軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1664話 決して諦めない強い意思

「火の女王!? どうしてここに……!?」

突如現れた火の女王に、ラウルが驚きながら彼女のもとに駆け寄る。

だが、当の火の女王は涼しい顔でラウルに問いかけ続けた。

『仔細は後で話す。今はこの状況を収める方が先であろう』

「ッ!!……確かにそうだな」

『というか……ここは炎の洞窟なのだよな? 妾の知る炎の洞窟とは、到底似ても似つかぬ有り様なのだが……この炎の洞窟で、一体何が起きている?』

怪訝な顔で周囲を見回す火の女王。

炎の女王と交流を持つようになって以来、火の女王もこの炎の洞窟を何度も訪れていた。

それだけに、今の赤黒い炎が渦巻き満ち満ちている現状は信じ難い光景であろう。

そんな火の女王に、ゼスが声をかけた。

『……それは、実際に見てもらった方が早いと思う。二人とも、こっちに来て』

ゼスの呼びかけに応じ、ラウルと火の女王が彼の後をついていく。

そうしてゼスの案内の先にいたのは、仰向けに倒れている炎の女王。そして彼女の横に付き添い、懸命に看病する風の女王だった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

『炎の女王!? 何故だ!!どうして妾の妹がこんなことになっている!?!?!?』

愛しい妹の無惨な姿に、火の女王が目を極限まで開きながら駆け出した。

火の女王は風の女王の向かい側にガバッ!と座り込み、炎の女王に向かって声をかけた。

『炎の女王、しっかりしろ!』

『……火の……姉様……』

『無理に口を開かずともよい!今妾の魔力を分けてやるから!』

『……姉……様……』

突如現れた火の女王に、風の女王が『えッ!? 火のお姉ちゃん!?』と驚いている。

そして炎の女王は、愛する姉の顔を見て嬉しそうに微笑む。

しかしその微笑みはとても弱々しいもので、今にも消えてしまいそうな儚さを漂わせていた。

それを見た火の女王の身体から、青白い火がブワッ!と大きく噴き出した。

火の女王は炎の女王の胸に両手を翳し、全力で魔力を注ぎ始めた。

するとどうだろう、炎の女王の胸にぽっかりと開いていた大きな穴が少しづつ小さくなっていくではないか。

炎は火の一部であり、炎の上位属性に当たる。

四大属性にして炎の根源である火の女王ならば、炎の女王の危機を救えるに違いない―――レオニスの考えは間違っていなかった。

しかし、次第に火の女王の顔が険しくなっていく。

何故かというと、炎の女王の回復速度が火の女王の予想よりはるかに遅かったからだ。

火の女王が全身全霊全力で火の魔力を分け与えているというのに、炎の女王の胸の穴がなかなか塞ぎきれない。

このことに、火の女王は内心で焦りを覚えていた。

火の女王の額に蝋燭の火のような汗が滲み出て、頬や首筋を伝う。

そんな懸命な火の女王の向かい側で、風の女王が小さな声で『火のお姉ちゃん、頑張って!』『炎のお姉ちゃんも、もう大丈夫よ!火のお姉ちゃんが来てくれたんだもの!』と、火の姉妹に向かって一生懸命に励ましていた。

