軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1410話 セイの野望とティファレト旅行の打ち合わせ

レオニス邸の食堂で賑やかな食事をした後は、お待ちかねの食後のお茶とデザートタイム。

今日はいつもより人数が多いし、お互い気兼ねなく過ごせる相手なので客間ではなくそのまま食堂でデザートを摂ることにした。

晩御飯時の食器類を全て下ろし、各人一人一人の席の前にラウルが恭しくデザート皿や飲み物を配っていく。

その姿は、本当に洗練された熟練執事のようだ。

ラウルのスイーツに人一倍目がないセイが、目の前に置かれたザッハトルテを見て目をキラッキラに輝かせている。

「ああ、ラウルさんのスイーツを食後に堪能できるなんて……今日は何て良い日なんでしょう!」

「セイ姉は、ホンットにラウルのスイーツが好きだよなぁ」

「当然でしょ!ラウルさんの作るスイーツは、どれも本当に美味しいもの!私はね、ラウルさんは世界一のパティシエだと思ってるわ!」

「ラウルはパティシエじゃねぇよ、うちの執事だよ……」

ラウル特製ザッハトルテに大喜びしているセイに、レオニスが苦笑いしながら話しかけている。

セイはレオニスからの提案で、『魔宝石の研磨十個につきラウル特製スイーツで一つ、好きなものを選んで別途報酬としてもらえる』という個人的な取引をしている。

そのせいか、もはやセイの中でのラウルは『レオニスが雇っている執事』ではなく、『世界一の凄腕パティシエ』と化しているようだ。

セイとの契約が取り交わされるようになってから、早一年。

これまでセイが獲得したラウル特製スイーツは、何十個どころか三桁は余裕で突破した。

だがそれでも、セイがラウルのスイーツに飽きることはない。

四季折々の旬の果物を使ったスイーツは季節限定品も同然だし、アップルパイやシュークリームのように通年作る品であってもセイの心をガッチリと掴んで離さないのである。

「あー、この極上スイーツを旅行先にも持っていけるようになりたい……今回はラウルさんもいっしょに旅行に行ってくれるけど、この先そうじゃない時の方が圧倒的に多い訳だし。いつでもどこでもラウルさんのスイーツを食べられるようになるためにも、早いとこアイテムバッグを購入する資金を貯めなくっちゃ!」

「セイ姉、そこまでする程のことか?」

「当たり前でしょ!レオはいつでもラウルさんのスイーツを食べられるから、そんな簡単に言えるのよ!でも私達はそうじゃないんだからね!家にある冷蔵箱だって、保存期間には限りがあるし」

たかがスイーツにそこまでするか?というレオニスの尤もな疑問に、セイが目をクワッ!と開きつつ食ってかかる。

実際アイテムバッグがあれば、アイギス三姉妹もいつでもラウルの料理を食べることができるようになる。

鮮度問題はもちろん温度管理もバッチリ。ラウルのスイーツをこよなく愛するセイにとって、アイテムバッグの購入は喫緊の課題なのだ。

「アイテムバッグか……上流階級や豪商なんかには、ぼちぼち広まってきているようだな?」

「そうね。私達の顧客の間でも、アイテムバッグを所持している家が少しづつ増えてきてるわね」

そうしたセイとの話の流れで、話題はラウル特製スイーツからアイテムバッグに移る。

アイギス三姉妹には内緒だが、レオニスはアイテムバッグの考案者なのでその行く末は非常に気になるところだ。

「アイテムバッグと言えば、今の値段はどうなってんだ? 魔術師ギルドで一番最初に売りに出された時には、一つ500万Gだったらしいというのは噂に聞いたが」

「こないだうちに来たお客様の話では、一つ200万Gで買えるようになったらしいわよ。その方は『だいぶ安くなった』って喜んでらしたたけど、200万Gは安くないわよね……」

「だよな……富裕層と俺らじゃ金銭感覚が違うよな」

「全くよねー」

アイテムバッグを購入する財力がある富裕層、その異次元レベルの金銭感覚の違いにレオニスとセイが二人してはぁー……と深くため息をつく。

そうは言っても、レオニスは金剛級冒険者として名を馳せていて金には困らないし、セイもアイギスという超一流ブランドの経営者の一人として大成しているので、二人とも一般人よりはるかに稼いでいるのだが。

そこら辺は孤児という出自が強く影響していて、大成した今でも庶民感覚が抜けないのであろう。

ちなみにレオニスは魔術師ギルド総本部マスターであるピースとも懇意だし、魔宝石と浄化魔法呪符の物々交換を頻繁にしてはいるが、アイテムバッグの販売状況まではあまり知らない。

