軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1710話 三年生二学期終了と午後のお出かけ

皆で楽しいクリスマスを過ごした二日後。

この日は十二月二十六日、ライトが通うラグーン学園の二学期最後の日である。

ラグーン学園での終業式が無事終わり、イヴリン達と「良いお年をー」「また来年ねー!」と年の瀬の挨拶を交わし、ラグナロッツァの屋敷に急いで帰るライト。

今日の午後は、ラウルやマキシとともに炎の洞窟に行く予定が入っているのだ。

ライトはラグナロッツァの屋敷の玄関に勢いよく飛び込み、そのまま大きな声で呼びかけた。

「ラウル、マキシ君、ただいまー!」

「おう、おかえりー」

「ライト君、おかえりなさーい」

ライトの帰宅を迎え入れるラウルとマキシ。

今日は炎の洞窟に行くと聞き、マキシは早々に有給休暇を取ってライト達に同行することになっている。

何故今日炎の洞窟に行くのかというと、ラウルが作っていたフラム用の天舞の羽衣が昨日の夕方に完成したからである。

そして、完成したからにはすぐにフラムに届けたい。

宝物を失くしてしまったフラムは、ラウルの再訪を首を長くして待っているだろうから。

「フラムへのプレゼント、年内に渡せそうで良かったねー」

「ああ。もう少し完成が遅れていたら、大晦日や正月三が日になっちまうところだった。そうなったら、フラムに羽衣を渡すのがかなり先延ばしになっちまうからな……そうならずに済んで良かったよ」

「ラウルも本当にお疲れさま。クリスマスの準備だって大変だったろうに」

「あれはあれで楽しかったから問題ない。俺は久々に料理して気分転換になったし、クリスマスパーティーで皆の笑顔も見れたしな」

「うん!ラウルのブッシュ・ド・ノエル、すっごく美味しかったー!また来年も作ってね!」

「了解ー」

三人で食堂で昼食を摂りながら、のんびりと会話するライト達。

ここ最近のラウルは、炎の洞窟襲撃事件で猛烈に忙しかったレオニスに負けないくらいに多忙を極めていた。

二日前のクリスマスパーティーの準備の他にも、オーガの里にちょっとだけ顔を出してスウィートポテト作りをしたり、天空島でパラス達とともに神鶏達にサツマイモ他たくさんの野菜をご馳走したり。

それ以外の時間は全て羽衣作りに費やしていたが、オーガの里や天空島など定期的に通っていた場所にも少しだけ顔を出すことで方々に心配をかけぬよう配慮していたようだ。

「さて、そしたらぼちぼちプロステスに行くか」

「うん!」

昼食を摂り終えた三人は、ラグナロッツァの屋敷を出て冒険者ギルド総本部に向かっていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

冒険者ギルド総本部の転移門を使い、プロステス支部に移動したライト達。

建物を出て向かったのは、プロステス領主邸だった。

何故炎の洞窟に真っ直ぐに向かわず、領主邸に寄り道したのかというと。その答えを持つ人物が、領主邸の門で待ち構えていた。

「おう、ご主人様にアレクシス、待たせたか?」

「いや、俺達もさっき出てきたばかりだから問題ない」

「ラウル君、よく来てくれた!ライト君にマキシ君、君達のことも大歓迎する!」

ライト達の到着を待ち構えていたのは、レオニスとプロステス領主アレクシス・ウォーベック。

何故アレクシスがここにいるかと言えば、炎の洞窟の主達に目通りするためである。

それは、レオニスがアレクシスやジョシュアとともにラグナ宮殿に登城した時のこと。

ジョシュアが氷の洞窟の主達との対面を果たし、氷の精霊拉致未遂事件に関して直接謝罪したと聞いたアレクシスが、それはもう猛烈にレオニスに頼み込んできたからだった。

…………

………………

……………………

ラグナ宮殿行きの馬車の中で、ジョシュアの話を聞いたアレクシス。

その時のアレクシスは愕然としていて、顔面は青褪め身体をわなわなと震わせながら呟き始めた。

「ツェリザーク領主に就任して間もないジョシュア君ですら、既に氷の洞窟の主達とお会いしているというのに……私はまだ一度も炎の洞窟の主達にお会いしていない!これは由々しき事態だ!」

