軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1632話 サマエルの密かな望み

レオニス、ラウル、ラーデ、サマエル、サマエルの護衛の天空竜三頭でユグドラツィのもとを訪れた一行。

まずはユグドラツィと最も仲良しのラウルがユグドラツィに挨拶をした。

「よう、ツィちゃん、おはよう」

『おはようございます。今日はたくさんのお客人がいらっしゃいますねぇ』

「ああ。今日は大きなご主人様とラーデの他に、ラーデの息子とその護衛もいっしょに来たんだ」

『まぁまぁ、ラーデの息子さんですか。昨日の昼頃から、強大な魔力の持ち主がこの近くに来ていることは感じていましたが……そうでしたか、ラーデの息子さんならば納得です』

「そっか、やっぱツィちゃんも分かってたよな。……後でナヌス達にも話を通しておかなきゃな」

『フフフ、是非ともそうしてやってください』

挨拶がてら雑談を交わすラウルとユグドラツィ。

ここを訪ねる前から、ユグドラツィはサマエルの存在を感知していたようだ。

さすがはユグドラツィ、と感嘆するレオニス達だが、感心してばかりでもいられない。

ラウルが俯き頭をガリガリと掻きながら呟いたように、魔力の扱いに長けたナヌス達は今頃大騒ぎしていることだろう。

ラーデがこのカタポレンの森に現れた時だって、彼らは皇竜という特異な存在にすぐに気づき恐れ慄いたのだ。

その息子であるサマエルの来訪も、ユグドラツィ同様既に感知していて怯えているに違いない。

「そしたら俺がひとっ走りして、ナヌスやオーガ達にサマエルのことを伝えてくるわ」

「おお、そうしてもらえるとありがたい。ご主人様、よろしく頼む」

「おう、任せとけ」

『ナヌスの方々に、くれぐれもよろしくお伝えくださいね』

「ああ、ツィちゃんの言葉もちゃんと伝えよう」

レオニスの気遣いに、ラウルとユグドラツィが感謝の意を示す。

ラウル達の予想通りなら、一分一秒でも早くナヌス達を安心させてやらないと可哀想だ。

そしてラーデも続いてレオニスに声をかけた。

『我らの存在がご近所さんを騒がせてすまない』

「ン? そんなん気にするな。ラーデだって、もうこのカタポレンの森の住民なんだからよ!」

早速ナヌスの里に飛ぼうとしていたレオニスが、一旦動きを止めて振り返る。

そしてラーデを抱っこしているサマエルの前に歩いていき、申し訳なさそうな顔で謝るラーデの頭を優しく撫でた。

ラーデを抱っこしているサマエルは、口をへの字にして渋い顔をしている。

先程ラーデに『粗相のないように』と釘を刺された手前、グッと我慢して黙っているようだが、その顔には『貴様……小蟻の分際で皇竜たる父上の頭を撫でるなど……万死に値するぞ!』といった文句がありありと書かれているかのようだ。

しかし、サマエルが発する圧に屈するレオニスではない。

サマエルの文句なんざキニシナイ!とばかりにラーデに気安く接するレオニスの、堂々とした態度とニカッ!と笑う爽やかな笑顔にラーデは救われる思いだった。

「じゃ、ぱぱっと行ってぱぱっと戻ってくるから。その間皆はここで、ツィちゃんやハドリー達と仲良く遊んでてくれ」

「はいよー。ヴィヒトさんやラキさん達によろしく言っといてくれ」

「了解ー」

レオニスがふわり、と宙に浮き、改めてラウルと二言三言言葉を交わしてからナヌスの里がある方向に飛んでいった。

そうして数瞬の静けさが訪れた後、何者かがユグドラツィの幹の後ろからおずおずと現れた。

それは、ユグドラツィのもとで暮らしているハドリー達だった。

総勢十六体のハドリー達が、今いる来客者の中で最もよく見知ったラウルの足元にわらわらと集まってきた。

『ラウルパパ、こんにちはー』

『ラーデ君もこんにちはー』

『お客様達も、ようこそいらっしゃい!』

ラウルの膝にも満たない小さなハドリー達が、ラウル達を見上げながら挨拶をする。

ハドリー達が母と慕うユグドラツィに『ここにお客様が来たら、まず貴方達からご挨拶するのですよ』と教えられているので、仲良しのラウルやレオニス、ライトが来た時であっても必ずハドリー達は自ら挨拶をするのだ。

