軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1501話 フレア・ジャバウォックと皇竜メシェ・イラーデ

皆で洞窟の奥に進んでいくと、一際広い空間に出た。

するとそこは、洞窟の中のはずなのに数多の木々が生い茂っていた。

全く予想だにしていなかった光景に、ライト達は頭を上下左右させてキョロキョロと周囲を見回し続けている。

「え? 何、まさか外に出ちゃった?」

「……いや、ここは洞窟の中のままだ。その証拠に、はるか上に天井がある」

「あ、ホントだ。……てゆか、蔦もびっしり生えてるし、蛍もどきもたくさんいるね……」

「なかなかに不思議な光景だな」

三人ともずっとキョロキョロとしながら、周囲の景色に感嘆している。

それは、一見再び外に出てしまったかと勘違いしてしまっても何らおかしくない光景。

しかもここで生えている蔦は、不思議の森に移動する前の修験者の迷宮に生えていたものと同じものに見える。

二つの異なる世界が微妙に混ざった、何とも不思議な場所だった。

するとここで、ファフニールがラーデに向かって声をかけた。

『父上、申し訳ないのですがしばしここでお待ちいただけますか』

『うむ、別に構わぬ』

『ありがとうございます。実は今、我が妻フレアは魔力補充のため洞窟外に出ていて不在なのです』

『そうか、では我ら外の者がこれ以上不用意に卵に近づく訳にはいかんな』

『そういうことです。ご理解いただけて感謝いたします』

この場に留まれ、と言うファフニールの制止に、ラーデが快く頷く。

母親であるフレア・ジャバウォックが不在ならば、確かにこれ以上卵に近づくのは得策ではない。

見知らぬ者が卵の近くにいる、それだけでフレア・ジャバウォックの逆鱗に触れかねないからだ。

『しかし、父上……何故にそのようなお姿で、しかも人族など伴っておられるのですか?』

『それは、話せば長いことになる……』

ファフニールの尤もな疑問に、ラーデがこれまでの事情を話していった。

邪竜の島での戦いで天空島の二人の女王や二羽の神鶏、闇の女王に暗黒神殿守護神クロエの協力を得て復活したこと、その戦いにおいてライト達の関与が勝利に大いに寄与したこと、そしてその後ラーデが失った魔力を取り戻すために地上のカタポレンの森で療養していること等々。

それらの話を、ファフニールは静かに聞いていた。

『なるほど……父上を囚えていたあの島で、そのようなことになっていたのですね』

『うむ。さすがに我も、もう駄目かと覚悟していたのだがな……こんな小さな 態(なり) でも何とか生き延びることができた。そして今は、ここにいるレオニス、ラウル、ライトに世話になりながら力を蓄えておるところだ』

『父上の生命の恩人ということならば、私もこの者達に礼を尽くさねばなりませんな』

ラーデから事情を聞いたファフニールが、ライト達に向けてその巨大な頭を下げようとした、その瞬間。

ライト達の後ろからものすごい殺気が襲いかかってきた。

「「「!?!?!?」」」

突如背筋に走る悪寒に、ライト達が思わずガバッ!と後ろを振り返った。

すると、ライト達の後ろに燃えるような赤い何かの塊が近づいてきている。

それは、この洞窟のもう一体の主、フレア・ジャバウォックだった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ものすごい殺気を放つフレア・ジャバウォックが、ライト達の目の前に現れた。

その身体はファフニールやリンドブルムと同じくらい大きくて、何しろ威圧感が半端ない。

皮膚の色は業火の如き赤色で、さながらルビーのような煌めく深い赤が何とも美しい。

頭には大小一本づつの薄桃色の角が左右対称に生えていて、瞳はサファイアを思わせる鮮やかで澄み切った青色だ。

背中には左右一対の皮膜型の翼があり、背骨に沿って背鰭のようなものも生えている。

手が二本、足も二本、その全てに角と同じ色の鋭い鉤爪があり、全体的な見た目はドラゴンっぽい姿形をしていた。

フレア・ジャバウォックの深い青色の双眸が、ギロリ!と鋭い眼光を放ちつつライト達を見下ろす。

今にも取って食われそうな殺気に、レオニスとラウルがライトを庇うようにして前に立ち背中側に隠した。

ライト達が臨戦態勢を取る中、リンドブルムが陽気な声でフレア・ジャバウォックに声をかけた。

『あ、フレジャちゃん!おかえりなさい!』

『…………ン? リンリンちゃん?』

『そうよ、リンリンよ!久しぶりね!』

『ヤダーーー、ホント久しぶりねーーー♪ 元気にしてたぁーーー?』

『もちろん!この通り、元気も元気よー♪』

先程までの激烈な殺気はどこへやら、リンドブルムが声をかけた途端にフレア・ジャバウォックの殺気が消え失せて、代わりにぽわぽわとした可愛らしい女子トークが繰り広げられた。