「……いや、私の体面などどうでもよいのだ。そんなことよりも、大怪我を負われた炎の女王様とフラム様のお見舞いをしたい!そして、人族が此度犯した愚行を直接お詫びしたいのだ!」

「レオニス君、どうか、どうか頼む!次に炎の洞窟に行く時には是非とも!後生だから、私も連れていってくれたまえ!」

男四人が座る馬車の中で、レオニスの顔面1cm前まで迫るアレクシス。

しかもレオニスの手を両手でがっしりと握りしめるという暑苦しさだ。

その後もアレクシスは、レオニスに向かって終始雄弁に言い募り続けた。

「もちろんアポ無しで来てくれてもOKだ!何なら深夜零時過ぎてても一向に構わん!」

「領主の仕事で忙しい? 全然、全く、これっぽっちも問題はない!そんなもんは翌日に回せばいいのだからな!」

「とにかく!炎の洞窟の主達への謝罪が最優先事項なのだ!プロステス領主として、そしてウォーベック一族代表として……何が何でも!炎の女王様達に直接お詫びせねばならんのだ!」

アレクシスが目を血走らせながら、それはもう必死にレオニスに頼み込み続けた。

この鬼気迫る凄まじい猛攻に、普段は何事にも動じないレオニスですらドン引きしていた。

「……ぉ、ぉぅ……分かった、分かったからもうちょい離れてくれ……」

「おお!我が心中を察していただけたか!ならば炎の洞窟行きの件、何卒よしなに頼む!」

「つーか、本当に行く当日に誘ってもいいんだな?」

「もちろんだとも!この件以上に大事な案件など、何一つないからな!」

ドン引きしながらアレクシスの顔をそっと押し返すレオニスに、アレクシスがこれ以上ないくらいの笑顔で喜んでいる。

今にも抱きつかんばかりにレオニスに迫るアレクシスと、それを押し退けようと必死に仰け反るレオニス。

大の男二人のむさ苦しいやり取りを、馬車に同乗していたパレンとジョシュアは顔を引き攣らせ苦笑いしながら見守るしかなかった。

……………………

………………

…………

アレクシスのそうした必死の懇願を受けて、今日の炎の洞窟行きにレオニスが約束通りアレクシスの同行を誘った。

その話を持ちかけたのは今日の朝十時頃なのだが、アレクシスは大喜びしながらその日の仕事は全部キャンセルして炎の洞窟に向かう準備をした。

レオニスが事前に確認した通り、本当に当日アポ無しで誘って本当に領主同行が実現した、という訳である。

ライト達との合流を無事果たし、五人で炎の洞窟に向かう。

今回もジョシュアの時と同様に、アレクシスの護衛は一人もいない。

アレクシス曰く「レオニス君とラウル君がいるんだ、護衛など必要なかろう」「我がプロステスの騎士団とて精鋭揃いだが、それでもレオニス君に勝てる者などおらんだろうしな」とのこと。

実際のところ、アレクシスのそうした分析は正しい。

そのため、今回も五人だけでの炎の洞窟訪問となった。

プロステスの外壁門を出て、得に何もない平原をのんびりと歩くライト達。

年の瀬も迫った時期だが、体感的にはラグナロッツァやカタポレンの森よりも気温が高くて過ごしやすい気がする。

これも郊外に炎の洞窟を擁するプロステスならではの気候なのだろう。

「はぁー……今から炎の女王様とフラム様に会えると思うと、緊張して身体が震えるようだよ」

「何だ、アレクシスでも緊張することなんてあんのか?」

「そりゃあるさ。何なら先日のラグナ宮殿登城やラグナ大公との謁見の十倍、いや、百倍は緊張しているさ」

「そんなにか……」

炎の洞窟に向かう道中、ずっと緊張しっぱなしのアレクシス。

商業都市プロステスの象徴であり、敬愛して止まない炎の女王とその守護神である朱雀のフラムに会えるのだ。

如何にアレクシスが百戦錬磨の高位貴族であろうとも、緊張しない訳がないのである。

「……私はこれまで、炎の洞窟の主達にお会いするなど考えたこともなかった。人族の身で炎の女王様達の御前に上がるなど畏れ多くて、私がそのようなことを望むことすら烏滸がましいと思っていたのだ」

