軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1564話 強硬な主張と完敗と諦念

クレアの案内で、ライト達が冒険者ギルドディーノ村出張所の建物の中に入る。

中には人っ子一人おらず、閑散どころかシーーーン……としている。

これは朝五時の一番乗りという時間のせいだろう。多分。

クレアがカウンターの内側に入り、受付窓口に用意してあった冒険者登録の申請用紙とペンをライトに渡す。

久しぶりに見るクレアの仕事姿は、やはりいつ見ても素敵だぁー……とライトは心の中で惚れ惚れとしている。

「ではライト君、こちらの用紙に記入をお願いしますぅ。分からないところがあったら、何でも聞いてくださいねぇー」

「はい!」

名前、生年月日、性別、種族など、必要事項をスラスラと記入していくライト。

そうして一分もしないうちに申請書類を書き上げて、窓口に座るクレアに提出した。

「できました!クレアさん、チェックをよろしくお願いします!」

「承りました。……はい、はい……大丈夫、問題ありません」

「ありがとうございます!」

「では次に、魔力測定と攻撃力測定をしましょう。あちらにある測定室にお越しください」

「はい!」

冒険者登録のための申請書類を無事クリアしたら、次は魔力測定と攻撃力測定だ。

このディーノ村出張所には、奥の事務室の片隅に魔力測定のための水晶玉が置かれていて、攻撃力測定は空いている会議室で行うらしい。

もちろんライトは生まれて初めて使用する設備なので、受付嬢であるクレアが率先して案内してくれるようだ。

広間から奥の事務室に向かおうとするクレアとライト。

しかし、広間から奥に続く廊下に入る手前で、何故かクレアがピタッ!と止まった。

そして後ろを振り返りながら言う。

「……レオニスさん? 貴方はこちらでお待ちくださいね?」

「え。何でだよ?」

「またまたぁ、金剛級冒険者ともあろうお人が何を寝言吐いてるんです? 寝言は寝て言うものですよ? 魔力測定とか攻撃力測定は、冒険者にとって非常に重要かつデリケートな個人情報。例え親兄弟であろうとも、そうおいそれと覗き見していいものではありませんからね?」

「ぐぬぬぬぬ」

クレアのド正論と久しぶりの『寝言は寝て言えアタック』を食らったレオニス、ぐうの音も出ない。

このサイサクス世界には個人情報保護法なんてものはないし、現代日本に比べたらそこら辺はかなり緩いと言わざるを得ない。

にも拘わらず、クレアは 保護者(レオニス) 相手であってもライトの個人情報をきちんと保護し守ろうとしている。

さすがは元祖・何でもできるスーパーウルトラファンタスティックパーフェクトレディー!である。

だがしかし、ここであっさりと引き下がるレオニスではない。

何とか同行しようと理由をつけて粘る。

「ぃ、ぃゃ、でも……ライトはまだ十歳になったばかりなんだぞ? 当分は俺がちゃんと導いてやらなきゃならないんだぞ? そのためには、ライトの魔力の傾向や特性を知っておくべきだろ?」

