軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1665話 火の姉妹の強い絆と奥の手

「ぅぉー、 痛(いッて) ェー……」

「そりゃそうだろう。ッたく、このご主人様は今日も無茶しやがって……」

「そんなん仕方ねぇだろう、フラムを止める方法なんて他になかったんだからよ」

「まぁな……」

地べたにドカッ!と胡座で座り込み、濃縮エクスポーション片手にラウル特製巨大おにぎりを頬張るレオニス。

レオニスの顔や首には火傷で大きく爛れた箇所がいくつもあり、濃縮エクスポーションを飲む毎にその効果によって皮膚がじわじわと再生されていく。

その治りかけの皮膚をそっと撫でては、時折「痛ッ!」と小声で叫んでいた。

そんなレオニスに、ラウルが呆れたようにその蛮勇さを窘めている。

というか、エクスポーションとおにぎりは絶対に合わないと思うのだが。

レオニスがラウルに「腹減った……何か腹に入れるもんをくれ!」と言うので巨大おにぎりを出したところ、レオニスがお茶代わりに濃縮エクスポーションを出してこの組み合わせとなった。

相変わらず大雑把な 主人(レオニス) だが、 執事(ラウル) の方も何だかんだ言いつつ主人に従い美味しいものを提供する良いコンビである。

そうした軽妙なやり取りを交わす主従の横で、フラムが身体を小さくしながらレオニスに謝っていた。

『レオニス君、ホントにごめんね……君にまで、こんな大怪我を負わせちゃって……』

「いやいや、そんなん気にすんな。俺が勝手にやったことなんだしよ。それより、フラムの方はもう大丈夫なのか?」

『うん……もともとボク自身は、特に怪我とかしてた訳じゃないしね……』

「ならいい。フラムが無事でいてくれたなら、それで十分だ」

『レオニス君……ありがとう……』

相変わらず度量の大きいレオニスに、フラムが恐縮しながらも感謝を述べる。

レオニスが身を挺してフラムを抑えつけていなかったら、今頃この炎の洞窟は崩壊していたかもしれない。

それくらいに、激怒して正気を失ったフラムが無差別に撒き散らす豪火は凄まじかった。

一方で、レオニス達の少し横では炎の女王が火の女王と風の女王の治療?を受けていた。

『火の姉様……妾はもう大丈夫ですので、フラム様の方を診てやってくださいまし……』

『何を言うておるかな、この妹めは……フラム様の狂気は、其方が倒れたことで引き起こされたものなのだぞ? ここでまた其方が倒れるようなことになれば、今度こそフラム様も無事では済まぬというに』

