作品タイトル不明
第1739話 今年の抱負
午前中は各自好きなことをして過ごしたライト達。
昼には再びコテージに集まり、ラウル特製お節に舌鼓を打つ。
「お節料理っていろいろあって、どれも縁起を担いでいるんだよねー」
「そうそう。伊達巻、黒豆、栗きんとん、どれもちゃんとした意味っつーか縁起の良い意味があるんだよな。……ま、俺は美味いもんが食えりゃ何でもいいけどな」
「このご主人様は、風情もへったくれもねぇな」
「食べ物に良い意味や願いを込めるのは、人族ならではの慣習ですよねー。八咫烏の僕や妖精のラウルにはない、素晴らしい文化だと思います!」
『うむ。我もこのような慣習は初めてだが、なかなかに趣深くて良いと思うぞ』
テーブルの上に所狭しと並べられたお節料理を食べながら、のんびりとした会話を楽しむライト達。
サイサクス世界は現代日本準拠仕様なので、小晦日や大晦日同様にお節料理も多数存在するのだ。
「この黒豆とかお多福豆、カタポレンの畑で栽培したら大きいのができるかな?」
「そりゃ大きくなるだろう、野菜も果物も全部巨大サイズに育つし。ただし、俺達が食うにはちとデカ過ぎるだろうけどな」
「そうだな。だが、ヴィーちゃんやグリンちゃん、オーガの皆が食う分には良さそうだ。……よし、そのうち黒豆やそら豆も作るか」
「フフフ、ラウルが作りたいものがどんどん増えていくね」
普通サイズの煮豆類を食べるライトの素朴な疑問に、レオニスは真面目な顔で予測を立て、ラウルは大真面目な顔で黒豆とそら豆を新たな栽培品目に加えている。
確かにヴィゾーヴニルやグリンカムビは豆類が大好物だし、オーガ達が食するにももってこいだろうことは間違いない。
そうして美味しいお節料理を食べた後は、食後のデザートにお汁粉をいただく。
餅はもちろん聖なる餅を使っている。
餅をみょいーーーんと伸ばしながら食べるのはお約束の作法。
熱々の汁粉で身も心も温まったところで、ライトが皆に向けて声をかけた。
「じゃあ、皆の今年の抱負を聞かせて!まずはレオ兄ちゃんね!」
「今年の抱負か? そうだなぁ……ライトもようやく冒険者の仲間入りしたことだし、土日休みや夏休みなんかにいろんな依頼をいっしょにこなしていくこと、かな」
「うん、ぼくもそれが今年の抱負なんだ!ラグーン学園が休みの日に、薬草採取とかの依頼をどんどん受けて階級上げするのがぼくの目標!」
レオニスの抱負とライトの抱負が一致した。
ライトは冒険者になったばかりなので、難易度の高い依頼は基本的に受けられない。
しかし、レオニスが同行するなら話は別だ。
ライト一人だけだったら絶対に受けられない依頼でも、レオニスといっしょなら可能になるだろう。
それに、今のうちからたくさんの依頼をこなしておけばランクアップにも繋がるはずだ。
「はい、そしたら次はラウルね」
「俺は、そろそろ米作りに挑もうと思っている」
「え? このカタポレンの森でお米を作るの? てゆか、水田を作るの?」
「ああ。米を作るには水田、要は水で満たした田んぼにしなきゃならんのだろ? そのための水路作りの計画も立てていて、水の女王やアクアの許可も得ている」
ラウルの予想以上に大きな抱負に、ライトは心底びっくりしている。
しかし、ラウルが米を作りたいと言い出すのも時間の問題だろうな、とも思っていた。
主食の一つである米を自給自足できれば、これ程心強いことはない。
そして、稲作に欠かせない大量の水。これを目覚めの湖から賄うとは驚きだ。
しかしこれは最も合理的な計画である。
目覚めの湖はカタポレンの森の中で最大の湖であり、ライト達が住む家からも近い。
家から近いということは水路を引くにも比較的容易だし、目覚めの湖の主達からも許可を得ているというなら水利権も問題ない。
いつの間にこんな完璧な計画を立てていたのだろう。
このことに、ライトは驚きを禁じ得ない。
「目覚めの湖から水を引くんだ……確かにそれなら水の確保は問題なさそうだね。かなり本格的というか、大規模な工事になりそうだけど」
「まぁな。そこら辺はご主人様やオーガ族の力も借りて進めていくつもりだ」
「え? 水路作りの労力に俺も含まれてんの?」
「もちろん。美味しい米を作るためだ、よろしくな」
「ったく、この執事は……主人使いが荒いな」
