軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第165話 埒の内と外

感激の面持ちのヴァレリアは、ライトの肩を掴みながらガクガクと前後に振る。それに伴い、ライトの頭も前後にブンブンと揺さぶられている。

あまりにも激しく揺さぶられたせいか、ライトが目を回しながらキュウ、とぐったりしてしまった。

その様子に、名も無き巫女が慌ててヴァレリアの傍に駆け寄り止めようとする。ちなみに名も無き巫女は、ライト視点ではまだうっすらとした姿形のままだ。

名も無き巫女に止められたヴァレリアは、我に返り慌ててライトに謝罪する。

「ああっ、ごめん!私としたことが、あまりの嬉しさに思わず我を忘れてしまったよ!【 治癒術(ヒール) ・極大(アストロ) 】」

ライトの身体をキラキラとした温かい光が包み込む。

半ばぐったりとしたライトは、その光に包まれた直後すぐに目を覚ました。

「……これは……」

自分の身体から発する柔らかな光。ライトは自分の両の手の掌をじっと見つめる。

ライトは自分にかけられた術【治癒術・極大】が何であるかを知っている。

それは、魔法でもなければ魔術でもない。

僧侶系四次職【聖祈祷師】を極めた者のみが使えるスキルであった。

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【治癒術・極大】

対象者一人のHPを全回復させる、回復系スキルの最上位。

HP全回復だけでなく、麻痺毒や混乱、石化等の状態異常も全て解除できる。ただし、死者の蘇生はできない。

HPが最低限1以上、たとえ瀕死状態であろうともとにかく生存していることが大前提である。

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「いやもう本当にごめんね」

ヴァレリアが申し訳なさそうに、ライトに重ねて謝罪した。

その横で、名無しの巫女が頬を膨らませてヴァレリアを咎めるような視線で呆れ顔をしている。

「いえ、もう大丈夫です……ヴァレリアさんのスキルで治してもらいましたし」

「やっぱり君、職業のことだけでなくスキルのことも知ってるんだ……」

「…………」

ヴァレリアはまたも感激の面持ちになっているが、ライトはそれに答えず黙り込む。ここでどう答えていいものやら、皆目見当もつかなかったからだ。

「ライト君、だっけ?そんなに警戒しなくてもいいよ?」

「と言っても、警戒するなと言う方が無理な話だろうけど」

「何しろ今のこの世界の人間には、基本的に職業やスキルのことは一切伝わっていないからね」

ヴァレリアがさらっととんでもないことを口にした。

ライトは呆然とした顔になる。

「私の横にいるこの子から、君の話は聞いたよ。職業のことを知る人間が現れたってね。あ、この子の名前はミーアっていうんだけどね」

「故に私は君がこの世界の真のシステム、【職業システム】と【スキルシステム】のことを知り、全て理解しているという前提で話をしている」

「私の君に対する認識は、合っているかい?」

ヴァレリアから確認の質問をされたライトは、一瞬考えた後すぐに小さく頷いた。

この世界で職業システムのことを知るのは、唯一自分だけだ。そう思っていたところに、自分以外にも知る人間が現れたのだ。

おそらく彼女は自分の知らないことを知っているだろう。ならば、多少のリスクを侵してでも何かしら新たな情報を得たかった。

それに、先程予想した通り名無しの巫女から既にライトの存在を聞き及んでいるとなれば、もはや嘘をついて誤魔化そうとしても無駄だということが確定したも同然だった。

事ここに至れば、ヴァレリアの問いかけに否やは言えない。認めざるを得なかったのだ。

ライトの肯定に、ヴァレリアはさらに感激の面持ちでライトを見つめながら呟いた。

「ああ、ついに【勇者】が帰ってきたんだね……」

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ヴァレリアの爆弾発言に、ライトは驚愕した。

あまりにも予想外の言葉に、ライトはすぐに否定した。

「えっ!?ぼくが【勇者】!?そんなことあるはずないでしょう!?」

「どうしてそう思うんだい?」

「だって……ぼくは本当に、何の取り柄もない平民の生まれですよ?それにまだ10歳にもなってないから、ジョブも何も持ってないですし……」

「ジョブなんかなくたって、君には職業があるだろう?」

「……それは……」

ライトはヴァレリアの言葉に何と返せばいいのか分からず、二の句が継げなくなる。

おい、ちょっと待て、何の冗談だ?

