作品タイトル不明
第1751話 不思議の街訪問の理由
思わぬところで思わぬ人物に出会ったことに、レオニスが面食らいながら声を上げた。
「え? ちょ、待、ねむちゃま? 何でこんなとこにいるんだ?」
「またまたぁ、金剛級冒険者ともあろうレオぴっぴが何を寝言吐いてるんです? 寝言は寝て言うものですよ? それはお互い様というものでしょう」
「ぐぬぬ……クレアみたいなこと言ってんじゃねーよ」
眠の紛うことなきドストライクな正論炸裂に、レオニスが言葉に詰まりながらも反論している。
しかし、レオニスのへなちょこ反論に屈する眠ではない。
何事もなかったかのようにレオニスに問い返した。
「レオぴっぴこそ、何でまたこんな妙ちきりんな世界に来てるんです?」
「俺は……知り合いのところを訪問したら、今から不思議世界に買い物に行くってんで護衛がてら観光もさせてもらっているんだ」
「ほう、護衛ですか。そりゃまた冒険者みたいなことしてますねぇ」
「冒険者みたいな、じゃねぇよ。俺は冒険者そのもので普通に現役だっての。ねむちゃまだって、さっき俺のことを『金剛級冒険者』って言ってただろうがよ?」
「そうでしたっけ。テヘペロりんちょ☆」
のらりくらりと話す眠に、レオニスが呆れ顔でツッコミを入れている。
しかし、今レオニスが気になるのはそこではない。
先程眠が言っていた言葉の方が余程気になっていた。
「つーか、ねむちゃまよ、何でねむちゃまも不思議世界にいるんだ? でもって、さっき言っていた『あちしのおかげ』とは一体どういうことだ?」
「レオぴっぴってば、質問が多いですねぇ。……いいでしょう、あちしは親切な剣豪さんなのできちんと答えてあげます。まず何故ここにいるのかというと、ここはあちしの相棒である『ちゃー』の故郷なのです」
「相棒って……その、肩に乗っている白い狐か?」
「そそそ、この白い狐ちゃん。名は『ちゃー』、ラグナロッツァの裏路地で拾った管狐で、今ではあちしの立派な旅の友のなのですよ」
「白い管狐……そういや前に、ラウルからそんな話を聞いたな……」
眠がこの不思議世界にいる理由。
それは眠が相棒と呼ぶ白い管狐、ちゃーにあった。
眠の左肩にちょこん、とおとなしく乗っかっているちゃー。
眠が右手の人差し指でちゃーの喉を撫でてやると、目を細めてゴロゴロと喉を鳴らしている。
「この子の話によるとですね。ある日のんびりと散歩をしていたら? 突然地面に黒い穴がカポッ☆と開いて? 長い落とし穴に落っこちたらしいんですよね。で、気がついたらラグナロッツァの裏路地にいた、と」
「そこにねむちゃまが通りがかって、拾ったって訳か?」
「そゆことです。ぃゃー、管狐なんて珍しいもん、拾ったのがあちしで本当に良かったですよ。もしとんでもねー極悪人の手に渡っていたら、今頃ラグナロッツァは滅亡の危機に瀕していたかもしれませんからね!」
「そ、そうかもな……」
ちゃーから聞いたという話を語る眠。
『ラグナロッツァはあちしが救った!』とでもいうような、実に自信に満ちたドヤ顔で言い切る眠にレオニスも頬を引き攣らせながら適当に相槌を打つしかない。
しかし眠の言うことにも一理あって、管狐は様々な能力を持つと言われる。
管狐は未来予言や占術ができるとされていて、他にも爆発的に繁殖して人間に取り憑いて悪さをする等善悪両方の言い伝えがあるのだ。
眠がたまたま裏路地でちゃーを拾ったことで、果たしてそれらが未然に防がれたかどうかは定かではない。
しかし眠はちゃーの力を悪用して何か事を成そうとはしていないので、彼のドヤ顔の主張もある意味正しいと言えよう。
「……で? ここのトランプ兵が何であちしにそっくりな格好をしているか、でしたっけ?」
「そうそう。あのトランプ兵達が着ている着流し? まさにねむちゃまが着ている着流しにそっくりだとは思ってたんだ。あれ、もしかして……ねむちゃまがモデルになってんのか?」
「レオぴっぴ、正解☆」
レオニスの疑問に、眠が両手の人差し指二本をレオニスに向けてビシッ!と指しながら正解と告げる。
トランプ兵達の黒の着流しを見た時、確かにレオニスも内心で『ねむちゃまが着てる着物にそっくりだよなー』と思ってはいたのだ。
しかしまさかそれが正解だったとは、レオニス自身びっくり仰天である。
「ねむちゃま、まさかここの王国や宮殿と関わりがあんのか?」
「レオぴっぴ、不正解。あちしはどの世界においても、積極的に宮殿と関わることはありませんよ」
「じゃあ、何で衛兵がねむちゃまそっくりの着物を着てるんだ?」
「そんなん知りませんよ。あちしがここに来たばかりの頃は、トランプ兵は何も羽織っていませんでしたからね。ですがここ最近、あちしの着流しによく似た服を着た兵があちこちで見られるようになりました。これって絶対に盗作ですよね?」
「そんなん俺に聞かれても困るんだが……」
レオニスは眠と不思議の国の宮廷との関わりを疑った。
眠と同じような着物を衛兵が着ているのだ、眠が着物を伝授したのではないか、とレオニスが考えるのも当然である。
