軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1412話 思わぬ影響と余波

翼竜牧場でカイ達のティファレト行きの便に、無事乗れることになったライトとラウル。

大きさが変更になった籠を見るために、牧場の端の籠が置いてある場所に行ってみた。

カイ達が乗る予定だった籠は四人乗りで、かつてライトがラウルやマキシとともに里帰り時に乗った籠と同じタイプだ。

それに対し、今回はもう二回り大きな八人乗りの籠に変更となった。

ナディアから勧められたのは八人乗りの籠。確かに彼女の言う通りで、大人四人子供一人にフォルやマキシ達八咫烏が五羽もいれば、六人乗りよりも八人乗りの籠の方がゆったりと過ごせていいだろう。

八人乗りの籠は、赤が基調でところどころに金の装飾が施された結構豪華なものだ。

これは、ゆったりとした乗り心地と広い空間を好む貴族が八人乗りをよく使うためだという。

中の座席も上等な生地が使われているようだ。

ライトがラウルに抱っこされながら、八人乗りの籠の窓から中を見ていると、追加の御者がライト達に声をかけた。

「お、何だ何だ。籠変更のお客さんってのは、ラウルさんとその小さなご主人様だったのか」

「あッ、シグニスさん!お久しぶりです!」

「よ、シグニス。今回の籠の御者はお前だったのか」

「ああ、俺は籠変更に伴う追加の翼竜の御者だ。八人乗りともなると、一頭では運ぶのが厳しいんでな。必ず翼竜二頭での運転となるんだ」

「そうなんですね!」

久方ぶりのシグニスの登場に、ライト達の顔が綻ぶ。

確かに大人数が乗った籠の運搬は、翼竜一頭だけではキツそうだ。

前後か左右か、どう並ぶのかは分からないが、馬車で言うところの二頭立てのようなものか。

「シグニスさんの相棒は、今日もプテラナちゃんですか?」

「当然!俺が乗るのはプテラナに決まってんだろ? ……てゆか、ここだけの話な? 俺が他の翼竜に乗るとプテラナがヤキモチを妬いて怒るんだ」

「ププッ……シグニスさん、モテるんですねぇ」

「そうそう、モテる男はツラいんだぜ?」

途中、ライト達だけに聞こえるよう小声で囁くシグニスに、ライトも思わず噴き出しながら笑う。

シグニスの、相変わらずノリが軽くて親しみやすい人柄に安堵する。

「さて、そしたら籠と翼竜の支度をするか。籠は予定時間通り出立するから、お客さん方はもう少し建物の中で待っててくれ。出立時間の五分前になったら、乗る人達全員で籠の前に集合な」

「分かりました!今日はよろしくお願いします!」

「ああ、こちらこそよろしくな」

シグニスの説明に、ライトも明るい声で応える。

そうしてライト達は再び建物の中に戻り、シグニスは翼竜籠の出立の支度に分かれていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

その後、シグニスの宣言通り十時の五分前に全員で籠の前に集まり、翼竜籠に乗る時の心得や注意事項を聞く。

飛行中は籠の中での移動は極力控えること、正午に昼食休憩、午後二時に小休憩の二回の休憩を取ること、籠の中にある緊急連絡用のボタン等、ライト達が以前翼竜籠を利用した時と同じ説明を受けた。

ティファレトの到着予定時刻は午後四時とのこと。馬車で行けば片道三日はかかる距離を半日で行ければ上等である。

諸々の説明を受け終えた後、ライト達は籠の中に乗り込み無事ラグナロッツァを出立した。

他にも何組か翼竜籠を利用する客がいて、黄金週間中の繁盛ぶりを窺わせていた。

久しぶりというか、サイサクス世界での人生二度目の空の旅に、ライトが窓の外を眺めながらはしゃぐ。

「うわぁー、もうラグナロッツァの街があんなに遠いや!」

「ライト君は翼竜籠に乗るのは初めて?」

「前に一度だけ、翼竜籠に乗ったことがあります!」

「そっか、二回目なのね。二回目なら、空の旅の景色も珍しいわよねー」

「はい!すっごく楽しいです!」

箱馬車のような綺麗な設備での空の旅に興奮するライトに、アイギス三姉妹もニコニコ笑顔で綻んでいる。

もっともライトの場合、自身が空を飛べるので空の旅自体はそこまで珍しいものではない。

だが、自分で飛ぶのと空飛ぶ乗り物に乗るのは全くの別物。翼竜籠ならではの景色にライトは感動しているのだ。

そうして空の旅の感動を一頻り味わった後、ライトとラウルがレオニス不在の理由をカイ達に伝えた。

今ライト達のもとに皇竜メシェ・イラーデが滞在していること、皇竜を四日も放ったらかしにしたままでは忍びないので今回の旅行にも連れていくこと、しかしその皇竜は全ての竜の祖という非常に特殊な存在のため翼竜籠に乗せるのは多分無理なこと、故にレオニスが冒険者ギルドの転移門を利用してティファレトに向かったこと等々。