『そうよ!火のお姉ちゃんの言う通りよ!フラム様の元気を願うなら、まずは炎のお姉ちゃんが完全に元気にならないとダメなんだからねッ!』

『うぬぅ……火の姉様だけでなく、風の姉様まで手厳しいのぅ……』

速攻で二人の女王からダメ出しを食らった炎の女王。

頬をぷくーっ!と膨らませて、口まで尖らせながら愚痴を零している。

ちなみに炎の女王と風の女王、両者ともに互いのことを『炎のお姉ちゃん』『風の姉様』と呼んでいるが、どちらも正しい。

風の女王は約二年前に代替わりしたばかりなので、他の属性の女王全てがお姉ちゃんに思える。

そして炎の女王から見た風の女王は、地水火風の四大属性で上位属性。火から派生する炎にとって、上位属性とはそれだけで敬称をつけるに値する存在なのである。

そんな炎の女王の両脇で、火の女王と風の女王が意気投合していた。

『うむ、風の女王、其方も良いことを言うのぅ』

『あら、そうかしら? ウフフ、火のお姉ちゃんに褒められちゃったー♪』

『風の女王よ、すまぬがレオニスかラウルから神樹の枝をもっともらってきてくれぬか?』

『はーい♪』

火の女王にお遣いを頼まれた風の女王が、いそいそとレオニス達の方に駆け出していく。

その後ろ姿を見ていた炎の女王が、さらにむくれながら呟く。

『……火の姉様ってば……初めて会ったばかりの風の姉様と、すぐにあんなに仲良くなるなんて……』

『何だ、炎の女王よ。其方、ヤキモチを妬いておるのか?』

『ッ!?!?!? ……そう、かも、しれません……』

俯きながらぶつくさと不満を漏らす炎の女王の顔を、火の女王がヒョイ、と覗き込みながら不思議そうに問いかける。

火の女王に思いっきり図星を指された炎の女王。一瞬ギョッ!?とした顔になった後、俯きながらも素直に白状した。

その顔は普段よりも赤みが差していて、己自身全く気づいていなかった嫉妬心を恥ずかしく思っているようだ。

そんな炎の女王に、火の女王がフフフ、と小さく笑いながら優しく頭を撫でた。

そして炎の女王の身体をそっと引き寄せて、優しく抱きしめた。

『そんなに心配せずとも良い。妾にとって、属性の姉妹達は等しく大事な家族。だが……その中で最も大事なのは炎の女王、其方一人ぞ』

『そそそそんな、心配などしておりませんが……でも、火の姉様にそう言っていただけると……妾も、嬉しいですぅ……妾も、火の姉様が、一番、大事、ですから……』

ニコニコ笑顔で頭を撫でながら抱きしめる火の女王。

炎の女王が姉の胸に顔を埋めながら、さらに顔を真っ赤にして照れ臭そうに笑う。

それは同属性同士のより強い絆故か、何とも仲睦まじい姉妹であった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

