軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1631話 お出かけ前の長閑なひと時

ライトを見送った後、レオニス達はコテージで朝食を摂り始めた。

ラウルが用意したトーストやカット済みのフルーツを、それぞれもっしゃもっしゃと頬張る。

レオニスとラウルはフレンチトースト、ラーデは林檎、サマエルは桃を食べていた。

カタポレンの畑で採れた、この上なく瑞々しい桃をサマエルが夢中になって食べている。

大きめのサラダボウルに山盛りで入った桃を、サマエルは何と三回もおかわりをした。

桃を思う存分食べて、お腹が膨れたサマエルがふと呟く。

『うぬぅ……この桃という食べ物、実に芳しくて素晴らしい。ラウルとやら、これは天空島でも育つものなのか?』

「ンー、どうだろうなぁ……北の天空島では今、林檎の木を三本植えていてな。どれもちゃんと実をつけていて、美味しい林檎ができてはいる。だが、桃はまだ植えていないから何とも言えん」

『林檎が実るならば、いずれは南の天空島にも林檎や桃を植えることは可能なのではないか?』

「それも分からん。北の天空島には水源が二つあって、そのうち一つは畑専用の泉だからな……野菜や果物を育てようと思ったら、兎にも角にも水をたっぷり遣れる環境でないと始まらんのは確かだ」

『水源か……南の天空島には、天空竜達が飲み水に使う溜池くらいしかないな』

「それじゃちと厳しいかな。水遣りだって、ものによっては毎日何回も与えなきゃならんし」

『ぐぬぬ……残念だ』

桃を大層気に入ったサマエルが、ラウルに天空島での栽培の可否を尋ねた。

レオニス達が懇意にしている北の天空島では、ラウルの指導や水の女王、アクアの協力により多数の野菜や果物の栽培に成功している。

そうした前例を踏まえると、南の天空島でも何かを栽培しようと思えばやってできないこともないだろう。

だが、ただ単に作物を植えるだけでは駄目だ。

畑の土を耕したり適宜肥料を与えたり、水源の整備なども同時に行って農作ができる環境を維持し続けなければならない。

そしてそういった細やかな作業や手入れを、サマエルや天空竜が継続的にできるとは到底思えない。

南の天空島をまだ一度も訪れたことのないレオニス達には、その環境を知る由もないし農作の可否も断定はできない。

だがおそらくは、諦めてもらうしかないだろう。

サマエルにもそれはうっすらと分かっていたので、残念そうに歯噛みしている。

しかし、そんな空気を全く読まない妖精がここに一人。

「……ま、もしこれから桃や林檎を食いたくなったら、ここに来ればいいさ。そうすりゃラーデとも会えるしな」

『うむ、それは良い案だ。父上のお顔を直接見て、体調を随時確認せねばな!』

「ただし。ここに来るからには、あまり勝手な行動はするなよ? 人族の諺にも『郷に入っては郷に従え』ってあるくらいだからな」

『その『郷に入っては何とやら』の言う意味はよく分からぬが……この地上に降りて父上のお傍にいるうちは、 なるべく(・・・・) お前達の言うことに従おう』

「なるべくっつーか、そこは 極力(・・) 従ってくれ」

ラウルが出した助け舟に、サマエルが事も無げに乗っかる。

確かに南の天空島でわざわざ桃を栽培せずとも、地上に降りてラーデがいるカタポレンの家を訪問すればラウルが作った桃をご馳走してもらえるだろう。

そっちの方が余程楽だということは、サマエルにもすぐに理解できたという訳だ。

そしてこの時以降、サマエルは本当に月に二回か三回くらいの頻度でカタポレンの家を訪れるようになった。

さすがに毎日押しかけられては困るので、レオニスが『こっちに遊びに来るのは構わんが、多くても十日にいっぺんくらいにしてくれ』とサマエルに言い渡した結果、本当に月三回遊びに来るようになった次第だ。

そしてこのことによって、サマエルがどう変わっていくのかはまた後日語られるであろう別のお話。

そんな雑談をしながら朝食を摂り終えたレオニス達。

食器を片付けてコテージの外に出た。

「さ、そしたらツィちゃんのところに行くか」

「了解」

『サマエルよ、くれぐれも神樹に対して粗相のないようにせよ。ここでは我は居候の身、神樹は先住民にしてこの一帯の守り神にも等しい。そして今ではレオニスやラウルだけでなく、我にとってもユグドラツィは友である。故にサマエルも、神樹には常に敬意を持って接せよ』

『分かりました』

出かける前に、ラーデからサマエルに厳重な注意がなされている。

ラーデがこのカタポレンの森に療養のために移住してから、早くも十ヶ月が過ぎた。

その間にラーデはレオニスやラウルとともにご近所付き合いを深め、今ではユグドラツィや目覚めの湖の面々、ナヌスにオーガ達ともそれなりに親しくなった。

今回はサマエルの性格を考えて、目覚めの湖やナヌス、オーガの里の訪問は回避し、トラブルに発展する可能性が低いユグドラツィや暗黒の洞窟を訪ねることにした。

しかし、それでもサマエルの暴言は控えさせるに越したことはない。

故にラーデはユグドラツィのもとを訪ねるに当たり、前もってサマエルにきつめに釘を刺したのだった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

そうしてカタポレンの家を出立したレオニス達。

全員空を飛んでの高速移動だが、ラーデだけはサマエルが大事そうに胸に抱えて飛んでいく。

大好きな父を抱っこして飛ぶサマエルは、終始ニコニコしていて実にご機嫌だ。

そして三頭の天空竜は、主であるサマエルを守るためにレオニス達の左右と後ろに一頭づつついて飛んでいる。

本当はカタポレンの家で留守番させても良かった(というか、ハドリー達が怖がるかもしれないので、留守番しててくれた方が都合が良かった)のだが。天空竜達の方が「絶対ニ、オ供スル!」「主カラ、離レルナド、決シテ、アリ得ヌ!」と言って聞かなかった。

確かに天空竜達の主張は尤もで、主が出かけるというのに近衛兵である天空竜達が随行しないのは納得しないだろう、というのはレオニス達にも理解できたので仕方なく随行を認めたのだった。

カタポレンの家から出て、程なくしてユグドラツィの姿が見えてきた。

これから冬に向かうというのに、青々とした豊かな緑葉が美しく映える。

そこから先はユグドラツィと最も親しいラウルが先頭を飛び、真っ先にユグドラツィのもとに着地した。

ラウルに続いてレオニス、サマエル、三頭の天空竜が次々とユグドラツィの前に降り立っていった。