ちなみにラーデがライト達のもとに滞在することになった理由、天空島での戦いのことまでは詳細に話していない。あくまでも『訳あって皇竜とともに暮らしている』と伝えるのみ。

これは、冒険者でもないカイ達に話してもあまり意味を成さないからだ。

そしてそれらの説明を聞いた三姉妹は、非常に驚いていた。

「はぁー……竜の祖を仲間にするなんて、レオらしいわね」

「ホント、何をどうしたらそんなことになるのかしら? 私には想像もつかないわ」

「でも、レオちゃん達に新しいお友達が増えたのは良いことよねぇ。それに、レオちゃんだけが別行動というのも納得できたわ」

「確かにね。竜の祖を翼竜籠に乗せるなんて、絶対に無理そうだものね」

「ホントホント、そんなことしたら翼竜が怖気づいて飛べなくなりそう」

ライトの話にセイとメイは呆気にとられていたが、カイだけは相変わらずぽやぽやとした口調で喜んでいる。

皇竜(ラーデ) を 人族(レオニス) の新しいお友達と評して心から喜べるのは、世界広しと言えどカイだけであろう。

そして道中、お昼御飯休憩のために一旦地面に降り立ち、乗客と翼竜それぞれが昼食を摂った。

ラウルが昼食の支度をする間、シグニスともう一人の御者が相棒の翼竜に昼食の干しビッグワームを与えている。

ライトはシグニスのもとにスススー……と近寄っていき、声をかけた。

「あのー……シグニスさん、ぼくもプテラナちゃんにご飯をあげたいんですが」

「お、そしたらこの干しビッグワームをやってあげてくれるか?」

「はい!」

ライトの申し出に、シグニスも嬉しそうに応じる。

翼竜を怖がる客もそこそこいる中、こうして翼竜の餌やりまでしたがる客はシグニスにとっても嬉しいことらしい。

シグニスから受け取った干しビッグワームを、ライトが手ずからプテラナに与えていく。一方のプテラナも、ライトのことを怖がることなく嬉しそうに干しビッグワームをもらってはもっしゃもっしゃと食べている。

すると、昼食の支度が完了したラウルからライト達に声がかけられた。

「おーい、小さなご主人様よ、昼飯の準備ができたぞー」

「はーい!そしたらシグニスさんともう一人の御者さんも、ぼく達といっしょにお昼ご飯を食べましょう!」

「おお、今回もご相伴に与っていいのか?」

「もちろん!きっとラウルもそのつもりで準備したはずですから!」

「ならお言葉に甘えて、ありがたく頂戴しよう」

ライトの誘いに、シグニスも乗り気で同僚の御者に声をかけてからライト達と合流した。

そこにはライトの予想通り、二つの四角いテーブルを繋ぎ合わせた七人分の席が用意されていた。

ライトが特に指示を出さずとも、シグニス達の席までちゃんと用意するラウル。彼の万能執事ぶりは、今日も健在である。

そうしてラウル特製の料理を堪能するライト達。

もちろんこの席には、マキシ達五羽の八咫烏とフォルの分の食事もちゃんと用意されている。八咫烏達の大好物のたまごボーロに、フォル用の木の実のサラダ等々。

皆で美味しい食事を堪能する中、アイギス三姉妹はセイを筆頭に「やっぱラウルさんの料理は最高ね!」と大絶賛し、シグニス達御者組も「おおお、久しぶりにラウルさんの料理を食えるなんて!今日はついてるなぁ!」と大喜びだ。

そして食後の一休みの雑談中に、シグニスがぽろり、と零す。

「そういや最近、何でか知らんがラグナロッツァ周辺のビッグワームがかなり減ってきてるんだよなぁ。おかげでうちのプテラナ達の飯を確保するのが何気に大変なんだよな」

「グフッ…………そ、そうなんですか?」

「そうなのよ。前はビッグワーム狩りに出れば、すぐに十匹二十匹は確保できたんだがなぁ。今は二十匹狩るのに小一時間かかるようになっちまった。……ま、ラグナロッツァ周辺のビッグワームが減ること自体は良いことなんだがな」