火の姉妹が温かい交流を深める少し前のこと。

レオニスは巨大おにぎりを食べ終える直前に、早々と二個目のおかわりをしていた。

「ラウル、もう一個おにぎりをくれ」

「はいよー。てか、そのおにぎりを作った俺が言うのも何だが、よくそんなに食えるな? それ、ラキさん達用に作ったおにぎりだぞ?」

「ン? それなら全く問題ねぇな。ラキ達が食うもんなら俺に食えん道理はねぇからな」

「そういう問題じゃねぇだろう……」

二個目の巨大おにぎりをもっしゃもっしゃと頬張るレオニスに、ラウルがほとほと呆れている。

オーガ向けに作られた巨大おにぎりを一個全部食べきるだけでも驚異的だというのに、さらにそのおかわりをねだるのだからラウルが呆れるのも当然である。

しかし、レオニスの要請をラウルが断ることはない。

特に食べ物に関しては、お腹いっぱいになるまで食べてもらうことこそラウルの信条の一つでもある。

ラウルは呆れつつも、空間魔法陣を開いて二個目のおにぎりを取り出した。

そしてそれをレオニスに渡す手前で、ふとラウルが呟いた。

「……なぁ、ご主人様よ。俺はたった今、思い出したことが一つあるんだが」

「ン? 何だ?」

「俺達、こういう時のために小さなご主人様から分けてもらった アレ(・・) があるよな?」

「………… アレ(・・) か。そういやライトからもらってたよな」

ラウルの言葉に、レオニスもはたとした顔になる。

二人してそれぞれの空間魔法陣を開き、ほぼ同時に取り出したそれは、かつてライトが七夕イベントで得たエリクシルだった。

二人はそれぞれ手に持ったエリクシルの小瓶をじっと眺めていたが、先に口を開いたのはラウルだった。

「これをおにぎりに一滴垂らせば、ご主人様の火傷の痕も綺麗さっぱり消えるんじゃね?」

「ンー……この程度の火傷なら、塞がりさえすりゃ問題ねぇんだがな……」

「いやいや、問題はあるだろう。その傷痕を見たら、ライトだけでなくラーデやマキシだってものすごく心配するぞ?」

「そりゃそうか……」

ラウルの提案と説得に、一度は否定的な答を返したレオニスも最後には頷く。

確かにラウルの言う通りで、もしこれが立場が逆だったらレオニスだってものすごく心配するだろう。

ライトやマキシ、ラーデが自分と同じような大火傷を負っていたら、絶対にエリクシルを惜しみなく与えるに違いない。

そう思うと、ここでケチケチしてなどいられないことはレオニスにもすぐに理解できた。

「……じゃ、早速一滴いただくとするか」

「ご主人様も、エリクシルを飲んだことがあるんだよな?」

「ああ。ラキが屍鬼化の呪いを受けた時に、ラキの近くにいた者達全員に念の為にエリクシルを飲んでもらってな。そん時に俺も一滴飲んだ」

「ああ、オーガの里が単眼蝙蝠や屍鬼将ゾルディス?だかに襲われた時のことか」

「そうそう、それそれ」

エリクシルの使用経験を語りながら、レオニスが小瓶の蓋をそっと開ける。

蓋を開けた途端に馥郁たる香りが漂い、近くにいたフラムまでもがうっとりとした表情になっていた。

それを見たラウルが、フラムに声をかけた。

「……良かったら、フラムもエリクシルを飲んでおくか?」

『え"ッ!? ボクまでもらってもいいの!?』

「もちろん。だってフラムも、さっきまであんな状態だったんだからな。今だって、結構っつーかすっごく疲れてるだろ?」

『う、うん……それじゃあラウル君のお言葉に甘えて、そのすっごく美味しそうなのをボクもいただこうかな……』

ラウルの提案に、フラムがおずおずとしながらも嬉しそうに受け入れた。

傷を負っているのは、何もレオニスばかりではない。フラムだって狂気に呑まれている間に、心身ともにものすごく消耗したはずだ。

命を削るかのような咆哮や暴走で失ったエネルギーや損耗を修復するには、エリクシルはもってこいのアイテムなのである。

しかし、問題は『液状のエリクシルを、フラムにそのまま与えてもいいものなのか?』である。

いつものお茶会では、火の姉妹には時折ココアを出すくらいで基本的に飲み物はあまり出さない。

これも火属性の女王達に水気は必要がなく、属性の相性的にも良くないことが原因である。

特に今回のエリクシルは、一滴あれば効果が十全に発揮される。

しかし、火の化身相手に一滴だけの水分というのは、少し考えただけでも相当分が悪いことは明白。

フラムの口に一滴垂らしたところで、口の中に届く前に蒸発してしまったら意味がない。

「……そしたら、フラムが大好きなシュークリームにエリクシルを一滴垂らして、それを食べてもらうことにしよう」

『シュークリーム!? わーい!!ラウル君、ありがとう!!』

ラウルが呈した解決策に、フラムが目を輝かせて喜んでいる。

フラムの大好物にエリクシルを一滴垂らして食べさせる―――これは、フラムにとって一石二鳥の最善策だ。

美味しいおやつを食べることができて、その上エリクシルの絶大な効果も身の内に取り込める。

これ以上ない魅力的な提案に、フラムが大喜びするのも当然である。

レオニスが自分のエリクシルを巨大おにぎりに一滴垂らし、速攻でもっしゃもっしゃと食べ進める間にラウルも空間魔法陣からシュークリームを取り出して、エリクシルを一滴垂らしてフラムに与えた。

「うおおおおッ……やっぱエリクシルは効くなぁ!」

『ンー……すっっっ……ごく美味しいー!』

エリクシル入りの美味しい食べ物を食べるレオニスとフラム。

二人して感動しながら感嘆の声を上げている。

レオニスの頬や首筋にうっすらと残っていた火傷の痕がスーッ……と消えていき、フラムの疲れきった身体にもどんどんと力が湧き続けていた。

するとここで、火の女王のお遣いを果たすべく風の女王がレオニス達のもとに来た。

『ねぇねぇ、レオニスー、ラウルー、さっきの木の枝をもっとくれるー?』

「お、風の女王か。風の女王もお疲れさん、いろいろありがとうな。……って、神樹の枝の追加が要るのか、今すぐ出すから少し待ってな」

『うん、火のお姉ちゃんからそう頼まれたのー。……って、なーんかすっごく良い匂いがするわね?』

木の枝を要求する風の女王に、レオニスがまずは労いの言葉をかけながら早速木の枝を空間魔法陣から取り出す。

その間に風の女王が、辺りに漂う芳しい香りにすぐに気づき、鼻をくんかくんかさせている。

「あー、これはエリクシルと言ってな、瀕死の重傷でもたちまちに治してくれるすっごいアイテムなんだ」

『何ソレ、スゴイ!』

レオニスから芳しい香りの正体を聞いた風の女王が、目を大きく見開いて驚いている。

そしてここで、レオニスがはたとした顔でラウルに声をかけた。

「ちょうど今、俺とフラムが飯を食うついでにエリクシルを摂ったんだが……炎の女王と火の女王にも、エリクシルを摂らせた方がいいよな?」

「そうだな。そしたら二本の神樹の枝にエリクシルを一滴づつ垂らして、それを炎の女王と火の女王に一本づつ与えればいいんじゃね?」

「だな、そうするか」

レオニスが手に持っていた神樹の小枝の一本をラウルに渡し、自分も一本だけ残して他を全て風の女王に渡した。

そうしてレオニスとラウルが、それぞれに手に持った神樹の小枝にエリクシルを一滴垂らした。

「よし、そしたらこれを炎の女王と火の女王に届けに行くか」

『いいわね!その木の枝を食べれば、炎のお姉ちゃんも火のお姉ちゃんもすっごく元気になると思うわ!』

「だろ? じゃ、皆で炎の女王達のところに行くか」

『『うん!』』

大量の小枝を腕いっぱいに抱えながら、意気揚々と火の姉妹のもとに飛んでいく風の女王。

レオニスもよっこらしょ、と言いながら立ち上がり、ラウルやフラムとともに風の女王の後をついていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

