軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1446話 ラグナ教神殿と魔の者達の今

その後ライト達は北の塔のスタンプを無事ゲットし、この日のスタンプラリー回りは終了した。

その翌日の、黄金週間七日目。

この日はスタンプラリー回り後半戦、残り五つのスタンプ設置場所を回る予定である。

ラグナ教神殿、冒険者ギルド総本部、魔術師ギルド総本部、南の塔、東の塔の順に回る予定だ。

まずはラグナ教神殿に向かうライト達。

ここには昨年の十一月下旬、主教座聖堂爆発騒動が起きた時以来五ヶ月ぶりの訪問だ。

ラグナ教神殿正門を潜ると、他にもスタンプラリー回りで来ている人も多くそこそこ賑わっている。

スタンプ設置場所である薬草園の前に進むライト達。

以前は冬でもたくさんの薬草が蒼々と茂っていたが、【破壊神イグニス】に敗北した【武帝】の残滓が薬草園を荒らしてしまったので今は薬草の新芽しか生えていない。

後で聞いたところによると、この新芽は今年の春に新たに薬草の種を播いて芽吹いたものらしい。

冬の間は念入りに浄化作業を繰り返し、四月に入ってから満を持して各種薬草を育て始めたのだとか。

回復剤作りに欠かせない薬草はラグナ神殿にとっても必要不可欠であり、その再建もまた急務であった。

しかし、そんな物寂しい風景の薬草園の向こう側は、何故かたくさんの人々で大賑わいしている。

スタンプラリー目当てに来たにしてはかなりの人集りで、中には大きな袋や籠を抱えてホクホク顔で帰っていく者もいる。

去年の黄金週間には見られなかった光景に、ライト達が不思議そうな顔で前を進んでいくと―――スタンプ押印場所の横に大きなテントの下で土産物を売る売店があった。

「何だこりゃ……スタンプラリー以上にすげー賑わってんな」

「あ、この列がスタンプをもらうための列みたいだよー」

「そしたらまずはここに並んで、先にスタンプを押してもらうか」

「はーい」

土産物の人集りとは別の列に並ぶライト達。

列の先頭にはスタンプ設置場所があり、テントの中にはご機嫌でスタンプを押す魔の者達がいた。

それはもうニッコニコの笑顔で仕事をこなす血煙鷹大工カイト、岩ゴーレム守衛ボリス、高原小鬼調理師ガイル。

順番待ちの列が進み、ライト達の番となったところでレオニスが魔の者達に声をかけた。

「よう、今年もお仕事ご苦労さん」

「あッ、あん時の兄ちゃんじゃねぇか!久しぶりだなぁ!」

「皆元気にしてたか?」

「もちろん!俺っち達ャいつだって元気だぜー!」

「そりゃいいことだ」

気さくに話しかけるレオニスに、これまたレオニス以上に気さくに答える魔の者達。

相変わらずの軽さに、ライト達も思わず微笑む。

そんな魔の者達に、ここより先にある売店っぽいものについて尋ねた。

「つーか、隣にある売店は何だ? えらく人が集まってるが……」

「あー、アレ? アレは、オレ達が彫った木彫りの土産物の特設コーナーなんだぜー」

「何だ、お前らの作ったもんがそんなに人気あるんか?」

「そりゃもう!見ての通りよ!」

「あの売店は、黄金週間の期間限定でやってんだけどな? 毎日売り切れ続出の完売御礼なんだぜー!」

「そりゃすげーな」

四人分のスタンプを押しながら、皆ご機嫌モードで隣の売店について語る。

魔の者達が作る木彫りの土産物は大好評だ、というのは確かにレオニスも聞いたことがある。

しかし、まさかこんなにも人気が高いとは知らなんだ。

「そしたら俺も売店を見ていくか」

「おう、是非とも見てってくれや!」

「どれもお手頃価格だから、何か買ってってくれてもいいんだぜー?」

「全部俺っち達の渾身の作だからよ!」

レオニスの何気ない言葉に、魔の者達がますます輝く笑顔で応える。

ライト達の後ろにもスタンプ押印を待つ列ができていたので、イベントの邪魔にならぬよう早速隣の売店に移動した。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

