作品タイトル不明
第1753話 初孫との触れ合い
ライト達が不思議の街であれこれと過ごしている間。
ファフニールとフレア・ジャバウォックの新居である洞窟で、ラーデとファフニール、ヨトゥンガルズの三者がのんびりと留守番をしていた。
『ヨトゥン、我が其方のじいじ、メシェ・イラーデである。よく覚えておいてくれ』
「ンキャ???」
『あの偉大なる父上が、自らを『じいじ』と呼ぶ日が来ようとは……』
床に寝そべるファフニールとその横っ腹に凭れかかるヨトゥンガルズ、そしてヨトゥンガルズの真ん前で真剣な顔つきでじいじ宣言をするラーデ。
サイサクス世界の全ての竜族の頂点に立つ皇竜メシェ・イラーデが、己のことを『じいじ』と呼び名乗るとは。
長子であるファフニールでなくとも、驚嘆と感動を禁じ得ないというものである。
今のラーデは省エネモードのぬいぐるみサイズなので、孫の方のヨトゥンガルズの方がはるかに大きい。
そのためヨトゥンガルズがきょとんとした顔でラーデを見下ろしていた。
そんなヨトゥンガルズに、ラーデがいそいそとアイテムリュックを開きながら話しかける。
『今日はな、ヨトゥンに土産を持ってきたのだ』
『おお、父上からの土産とは。お気遣いいただきありがとうございます。……これは、桃ですかな?』
『うむ、我が毎日水遣りしている桃に林檎に苺、他にも焼きトウモロコシや焼き芋などもあるぞ』
『ほほう、桃や林檎は私も以前食べさせていただきましたが、焼きトウモロコシに焼き芋なるものは初めて見ますな』
ラーデが次々と繰り出してくる土産に、ヨトゥンガルズだけでなくファフニールも興味津々な様子で見ている。
桃や林檎は既に不思議の森にも植林したが、さすがに野菜栽培には至っていない。
そのため、焼きトウモロコシや焼き芋などはファフニールでも初見だった。
『これらは果物ではなく野菜と言ってな。果物ほど甘いものではないし生食向けではないものも多いが、その分種類が豊富で調理の仕方によって味や食感が劇的に変わるのだ』
『野菜、ですか。基本的に我らは食物摂取を必要としませんが……父上は様々なものを食べておられるのですね』
『うむ。今の我は、兎にも角にも力を取り戻さねばならぬ。そのためには、手段の選り好みなどしておれんからな』
ほかほかの湯気が立ち上る焼き野菜類。
何とも香ばしい香りが辺り一面に漂う。
その匂いに、ヨトゥンガルズだけでなくファフニールもまた鼻をピクピクとさせて匂いを嗅いでいる。
『ささ、ヨトゥンよ、食べてみるがよい。何、これらは我もいつも食していて毒など入っておらぬぞ』
『父上がくださるものに毒などと、決して疑ってはおりませんが……念の為に、私が先にいただいてもよろしいですか?』
『もちろんいいとも。子を守るは親の務め、その責務を立派に果たすが良い』
『ありがとうございます。では早速…… 熱(アチ) ッ』
ヨトゥンガルズより先に、毒見と称して焼きトウモロコシを頬張るファフニール。
巨体のファフニールにあっては、カタポレン産の巨大野菜類ですら通常よりも若干小さめな一口サイズに見えてしまう。
しかしそんなミニサイズであっても、焼き立てほやほやの焼きトウモロコシは熱く感じるらしい。
『ふむ……先程父上は『甘くない』と仰いましたが、なかなかどうしてかなり甘く感じますな』
『うむ、トウモロコシというのは火で炙ったり水で茹でたり、加熱することで甘みが増すのだ。そしてそれはこの焼き芋―――サツマイモという野菜にも同じことが言える。ささ、焼き芋も是非とも食べてみよ』
『では遠慮なく』
そして続けて焼き芋も食べるファフニール。
目を閉じゆっくりと味わうように咀嚼した後、ゴクン、と飲み込んだ。
『おお……確かにこの焼き芋とやらも、果物に負けぬ甘さですな!』
『であろう? このサツマイモは地中にできるのだが、土を掘り起こして収穫するのを我が手伝ったのだぞ』
『それはまた素晴らしい!道理で美味な訳です』
「ンキャ、アキャァ!」
ラーデの美味しい手土産をもくもくと食べるファフニールに、ヨトゥンガルズが手足をジタバタさせている。
『パパだけ美味しいモノ食べてズルい!』『自分にもちょうだい!』と抗議しているようだ。
ヨトゥンガルズの抗議に、ラーデが微笑みながら宥める。
『おお、ファフニールにばかり食べさせててすまんな。其方への分はちゃんとあるから安心せよ』
「ンキャキャ!」
『さあ、存分に食べよ。……いや、少し良い冷ましてからの方がいいか。ファフニールよ、氷魔法で少量の氷を出してもらえぬか』
『承知いたしました』
ラーデが急いでアイテムリュックから焼きトウモロコシや焼き芋を取り出し、ヨトゥンガルズの前に差し出す。
しかしそのままでは熱いので、氷魔法が使えるファフニールに氷を出してもらうことにした。
たかが焼きトウモロコシや焼き芋のために、高位の竜族であるファフニールの氷魔法を使うとはとんでもない贅沢である。
そうして少し冷ました焼き野菜類を、ラーデが手ずから大事そうに抱えてヨトゥンガルズの顔の前まで飛んで持っていった。
「♪♪♪」
『おあ、そうか、美味しいか。それは良かった』
ニコニコ笑顔で焼き野菜類を頬張るヨトゥンガルズ。
初孫の口に合ったようで、ラーデも嬉しそうにヨトゥンガルズの頬を撫でている。
そうして二個目、三個目の焼き野菜類をヨトゥンガルズが食べていくのを、ラーデとファフニールが微笑みながら見守っていた。
するとここで、ファフニールがふと真剣な顔つきでラーデに話しかけた。
『時に父上。是非ともご相談いたしたきことがあるのですが』
『ン? 何だ?』
『母上のことにございます』
『…………メテオリタのことか』
ファフニールの話に、ラーデの顔が僅かに曇る。
長男がわざわざ父親に相談したいこと、それは彼の母であるメテリオタのことだった。