リンドブルムとフレア・ジャバウォック、両者の手がぴったりと組み合わさり、歓喜でピョンピョンと飛び跳ねる度に地面がドスン、ドスン、という地響きとともに軽く揺れる。

リンドブルムがフレア・ジャバウォックのことを大親友と言っていたが、どうやらそれは本当のことのようだ。

『フレジャちゃん、ファフ兄から聞いたわよー。フレジャちゃん、ママンになるのね!』

『ウフフ、そうなのよー。私がママになるなんて、想像もつかないでしょ?』

『そんなことないわよー。フレジャちゃんなら、すっごく優しくて頼もしいママになれるわ!』

『ありがとうー、リンリンちゃんにそう言ってもらえるとすっごく勇気が湧いてくるわ!』

『フレジャちゃん、私に手伝えることがあったら何でも言ってね!』

『うん、頼りにしてるわね!』

気の置けない大親友同士、終始仲良く会話をしていたが。

次の瞬間、フレア・ジャバウォックの青い瞳が再びライト達をギロッ!と睨みつけた。

『……でさ、このちっこい三匹は何? まさか、リンリンちゃんが連れてきたの?』

巨躯から繰り出される激しい敵意が再びライト達に向けられて、それまでぽやぽやとした女子トークに呆気にとられていたレオニスとラウルが再度臨戦態勢に入る。

しかし、リンドブルムだけは終始あっけらかんとした声で、フレア・ジャバウォックにライト達の正体を明かした。

『あ、コレ? これは人族が二人と妖精が一人でね? ちっこい人族が抱っこしてるのがうちのパパンよー』

『リンリンちゃんのパパン?…………てことは、私にとってのお義父様!?』

リンドブルムから告げられた答えに、フレア・ジャバウォックがガビーン!顔でショックを受けている。

フレア・ジャバウォックは、外部からの侵入者への怒りで半ば我を失いかけていた。

そのためライトが抱っこしていたラーデの存在に気付なかったのだ。

しかし、確かによくよく見たらライトの腕の中に赤黒いチビドラゴンがいる。

そしてそのチビドラゴンは、目を凝らすまでもなく尋常でない高貴なオーラを放っているではないか。

驚愕しているフレア・ジャバウォックに、リンドブルムが軽い口調で話し続ける。

『そそそ、こんなちっこくなっちゃってるけどね? 正真正銘私達のパパンで、皇竜メシェ・イラーデよー』

『ウソーン!私ったら、お義父様に対して何て失礼なことを……お義父様、お許しください!』

ライト達に向けてフレア・ジャバウォックが突如巨躯を地に伏し、平身低頭で謝りだした。

もちろんその謝罪はライト達ではなく、ラーデに向けられているものである。

フレア・ジャバウォックの謝罪に対し、ラーデが口を開いた。

『其方が我が息子ファフニールの番、フレア・ジャバウォック嬢か?』

『はい!ファフニール様の嫁のフレアでございます!』

『苦しゅうない、面を上げよ』

それまで地面に額をつけんばかりに伏していたフレア・ジャバウォック。

ラーデの言葉に素直に従い、その頭を上げた。

眼前に迫る巨大なフレア・ジャバウォックの頭、その深い青色の瞳をラーデが真っ直ぐ見据えた。

『フレア嬢、いや、フレア。我が息子の番とは、つまりは我の新たな娘ということ。このように愛らしく頼もしい娘が増えたこと、我はとても嬉しく思う』

『お義父様……寛大なるお言葉、ありがとうございます!不肖フレア、これからは偉大なる皇竜メシェ・イラーデ様の娘として、そしてファフニール様の妻として恥じぬよう、日々精進してまいります!』

『うむ、良い心がけだ』

ラーデの寛大な言葉に、フレア・ジャバウォックが青い瞳を潤ませながら感激している。

ジャバウォックも竜族の一つに含まれるので、竜の祖である皇竜メシェ・イラーデに会って言葉をかけてもらえるだけで至上の喜びなのだ。

フレア・ジャバウォックの逆鱗に触れかけたが、ラーデのおかげで何とか事なきを得た。

事が丸く収まりそうな気配に、リンドブルムが改めてファフニールとフレア・ジャバウォックに声をかけた。

『ファフ兄、フレジャちゃん、こんなところで立ち話も何だし、落ち着けるところに案内してくれる?』

『そうだな。フレア、この人族達も奥に進ませるが良いか? リンの話によると、この人族達は父上の生命の恩人なのだそうだ』

『お義父様の生命の恩人ですか!? そういうことなら私に否やなどございませんわ!』

『ありがとう。では父上、そしてその恩人達よ、奥に行こうぞ』

「はい!」

最後の難関、フレア・ジャバウォックの快諾を得られたライト達。

ファフニールの案内により、洞窟奥に広がる広大な森の中に入っていった。