見た目も中身も幼い彼ら彼女らのラウル達を見つめる眼差しは、見知らぬ顔のサマエルや天空竜達にも必然的に向けられた。

『ラーデ君、お客様に抱っこされてるー』

『お客様は、ラーデ君のお父さんかお母さんなの?』

『白い羽根と尻尾のお色がラーデ君に似てて、とっても綺麗ね!』

ハドリー達のキラキラとした無垢な眼差しを一身に浴びるサマエル。

その一方で、サマエルに抱っこされているラーデは気が気でなかった。

サマエルのナチュラルな暴言癖が、この幼いハドリー達にも容赦なく浴びせられるのではないか、と内心で冷や冷やしていたのだ。

しかしそうしたラーデの危惧に反して、何故かサマエルは無言のまま動かない。

ふとラーデが頭を上げると、そこには目をキラキラと輝かせているサマエルがいた。

『父上……この小さな生き物は何ですか?』

『ン? この者達はハドリーという種族で、草木の精霊だそうだ。ここには十六体のハドリーがいて、神樹ユグドラツィとともに暮らしている』

『ハドリー……北の天空島にいるのとはまた違うのですね。神樹のもとには、このような小さき者が集うものなのですか?』

『いや、必ずしもそうとは限らないらしい。北の天空島のドライアドはどういう由来かは知らぬが、ここにいるハドリー達はレオニスやラウルの手で生まれた』

『何ですって!? 父上、それは真にございますか!?』

『うむ。我もその出生の場に立ち会った故間違いない。茶色い小さな卵にたくさんの大根を与えることで、見事ハドリーが孵化したのだ』

『?????』

ハドリーが何者かをラーデに問うサマエル。

どうやらサマエルは、ハドリー達のことが気になって仕方がないようだ。

そしてハドリー達の出生の秘密?を聞いたサマエル、怪訝な顔をして首を捻っている。

ラーデは自分の目で見たことを正直に話しているだけなのだが、サマエルにしてみたら茶色い卵から精霊が孵化するなど全く理解できないようだ。

これ以上ラーデから話を聞いても理解できない、とサマエルは思ったのか、今度はラウルに向かって問うた。

『ラウルとやら、父上が言っていることは本当か?』

「もちろん。全部本当のことだ」

『ファフ兄様がおられる不思議の森ならいざ知らず、この地上で精霊が卵から孵化するなど一度も聞いたことがないのだが……もしかして、そのダイコンとやらが何か特殊なものなのか?』

