軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1445話 レオニスの悔恨と強い決意

花の森公園を出て、北の塔に向かったライト達。

四個目のスタンプも無事ゲットし、そこから旧ラグナロッツァ孤児院があった旧スラム街に移動した。

旧ラグナロッツァ孤児院の中庭に謎の亀裂が出現したのが、今年の二月中旬のこと。

亀裂出現から十日後に亀裂は消滅し、ラグナロッツァ最大の危機は何とか免れることができた。

それから約二ヶ月半が経過した今、停滞していたスラム街の更地化は進み辺り一帯に建物は一つも残っていなかった。

しかし、まだ公園の建設途中とあって奥まで入ることはできない。

立入禁止の柵がある場所から、ライト達は広々とした更地をしばし眺める。

「だいぶ見晴らしが良くなったねー……」

「だなぁ」

「これだけ広い公園なら、きっとたくさんの人達の憩いの場になるね」

「イアンから聞いた話だと、今年の夏には正式に一般開放されるらしいぞ」

「あ、あれは噴水を作る予定なのかな?」

「木製の遊具もいくつか作るっぽいな」

今は黄金週間中で工事も休んでいて、辺りには人っ子一人いない。

誰もいない公園予定地の前で、いくつか散見される建設途中の設備を見つけてはそれが何かを推測するライト達。

しかしそれもすぐに終わり、特に話すこともなくなったライト達はしばし静寂が流れる。

かつてここには、貧困層が住まうスラム街があった。

どの家屋もボロボロで空き家も多く、犯罪者が逃げ込むこともしばしばあって治安も悪かった。

そんな場所にあった、ラグナロッツァ唯一の孤児院。

そこはラウルが冒険者になって初めて引き受けた依頼先であり、さらにレオニスの恩師であるシスターマイラがいたこともあって度々交流を深めていた。

明るく元気な孤児達のはしゃぐ声と、あちこちでミシミシと不穏な音を立てるオンボロ教会、わんぱく過ぎる子供達を叱りつけるシスターマイラの怒声。

在りし日のラグナロッツァ孤児院の、騒がしくも賑やかな光景が今でもライト達の脳裏にありありと浮かぶ。

するとここで、マキシがとある方向を見つめながら呟いた。

「あっちに小さな木があるけど、どうしてあんなところに一本だけ植えてあるんだろう? 何か意味があるのかな?」

「…………あれは…………」

マキシが指差した先にある木を見つめるライト達。

まだ公園予定地内に木は植えられていない様子で、しかも何故か公園の外周ではなく妙な位置に高さ約2メートルの若木がぽつんと立っている。

この不思議な光景は、マキシでなくとも自然と目を引くものだった。

そしてこの時、ライトとマキシは分かっていなかったが、レオニスとラウルはその木がある場所を見て凡その意味を察した。

そこは旧ラグナロッツァ孤児院の中庭があった場所、つまりはコヨルシャウキが出現した大岩があった場所だった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

マキシが見つけた一本の若木を見つめながら、レオニスが徐にその口を開いた。

「あそこは孤児院の中庭だった場所で、以前は大きな岩があった」

「え? ……ということは……」

「そう、あれは謎の亀裂が現れた場所だ」

「「………………」」

レオニスからの予想だにしなかった答えに、ライトとマキシが思わず黙り込む。

後日関係筋から聞いた話によると、旧スラム街を公園として整備するに当たり例の場所―――謎の亀裂が出現した大岩をどうするか、かなり紛糾したという。

祟りを恐れてそのまま手つかずにしておくべきだ、という者や、岩の回りを祠で囲って祀るべきだ、あるいは縁起でもない大岩は撤去して完全に更地化すべき、という意見もあったとか。

様々な意見が飛び交う中、最終的に採択されたのは『大岩を撤去して、慰霊碑代わりの植樹を行う』というものだった。

そして植樹に選ばれたのは、聖なる木ペロサント。

慰霊碑と言ってもこの場所で死人が出た訳ではないが、それでも邪気を祓うといった目的や願いも込めての選択だったのだろう。

聖なる木がもっともっと大きくなって、人々に木陰を提供できるようになる頃には、人々の中にある謎の亀裂騒動の恐怖や記憶も薄れて平和の象徴となっていくに違いない。

しかし、レオニスもラウルもあの事件を決して忘れることはない。

むしろペロサントの木を見る度に、コヨルシャウキとのやり取りや事件のことを思い出しては決意を新たにするはずだ。

現に今、レオニスとラウルはペロサントの木を眺めながらあの時のことを思い出していた。

コヨルシャウキという名の謎の怪物との対峙に始まり、約十日に及ぶ勇者候補生の捜索、その間奔走した食糧調達や配給支援、そして幾夜にも渡る対話を経てビースリー開戦の覚悟等々。

