軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1741話 敬意と親愛の証

正月三が日が過ぎた後。

ライト達は二日かけて、各方面に年始の挨拶をしに出かけていった。

いつも世話になっているクレアやクレナ、ご近所の神樹ユグドラツィやオーガの里にナヌスの里、目覚めの湖の面々等々。

人族以外に正月だの新年などという概念はないが、それでもライト達が訪ねれば彼ら彼女らはいつだって笑顔で歓迎してくれる。

中でもオーガの里のニルは、それはもう最高にご機嫌であった。

「よう、ニル爺。元気にしてたか?」

「おお、レオニス殿ではないか!久しいのう!」

「!?!?!? ニル爺が、俺のことを『レオニス殿』と呼ぶ、だとぅッ!?!?!?」

あまりにも衝撃的な出来事に、思わずレオニスが横にいたラキを見た。

その視線に気づいたラキが、ニルの上機嫌の理由を語って聞かせてくれた。

「実は先日、行商に出ていた者達が帰ってきてな。数々の品とともに東の里から預かってきたニル爺宛の手紙があったのだ」

「東の里からニル爺宛の手紙ってーと……ニル爺の娘のベスからのか?」

「うむ。その手紙を見てから、ニル爺はずーっとご機嫌なのだ」

「そっか……手紙を出せる程に元気になったなら良かった」

ゴニョゴニョと話をするレオニスとラキに、ニルがこれまた嬉しそうに話に入ってきた。

「ベスがな、もう少し陽気が暖かくなったら孫娘達を連れて里帰りする、という手紙をくれたのだ」

「おお、そうか、そりゃ良かったな!」

「でな? その手紙にはこうも書いてあったんじゃ。『森の番人レオニス殿は、私の命の恩人です。くれぐれも失礼のないよう、お父様も留意してください。間違っても『角なしの鬼』などと呼ばないように』、とな」

「「「………………」」」

目を閉じうんうん、と頷きながら、 娘(ベス) からの手紙の内容を明かすニル。

その手紙に、まさかレオニスの呼称に関する厳命があったとは。

これにはレオニスだけでなく、その場にいた全員が無言になる。

そんな居た堪れない空気の中、ニルが突如レオニスに深々と頭を下げた。

「角なs……いや、森の番人レオニス殿。此度は我が娘、ベスの命をお救いいただいたこと、心より感謝申し上げる。儂は老い先短い身ではあるが、この大恩に報いるためなら喜んで我が命を差し出そう。儂で力になれることがあれば、何なりと申してくれ」