よりによって俺が【勇者】だと?

こんな、何の力もない子供の俺が【勇者】?

魔法も剣技もなく、何一つできやしない子供だってのに?

一体何故、どうしてそんな話になる?

心臓の鼓動が高鳴り、激しい動悸がライトを襲う。足はガクガクと震え、その手や背中にはじっとりとした嫌な汗が滲んでくる。

職業のことを知っていると認めたのは、やはり間違いだったか―――ライトがそう考えていた、その時。

ヴァレリアは微笑みながら、ライトのそんな考えを容赦なく打ち砕く言葉を放つ。

「君、埒外の人間だろう?」

「この神殿内で、普通に動いて普通に話せることが何よりの証拠さ」

「だって埒内の人間は、この神殿内でのシステム起動時には―――」

その瞬間、一陣の強い風が吹いた。

ザザッ、ザァッ、ザザァッ……神殿の周囲に広がる樹々の枝が大きく揺れ、葉擦れの音が響き渡る。

「時が止まるからね」

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

樹々の枝を揺さぶる風が吹き荒れる。

だが、ライト自身は時が止まったかのように動かない。

いや、動けなかった。ヴァレリアの言葉があまりにも衝撃的すぎて、息をすることすら忘れてしまいそうなほどに身体も思考も止まってしまっていた。

頬を嬲るような強い風がだんだん弱まり、葉擦れの音も収まってきた頃ヴァレリアが再び口を開いた。

「……まぁ、急にこんなことを言ってもね、君の方も信じられないよね」

「そもそも私達、今初めて会ったばかりでお互いのことは名乗った名前以外何も知らない同士だしね」

「……いや、君の方は私のことをある程度は知っているんじゃないかな?」

和やかな笑みとは程遠い、薄笑いを浮かべるヴァレリアの鮮烈な紅緋の瞳が真っ直ぐにライトを捉える。

ヴァレリアの含みのある言い方に、ライトはまたも内心ドキッとさせられる。確かにライトはヴァレリアが名乗る前から、彼女のことを知っていたのだから。

まるで自分の思惑や考えていることなど何もかもお見通しだ、とでもいうかのような―――底知れぬ不気味さがライトにまとわりつく。

「そうだね、この続きはまた今度にしよう。君の方もいっぱいいっぱいのようだしね」

「とはいえ、また今度、といってもいつにしようか?」

「んー、そしたら君が四次職全部をマスターしたら……ってのは、さすがにキツいか。それじゃ何年も先の話になっちゃうだろうし」

「よし、そしたら今の斥候闇系の四次職【常闇冥王】をマスターすることを条件にしよう。四次職ひとつだけなら次に会うまでそんなに年月かからないだろうからね」

ライトが何かを言う間もなく、ヴァレリアがどんどん一人で決めていく。もっともライトの方も、自分の意見を述べるほどの余裕など全くないのだが。

ヴァレリアは改めてライトの方に身体を向き直した。

「【常闇冥王】だけでなく、君が四次職をマスターする度にまたここで会おうじゃないか。君だって、四次職マスター後にまた新たな職業に転職するためにどの道毎回ここに来なければならないし」

「四次職マスターする毎に強くなっていく君を見ることができるし、この世界もまだ若干の猶予はあるはずだからね」

「君がここに来る度に、私は私の知る真実を君に伝えよう」

「ミーア、そういうことで。次にこの子が四次職をマスターして新たな職業選択のためにここに来たら、すぐに思念飛ばして私を呼んでね」

「じゃ、またね。次に会える時を楽しみにしてるよ、ライト君」

ヴァレリアはそういうと、風に掻き消える霧のように姿を消した。

だが次の瞬間、また強い風が吹いたかと思うとその風に乗ってヴァレリアの声が響いた。

―――ああ、最後にひとつだけ。君は創造神の創り給いしシステムを全て使う権能を持っているよ。それを忘れずにね―――

風に乗ったヴァレリアの声が掻き消える頃には樹々のざわめきも収まり、チチチ……という小鳥の鳴き声だけが小さく響いていた。