その小さな声に気づいた火の女王。

ふと頭を上げて風の女王を見遣った。

『……ン? 風の女王、其方、良い物を持っておるな?』

『え???…………コレ?』

『そう、それだ。それを全部こちらに寄越せ』

火の女王の思いがけない言葉と視線に、風の女王が己の胸元を見る。

風の女王が持っているのは、先程レオニスから託された神樹の小枝。

火の女王は目敏くそれを見つけ、自分に寄越せと言っているのだ。

『わ、分かったわ!はい!!』

火の女王の指示に、全く疑うことなく素直に従う風の女王。

全ての小枝を一気に渡そうとして、数本どころか十本くらいの小枝が零れ落ち、炎の女王の身体の上にパラパラと落ちた。

『あばばばば……ごごごごめんなさい、今すぐ拾うわ!』

『ああ、良い、気にするな。落ちたのも炎の女王の身体で役に立つであろうて』

そそっかしい風の女王が慌てて火の女王に謝るも、火の女王は全く意に介さずフォローしている。

そして風の女王から神樹の小枝を両手で受け取った火の女王。

彼女が握りしめた手の中で、神樹の小枝が勢いよく燃え盛っていた。

『おお……やはりこの枝が持つ魔力は尋常ではないな。みるみるうちに力が漲ってきたわ』

『火のお姉ちゃん、この枝がもっと要るならレオニスに頼んでこようか?』

「火の女王!神樹の枝が要るなら、俺もたくさん持ってるぞ!」

風の女王の言葉に、火の女王の後ろで一連の流れを見守っていたラウルが慌てて声をかける。

しかし、火の女王は不敵な笑みを浮かべながら二人の問いかけに答えた。

『その必要はない。これだけあれば十分だ』

神樹の小枝から大量の魔力を得た火の女王。

改めて風の女王とゼスに向かって声をかけた。

『……風の女王、そして風の女王の相方よ。今から妾が炎の女王に全身全霊を以って魔力を与える。其方らは妾達姉妹に向けて、良き風を与えよ』

『わ、分かったわ!バルト様、お願いします!』

『もちろんだよ!僕も今ここで全身全霊を賭ける!!』

火の女王の頼みに、風の女王とゼスが快諾した次の瞬間。炎の女王の周りで、強力な風の渦が発生した。

その風はまさに台風並みで、ラウルなどゼスの後ろで彼の身体にしがみついていなければ一瞬で吹き飛ばされてしまう程の猛烈な勢いだった。

辻風神殿組の全力サポートを受けて、一時は衰えかけた火の女王の全身の火の勢いが一気に回復した。

その隆盛は元通りどころか、かつてないくらいの豪勢さを見せつけていた。

そして火の女王が改めて炎の女王の身体に両手を翳した。

『炎の女王、我が愛しい妹よ……我が力を受け取れ。そして妾達のもとに、 疾(と) く戻ってくるのだ』

火の女王の優しい笑みとは裏腹に、より一層強い青白い火が彼女達火の姉妹を包み込む。

そのあまりの眩さは、思わずラウルが右腕で自身の目を庇う程だった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ラウル達が懸命に炎の女王の命を救おうとしていた頃。

レオニスは未だ暴れ回るフラムを必死に抱きとめていた。

「フラム……痛いよなぁ、辛いよなぁ……」

『ギエエエエァァァァッ!!』

「でも、もう少しだけ待ってくれ。さっき火の女王が来てくれたようだから……きっと、きっと火の女王が……炎の女王を、助けてくれるから……」

『キャアアアアァァァァッ!!』

優しい口調でフラムに語りかけるレオニス。

そうしている間にもレオニスの皮膚は火傷を起こし、髪が焦げ落ちていく。

レオニスの説得の言葉など、フラムの大絶叫に掻き消されてほとんど聞こえない。

しかし、レオニスが諦めることなどない。

フラムや炎の女王が心身に受けた深い傷を思えば、今自分が受けている痛みなど序の口にもならない。

俺は絶対に諦めない。フラムも、炎の女王も、どっちの命も絶対に何とかしてみせる!

レオニスのそうした強い思いで根気よくフラムに語りかけているうちに、本当に少しづつだがフラムが発する赤黒い炎の規模が小さくなっていった。

そうしてどれ程の時間が経過しただろうか。

レオニスの後ろから聞き慣れた声が聞こえた。

『……フラム様……』

それは、火の女王とラウルに両脇を支えられながらゆっくりと歩いてきた炎の女王が呼びかけた声だった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

『フラム様……妾は、この通り……大丈夫に、ございます……』

『キエエェェ……』

『だから……だから、どうか……いつもの、お優しい、フラム様に……戻って、くださいまし……』

『クアアァァ……』

ラウルと火の女王に支えられた炎の女王が、フラムを真っ直ぐに見上げながら語りかける。

その声はかなり小さく、とても大丈夫とは思えない弱々しさだ。

だがそれでも、炎の女王は嫋かな笑みを浮かべている。

これ以上フラムに心配をかけまいと、炎の女王は気丈に振る舞っていた。

そして炎の女王の顔を見たフラムの動きが、ピタリと止まった。

それまで全く定まっていなかったフラムの虚ろな目に次第に光が宿り、全身から噴き出していた瘴気紛いの禍々しい炎も本来の美しい紅蓮の炎に戻っていく。

それを見たレオニスが、もう大丈夫、と判断してフラムからそっと離れた。

炎の女王がフラフラと宙に浮き、レオニスと入れ替わるようにすれ違いフラムの首っ玉に抱きついた。

『……炎の、女王、ちゃん……』

『フラム様……妾が、弱い、ばかりに……フラム様に、心配ばかり、かけて……申し訳、ございません……』

『そんな、こと、ないッ!……ボクが……ボクが弱いから、炎の女王ちゃんを……守れなかったんだ……ごめんね……ごめんねぇ……』

それまで憤怒と嘆きに満ちていたフラムの涙が、今度は自責の念に駆られた悲しみの涙に変わっていく。

幼子のようにシクシクと泣くフラムを、炎の女王が愛おしそうに抱きしめる。

『フラム様……妾は、ずっと……ずっと、フラム様の、お傍に、おります故……』

『うん……うん……ボクだって、ずっと……ずっと、炎の女王ちゃんと、いっしょにいる、からね……』

フラムの首に抱きつく炎の女王を、背後から支えるようにフラムがその大きな両翼でそっと包み込む。

蘇った炎の洞窟の主達の深い絆に、周りで見守っていたレオニス達も安堵の笑みを浮かべていた。