あれからまだ三ヶ月も経っていないせいか、当時の様々な記憶が未だに鮮明に思い出せる。

辺り一帯が静まり返る中、レオニスが誰に言うでもなくぽつりぽつりと語り始めた。

「……俺は、あの時ほど自分の無力さを呪ったことはない。世界一強い冒険者だ何だと言われても、所詮は人族の中でだけの話。あんな巨大な敵に立ち向かう子供一人助けることもできず、何が世界最強だ。あまりにも無様で、滑稽で、悔しいなんてもんじゃない」

「「「………………」」」

はるか向こうにあるペロサントの木を眺めながら、一人静かに悔恨の情を吐露する。

その目はペロサントの木を通して、過去の己の非力さ―――何をどうしても星海空間に渡ることができなかった無念さを、昨日のことのようにまざまざと思い出していた。

「だから俺は決心したんだ。これからもっともっと修行して、もっともっと強くなるってな。でなきゃ守りたいもん一つも満足に守れやしねぇ」

「「「………………」」」

「本当にな、俺なんてまだまだ弱くて話にもならん。今のままじゃどうにもならん、もっともっと強くならなくちゃな」

「「「………………」」」

レオニスの懺悔にも近い語り口に、ライトもマキシもかける言葉が見つからない。

そんな中、空気を読まない妖精がここに一人。

「ご主人様よ、それ以上強くなってどうすんだ?」

「……え? いや、お前、そこは俺を励ますところでしょ?」

「そりゃまぁな? ご主人様は、もともと力を求めることに貪欲だってのは知ってるけどよ。でも俺は、こうも思うんだ。『これ以上強くなり過ぎたら、このご主人様は本当に人間じゃなくなっちまうんじゃねぇの?』ってな」

「お前、本当に失敬なヤツだね……」

半ば呆れ返ったようにレオニスにダメ出しするラウルに、レオニスががっくりと肩を落としながら項垂れる。

しかしラウルの甚だ失敬な懸念も尤もで、今でさえレオニスは随所で遺憾なく人外度を発揮しているというのに、これ以上人外度が増していったら本当に人間じゃなくなるのでは?とラウルが考えるのも無理はない。

この二人の喜劇にも近いやり取りに、思わずライトが吹き出した。

「ププッ……ラウルがレオ兄ちゃんの心配をするのも無理はないけどねー」

「あッ、何だよライト、お前までラウルと同じこと考えてんのか!?」

「ううん、そういう訳じゃないけどさ。でも、どうやってこれ以上強くなるの? 何か良い方法とかあるの?」

「そんなもん!ひたすら筋トレあるのみだ!筋肉は努力を裏切らんからな!筋肉を鍛えて鍛えて鍛え上げて、いつかあの宇宙空間の見えない壁を素手で引き千切れるようになってやらぁ!」

ライトの何気ない質問に、天高く掲げた拳にグッと力を込めて握りしめながら、高らかに宣言するレオニス。その姿はまるで、どこぞの覇王もしくは拳王を彷彿とさせる世紀末的オーラを感じさせる。

その原因は、間違いなくあの時のこと―――コヨルシャウキとともに星海空間に渡ろうとしていたライトを止めるべく、自分も星海空間に侵入しようとして見えない空間に阻まれたことが余程悔しかったのだろう。

とはいえ、その見えない空間を素手で引き千切ってやる!という発想がもはや完全におかしいのだが。

ついでに言うと、あれはコヨルシャウキ側の意思やBCOのシステム的な根幹に由来するものなので、筋トレで筋肉を鍛えてどうこうできる代物ではない。

しかし当のレオニスはそんなことを知る由もないので、あの鉄壁防御の根幹や理論は分からずとも、何が何でも打破してやる!という気概に満ち満ちている。

見えない壁相手に力づくで活路を見い出そうとは、もとから脳筋気質のレオニスがさらに輪をかけて脳筋覇道を驀進しているようで何よりだ。

もちろんライトの方も、レオニスのその決意が無謀極まりないことは重々承知していて、それでも彼の意気込みにツッコミを入れるような真似はしない。

より強い力を求めるのは冒険者として正しい在り方だし、その努力に対し水を差すのは愚の骨頂だからだ。

ここはレオニスを励ますべく、努めて明るい声でライトが肯定する。

「うん、レオ兄ちゃんなら絶対にできると思うよ!」

「そうか!ライトなら分かってくれると思ってたぞ!」

「そしたらぼくも、レオ兄ちゃんに負けないくらいに修行を頑張らないとね!」

「おう、その意気だ!ライトがラグーン学園を卒業したら、俺といっしょにあちこち冒険に出かけような!」

「うん!」

満面の笑みでレオニスを励ますライトに、レオニスも嬉しそうに破顔する。

それまで天高く突き上げていた拳を即座に下ろし、今度はライトの両脇を掴んでライトの身体を高々と持ち上げた。

久しぶりにレオニスに高い高いをされて、ライトもキャッキャとはしゃぐ。

そこだけ見ていたら、普通に仲の良い兄弟にしか見えない平和な風景。

ビースリー勃発の危機を乗り越えて、何でもない幸せな日常生活を取り戻したライトとレオニス。

二人の温かい絆を、ラウルもマキシも微笑みながら見ていた。