「いや? 大根ってのは野菜の一種で、俺がカタポレンの畑で育てたものを卵一つにつき二十五本の大根を与えたんだ。そうすることで、ここにいるハドリー達が生まれたんだ」

『……野菜というのは、食用可能な植物のことだよな?』

「それで合ってる」

『????? 何故それで卵が孵化するのだ?』

「それは俺にもさっぱり分からん」

ラウルから返ってくる答えに、サマエルの顔がますます怪訝になる。

ラウルもラーデと同じく、自身が実際に経験したことを正直に話しているだけなのだが。

とはいえ、何故茶色い卵からハドリーが孵化したのか―――その真相は現状ではライトだけが知っていて、ラウルには知りようもない。

サマエルが俯きながら目を閉じ、はぁー……と深いため息をつく。

かと思うと、キッ!と顔を上げたサマエル。

次の瞬間頭を真上にして、今度はユグドラツィに問いかけた。

『神樹よ、今の二人の話は真か?』

『ええ、全て紛うことなき事実ですよ。卵の孵化の瞬間には、当然のことながら私もここで 具(つぶさ) に見ていましたので』

『ならば神樹は、その茶色い卵とやらの入手方法を知っているか?』

『ハドリー達が生まれる前の卵のことですか?』

『そう、それだ』

サマエルの質問は、卵の孵化の是非ではなくその入手方法に移っていた。

『茶色い卵は、ライトの友達であるカーバンクルのフォルがどこかから拾ってくる、というのは聞いたことがありますが……そうですよね、ラウル?』

「ああ。フォルはライトがどこかから連れてきた瑞獣で、いつも何かしら珍しいものを拾ってくるんだよな」

『………………』

サマエルに聞かれたことに素直に答え、ラウルに確認を取るユグドラツィ。

ラウル達の話を聞いて、サマエルがしばし思案している。

そんなサマエルの様子を不思議に思ったのか、ラーデがサマエルに声をかけた。

『サマエルよ、どうした? そんなに卵のことが気になるのか?』

『はい。私もその卵を手に入れたいのですが、どうすればよいのでしょう。精霊が生まれるという卵は、この森でしか得られないのでしょうか?』

『……其方にしては珍しいことを言うものだな。もしかして、其方も南の天空島で精霊とともに暮らしたいのか?』

『はい!!』

「『!?!?!?』」

ラーデの冗談半分の問いかけに、サマエルが大真面目な顔で即答した。

思いがけない答えが返ってきたことに、ラーデだけでなくラウルまでびっくり仰天している。

『サマエルよ……それは本気で言っているのか?』

『もちろんですとも。父上やファフ兄様、リン姉様からの問いかけに、私は常に全身全霊でお答えしておりますでしょう?』

『う、うむ……それは良い心掛けであるが……何故に精霊と暮らしたいのだ? 其方には既に数多の天空竜がついておろうに』

『天空竜? あれらはもとより私の手足ですが、それとこれは別問題です』

『別問題???』

サマエルの曖昧とした答えに、今度はラーデが大きく首を捻っている。

サマエルの周りには多数の天空竜がいて、その全てがサマエルのことを主と慕っている。

だからサマエルが寂しいと思うはずがないのに、何故精霊といっしょに暮らしたいと言い出したのかがラーデにはさっぱり分からない。

そしてその答えは、サマエルの口からすぐに明かされた。

『確かに父上が仰る通り、南の天空島にはたくさんの天空竜がいます。しかし、南の天空島にいるのは私と天空竜のみ。これの意味することが、父上にはお分かりになりますか?』