複数のテントを繋げて設置された、黄金週間限定の臨時売店。

その広さはスタンプ押印場所の五倍近くはあり、大勢の客で賑わっていた。

「うわぁー、たくさんの木彫りの置物があるねー!」

「おお、どれも精巧な作りだな」

「こっちには可愛いもんがたくさんあるぞ」

「僕より大きな像だ、すごーい!」

大小様々な木彫りの置物に、ライト達も思わず感嘆の声を上げる。

そんな中、レオニスに声をかける者がいた。

「よう、冒険者の兄ちゃん!」

「お、ファングにいたヤツじゃねぇか。元気そうだな」

「オレらのこと覚えててくれてんのか? 嬉しいねぇ!」

「まぁな、お前らのことはある意味忘れようにも忘れられんからな」

「アタシみたいにモテる女って、ホンット罪作りよねぇー♪」

「おい、手首の包帯が解けかけてんぞ。とっとと直しとけ」

「あらヤダ、アタシとしたことがッ」

顔見知りの魔の者達に、またも気軽に声をかけられるレオニス。

丘ゴブリン庭師リグ、水蜈蚣門番トルド、包帯魔女売店店員ミライが臨時売店の接客業務担当をしているようだ。

ここでも皆ノリの軽さを発揮しているが、今日はレオニス以外にも連れがいることにすぐに気づき、各自速攻でライト達に話しかけてきた。

「お、今日は兄ちゃんだけじゃなくてお連れさんもいんのか」

「あ、こんにちは。いつもレオ兄ちゃんがお世話になってますー」

「おお、すんげー礼儀正しい坊っちゃんだな!」

「ねぇねぇ、黒いお兄さんや可愛い坊やもアタシ達の作った置物、見てってよー♪」

「お、おう、せっかくだからよく見せてもらうか」

「あッ、このカラスの置物、すっごく格好いいですね!」

魔の者達の熟練の接客業?に、ライトだけでなくラウルやマキシまであっという間に巻き込まれていく。

実際にテント内にはたくさんの木彫りの置物が所狭しと並べられており、ライト達が気軽に会話をしている間にも他の客達がどんどん品物を購入していった。

飛ぶように売れていく品々を、ラグナ神殿の神官達が次々と補充していく。

そのあまりの人気ぶりに、ライト達も思わず食いつき気味に木彫りの品々を眺め始めた。

そんな中、レオニスが小声でリグ達に話しかける。

「お前ら、最近はどうだ? 大教皇と総主教が交代した後、特に変わりはないか?」

「ぁー、うん、これと言って変わりはないぜー」

「新しい 大教皇様(・・・・) と 総主教様(・・・・) も、オレらのことを気にかけてくれるし」

「でもやっぱり、大教皇ちゃんとホロっちがいなくなっちゃったのは、すっごく寂しいけどねー……」

「そっか……」

レオニスが気がかりだったのは、大教皇エンディと総主教ホロが辞任後の魔の者達の待遇の変化。

エンディとホロは、これまでの経緯を全て知っている数少ない者達。

そして二人とも魔の者達の境遇を哀れに思い、彼らの処遇を少しでも良いものにしようと懸命に努めていたことをレオニスも知っている。

だからこそ、ラグナ神殿のツートップが交代した今、神殿内で魔の者達がどう過ごしていたのかが気になったのだ。

そして魔の者達からの答えを聞くに、今のところ特に表立って彼らの扱いが悪くなるなどの変化は起きていないらしい。

しかし、いつもあっけらかんとした魔の者達にしては若干歯切れが悪い。それは現在の大教皇や総主教のことを様付けで呼んでいることからも明らかだ。

その理由はやはり、大教皇と総主教が入れ替わったことが大きい。

魔の者達は前大教皇のエンディを『大教皇ちゃん』、総主教ホロのことを『ホロっち』と呼び、心から親しんでいた。

そしてエンディとホロもそんな彼らを快く受け入れ、とても良い信頼関係を築いていた。

毎日のように顔を合わせていた、とても仲の良かったエンディやホロが引責辞任でいなくなったのだ。信頼していた彼らが去ってしまったことは、魔の者達にとって少なからず影を落としていた。

