軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第166話 過去の夢再び

ヴァレリアの気配が神殿周辺から完全に消えた後、ライトはへたり込むようにその場に座り込んでしまった。

ライトが今まで抱え込んでいた誰にも言えない秘密を、こんな形で誰かと語り暴露されるなどとは夢にも思っていなかったからだ。

暴露といってもこの場にはライトとヴァレリア、名無しの巫女改めミーアしかいないので、実質的にはヴァレリア以外にはまだ誰にも知られていないのだが。

緊張の糸が切れたかのようにへたり込んでしまったライトのもとに、ミーアが心配そうな表情で駆け寄ってくる。

『勇者様、大丈夫ですか?』

ライトから見たらミーアの身体はまだ透けており、実体化には至っていない。故にミーアからライトの身体に触れようとしても触れられないまま通過してしまうのだが、それでも前回転職神殿に来た時よりも透けてる感が薄まって姿形がより見えてきているように思える。

「うん、大丈夫……ありがとう、ミーアさん」

ライトに初めて己の名前を呼ばれたことが嬉しかったのか、ミーアの顔は花が咲いたかのように綻ぶ。

とりあえずその日の主目的だった職業【忍者】へのクラスアップを完了させ、ライトは早々に帰途に着いた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

覚束ない足取りでカタポレンの森の家に帰ると、レオニスはまだ帰ってきていないようだった。

ライトは着替えもそこそこに、自室のベッドの上にぽすん、と倒れ込むようにして横になった。

「はぁぁぁぁ、疲れたぁぁぁぁ……」

ライトの口から思わず零れた言葉だが、偽らざる本音中の本音でもある。

ヴァレリアと対峙したのは時間にして10分、いや、5分程度もあるかないかというところだろう。

だが、そのたかが5分の間に起きた数々のことが衝撃的過ぎたのだ。ライトの心労はピークに達していたのだろう、そのままベッドで寝てしまっていた。

「ただいまー。…………って、何だ、ライト寝てんのか」

レオニスが森の警邏から帰ってきたようだ。

「……ま、ここ最近ずっとバタバタしてて忙しかったからな。明日は日曜日だし、このまま好きに寝かせといてやるか」

レオニスはライトの身体をベッドにきちんと寝かせて、布団をそっと掛けてやるとそのまま部屋を静かに出ていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ここは……どこだ?

俺は、何をしている?

辺りは暗く、ほんのすこしの先もよく見えない。

しばらくして目が暗闇に慣れてくると、周囲の異様さが浮かび上がる。

壁は赤黒くところどころが泡立つように膨れ、牙や角のような突起がいくつも上下左右に生えている。

赤黒い壁はドクン、ドクン、と鼓動のように波打ち、そのグロテスクな光景はまるで己が肉塊の中に飲み込まれたかのような錯覚さえ覚える。

状況把握のために周囲を見回していると、背後から魔物が飛びかかってきた。

『キュイイイィィィ!!』

『シャアアアァァァ!!』

『グルァァァァァ!!』

触手が何本も生えたようなギガローパー、巨大なヒトデそっくりのグラトニル、真っ赤な巨体に多数の眼球がギョロリと動き続ける深きものども。

如何にも厳つくて強力そうな巨大な魔物どもが、四方八方から俺を目がけて襲いかかる。

だが、俺の敵ではない。

蚊ほどのダメージも食らうことなく、魔物どもを全て一撃で薙ぎ払う。

準備運動にもならないな、と思いながら日々愛用している得物ガンメタルソードを一振りし、魔物の体液を払ってから背に仕舞う。

剣を背に仕舞ったその時、俺の背後からパチパチパチ、と拍手の音が聞こえてきた。

反射的に振り向くと、そこには一人の若い女が拍手をしながら立っていた。

『いやー、君、すごいね。この廃都の魔城の最奥部の魔物がまるで歯が立たず、赤子を捻るも同然とは』

『君、勇者候補生でしょ?』

『そちらさんも人工勇者育成計画は順調に進んでいるようで、何よりだね』

その女は俺があれこれ聞く前に、一人で勝手にペラペラと喋っている。

だが、その存在は胡散臭いことこの上ない。

見たところ剣も杖も何も持っていない、丸腰状態の女が一人で来れるような場所ではないからだ。

俺が訝しがっているのが伝わったのか、少しだけ我に返ったような顔をした。

『おっと、そんなに怪しまないでおくれ。私はそこまで怪しい者ではないから』

『私はヴァレリア。この城の中に住まう者さ』

いや、この魔城の住人ってだけで十分に怪しいだろう。

というか、怪しいどころの話じゃない、普通に敵だよな?

俺は背にあるガンメタルソードの柄に手をかける。

『いやいや、ちょっと待ってって。本当に怪しい者ではないし、君の敵でもないよ?』

『……って、この城に住んでる時点で疑われても致し方なし、か』

『でもね、君の敵じゃないってのは本当に本当のことだよ。信じてほしい』

そう言いながら、ヴァレリアは俺の方に向けて掌を広げたかと思うと、次の瞬間その掌からとんでもない衝撃波が放たれた。

その衝撃波は俺の左頬を掠めながら、俺の背後に近づいてきていた暴霊竜を一撃で屠る。

今彼女が屠った暴霊竜は、このフロアに数種類いる中ボス的存在のひとつだ。

HP67890、物理特攻力が強い魔物。俺には愛用のガンメタルソードがあるし難なく倒せるが、間違っても武器ひとつ持たない無防備な女が一撃で倒せるような魔物ではない。

この女、本当に一体何者なんだ?

『……ね?とりあえずちょっとだけ、私の話を聞いてくれるかな?』

鮮緑色の髪を掻きあげながら、紅緋色の瞳が俺を捉える。

その真っ直ぐな視線には、有無を言わさぬ圧と強い意志が垣間見えた。

「……いいだろう」

俺はひとまずその女の話を聞くことにした。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「………んぁ………」

ライトが目覚めた頃には、窓の外は既にだいぶ日が落ちて薄暗くなっていた。

まだ眠たそうに目を擦りながら、ベッドからのそのそと起き上がるライト。

「ああ、今のは……冒険ストーリーの夢、か……」

転職神殿でヴァレリアという、数いるNPCの中でもかなり重要な鍵を握るであろう人物との邂逅。

その衝撃はライトにとって計り知れないほどに大きく、眠りの世界にも影響を及ぼしたのだろうか。

ライトはひとまず机につき、今しがた見ていた夢の内容とともに今日の昼間の転職神殿で起きた出来事を忘れないように、箇条書きで書き綴り始めた。