しかし眠はそれを完全に否定した。それどころか、眠は衛兵側のファッション盗作疑惑まで抱いているようだ。
ま、考えてみりゃそうだよな。
ねむちゃまだって、俺と同じく宮仕えなんか絶対にしねぇって性格だし。
つーか、ねむちゃまが宮仕えなんてしたら、その国は絶対におかしな方向に捻じ曲げられるわ……
レオニスがそんなことを考えていると、眠はレオニスと同席している面々をちろりと見回した。
「今日のレオぴっぴのお連れさんは……ライぴっぴにラウぴっぴ、二人の美女と巨頭猫族ですか。ということは、二人の美女の護衛兼お買い物デートの最中な訳ですね」
「お買い物デートってのには同意しかねるが、護衛対象はその二人で正解だ」
「よろしければ、そこにおられる高貴さダダ漏れな美女さん達をご紹介いただけますか? 何せあちしはレオぴっぴの大親友ですからね、挨拶の一つもしない訳にはイカンザキなのですよ」
フンス!と鼻息も荒く美女二人の紹介をねだる眠。
今のリンドブルムとフレア・ジャバウォックは普通の人族っぽく見えるのだが、眠の目は誤魔化せないらしい。
それまで二人のやり取りを見ていたリンドブルムが、くすくすと笑いながら口を開いた。
『フフフ……レオニス、貴方、とても面白い大親友がいるのねぇ』
「ン、まぁな……こいつは俺の友人で眠狂七郎、サイサクス世界では指折りの剣豪として名を馳せている。ねむちゃま、こっちの赤紫の服を着ているのはリンドブルム、高位の竜族の一体だ。で、その向こうの赤い服を着ているのはフレア・ジャバウォック。リンドブルムの親友で、こちらも高位の竜族だ」
リンドブルムの好意的な反応に、早速レオニスが両方の紹介を軽く済ませる。
これにいち早く返したのは眠だった。
「只今レオぴっぴから紹介に与った、眠狂七郎と申します。このように高貴な方々とお会いできるなんて、今日のあちしは何と幸運なんでしょう」
『はじめまして。貴方のことは『ねむちゃま』と呼べばいいかしら?』
「もちろんですとも。あちしのことは、どうぞ『ねむちゃま』とお呼びくださいまし。あちしの方も、貴女のことを『リンリンちゃま』とお呼びしてもようがすか?」
『リンリンちゃま!? それ、可愛くていいわね!』
互いの呼称に関する取り決め?を交わした眠とリンドブルム。
リンドブルムにも早速眠独自の愛称がつけられた訳だが、当のリンドブルムは『リンリンちゃま』という呼称が甚く気に入ったようだ。
一方で、フレア・ジャバウォックは胡乱げな目で眠を見ていた。
『レオニス……この人族、大丈夫? 何だかすっごく胡散臭いんだけど……』
「胡散臭く思うのも、まぁ無理はないとは思うが……これでも一応凄腕の剣士だというのは間違いない。そこら辺は俺が保証する」
『そうなの? あの妙ちきりんな話し方は、何だかすっごーく危険な香りがするけれど……』
ゴニョゴニョと小声で話すレオニスとフレア・ジャバウォック。
フレア・ジャバウォックはリンドブルムと違い、眠の人間性を疑っているようだ。
ひそひそ話をするレオニス達を、眠がジロリんちょ、と眺めている。
「レオぴっぴ、全部聞こえてますからね? 純朴無垢なあちしを疑うなんて、百億万光年早いというものです」
「そりゃしょうがねぇっつーか、初対面同士なんだから仕方ねぇだろう」
「フレりんちょ、何も知らないうちから疑ってばかりなのは良くないですよ?」
「『フレりんちょ……』」
ふぅ……と小さくため息をつきながら肩を竦めて見せる眠に、レオニスとフレア・ジャバウォックはしばし固まる。
レオニスは『何つー愛称をつけてんだ……フレア・ジャバウォックに殺されても知らねーぞ?』と内心で驚いていたが、フレア・ジャバウォックは驚いた顔で眠に話しかけ始めた。
『貴方……どうして私の幼い頃の愛称を知っているの!?』
「ぬ? フレりんちょというのが貴女の幼い頃の愛称なのですか?」
『そうよ、お父様やお母様、そして兄様からは今でもそう呼ばれているわ』
「それは良いご家族をお持ちですねぇ。そんな素晴らしいご両親やお兄様がおられるのでしたら、これから是非とも親孝行、兄孝行なさることをオススメいたします」
『もちろんよ!ねむちゃま、だったかしら。疑ってしまってごめんなさいね。これからよろしくね』
「こちらこそ、よろしくお願いしますね」
フレア・ジャバウォックの幼少期の愛称の件で、盛り上がる眠とフレア・ジャバウォック。
眠が適当に言った『フレりんちょ』が本当にフレア・ジャバウォックの愛称だったとは驚きだ。
ライト達が散々苦労して勝ち取った、リンドブルムやフレア・ジャバウォックとの友好。
それをこの数分の間に一瞬にして勝ち取った眠に、ライト達は驚くばかりだ。
「レオ兄ちゃん……ねむちゃまって、本当にスゴい人なんだね……」
「ああ……俺達がこの不思議の街に来るのだってかなり苦労したってのに、ねむちゃまは一瞬でここに来たっぽいしな……」
「剣豪ってのも伊達じゃねぇんだな……」
眠の人心掌握のすごさ、その辣腕ぶりに感嘆するライト達。
その横でチョシャ猫だけは白い管狐、ちゃーをずっと凝視していた。