軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1740話 二回目の『冒険者のイロハ講座』、二日目と三日目

その後の正月三が日は、比較的のんびりとした時間を過ごした。

と言っても、ライトはジョゼとの約束を守り、二日と三日の午後に『冒険者のイロハ講座』を受講しに行ったのだが。

二日の講座は『薬草採取のイロハ』。

冒険者ギルドラグナロッツァ総本部の中庭にある薬草園で、数種類の薬草や薬草によく似た毒草を見比べて実際に採取するというものだ。

この薬草園は、冒険者ギルドが新人用研修及び万が一の場合の備蓄のために自前で運用していて、ディーノ村出張所同様他の支部にも必ず一つ以上の設置が義務付けられている。

薬草の栽培は土魔法を使える者(ギルド職員)が担当していて、日々せっせと薬草や毒草達のお世話をしているという。

薬草の採取方法は、種類によって異なる。

根っこごと採る必要があるもの、逆に根っこは残しておかなければならないもの、葉っぱや実だけが必要なもの等々、臨機応変に対処しなければならない。

そうした様々な法則を懇切丁寧に教えてくれる、実にありがたい講座である。

ちなみに冒険者ギルドに出される薬草採取依頼、ほとんどが薬草ギルドからの依頼だ。

中には研究家や魔導師などの個人的な依頼もあるが、そういう類いの依頼は特殊な植物を要求していることも多いので初心者には不向きとされている。

そして以前フェリックスが言っていたように、未だに薬草の採取量より需要の方がはるかに上回っている。

その原因は主に竜騎士団のシュマルリ修行にあるのだが、それを知る者は少ない。

この薬草ブームは、まだまだ続きそうだ。

三日の講座は、マスターパレンによる体術講座。

ギルドマスター直々の指導とは珍しいが、これを目当てに『冒険者のイロハ講座』を何度も受ける者もかなりいるという。

冒険者歴二桁を超えてなお初心者向け講座を受けるというのもどうかと思うが、慢心を戒め初心に返るという意味では非常に有意義かもしれない。

「ようこそ、諸君!イロハ講座が初めての新人はもちろんのこと、ベテランの猛者達も歓迎する!」

総本部内の演習場に、何とパレンはムキムキマッチョのパンイチ姿で現れた。

彼が演習場で後進の指導を行う時は必ずパンイチ、しかも濃桃色のローライズビキニがデフォルトなのだそうだ。

現代日本で言うところのボディビルダーのような、鍛え抜かれた筋骨隆々の肉体美に受講者達が圧倒されている。

パレンが冒険者を引退してから十年以上は経過しているというのに、その身体つきは現役冒険者以上に引き締まっていて逞しい。

その後受講者達を相手に、マスターパレン流の身体の鍛え方(主に筋肉の効率的な増やし方)や武器防具の選び方や取り扱い方、有益な話を惜しげもなく披露するパレン。

どれもがためになる講座だが、その中で彼が最も力説していたのは『何があっても生き延びること』であった。

「諸君らは、これから各々の夢に向かって邁進していくことだろう。そしてそのために、無茶をしたり無謀な戦いに挑むこともあるかもしれない」

「無茶や無謀も多少背伸びをする程度ならいい。それまで越えられなかった壁に挑み、乗り切ることこそ成長に繋がるのだからな」

「だが、勇気と蛮勇を履き違えてはいけない。明らかに格上の魔物と出食わしたなどの場合、戦わずに逃げるのも一つの手だ。

退路が絶たれてどうしようもなくなったならともかく、逃げる手段があるのに逃げずに強大な敵に挑むのは勇気ある行動とは言わない。それは『自殺行為』というのだ」

パレンが説くありがたい演説に、じーーーん……とした顔で聞き入っている者もいれば、あまりにも強烈なパンイチ姿に目の遣り場に困って視線がキョロキョロと泳ぐ者もいる。

ちなみにライトは前者で、ジョゼは後者である。

「昔からよく言うだろう? 『命あっての物種』、と。そう、敵前逃亡は決して恥じることではない。例え討伐や戦いに失敗したとしても、生きてさえいればいくらでもやり直しができるのだから」

「諸君ら若人には未来がある。時には思うように事が運ばず、挫折を味わうこともあるだろう。だが、諸君らには是非とも理解しておいてもらいたい。生きていれば必ず良いことがある、ということをな」

「以上、本日のイロハ講座はここまで。ご静聴感謝する。解散!」

パレンの凛とした声に、それまでじっと聞き入っていた受講者達が自然と頭を深く下げた。

冒険者ギルド総本部マスターとは、全ての冒険者達の頂点に立つ者。

それに相応しい知識とオーラを、パレンは十二分に持っていた。

パレンが演習場から退出し、受講者達の話し声で一気に賑やかになる。

「はぁーーー……マスターパレンさん、すっごくカッコ良かったねぇ」

「うん。見た目はアレだけど、言ってることはどれも正しいことばかりだったし。やっぱりギルドマスターってだけあって、圧倒的な存在感だったね!……ていうか、ライト君が受けた『冒険者のイロハ講座』と比べてどう? 何か違うところとかある?」

「ンーとねぇ、ラグナロッツァと違うところは……ドラゴンの幼体のクー太ちゃんと直接遊べるとか、ディーノ村固有の魔物狩りを実戦で体験させてくれるところ、とかかな?」

「……それは、正真正銘初心者の僕には絶対に務まらないね……」

ガヤガヤと騒がしい演習場の中で、出口に向かって歩きながらのんびりと会話するライトとジョゼ。

『冒険者のイロハ講座』と一口に言っても、各支部毎にその内容は変わる。

マスターパレンの手解きを受けられるのは総本部ならではの催しだし、ドラゴンの幼体クー太と直接触れ合えるのはディーノ村出張所だけの特典と言えよう。

しかし、ジョゼのような一般的な初心者には、ドラゴンと戯れるというだけでもはや命がけとなる。

そう、如何にジョゼがライトが親友であろうとも、親友を見習ったり安易に真似たりなどできないのである。

その後二人はギルド内売店に行き、商品ラインナップや販売価格などを見学した後、ぬるぬるドリンクを購入して大広間内の壁際にあるベンチで一息ついた。

「ライト君、年末年始の忙しい時期に三日間もイロハ講座に付き合ってくれてありがとう。すっごく楽しかったよ」

「どういたしまして。ぼくだって、冒険者登録してからまだ半年も経っていないし。ジョゼ君に誘ってもらったおかげで、二回目だけどとても良い勉強になったよ。こちらこそありがとうね!」

「また一週間後に、ラグーン学園で会おうね!」

「うん!」

ぬるぬるドリンクを飲み干した後、二人は建物出入口で固い握手を交わす。

そしてラグーン学園での再会を約束し、それぞれ帰路に就いていった。