『??? ……すまぬ、我には今一つ理解できぬ。なので、もう少し分かりやすく説明してもらえるか?』

『いいでしょう。……南の天空島には、私と天空竜しかいないのです。そして天空竜とは、総じてゴツい者達ばかりなのです!!』

「『『………………』』」

しかめっ面のサマエルが拳を握りしめながら、くゥーーーッ!と悔しげに歯を食いしばり唸る。

その悔しげな顔のサマエルを見て、ラウル達は凡そのことを察した。

つまりサマエルは、実は小さくて可愛い生き物が大好きなのだ、ということを。

「要は、南の天空島にもハドリーやドライアドのような、小さくて可愛い精霊を住まわせたいってことか?」

『そうだ!北の天空島にはドライアドがいて、地上にはハドリーがいて、我が南の天空島に何もいないのはおかしいであろう!?』

「おかしいかおかしくないかは、俺からは何とも言えんが……新しい仲間や友達が欲しいってのは分からんでもないな」

懸命に言い募るサマエルに、ラウルも一部ではあるがその気持ちは理解した。

このカタポレンの森にはたくさんの生き物がいるし、北の天空島にだってドライアドや天空樹、二人の属性の女王に二体の神殿守護神、そして彼女達を守る天使達がいる。

それに引き換え、南の天空島にはサマエルと天空竜しかいないという。

天空竜はサマエルの眷属であり下僕。

彼らは完全に主従関係であり、そこには対等や友情といった関係は一切ない。

そしてそのことに関して、これまでサマエルは特に何とも思っていなかった。

しかし、ラーデを巡る天空島間での諍いを機に、サマエルは外の世界に触れる機会が増えた。

北の天空島やカタポレンの森で暮らすラーデの環境を間近に見ていくうちに、サマエルの中で他所を羨ましく思うようになったとしても不思議ではない。

そうしたサマエルの心境の変化を察したラウルが、思案顔で呟く。

「あの茶色い卵は、もとはライトが手に入れたもんだからなぁ……ライトに聞けば、また新しい卵を入手してるかもしれんが」

『それを譲ってもらうことは可能か?』

「ンー、ライトなら快く譲ってくれそうだとは思うが……こればかりは本人に直接聞いてみないと何とも言えん」

『では、ライトが帰宅したら聞いてみるとしよう』

茶色い卵の提供元であるライトの名前が出てきたところで、ラウルやサマエルの周りにいたハドリー達が話しかけてきた。

『ラウルパパやお客様は、茶色い卵が欲しいの?』

『あの卵なら、何個か僕達が拾ってきてるよ』

『茶色い卵が欲しいなら、全部あげるよ?』

『うんうん、全部あげるよー。私達が持ってても、卵から孵してあげることもできないし』

『このまま僕達が持ち続けるよりも、ラウルパパやお客様が持ち帰って孵してあげた方がいいよねー』

『『『ねーーー!』』』

茶色い卵を譲ってくれるというハドリー達に、ラウルとサマエルが「何ッ!? ホントか!?」『おお、お前達も卵を持っているのか!』と驚きながら問い返したり喜んでいる。

ラウルやサマエルは知らないが、ここにいるハドリー達は全員がライトを主とする使い魔。

ハドリー達には使い魔としての本能があり、それぞれ折を見てはお使いに出ていて様々なアイテムを拾ってきていた。

その成果の中には、当然のことながら使い魔の卵もいくつか含まれていたのだ。

「リィ達もフォルのように、いろんなものを拾ってきてんだな」

『うん!そしたら卵を持ってくるから、ちょっと待っててねー』

「ああ、よろしく頼む」

『皆ー、今まで拾ったものをここに持ってくるよー』

『『『はーーーい!』』』

ハドリーのリーダーであるリィの呼びかけに、他の十五体のハドリー達が元気よく応える。

十六体全員があちこちに散らばり、それぞれがお使いで得た成果物をせっせとラウル達の前に運び続けた。

「おお……こんなにたくさん拾ってきてたんか……」

『これらが何であるか、私にはさっぱり分からぬが……』

『ハドリー達よ、こんなにもたくさんの品をどこに隠しておったのだ?』

ユグドラツィの洞や樹上、根元の隙間、あるいは結界の駒の後ろといった様々な隠し場所から成果物を運ぶハドリー達。

いろんなアイテムが次々と運ばれてくる様子を、ラウル達は呆然としながら眺めている。

お使いの成果はフォルやウィカ、転職神殿のミーナやルディと同じく、チョコレートケーキや草餅などの食べ物やハイポーション、ハイエーテルなどの回復剤がほとんどを占めていた。

しかしその中に、サマエルが所望している茶色い卵=使い魔の卵も複数あった。

それをリィが一ヶ所に集めた。

『ラウルパパ達が欲しいって言ってたのは、この卵だよね?』

「そうそう、これだ。リィ達も、これと同じような卵から生まれたんだぞ」

『じゃあ、これ全部ラウルパパ達にあげるね!どうぞ!』

リィや他のハドリー達が、茶色い卵を両手で抱えてラウルやサマエルに笑顔で差し出す。

ハドリー達の純粋な好意に、ラウルだけでなくサマエルも思わず微笑む。

『うむ、お前達の好意、確と受け取った』

「皆、ありがとうな」

『『『どういたしましてー♪』』』

ラウルに礼を言われたハドリー達が、輝くような笑顔で茶色い卵を高々と掲げる。

まずラウルがそれを一個一個丁寧に受け取り、すぐに空間魔法陣に仕舞い込んだ。

その横で、自分にももらえるものだと思っていたサマエルが『何故お前ばかりが卵を受け取っているのだ!?』とガビーン顔でショックを受けていたが。未だにサマエルの腕の中にいるラーデに『あれはラウルが一旦受け取っているだけで、後で其方に分け与えてくれるはずだから安心せよ』と諭されてホッとしていた。

ラウルが受け取った卵の数は二十五個。

大事な卵を間違って落っことして割ったりしないよう、ひとまずラウルが全部受け取ったが、後で全部サマエルに渡すつもりだ。

そしてラウルは全ての卵を仕舞い込んですぐに、ハドリー達の大好物であるスイーツや極上の水を空間魔法陣から取り出した。

「さ、そしたら今もらった卵のお礼に美味しいものを出そう」

『ラウルパパのご馳走!?』

『わーい!やったー!』

『ラウルパパがくれるご馳走、とっても美味しいから大好きー♪』

『皆でいっしょに食べよー♪』

『ラーデ君とお客様も、私達といっしょに食べよー♪』

ラウルが美味しいお礼を出すと聞き、ハドリー達が飛び上がりながら大喜びしている。

早速ラウルは敷物を取り出し、その上に次々とハドリー達の大好物を出しては置いていく。

ワクテカ顔で待つハドリー達の笑顔に、ラーデはもちろんのことサマエルまでもが微笑みながら見守っていた。