ラウルの水田作りの一環、水路作りの計画の中にレオニスが含まれていることに当のレオニスがびっくり仰天している。
レオニスにとってそれは青天の霹靂で、どうやら初耳情報らしい。
レオニスの承諾を得る前から戦力に組み込むとは、ラウルもなかなかに大胆不敵だ。
しかしレオニスは、呆気にとられて口では文句を言いつつも、不快そうな顔はしていない。
肉体労働はレオニスの最も得意とするところであり、それが美味しい食べ物を得ることに繋がるなら否やなどないのである。
「レオ兄ちゃん、ぼくも手伝うから頑張ろうね。はい、そしたら次はマキシ君ね。マキシ君の今年の目標は何?」
「僕の今年の目標は、宝石研磨の腕を磨くことですね」
「宝石研磨というと、セイさんから習うの?」
「はい。実は去年の暮れから、宝石研磨の修行の許可が出まして。セイさんのご指導のもと、今は水晶を使って研磨をしてるんです」
「そうなんだ!もし水晶が必要ならいつでも言ってね、魔石用の水晶がたくさんあるから」
「ありがとうございます」
マキシの目標は『宝石研磨の上達』。
彼が勤めているアイギスでは、ドレスやアクセサリー作りに用いる宝石研磨も全て自前で行っている。
それは主にアイギス三姉妹の次女セイが担当で、最近のマキシはセイから宝石研磨の手解きを受けているという。
もともとは『美しいものを作り出せるようになりたい』という思いから、マキシはアイギスに就職した。
その願いは着実に歩みを進めているようで何よりである。
「さて、そしたら最後はラーデね。ラーデはこれから何がしたい?」
『む? 我も願いを挙げねばならんのか?』
「もちろん!もしそのための手助けが必要なら、いつだってぼく達がお手伝いするよ?」
『そうだな……』
思いがけずライトから抱負を振られたことに、ラーデが少しだけ驚きながらも思案する。
『まずは、兎にも角にも元の力や姿を取り戻すのが先決だが……それはこの地で療養していれば、自ずと到達できるであろうしな』
「だねー。そしたらそれ以外に、何かしたいことはある?」
『うーむ……先日ファフニールのところに生まれたヨトゥンガルズの行く末を見守りたい、かな』
ヨトゥンガルズの成長を見守りたいと言うラーデに、他の四人がうんうん、と頷いている。
「あー、初孫のヨトゥンちゃんね!うんうん、人族でも初孫は格別に可愛いらしいからねー、ラーデの気持ちも分かるよー」
「そしたらなるべくファフニールのいる不思議の森に、足繁く通わなくちゃな。ま、そこら辺は問題ねぇだろ、中央の天空島に転移門を設置してあるし」
「不思議の森には、俺が植えた林檎の木もあるからな。俺といっしょに、様子見がてらヨトゥンにも会いに行こう」
「僕もその不思議の森に行ってみたいです!ラーデ君、今度僕もいっしょに連れていってくださいね!」
『………………』
ラーデの望みを全て肯定してくれるライト達。
彼らの屈託のない笑顔を、ラーデが眩しいものを見るかのような眼差しで見つめている。
ライト達が快く手を差し伸べてくれることが、ラーデにはとても嬉しいようだ。
『……うむ。そしたら次は、不思議の森でお泊まり会をしてみるか』
「お、あの森で野営か? 異空間で寝泊まりなんてしたことねぇが、面白そうだな!」
「不思議の森は、こっちと時間差ないよね?」
「こないだ行った時には時差は生じてなかったから大丈夫だろ」
「野営となると、マキシの寝袋が必要になるか?」
「そしたら僕、次のお休みの日にジョージ商会に買い出しに行ってくるよ。寝袋の他にも何か必要なものってある?」
ラーデが何気なく口にした、不思議の森のお泊まり会。
その軽い響きに対して行き先が異空間とは、ギャップどころの話ではない。
これに真っ先に反応したのがレオニスで、ライトは異空間の時間差問題を気にしている。
しかしレオニスの言ったように、先日の不思議の森とサイサクス世界との行き来は時間差がほとんど生じなかったので問題はないだろう。
そしてレオニスだけでなく、ラウルやマキシまで不思議の森のお泊まり会に行く気満々らしい。
ジョージ商会での買い出しに盛り上がるラウル達に、最初は心配そうだったライトの顔も次第に緊張が解れていく。
五人で語る新年の抱負は、果てしなく楽しいものとなっていった。