「そ、そうですねぇ……アレは放っとくと大変なことになるってよく聞きますしね……」

シグニスが何気なく漏らした愚痴に、ライトが思わず噎せかける。

ラグナロッツァ周辺のビッグワームが減っている原因に、ライトは思いっきり心当たりがある。それは、鷲獅子騎士団と竜騎士団である。

鷲獅子騎士団は、もとからラグナロッツァ守備のために周辺の魔物を日々狩っていたが、ここ最近はより精力的にビッグワーム狩りに邁進するようになった。それはひとえに彼らが崇敬して止まない鷲獅子の王、金鷲獅子アウルムのため。

アウルムの大好物であるビッグワームの素の生産に日々励んでいるのだ。

そして竜騎士団の方でも、以前から鷲獅子騎士団と手分けしてラグナロッツァ周辺の魔物狩りを担当していたが、こちらもビッグワームの素の生産に力を入れているという。

何故なら彼らもレオニスとの魔石取引のために、ビッグワームの素が必要となったからだ。

その影響がまさか翼竜牧場にまで出ているとは、ライトも夢にも思わなかった。

しかし、翼竜牧場の経営にまで影響が出ることはないはずだ。

何故ならビッグワームはBCOではリポップする通常の雑魚魔物であり、BCOを模したこのサイサクス世界でそれらが絶滅することなど絶対にあり得ないのだから。

ビッグワームを狩るのに、以前より手間がかかるのは確かに大変だろうが、翼竜達の飯の種が絶滅する訳ではないので、ここは一つシグニス達にも頑張ってもらいたいところである。

思わぬこぼれ話を聞いて、内心で少しだけ焦ったライトだったが、その後は順調に空の旅を満喫し無事ティファレトにある翼竜牧場の支部に到着した。

ライト達は皆手ぶらで身軽なまま籠から下りる。

荷物は全てラウルの空間魔法陣に入れてもらってあるので、キャリーケース一つも持ち歩く必要がないのだ。

「お疲れさーん。乗客の皆様方、忘れ物はないかー?」

「大丈夫でーす!」

「荷物を持たずに済むってのは、ホンット羨ましいよなぁ。俺も早いとこアイテムバッグが欲しいぜ」

「ホントよねー。というか、私はもうアイテムバッグよりもラウルさんが欲しいわ。一家に一人、ラウルさんが欲しい!」

「お褒めに与り光栄だ。しかし、俺は一人しかいないので諦めてくれ」

手ぶらで籠から下りるライト達を見て、シグニスが心底羨ましがる。

空間魔法陣と同じ役割を持つアイテムバッグを欲しがるあたり、昨日のセイと同じようなことを考えているようだ。

しかし、当のセイはもはやアイテムバッグどころかラウルが欲しい!とまで言い出している。

確かにラウルがともにいてくれれば、荷物持ちはもちろんのこと炊事掃除洗濯等々家事一般からも解放されるだろう。セイの『一家に一人ラウルが必要!』というのは、そういう意味での話である。

しかし、ラウルがそれに同意することはない。もともとラウルはレオニスにその生命を助けられたのだから。

そしてそれ以上に、ラウルは今の生活がとても気に入っている。

今以上にラウルの好き勝手にさせてくれる居場所など、サイサクス世界のどこにも存在しないだろう。

万が一ラグナ宮殿から直々に召し抱えると言われても、ラウルがそれに頷くことは絶対にない。

「さて、では俺達の仕事はここまでだ。帰りもうちの便を使ってくれるなら、今日ここで乗客人数と籠の大きさ変更をしていくといい。当日にまたやるよりは、今のうちにやっといた方が楽だろうし」

「そうね、その方が慌てなくていいわよね。ありがとう、そうさせてもらうわ」

「どういたしまして。お客さん方のような心優しい方々なら、俺としても大歓迎だからな」

シグニスからのアドバイスに、カイが礼を言いつつ同意する。

確かに彼の言う通りで、今ここで帰りの便の変更も届け出しておけば、帰宅日当日に慌てて手続きをすることもなくなる。

カイが早速翼竜牧場ティファレト支部の建物に向かい、セイとメイもそれに続く。

そしてライトはシグニスに向かって挨拶をした。

「シグニスさん、ありがとうございました!もしまた帰りの便もいっしょだったら、よろしくお願いしますね!」

「おう、俺もまた皆に会えたら嬉しいからな、今のうちに出勤表に希望を出しとくわ!」

ライトの挨拶に、シグニスもニカッ!と笑いながら手を振り応じる。

二人の言葉には、社交辞令やお世辞などは一切ない。心から再会を願っているのだ。

そうしてライトは、初めてティファレトの地に足を踏み入れたのだった。