそろ』程、先の読めぬものはないがな』

『全くです』

ファフニールの報告に、ラーデがふぅ……と小さなため息をつく。

もともとラーデ達のように長く生きる者達は、総じて時間的観念がおかしい。

ちょっと出かけてくるねー、と言って何年、何十年と放浪し続けるなど序の口なのだが、メテオリタは輪にかけてその傾向が強いようだ。

『戻るとしたら、この不思議の森か?』

『そうですね。この森は、母上がこの地に降臨なされたことで生まれたものですからね。戻られるとしたらまずここかと』

『そうか。ならば、もしあれが戻ってきたら我にも知らせてくれ。我も何とかこうして復活できたのだ、あれにもきちんと顔を見せてやらねば拗ねるかもしれんからな』

『是非ともそうしてください。母上が本気で拗ねたら、この森を含む不思議世界の全てに甚大な被害が生じるでしょうから』

ラーデの気遣い?に、ファフニールが大きく頷いている。

ファフニールもラーデの長子にして高位の竜なのだが、その彼をしてここまで言わせるとは。

メテオリタとは、一体どれ程強大な力を持っているのであろうか。

するとここで、ラーデがふとヨトゥンガルズに目を遣りながら呟いた。

『其方達に子ができたのを知ったら、あれはどんな顔をするだろうな』

『どうでしょう……喜んでくれると信じたいですが。父上の『じいじ』呼びには激しく抵抗なさるかもしれわせんね』

『ぁー……確かにあれは『ばあば』なんて絶対に拒絶しそうだな……』

『良くて『おばあちゃま』、悪ければ『おばあちゃんなんて絶対に嫌!孫なんて認めないわよ!』かと』

『さすがにヨトゥンの存在そのものを拒否するとは思いたくないがな……』

ラーデの土産の焼きトウモロコシを、美味しそうに頬張るヨトゥンガルズ。

幼子が美味しい食べ物を喜んで食べている姿は、父母や祖父母などの血縁者でなくても心和むというものだ。

『何、ヨトゥンはこんなに可愛いのだ、メテオリタであろうとも一撃で虜になるに違いない』

『だといいのですが……』

『ファフニールよ、臆するでない。例えあれが何か文句を言おうとも、ヨトゥンを守るは父たる其方の務めぞ』

『ッ!!!』

楽観的なラーデに反し、ファフニールは心配そうな顔でヨトゥンガルズを見つめていた。

だが、ラーデの叱咤激励にハッ!とした顔になる。

確かにラーデの言う通りで、大事な妻子を守れるのはファフニールをおいて他にはいない。

例えそれがどれだけ強大な相手であろうとも、ましてや自分の母親相手となればなおのこと、自分が矢面に立ってフレア・ジャバウォックやヨトゥンガルズを守ってやらねば―――

父の言葉に、ファフニールは決意を新たにした。

『父上の金言、しかと胸に刻みましてございます』

『うむ、その意気だ。フレアとヨトゥンを守ってやるのだぞ』

『はい!……ですがその前に、父上も是非とも母上のお相手をお願いいたします。何故なら父上と母上は夫婦なのですから』

『う、うむ……我も精一杯努力するつもりではいる』

ファフニールのさらりとした要望に、ラーデも若干挙動不審になりながらも頷いている。

妻子を守る務めがあるのは、何もファフニールに限った話ではない。

ファフニールだってラーデの子であり、父に守ってもらいたいのは彼だって同じなのだから。

『と、とりあえず、メテオリタが帰還してからだな』

『そうですね。それが果たしていつになるかは、現時点では全く分かりませんが』

『そうだな。何年先になるか分からぬし、我も今の療養を続けていけば一年もしないうちに力を取り戻せるとは思うのだがな』

『ぃゃぃゃ、もしかしたら今日明日にでも戻ってこられるかもしれませんよ? ほら、母上の気まぐれさは宇宙一ですし』

『『………………』』

ファフニールが何気なく言ったことに、ラーデだけでなくファフニール自身もまたしばし固まっている。

何か途轍もなく恐ろしいフラグが立ったような気がするが、多分気のせいだろう……と、ラーデとファフニールが一生懸命に思い込もうとしているようだ。

半ば固まりかけているラーデ達に、ヨトゥンガルズが元気な声で話しかけた。

「アー!アーーー!」

『……ン? 次はこの桃を食べたいのか?』

「ンキャキェ♪」

『おお、そうか、桃だけでなく林檎や苺も食べるといい。ここにある全部を食べ尽くしても足りなければ、ラウルに頼んでもっと出してもらう故。存分に味わうが良い』

「♪♪♪」

ラーデの言葉に、早速桃を食べるヨトゥンガルズ。

甘くてジューシーなカタポレン産の桃を、これまた実に美味しそうに頬張っている。

大人達の都合や思惑など、幼子には関係ない。

よく食べて、よく遊び、よく寝るのが幼子の務めなのだから。

カタポレン産の果物を無心に食べ続けるヨトゥンガルズの姿に、それまで難しい顔をしながら話し合っていたラーデ達の眉間の皺も次第に解れていく。

この子の笑顔は、何があっても守らねば―――

ラーデの初孫にしてファフニールの初めての子、ヨトゥンガルズ。

その健やかな成長を見守り続けるためにも、二人は強くあらねば!と改めて心に誓ったのだった。