アイテムバッグは魔術師ギルドの中でも最も高額商品であり、ギルド内売店で販売している品ではない。販売担当部門が購入希望者と面談の上、直接商談しているのだ。

そのため、アイテムバッグの最新状況まではレオニスの耳まであまり入って来ないのである。

するとここで、ライトがカイに話しかけた。

「そういえば、今年のカイさん達の旅行先はティファレトなんですよね?」

「そうよー。ティファレトは美肌効果がある温泉リゾート地として有名なの」

「ぼくも、ティファレトの名前だけは聞いたことがあります。確か遺跡もありますよね?」

「ええ、ティファレトは古代遺跡があることでも有名ね。もっとも今は、温泉リゾートの方が圧倒的に人気が高くて、観光業ももっぱら温泉開発の方に力を入れているらしいけど」

「そうなんですねー……」

ライトが今気になっているのは、カイ達のバカンス旅行先であるティファレト。

場所はラグナロッツァから見て南東方向にある街で、普通の馬車で片道三日かかるくらいの距離がある。

そこはライトが言っていたように、古代遺跡があることでもそこそこ有名な街だ。

だが、ライトの関心は温泉ではなく古代遺跡の方。

『ティファレト』とは、BCOでは複数ある課金任務の中の一つだったのだ。

『ティファレトか……ホドと同じく課金任務の舞台だったな。懐かしい』

『確か『古代遺跡調査許可証』という名のアイテムを購入して、遺跡を調べるんだったかな……そしてその遺跡の中で謎の魔力暴走が起きて、遺跡調査に参加した騎士団メンバーと一致団結して討伐する。その報酬目当てに、基本微課金者だった俺もたまーに購入してたっけ』

『このサイサクス世界にもティファレトがあって、さらには遺跡まであると知った時には驚いたが……いつかホド遺跡もティファレト遺跡も見れるといいな!……でも、肝心のCPはこの間のビースリー問題解決のために殆ど使っちゃったから、課金任務の購入なんてできないけど。……トホホ』

カイやレオニス達の話を聞きながら、心はBCOの思い出に浸るライト。

そんなライトの心境やら思惑など関係なく、レオニスがカイ達に問うた。

「というか、カイ姉達はどうやってティファレトまで行く予定なんだ? 確か馬車だと三日くらいかかるよな?」

「明日の午前十時に出立する翼竜籠を予約してあるの。三人分の切符しか手配してないけど、料金上乗せして籠の大きさを変えてもらえばレオちゃん達も乗れると思うわ」

「ああ、翼竜籠か!そっか、そうだよな、やっぱ転移門は使わんよな」

「あらヤダ、レオちゃんってば。転移門なんて、私達一般人が簡単に使えるものじゃないわよ?」

「だよなー」

レオニスが気になったのは、ティファレトまでの移動手段。

いつものレオニス達なら、冒険者ギルドにある転移門を使用してサクッと移動するところなのだが。さすがにカイ達までそれができるとはレオニスも考えてはいなかったらしい。

だが、それにしたって馬車での移動は時間がかかり過ぎる。片道三日、往復するだけで六日もかかっていたら黄金週間の殆どが馬車の中で過ごすことになってしまう。

ならばどうやってラグナロッツァとティファレトを往復するのか。その答えはズバリ『翼竜籠』であった。

カイの話によると、翼竜籠での移動なら半日程度でティファレトに行けるという。

ただし、もともとカイ達三人の旅行として手配したので、当然のことながらレオニス達三人分の切符は改めて追加で購入しなければならない。

カイは『籠の大きさを変更して追加料金を払えば大丈夫』と言っているが、翼竜籠の発着地点である翼竜牧場で実際に聞いてみなければ分からない。

「じゃあ、ひとまず明日の朝九時半に翼竜牧場に集合ってことでいいか? もし籠のサイズ変更が不可能だったら、俺達三人は冒険者ギルドの転移門でティファレトに移動することにするわ」