「ンー……それはそうですがー……」

珍しいことに、クレアがレオニスの意見にしかけている。

実際のところ、ライトの指導役にレオニスはうってつけだ。

レオニスは現役のベテラン冒険者だし、何より最も気心の知れた相手だけにライトも素直に言うことを聞くだろう。

新人冒険者は、最初のうちは経験が足りないため加減が分からず何かと無茶をしがちだ。

その点レオニスならば、冒険者の先輩としてきっとそうした無茶も事前にきちんと止めてくれるに違いない。

むむむ……という顔でクレアが考え込んでいる。

それを好機!と捉えたレオニスが、さらに畳み掛けに出た。

「それにな、クレア。あんたは一番肝心なことを忘れている」

「え!? 私が一体何を忘れていると言うんですか!?」

「……それはだな……」

「……(ゴクリ)……」

眉間に皺を寄せつつ、真剣な眼差しでクレアを煽るレオニス。

何でもできるスーパーウルトラファンタスティックパーフェクトレディー!な彼女に限って、忘れていることなどあるはずがないというのに。

しかしレオニスは、自信満々に言い放った。

「ライトはグラン兄の子だってことだ!!」

「ッ!!!!!」

堂々と宣言したレオニスの言葉に、クレアが数多迸る落雷に撃ち抜かれる。

ドンガラガッシャーーーン!という激しい落雷音が聞こえてきた、ような気がする。

それはまるで『THE・衝撃の事実!』を体現しているかのようだ。

半ば白眼を剥きながら戦慄くクレアに、レオニスが尚も力説する。

「考えてもみろ、 あの(・・) グラン兄の子だぞ? いつ、どんな無茶をするか、分かったもんじゃないだろう!?」

「た、確かに……で、でも、ライト君はどちらかというとレミさん似では……?」

「甘い!甘いぞ、クレア!グラン兄の血ってのはなぁ、レミ姉の血を以ってしてもそう簡単に薄まったり、ましてや御せるもんじゃねぇんだ!」

「そ、そうですね……普段から、ライト君のことを最も身近で見守り続けているレオニスさんがそう仰るなら、間違いなくそうなんでしょう……」

「………………」

レオニスの力強い断言に、クレアがとうとう項垂れた。

クレアはこのディーノ村で、レオニスだけでなくライトの父母グランやレミをずっと見守ってきた。

それだけに、レオニスが主張する意味を彼女は誰よりも理解できてしまうのだ。

一方でライトはスーン……とした顔で『二人とも、すんげーしどいよね……』と心の中で思っている。

というか、俺の父ちゃんって、生前はどんだけ暴れ馬だったん……?とも思うライト。

レオニスも大概常識外れだが、レオニスだけでなく一見常識的に見えるクレアにまでレオニスと同じようなことを思われているとは。ライトの父、グランは一体どれだけのことをしてきたんだろう。

しかし、なかなかに酷いレオニスの言い様に対して、ライトが抗議することはない。というか、できない。

何故ならライトには、レオニスにそう言わせるだけのことをしでかした前科があるからだ。

その前科とは、言わずもがなラグナロッツァのビースリー勃発未遂事件である。

あの時ライトは、レオニス達に黙って家を抜け出して、コヨルシャウキが待つ旧ラグナロッツァ孤児院に向かった。

その結果、コヨルシャウキに拉致されて丸四日以上も行方不明になっていたのだ。

その時にどれだけ皆に心配をかけたか、ライトだって痛い程よく分かっている。

それだけに、今目の前でレオニスがクレア相手に繰り広げている酷い言い草を止めることなどできなかった。

ライト自身に身に覚えがあり過ぎて、とてもじゃないが抗議する資格などないのである。

「分かりました。ライト君のためにも、レオニスさんが魔力測定と攻撃力測定に立ち会うことを許可しましょう」

「おお、クレアも分かってくれたか!ありがとう!」

「どういたしまして。ライト君も、それでよろしいですか?」

とうとうレオニスの主張を受け入れて折れたクレアに、レオニスが破顔しつつ喜ぶ。

この手の議論でレオニスがクレアに完勝することなど、サイサクス史上初のことかもしれない。

そして一応ライトにも許諾の確認を取るクレアに、ライトは乾いた笑みを浮かべつつ答える。

「ハハハハ……もちろんいいですよ。てゆか、ここにはぼくとレオ兄ちゃんとクレアさんしかいませんし。他の人はともかく、レオ兄ちゃんとクレアさんになら測定結果を見られても構いません」

「ありがとうございますぅ。では早速、魔力測定と攻撃力測定に行きましょう」

「はい!」

しばらくは乾いた笑いしか出てこなかったライトだが、この二人にならライトの能力を見られても構わないというのは本心だ。

レオニスはライトが勇者候補生だという秘密を知っているし、クレアに対してもライトは絶大な信頼を寄せている。

彼女なら、ライトの桁違いの能力を見ても他人に言いふらすことなど絶対にしない。

もし万が一他言するとしても、それはクレア十二姉妹という身内のみで情報共有するくらいのはずだ。

クレアが再び差し伸べた手を、ライトが嬉しそうに取って手を繋ぐ。

大好きなクレアとリアルで手を繋ぐことができて、ライトの先程までのスーン……としていた顔が嘘のようにキラッキラに輝いている。

そしてクレアの許可を無事もぎ取ったレオニスも、ライトの後ろをご機嫌な様子でついていく。

そうして三人は、ライトの冒険者登録の道の第二ステップに移行していった。