そうして行った先で、仲睦まじく抱きしめ合う火の姉妹の麗しい姉妹愛を見たレオニス達。

その感動的な場面に、人目も憚らず涙する人族と女王が一人づつ。

『遠く離れた姉妹の再会……ううッ、何て感動的なんでしょう……』

「全くだ……兄弟姉妹ってのは、どんなに遠く離れていても思い合うもんだもんなぁ……」

『うんうん。属性の女王達の絆って本当に強くて、互いを思い遣る心がすっごく素敵だよね』

『炎のお姉ちゃんも、火のお姉ちゃんに会うことができて、本当に良かったわねぇぇぇぇ』

「ああ、俺も貰い泣きしちまうぜ……頼れる兄貴や姉貴ってのは、本当にいいもんだよなぁ」

『私もいつか、同じ風属性の雷の女王ちゃんに会いたいわぁ……』

『僕も天空島にいるという神鶏達といつか会いたいな。……って、その前に四神仲間のフラム君とじっくりお話ししなくっちゃ!』

滝の如き涙をダバダバダーと流すレオニスと風の女王。

どうやら炎の女王と火の女王の劇的な救出劇後の仲睦まじい対面の様子に、二人して思いっきり貰い泣きしているようだ。

そしてその中に何故かゼスも加わっていて、火の姉妹の温かい交流を嬉しそうに見守っていた。

そしてそれらの珍妙な光景に気づいた火の女王が、不思議そうな顔でレオニス達に問うた。

『……其方達、何をそんなに泣いておるのだ?』

「ぁぁ、ぃゃ、炎の女王が無事回復したようで、本当に良かったと思ってな……」

『うんうん、ワタシもレオニスに無理言ってここまでついてきて、本当に本当に良かったと思って……』

ラウルから無言で渡されたフェイスタオルで、顔をぐしぐしと拭いながら火の女王の問いかけに答えるレオニスと風の女王。

タオルを顔にべったりと当てて、両手でゴシゴシと上下に擦る動作が全く同じでシンクロしている。

そんな面白おかしいことになっている二人を笑うことなく、火の女王が真摯に頭を下げた。

『……ああ、それについては本当に感謝している。其方達がいてくれなければ、妾一人だけでは決して炎の女王達を救いきれなかったであろう』

「いやいや、こっちこそ本当に助かった。本当は俺もすぐに火の女王に知らせて、この窮地を救ってもらうつもりだったんだが……俺がここに来た時点で、転移門は石柱が壊れてて動かせねぇし、炎の精霊も全員暴走しててな。火の女王に連絡を取る手段が尽く使えなくて、どうにも手詰まりだったんだ」

『そうだったのか……いずれにしても、其方達にはどれだけ感謝してもしきれぬ。我が妹の命を救ってくれて、本当にありがとう』

改めて深々と頭を下げる火の女王。

炎の女王がレオニス達に命を救われたのは、これで二度目。

彼女の言うように、その恩義は計り知れない。

そしてそれは炎の女王自身にも言えることで、火の女王の向こう側にいた炎の女王もレオニス達に頭を下げた。

『妾からも礼を言わせてくれ。妾だけでなく、フラム様の命をもお救いしてくれたこと、本当に感謝している』

「何、俺達は困っている友達のために手を貸しただけだ。なぁ、ラウル?」

「ご主人様の言う通りだ。炎の女王もフラムも、俺達の大事な友達だからな。友達が困っていたら、手を差し伸べるのは当然のことだ」

『ありがとう……妾もフラム様も、たくさんの善き友に恵まれて幸せ者だ』

感謝を述べる炎の女王に、レオニスがニカッ!と笑いながらラウルに話を振る。

話を振られたラウルも、さも当然とばかりにうんうん、と頷いていた。

火の精霊の頂点たる女王姉妹と人族、そして妖精。

本来なら交流を持つ事自体が稀であろう異なる種族。

その奇跡的な出会いと支え合いに、この場にいる者全員が感謝の念を抱いていた。