「そうね、そうした方がいいわね。本当はレオちゃん達ともいっしょに翼竜籠の旅を楽しみたいけど、もしダメでもティファレトで落ち合えばいいだけだものね」

「もしティファレトで落ち合うことになった場合は、俺達の方から翼竜籠の到着地点に行くことにしよう」

「そうしてもらえると助かるわ」

ティファレトまでの移動手段と、別行動になった場合も想定していろいろと決めていくレオニスとカイ。

せっかくアイギス三姉妹といっしょに温泉旅行に行けることになったのだ、万が一にもすれ違って合流できなかった!なんてことになってはいけない。

「じゃ、今日のところはこれで解散とするか。俺達も明日からの旅行の支度を急いでしなきゃならんし」

「ああ、そうね。私達はもう旅行の支度はできているけど、レオちゃん達は今から三日分の着替えとか用意しなくちゃいけないものね」

「そうは言っても、俺もラウルもマキシも空間魔法陣があるからな。支度も然程時間はかからんがな」

「ホント、そういうところはレオちゃん達のことが心底羨ましいわ」

レオニスの言い分に、カイがクスクスと笑う。

カイ達は、それぞれの着替えやら何やらで三日分の荷物が結構あるというのに。レオニス側は皆空間魔法陣持ちなので、改めて荷物を用意したり運んだりする手間要らずなのだから。

カイでなくとも羨ましいことこの上ない。

そして、クスクスと笑っていたカイが、ふと真面目な顔つきになりレオニスに語りかける。

「姉さんの思いつきで、急遽レオちゃん達にも私達の旅行に付き合ってもらうことになったけど……姉さんのわがままを聞いてくれてありがとう。レオちゃん達には迷惑かもしれないけど、こんな機会でもなければレオちゃん達と旅行をすることなんてないだろうから……」

「いや、迷惑だなんてとんでもない!俺の方こそ、カイ姉達といっしょに旅行できるなんて夢みたいだ。しかもライトやラウルまでいっしょに連れていってもらえるんだ、これ程嬉しいことはない。カイ姉、俺達を旅行に誘ってくれて本当にありがとうな」

レオニスに向けて頭を下げながら、改めて礼を言うカイ。

そんなカイの改まった態度に、レオニスが慌てて礼を言う。

思えばアイギス三姉妹もレオニスも、独り立ちしてから他の誰かとともに旅行に行くなんてことは一度もなかった。

今までずっとがむしゃらに働いてきたが、たまにはこんな息抜きの仕方があってもいいだろう―――レオニスもカイも、素直にそう思えた。

「じゃ、アイギスまで俺が送っていくわ。ラウル、アラエル達の泊まる部屋の支度はできてるよな?」

「もちろん万全だ」

「OK。ライトも三日分の着替えなんかの支度をしときな」

「はーい!」

レオニスがラウルとライトにテキパキと指示を出していると、カイが申し訳なさそうに口を開いた。

「まぁ、レオちゃん、姉さん達は三人で帰れるから大丈夫よ?」

「いンや、そういう訳にはいかん、もう夜も遅い時間だしな。つーか、こんな夜中にカイ姉達のような美人が三人も揃って歩いていたら、悪い奴が絡んでくるかもしれんだろう?」

「レオちゃんってば、本当に口が上手になったわねぇ」

真面目な顔つきで家まで送ると言うレオニスに、カイが思わず笑う。

実際レオニスが危惧するのも当然で、夜中に三人の美女が護衛もなしに徒歩で歩いていたら、酔っ払いに絡まれたり最悪の場合人攫いに遭いかねない。

危機感の薄いカイに、レオニスが真剣な顔で諭す。

「いやいや、これは冗談抜きで真面目な話なんだぞ? それに、もともと俺もカイ姉達を送っていった後、冒険者ギルド総本部に寄り道しなきゃならん。明日から四日程ラグナロッツァを離れてティファレトに出かけることを、総本部にも前もって知らせておかなきゃならんからな。だから、是非ともアイギスまで送らせてくれ」

「そういうことならお願いしようかしら。じゃあ、レオちゃん、帰り道の護衛をよろしくね」

「確と承知した」

レオニスの尤もな言い分に、カイも今度こそ素直に従う。

レオニスは現時点で最強の冒険者という立場上、二日以上の外泊を伴う外出時にはその行き先を冒険者ギルドに明かしておかなければならないのだ。

そしてアイギス三姉妹がライト達に別れの挨拶をかける。

「マキシ君、ラウルさん、ライト君、今日は本当に楽しかったわ!また明日からのティファレト旅行でもよろしくね!」

「はい!こちらこそ、明日からよろしくお願いしますね!」

「アラエルさん、ムニンちゃん、トリスちゃん、ミサキちゃん、温泉旅行を目一杯楽しみましょうね!」

「ありがとうございます。私達も完璧な人化の術を会得するため、一生懸命頑張ります!」

アイギス三姉妹を見送るため、皆で食堂を出て玄関までゾロゾロと歩く。

その後レオニスはアイギス三姉妹とともに屋敷を出て、ライト達はレオニス達が門扉の外に出て姿が見えなくなるまでずっと手を振っていた。