「ちょちょちょ、ニル爺、待て!何だその如何にも改まった余所余所しい態度はよ!?」

「いやいや、貴殿は娘の恩人なのだから当然であろう? そもそも貴殿は我が里の族長、ラキの命を救いし恩人でもあるのだし」

「そりゃそうだが!」

泡を食ったようにニルを問い詰めるレオニスに、ニルはきょとんとした顔で小首を傾げている。

確かにレオニスのおかげでニルの娘ベスの命は救われたし、レオニスの横にいるラキも同じくレオニスに命を助けてもらった。

もっともそれは、ライト所有のエリクシルのおかげでもあるのだが。

しかし、ニルのこれまでの態度が一変するのはいただけない。

愛娘に手紙で叱りつけられたようだが、それだけでレオニスのことを『レオニス殿』だの『貴殿』などと呼ぶようになるとは。

ニルからの慣れない呼ばれ方に、レオニスが自分の背中を掻き始めた。

「ぉぃぉぃ、勘弁してくれよ……ニル爺が俺のことを『貴殿』と呼ぶとか、一体何の冗談だ? あまりにむず痒過ぎて、ホントに背中が痒くなってきたじゃねぇか!」

「レオニス殿も大概失敬よの……というか、何が不満なんじゃ? 貴殿は以前から儂の呼び方に文句をつけておったではないか」

「そりゃアレだ、『角なしの鬼』っつー呼び方がアレだってだけの話で、何も俺のことを無条件に敬えってことじゃねーよ!」

「はぁ……森の番人殿は、本当に文句が多いのぅ」

似合わない呼ばれ方に、必死に背中を掻き毟るレオニス。

そんなレオニスの様子を、ニルが半ば呆れたように見ている。

もともとレオニスは堅苦しい態度全般が苦手だが、それでも今日のニルの変貌ぶりは大仰過ぎる。

これまでニルは、何度レオニスが苦情を言っても『角なしの鬼』呼ばわりをやめなかった。

そんなニルが、娘が発した鶴の一声でこうも簡単に宗旨替えするとは。

意外過ぎるにも程があるが、それだけニルにとってベスは大切な娘だという証拠なのだろう。

「……あ"ーッ!もうそういう余所余所しいのは無し!今更過ぎて落ち着かんっつーか、気持ち 悪(わり) ぃんだよ!」

「お主も大概失敬よの……」

「うっせー!ニル爺、これから俺のことは『レオニス』と呼べ!たまーになら『角なしの鬼』って呼んでもいい!だから『貴殿』とか『レオニス殿』とか、気持ち悪い呼び方は二度とするな!」

それまでの鬱憤を晴らすかのように、レオニスがニルに向けてガーッ!と言い散らかす。

八つ当たりや逆ギレのような気がしないでもないが、それまで気の置けない仲だったニルの接し方が一変したのが非常に居心地悪いのだろう。

「む? それが貴殿……いや、レオニスの望みか?」

「そうだ!それが俺の望みだ!あんたの娘が何をどう言おうと、こればなりは譲らんぞ!」

「そうか……フフッ、ならばレオニスの望み通りにするとしよう」

鼻息荒く抗議するレオニスに、ニルが小さく笑う。

キャンキャンと煩いレオニスの横で、ライトとラウルがラキと三人で話をしている。

「ニルさんの娘のベスさん、元気になったようで良かったですね!」

「うむ。事の顛末は、先にレオニスから聞いてはおったのだがな……東の里でそのような事態になっておるとは、夢にも思わなんだ」

「陽気が暖かくなるまで待って春頃になったら里帰りするんですね。ニルさんの娘さんや孫ちゃんに、ぼくもお会いしたいな」

「そうか、ならばベス殿御一行がここに到着したら、ライト達にも教えよう」

「え!? いいんですか!?」

「もちろん。せっかくニル爺の娘家族がここに来るのだ、レオニスやライト、ラウル先生にも是非とも会ってもらいたい」

ニルの娘達なら是非とも会いたい!というライトの願いを、ラキがその場で快諾する。

レオニスだけでなく、ライトとラウルもまたこのオーガの里の大恩人なのだから、ラキに否やなどない。

そんなラキの思いに、ラウルもまた応える。

「おう、そしたら俺も歓迎会の料理を手伝おう」

「おお、ラウル先生の料理を振る舞っていただけるか!ラウル先生の料理なら、間違いなく極上のもてなしとなりましょう。何卒よろしくお願い申し上げる」

「どんなメニューがいいか、近いうちに皆で話し合いをしよう」

「是非とも!」

ラウルの料理がベス一家のもてなしに振る舞われると聞き、ラキが破顔する。

ベス一家のもてなしについてサクサクと話が進む中、レオニスとニルは相変わらず別の話を続けていた。

「ところで角なしよ、ラウル先生からコメ作り?の話は聞いたか?」

「ああ、人族の主食の一つである米を、このカタポレンの森の畑で作ろうって計画があるのはこないだラウルから聞いたぜ」

「うむ。そのための水路を作るのに、我らオーガも助力することが決まった。ついては角なし、お前にも手伝ってもらうぞ」

「おう、望むところだぜ!……って、俺のことはもう角なし呼びに逆戻りかよ? 早過ぎるにも程があるだろ……ま、いいけどよ」

ラウルの今年の目標、米作りについて話し合うレオニスとニル。

ニルのレオニスの呼び方がもう『角なし』になっているのはご愛嬌。

それこそがニルのレオニスに対する敬意と親愛の情であり、レオニスにとってもそこまで悪い気はしないのだから。

オーガの里での新年の挨拶は、いつにも増して朗らかで賑やかだった。