作品タイトル不明
第1742話 手土産と正当な報酬
ご近所さんへの新年の挨拶回りを無事終えた翌日。
次に向かうは不思議の森。
そう、ライトが冬休みのうちにラーデの長男夫婦と初孫に会いに行くのである。
今日のお出かけメンバーは、ライト、レオニス、ラウル、ラーデの四人。
各自朝の仕事を済ませ、午前九時にカタポレンの畑の転移門前に集合した。
「ラーデ、ヨトゥンちゃん達へのお土産は持ったー?」
『うむ。林檎に桃に苺、焼き芋に焼きトウモロコシ等々、たくさん用意してもらった。感謝する』
「ラーデだっていつもラウルの畑仕事のお手伝いをしてるんだから、それは正当な報酬だよ。ね、ラウル?」
「ああ、小さなご主人様の言う通りだ。特に焼却炉の見張り番をしてもらえるのは、すごく助かっている。その分俺は他のことをできるからな」
今回の不思議の森訪問の手土産として持っていくのは、カタポレン産の果物や焼き野菜、各三十個づつ。
カタポレン産の品々なので、それはもうとんでもない量なのだがファフニール夫妻はともに巨躯なので問題ない。
それらは全てラウルが用意し、ラーデ専用のアイテムリュックに収納してある。
ちなみにこのアイテムリュック、使用者を三名まで登録できる。
まず一人目は持ち主のラーデ。その次にラウル。
何故ラウルかと言うと、ライトやレオニスより長寿でラーデとも常に仲良く接しているから、というのが主な理由だ。
そして三人目は未定だが、ラーデの長男であるファフニールにその権限を与えようと思っている。
羽毛の翼の間にリュックを背負い、パタパタと飛んでいるラーデ。
ぬいぐるみサイズのラーデが、ちょこなんとリュックを背負い宙に浮く姿はまさしく反則級の愛らしさである。
「さ、そしたら行くか」
「うん!」
準備が整ったライト達。
畑の転移門で中央の天空島に移動していった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
中央の天空島外側、入口付近に設置してある転移門に移動したライト達。
そこから噴火口に似た入口に入り、下に降りていった。
そうして中央の天空島内部の最奥に進んでいったが、そこには誰もいなかった。
「ン? リンドブルムは出かけてんのか?」
「多分ファフニールのところにいると思う。こないだ不思議の森に植えた林檎と桃の木の様子を見に行った時に、リンドブルムも向こうにいたから。何でも毎日のようにヨトゥンガルズの顔を見に行ってるらしいぞ」
「そうなんか……」
修験者の間の主不在。その理由が何と『初めての甥っ子が可愛過ぎてメロメロだから』だとは。
しかし、リンドブルムがヨトゥンガルズにメロメロになるのも無理はない。
ラーデの子達は皆高位の竜族であり、悠久の時を生きる者達。
そんな彼らの間に新たな命が誕生することなど滅多にない。
赤子というのは、種族問わず庇護欲をそそる愛らしさの塊なのだ。
ライトがふと何気なく周りを見ていると、大量の蔦の中に明らかに異質な木があるのが目に留まった。
「ねぇ、ラウル。あれ、もしかしてラウルが植えた林檎の木?」
「ああ、ライトは初めて見るか。そう、あれはリンドブルムに頼まれて植えた林檎と桃の木だ」
「うわぁ、本当に植樹に成功したんだね!」
「ただし、林檎も桃も色が水色だがな」
ライトが木のともに駆け寄り見上げる。
その木は10メートルくらいに育っていて、ところどころに大きな実が成っているのが見える。
しかし、それらの形は確かに林檎や桃のそれなのだが、ラウルの言うように実の色が青白かった。
これは、修験者の間の唯一の光源である扉の青白い線の影響だろうか?
「でも、こないだラウルに食べさせてもらったけど、味はちゃんと林檎と桃だったよねー」
「ああ。色はともかく味が美味けりゃ問題ない。リンドブルムも喜んで食べていたしな」
「異界でもこうして林檎や桃が育つなんて、すっごく不思議だけど……リンリンさんが喜んでくれてるなら良かったね!」
「そうだな。苦労して植樹した甲斐があったってもんだ」
不思議な生態の木々を、ライトが心底感嘆しながら見上げている。
ここで育って収穫した林檎や桃を、ラウルが持ち帰ってライト達にも食べさせてくれたことがある。
もちろんそれは、この部屋の主であるリンドブルムにも許可を取ってのことだ。
そうして食べた異界育ちの林檎や桃は、色こそ淡い水色だったが味は間違いなく林檎と桃だった。
「これ、他の果物や野菜も全部水色になるのかなぁ?」
「どうだろうな……そうなる可能性はそれなりに高そうだが」
「青い苺とか水色の栗とか、かなり斬新だよね!」
「青い苺か……今度蔓の根元に苺の苗を絡ませてみるか」
異界の農作物談義に花を咲かせるライトとラウル。
その後ろにいたレオニスとラーデは、青い苺や水色の栗を想像してちょっとだけ背筋が寒くなっていた。
「……さ、そしたら不思議の森に行くか。向こうに行けばリンドブルムとも合流できるだろ」
『うむ。リンドブルムめ、毎日ヨトゥンガルズの顔を見ているとは……羨ましいにも程がある』
「ククッ……そしたらラーデもしばらく不思議の森に泊まり込んでいくか?」
『いや、それには及ばぬ。我が居候などしようものなら、ファフニールやフレアに気を遣わせてしまうからな』
「それもそうか」
ラーデの嫉妬めいた呟きに、レオニスがくつくつと笑う。
ヨトゥンガルズはラーデにとっても初孫であり、毎日のように顔を見たいに違いない。
しかし、それをしたら子を成したばかりの長男夫婦に気を遣わせてしまうことは明白。
子供夫婦に負担をかけまいとするラーデの心意気は立派である。
「じゃ、そろそろ行くぞ」
「はーい!」
レオニスの掛け声に、ライトとラウルがレオニスとラーデのもとに駆け寄る。
そうして四人は、修験者の間の最奥に設置されている転移門の中に入り、不思議の森に移動していった。