作品タイトル不明
第1743話 チュシャ猫の好みの報酬
中央の天空島内部から不思議の森に移動したライト達。
以前はダスターシュートのように上から下に落ちていく移動方法だったが、リンドブルムの住まいである天空島内部と不思議の森を転移門で直接繋いだ今は落下無しで瞬間移動できるようになった。
ちょっとしたジェットコースターのように落ちるのも面白いが、怪我や事故の心配のない移動方法があるならそれに越したことはない。
不思議の森側の転移門に移動したライト達は、魔法陣の外に出てしばしそこで待つ。ここで待っていれば、不思議の森の案内猫であるチュシャ猫が現れるはずだからだ。
その思惑通り、ライト達が不思議の森に移動してから十秒もしないうちにチュシャ猫が現れた。
気配もなく突如現れたチュシャ猫は、ライト達四人の顔を見ながら話しかけてきた。
『おやおや、誰が訪ねて来たかと思えば。リンリン嬢のお父上とお友達でにゃーの』
「チュシャさん、こんにちは!」
『こにゃーにゃちはー☆』
ライトの元気いっぱいの挨拶に、チュシャ猫もニヨニヨとした笑顔で応える。
幅3メートルを越す、胴体無しの巨頭猫のニヨニヨ笑顔。
何だか前に会った時より、チュシャ猫の顔が大きく膨らんでいるような気がするのだが。これは果たして気のせいなのだろうか?
彼の笑顔はパッと見は不気味なのだが、何度も会って会話をすればその風貌にもだんだんと慣れていくし、何よりチュシャ猫は常識があって性格も穏やかなので親しみやすい。
ライトの挨拶に続き、レオニスがチュシャ猫に声をかけた。
「よう、チュシャ。元気そうで何よりだ」
『やぁやぁ、レオニス君。いやー、君がここに来る度にボクにくれる宝石が超美味しくてね? おかげさまで最近すっごく体調が良いにゃよー☆』
「そっか、そりゃ良かった。そしたら今日も、不思議の森の案内をよろしく頼む」
『いいにゃよー☆ ……って、今日も 美味しい報酬(・・・・・・) をいただけるにゃよね?』
「もちろん。チュシャ猫へのいつもの報酬もちゃんと用意してある」
『ヤッター☆』
レオニスとの労使交渉?の大成功に、チュシャ猫が破顔しつつ空中をピョンピョンと飛び跳ねている。
まるでそこに地面があるような弾力のある飛び跳ね方だが、チュシャ猫には空中に足場を作る能力でもあるのだろうか。
そして、チュシャ猫の顔が心なし大きくなった?と感じたのは決して気のせいでなく、どうやらレオニスがもたらす美味しい宝石のおかげで少し太ったらしい。
そのように大喜びするチュシャ猫に、レオニスも微笑んでいる。
レオニスとラウルは、林檎や桃の木を植樹するために何度も不思議の森に足を運んだ。
そしてここに来る度にチュシャ猫に案内役を頼み、その都度報酬として様々な宝石を渡してきた。
チュシャ猫はレオニス達が渡す宝石が特に大好物で、かなり気に入っているらしい。
レオニスが報酬として渡す宝石は、全て幻の鉱山産。
母岩が一切ない純度100%の鉱石で、この時点で既に最高品質を誇る逸品である。
それに加えてアイギスのセイが研磨しているので、超極上の宝石に仕上がっている。
宝石を主食とするチュシャ猫にとって、レオニスから受け取る宝石類はまさに甘露の如き至上の味わいだった。
『ぃゃー、レオニス君がくれる宝石をね、こないだチャシャ兄ちゃんとチョシャにも食べさせてあげたにゃよ。二頭とも、すんげー美味しい!って感動してたにゃ』
「兄ちゃんと妹にも分けてやったのか。チュシャは兄妹思いなんだな」
『ぃゃ、ホントはボクが独り占めするつもりだったんにゃけどね? あまりに美味しそうな匂いが隠しきれなくてさ……チャシャ兄ちゃん達が『美味しいモノを隠してるだろ!』『ワタシ達にも味見させろー!』とか、そりゃもう煩くて煩くて……ずーっとボクの周りで騒ぎ続けるもんだから、仕方なしにお裾分けしてやったにゃ』
「そ、そうか……」
先頭をふよふよと浮きながら会話するチュシャ猫。
兄のチャシャ猫や妹のチョシャ猫にも宝石を分け与えたという。
美味しいものを分かち合うためかと思いきや、実は『寄越せ寄越せと煩いから仕方なく』とは。
しかめっ面で渋い顔をしながら話しているチュシャ猫に、これには聞いている方のライト達も苦笑いするしかない。
チュシャ猫の言う『宝石の美味しそうな匂い』というのが一体どのようなものか、ライト達には未だにさっぱり分からないし想像もつかない。
だがチュシャ猫達にはそれが分かるという。
しかも宝石によって匂いも味も異なるらしく、チュシャ猫が一番好きなのはルビー、兄のチャシャ猫はエメラルド、妹のチョシャ猫はダイヤモンドなのだとか。
不思議の森の住民だけに何とも不思議な話だが、こういう雑談は結構楽しくて相互理解を深めるにはもってこいである。
そうしてのんびりと話をしながら進んでいくと、ファフニール夫妻が住む洞窟の前に辿り着いた。
『さ、ボクの案内はここまでにゃ。帰る時にボクの名前を呼んでくれれば、すぐに駆けつけるからよろしくにゃ☆』
「ありがとう。じゃ、今日の報酬はこれな。帰りもよろしく頼む」
『うぃうぃ。不思議の森の案内は、万事このチュシャ猫にお任せあれ☆』
レオニスが空間魔法陣を開き、手のひらサイズの小袋を取り出してチュシャ猫に渡した。
渡したと言ってもチュシャ猫には物を受け取る手がないので、レオニスがチュシャ猫の頭の上にぽん、と乗せるのだが。
チュシャ猫は頬の髭を器用に使い、頭上に乗せられた小袋を手繰り寄せて自分の顔の前に持っていく。
このチュシャ猫の髭、何と六本全てがゴムのようににょいーん☆と伸びるではないか。
しかも髭の先端で巾着状の小袋の紐をこれまた器用に緩めていて、それはまるで本当の手や指のような動きをしている。
胴体がないチュシャ猫は、このようにして髭を手の代わりとして使っているのである。
『おおー、今日はルビー多めにしてくれたにゃね☆』
「ああ、前にチュシャが『ルビーが一番美味しい!』って言ってたからな」
『ボクの好みをちゃんと覚えててくれたにゃね。嬉しいにゃ、ありがとう☆』
「他にもいくつか違うのを入れておいたから、好みの味のものがあったらまた教えてくれ」
『はーい☆』
小袋の中身をチェックし、ホクホク顔で喜ぶチュシャ猫。
彼の無邪気な笑顔に、ライト達もほっこりと和む。
己の役目を無事果たしたチュシャ猫は、フッ……と姿を掻き消した。
その後ライト達は、ファフニール夫妻の住処である洞窟に入っていった。