「だが……ジョシュア君の話を聞いて、頭を殴られたかのような衝撃を受けた。……そうだよな、我らプロステスの民の敬愛や誠意は、黙ったままでは何も伝わらないのだよな」

「炎の女王様達は、私が思うよりもはるかに寛大な御方達だ。それは、これまでレオニス君達から伝え聞いた話からも分かる」

「人族嫌いで名を馳せた氷の女王様だって、ジョシュア君の言葉に耳を傾けて許してくださったのだ。ならば私だって、炎の女王様とフラム様に誠心誠意謝罪し、赦しを乞うべきだと……そう思ったのだ」

秋の陽気のようなほんのりと肌寒い空気の中を、アレクシスが歩きながら独白する。

それは、アレクシスのこれまでの心情と気付きの劇的な変化。

それまでアレクシスは、炎の洞窟の主達のことをずっと天上人のように崇め奉っていた。

それは決して間違いではないし、これからも敬意を払い続けていくことに変わりはない。

しかし、憧れの存在をただ遠くから眺めているだけではなく、直接触れ合うことも可能なのだということを、アレクシスは今回の事件を経て悟った。

その橋渡し役こそレオニスに担ってもらうが、一度交流して知己を得られればその後はアレクシスの方でも努力して親交を深めていけるだろう。

貴族特有の社交術はもとより、アレクシス自身が朗らかで人好きのする善良な性格なので、炎の女王達もきっと彼のことを気に入り受け入れるに違いない。

静かに語るアレクシスの独白に、レオニスが小さく微笑みながら頷いた。

「……そうだな。炎の女王もフラムも、優し過ぎるくらいに優しい性格だからな。アレクシス、あんたのこともきっと俺達と同じくらいに気に入ってくれるさ」

「そうだといいのだがな。しかし……私は炎の洞窟の異変に際し、長年手を拱いているばかりで結局は何もできずにいた無能な領主だ。それを思うと、炎の女王様達に申し訳なくてな」

レオニスの励ましに、一度は顔を曇らせたアレクシス。

かつてプロステスの街を危機に陥れた件―――禍精霊【火】とその原因、炎の女王に埋め込まれた穢れ。

それを自らの手でなく 部外者(レオニス) に委ね解決してもらったことが、彼の中では今でも悔やまれることだった。

しかし、それこそ致し方ないことだ。

当時のアレクシスは根本的な解決策を模索しながらも、真夏の猛暑で増え続ける死者数を何とかして抑えるために必死に駆けずり回っていたのだから。

レオニスだって、そうしたアレクシスの苦悩を知っている。

だからこそレオニスは、努めて明るい声で叱咤激励した。

「何だ、あんたらしくねぇな? 炎の女王達はそんなこと全く気にしてねぇし。俺達だって友達になれたんだから、アレクシスだって炎の女王達と友達になれるさ!」

「……そうか、うん、そうだよな。レオニス君の言う通りだ。私だってレオニス君やライト君に負けてはおれん。炎の女王様とフラム様に認めてもらって、いつかは大親友と呼んでいただけるようにならねばな!」

「その意気だ」

俯き加減だったアレクシスの顔が、徐々に上向きになっていく。

そして最後には、天高く掲げた拳にグッと力を込めて握りしめながら、並々ならぬ意欲を燃やす。

その姿はまるで、どこぞの覇王もしくは拳王を彷彿とさせる世紀末的オーラを感じさせる。

その意気込みは、かつてプロステスを死の街に追いやりかけた熱気すらも上回りそうだ。

そんな話をしているうちに、炎の洞窟の入口に辿り着いた。

入口手前でレオニスが魔物除けの呪符を使い、五人は炎の洞窟の中に入っていった。