「……まぁ、変わりなく過ごせているなら何よりだ」

「これも全て、大教皇ちゃんやホロっち、そして兄ちゃんのおかげだぜ」

「うんうん、そこはアタシ達、今でも皆感謝してるわぁー」

「そしたら今度、兄ちゃんに感謝の意を込めて、兄ちゃんの等身大の木彫りの彫刻を作ってプレゼントするぜ!」

「さすがにそれは要らん……置き場所に困る」

レオニスの気遣いに、魔の者達も小さく微笑みながら問題なく過ごせていると答える。

ここにいる魔の者達は、腹芸や隠し事など到底できない者達ばかり。なので、変わりなく過ごせているというのは本当のことなのだろう。

その恩人の一人であるレオニスに、魔の者達が何か恩返しがしたいらしい。その感謝の表し方が『レオニスの等身大の木彫り彫刻』とは、何とも彼ららしさに溢れている。

ただし、その提案はレオニス自身に速攻で却下されてしまったが。

するとここで、ミライがはたとした顔でレオニスに声をかけた。

「あッ、でもね、あれからまたちょっといいこともあったのよ?」

「ン? いいことって何だ?」

「アタシ達の貢献が認められてねぇ、再び正式にラグナ神殿職員として働けるようになったんだー♪」

「おお、そりゃすげーな!」

ミライの話に、レオニスも驚きながら手放しで褒め称える。

一時は魔の者達というだけで理不尽な拘束を受け続けていたが、今では再び正規のラグナ神殿職員として認められるようになったというではないか。

この素晴らしい出来事に、レオニスも大喜びしつつふと疑問に思ったことを素直に問うた。

「……って、お前らの貢献って、一体何したんだ?」

「ンー? オレらの貢献ってったら、コレしかねぇっしょ?」

「……ああ、そういうことか」

レオニスの問いかけに、リグが親指をクイッ!と立てながら売店内の商品棚を指差す。

レオニス達がこうして呑気に話をしている今も、魔の者達が作った木彫りの置物が売れ続けていた。

手のひらサイズの可愛らしい置物は一個20Gからあり、それらのお手頃価格の品々は主に子供や女性達に人気だ。

その他にも、鷹や虎などの生物類の精巧な置物、等身大の天使像や女神像など、老若男女問わず人気を博している。

この売れ行き具合を見れば、その製作者である魔の者達の貢献度の高さは一目瞭然だった。

「ここ最近は、俺っち達の作るアイテムがラグナ宮殿にも納められるようになってな? 上の人達もかなーりご機嫌なんだぜ?」

「ラグナ宮殿に!? そりゃまたえらく出世したもんだな!?」

「だしょだしょー? オレらん中でも一番彫りが上手いトルドの爺さんなんてさ、ラグナ宮殿お抱えの彫刻師に!なーんて話もあったんだぜー」

「宮殿御用達の彫刻師って……そんなすげー話が出てたんか……」

最近の境遇を鼻高々に語るリグ達に、レオニスが半ば呆然としている。

ラグナ教内に魔の者達がいたことはトップシークレットなので、ラグナ宮殿内でも知る者は少ない。

だが、少なくともラグナ大公はこのことを知っているはずだ。

その上で魔の者の一人を宮殿お抱えの彫刻師に指名したということは、異例中の異例であることをレオニスも瞬時に理解していた。

「でもねー、トルドのお爺ちゃん、それ断ったんだよねー。ワシはここで皆と木彫りを楽しむくらいがちょうどいいんじゃ、とか何とか言ってねー」

「そうそう。トルドの爺さん、『ワシがいなくなったら、お前ら寂しがるじゃろ?』とも言ってたよなー」

「ったくよー、照れ隠しに俺らを使うなんて良い根性してるぜ!」

「ホンット、可愛いお爺ちゃんよねー♪」

「トルドの爺さん、今頃彫り部屋でくしゃみしてんじゃね?」

「違ぇねぇ!」

「「「ワーッハッハッハッハ!!」」」

「そっか……」

終始陽気な魔の者達の高笑いが響く中、レオニスだけが一人静かに喜びを噛みしめる。

この様子なら、魔の者達の行く末もそう悪いものにはならないだろう。

するとここで、商品棚の補充に努めていたラグナ宮殿職員が魔の者達に声をかけた。

「おーい!リグ、トルド、ミライ!油を売ってる暇あったら、会計仕事に入ってくれ!会計待ちが出てるぞ!」

「はいよー」

「あら、お兄さんのお連れさん達もお会計に並んでるわぁー」

「ンじゃ、俺っち達も仕事戻らにゃならんでよ、またな!」

「おう、仕事の邪魔して悪かったな。お前らも、これからも頑張れよ」

売店業務に引き戻された魔の者達が、いそいそと己の持ち場に向かう。

レオニス達が雑談に花を咲かせていた間に、ライト達も魔の者達特製木彫りの品々を選んで会計所の列に並んでいたようだ。

相変わらず底抜けに陽気な魔の者達の元気さに、却ってレオニスの方が励まされた気さえしてくる。

魔の者達と分かれたレオニスは、会計待ちで並ぶライト達のもとに歩いていった。