軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1563話 ライトの大事な日

ラグナ暦814年8月12日。

ついにこの日がやってきた。

ライトがサイサクス世界で生を受けてから、ちょうど十年が経つこの日から正式に冒険者となる資格を得られるのだ。

ライトは朝の四時少し前に起きて、空が白み始めたばかりのうちに毎朝の日課である魔石回収作業をせっせとこなす。

そして四時十五分にはカタポレンの家に戻り、レオニスとともに早めの朝食を摂る。

「ライト、今日の支度はできているか?」

「もッちろん!さっきもちゃんと持ち物チェックしたばかりだよー」

「そっか、そしたら五時の三十分前に家を出るぞ」

「うん!」

二人してトーストをもっしゃもっしゃと食べながら、今日の行動を軽く打ち合わせする。

今日のライトの冒険者登録には、レオニスもいっしょについていくことになっている。

ライトとしては、ちゃちゃっと自分一人で登録に行けばいいや、と思っていたのだが。レオニスに「ライトの記念すべき日なんだから、絶対に俺もついていくぞ!」と強く言われたのだ。

確かに今日これから行う冒険者登録は、ライトの今後の人生の中でも指折り数えるくらいには大事な出来事だ。

その様子の一部始終を、自分の目で直に見届けたい!と思うレオニスの気持ちはよく分かるし、例えて言うなら我が子の入学式に参加する親と似たようなものか。

なのでライトもレオニスの同行を快諾したのである。

そうして準備万端整えたライトとレオニス。

二人がカタポレンの家を出ると、畑で収穫作業をしていたラウルが飛んできた。

ラウルの背中には、ラーデが負ぶさるようにくっついている。

「おう、ご主人様達、おはよう」

「あ、ラウル、おはよう!」

「おはよう。今日も朝から畑仕事に精が出るな」

「まぁな。ご主人様達はアレか、いよいよライトの冒険者登録に行くのか?」

「うん!だって今日はぼくの十歳の誕生日だもん!」

「そっか、ライトもやっと冒険者の仲間入りできるな。おめでとう」

「ありがとう!!」

ラウルの祝福の言葉に、ライトが花咲くような笑顔になる。

今日のこの日をどれだけ待ち侘びたことか。

もちろん冒険者になったからといって、すぐに活躍できたりする訳ではない。十歳の子供が受けられる依頼など高が知れているし、ライト自身最初からあれもこれもと引き受けるつもりはない。

しかし『千里の道も一歩から』という諺があるように、何事も最初の一歩を踏み出すことから始まるのだ。

「じゃ、いってくるね!」

「おう、また後でな」

ライトがふわり、と宙に浮き、レオニスもそれに続く。

ラウルとラーデに見送られながら、二人は冒険者ギルドディーノ出張所に向かって飛んでいった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

カタポレンの家を出て、冒険者ギルドディーノ村出張所に向かうライト達。

いつもなら冒険者ギルドの転移門経由で行き来するのだが、今日は冒険者ギルドの開業直後に入りたいので、転移門は使わずに直接飛んでいくことにしたのだ。

そしてカタポレンの森の上を猛スピードで飛ぶ最中、ライトは初めてディーノ村出張所に行った時のことを思い出していた。

あの時は、当時期間限定でカタポレンの家で同居していたアルの背中に乗って、レオニスとともに向かった。

その時には一時間半くらいは森の中を駆けていた覚えがあるが、今ではこうして自分一人の力だけで空を飛べるようになった。

まさか冒険者になる前に飛行能力を身に着けるとは、ライト自身全く想像もしていなかった。嬉しい誤算とは、まさにこのことだろう。

そうしてしばらく飛んでいくと、カタポレンの森を抜けて長閑なディーノ村が見えてきた。

時刻は午前五時の二分前。もうすぐ冒険者ギルドの門戸が開く時間である。

二人はディーノ村出張所の近くで飛行を止めて、スタッ!と地面に降り立った。

そこからディーノ村出張所まで歩き、建物の扉の前に辿り着いた。

すると、普段はきちんと閉まっている正面玄関がほんの少しだけ開けられている。

そして五時ぴったりの時間になった瞬間、内側から扉が開いたではないか。

「ライト君、おはようございますぅ」

建物の中から現れたのは、冒険者ギルドディーノ村出張所の受付嬢クレアだった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

大好きなクレア自らのお出迎えに、ライトが元気よく挨拶をする。

「クレアさん、おはようございます!」

「よ、クレア、おはよう」

「あら、レオニスさんまでいらしたんですか?」

「当然。今日は何てったってライトの大事な日だからな!」

「そうですかぁ……まぁ、そうですよねぇ。だってレオニスさんは、ライト君の養い親ですもんねぇ」

「そゆこと」

ライトにくっついて来たことを、さも当然のようにドヤ顔で主張するレオニス。

最初は意外な顔をしていたクレアだったが、レオニスはライトの正式な保護者であることを思い出して最後には認めた。

「思えばレオニスさんの冒険者登録の時だって、グランさんが後見人としてついてきてらっしゃいましたもんねぇ」

「まぁな……それも随分昔の話だがな」

「ですねぇ。そして今では、グランさんのお子さんであるライト君の後見人をレオニスさんが務める……何とも数奇なことですねぇ」

クレアが目を細めながらライトとレオニス、二人の顔を見つめる。

その眼差しは限りなく優しく、まるで我が子を見守る母のような慈愛に満ちていた。

「そうだな……グラン兄や俺だけでなく、ライトの冒険者登録まであんたに受けてもらえるとはな。実に光栄なことだ」

「フフフ、それを言ったら私の方こそ光栄ですよぅ。だってレオニスさんは、古今東西五人しかいない伝説の金剛級冒険者なんですから。そんなすごいレオニスさんと、その後継者であるライト君の冒険者登録に立ち会えるなんて……受付嬢冥利に尽きるというものですぅ」

「これからも、ライトともどもよろしくな」

「ええ、万事このクレアにお任せくださいですぅ!」

いつになく和やかな会話を交わすレオニスとクレア。

いつものレオニスなら、クレアに対して「あんた、ホンットに昔っから変わらねぇよな……歳は一体いくつなの?」とか憎まれ口を叩きながら、思いっきりクレアの地雷を踏み抜くところなのだが。

さすがに今日はライトの大事な日なので、終始感無量で神妙な面持ちである。

「ささ、こんなところで立ち話も何ですし。中にお入りください」

「おう、そうだな。兎にも角にも、まずはライトの冒険者登録をしなくっちゃな」

「全て準備は整えてありますよー」

改めて入口の扉を大きく開くクレア。

もうすぐ念願の冒険者登録手続きが始まると思うと、ライトの胸は高鳴るばかりだ。

「クレアさん、よろしくお願いします!」

「こちらこそ、よろしくお願いいたしますぅ」

クレアに向かって深々と頭を下げるライトに、クレアも嬉しそうに微笑む。

そうして三人は、冒険者ギルドディーノ村出張所の中に入っていった。