軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1500話 新しい歴史

『ファフ兄、とりあえずこの結界を解いてくれる? 外で立ち話も何だし、中に入れてくれると嬉しいんだけど』

『ンーーー……本当は、リンと言えども今は中に入れたくないんだが……』

『何言ってんのよ。パパンがこうして復活なさったのよ? その経緯とか聞きたくない訳?』

『ぬぅ……そうだな、父上もいらっしゃることだし、仕方がないか』

リンドブルムの要求に、ファフニールが渋々ながら応じる。

目に見えない結界が一旦解除され、ライト達含む全員が洞窟の中に入った。

ライト達が洞窟の中に入った時、ファフニールが一瞬だけ、ちろり……とライトやレオニスを見遣ったが、その後何事もなかったかのようにフイッ、と視線を外した。

特に何を問うでもなく無視するということは、ライト達人族など取るに足らぬ存在であり脅威たり得ない、と判断したのだろう。

その後ファフニールはすぐに入口に再び結界を施した。

そして全員で洞窟入口から奥に向かう道すがら、まるで厳戒態勢のような状態にリンドブルムがファフニールに問うた。

『ファフ兄、何でそんなに警戒してんの?』

『何しろ今はとても大事な時期なのでな。万が一にも侵入者を許さないための措置だ』

『侵入者って……ファフ兄はもとより、フレジャちゃんに害をなせる者なんていないでしょうに?』

『確かに私達はほぼ無敵だ。だが、警戒しなければならないのは 私達ではない(・・・・・・) のだよ』

『???………………え、そゆこと!?!?』

頭の回転が早いリンドブルムが、ファフニールの言葉に早々に察して顔がパァッ!と明るくなる。

強大な力を持つファフニールとその番フレア・ジャバウォック。

それ以外で侵入者を警戒しなければならない者がいるとしたら、答えは一つ。その子供である。

『パパン!聞きまして!? ファフ兄とフレジャちゃんに子供ができたんですって!』

『何ッ!? ファフニールよ、それは真か!?』

『はい……我らは新婚旅行と称して、不思議世界のあちこちに出かけていたのですが。三日前に我が妻フレジャが卵を生みまして、急遽この不思議の森に帰還した次第です』

『そうか、それは目出度いな!』

いち早く事態を察したリンドブルムがラーデにその意味を伝え、ファフニールもそれを肯定した。

洞窟入口のあの厳重な結界は、卵という新たな生命を守るためのものだったのだ。

我が子の新たな生命の誕生を寿ぐラーデに、ライト達も祝福の言葉をかける。

「ラーデ、おじいちゃんになるの? 良かったね!」

『うむ。我が子らの子孫の誕生に立ち会えるのは、実に久しぶりのことだ』

「家族が増えるってのは、純粋に嬉しいものだよな。おめでとう、ラーデ!」

『そうだな、まさかここで 初孫(・・) に会えるなどとは夢にも思っておらなんだ』

ラーデの直系の孫の誕生―――この重大な事実を、人族であるライト達がリアルタイムで知れたことは奇跡にも等しい。

しかし、このお祝いムードを読まない妖精がここに一人。

「この世の全ての竜族はラーデがもとになってるんだろ? なのに、初孫ってのはどういうことなんだ?」

『……ああ、そうだな、そこら辺は竜族ではない其方達には理解できぬだろうな。我ら原初の竜は、他の種族とはだいぶ異なるからな』

ラウルの不躾な質問に、ラーデは特に意に介することなく淡々と答えていく。

ラーデの話によると、今地上にいる竜族の殆どは変異種の繁殖による繁栄なのだという。

竜族の変異種はラーデの五世代後に現れ、雌雄も明確に分かれていきながらその数を増やしていった。

ただし、代を重ねるに従って原初の竜達が持っていた強大な力は薄れていき、互いの弱さを補い合うために番うようになったのだとか。

その前の四世代目まではどうやって増えていたのかというと、くしゃみやあくび等の何気ない仕草からヒョイ、と後継が生まれていたのだという。

実際にファフニールはラーデのイビキから生まれ、リンドブルムは咳、サマエルは発熱時の悪寒から生まれたのだそうだ。

まるで神話そのものといった不思議な生い立ちに、ライト達は感心することしきりだ。

「へー、ラーデが咳したりイビキをかくだけで子供が生まれちゃうんだね!すっごい不思議ー」

「そしたら、今ラーデが咳をしたらまた子供が生まれるのか?」

『さすがにそれはないな。今の我はこの通り、殆どの力を失っておるし』

「だよなー。こないだコテージで皆で雑魚寝した時だって、何も起こらなかったし」

「じゃあ、ラーデがいつか力を完全に取り戻したら、寝ている最中のイビキで子供ができるんか?」

『それも分からん。何の拍子に身が分かつのか我自身にも分からんし、そもそも咳をする度に毎回毎度子が生まれた訳でもないからな』

「そっか……でも、ラーデの子供ならいつでも大歓迎だがな!」

ライトやレオニスの好奇心丸出しな質問に、ラーデが真面目に答えている。

くしゃみやあくび一つでその都度子孫が生まれていたら、それこそ大変だ。

しかし、イビキをかいたり咳をする度に毎回子ができていたのではないらしい。確かにラーデの生理現象全てで出産していたら、このサイサクス世界は今頃竜族だらけになっていて、人族が繁栄する余地など微塵もなかっただろう。

また、ラーデの冷静沈着な分析も尤もで、今の非力なラーデにそんな創造の力はない。

そして、レオニスがニカッ!と笑いながら言った『ラーデの子供なら大歓迎』という言葉に、ラーデも嬉しそうに呟く。

『先程も話したように、今の子孫は番を見つけて子を成す。しかし我やファフニール、リンドブルム、サマエルはそうしたことをせずとも子を成してきた。しかし、此度ファフニールは初めて番を見つけて、新たに子を成した。このことが我は嬉しいのだ』

それは、高位の竜族にあっても新しい歴史の始まり。

このことにラーデは内心で喜びながら、静かに微笑んでいた。