軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1409話 思いがけない客人

そうしてアイギス三姉妹とともにレオニス邸に戻ったマキシ。

カイ達は普通のカラスサイズのムニン、トリス、ミサキを胸に抱っこし、マキシは同じく普通のカラスサイズのアラエルを抱っこしている。

まるでぬいぐるみのように可愛らしい八咫烏女子を抱っこできて、アイギス三姉妹はとても満足げだし、マキシとアラエルも久しぶりに親子で触れ合えてとても嬉しそうだ。

玄関に入り、そのまま皆が待っているであろう食堂に向かうマキシ。

するとそこには、予想通りライトとラウル、そしてマキシ達より先に帰宅していたレオニスの三人が待っていた。

食堂の入口に一番近い席に座っていたレオニスが、マキシ達を待ってましたとばかりに出迎える。

「お、マキシ、おかえりー。何だ、カイ姉達も来てるようだな?」

「ただいまでーす。はい、向こうでちょっといろいろありまして、僕が今日の晩御飯をいっしょにどうですかってカイさん達を誘ったんです」

「マキシ、でかした!俺も最近カイ姉達とは全然飯を食ってねぇから、今日はカイ姉達が来てくれて嬉しいぞ!」

マキシの肩をぽんぽん、と軽く叩きながら、カイ達を呼んできたお手柄?を大喜びするレオニス。

マキシ達が屋敷に入ってきた時点で、ラウルが「ン? カイさん達三人もいっしょに来たようだぞ?」と察知していたのだ。

そしてレオニスは、マキシのすぐ後ろにいたカイ達にも早速話しかける。

「カイ姉、セイ姉、メイ、よく来てくれた!皆がこの家に来てくれるのなんて、すっごく久しぶりだよなぁ?」

「そうね、マキシ君の穢れを祓う時にお邪魔して以来かしら?」

「そうだな。あれからもう一年半が経つのか……早いもんだな」

「まぁねー、私達がレオんちを訪ねるような用事なんて滅多にないしねー」

カイ達に嬉しそうに話しかけるレオニスに、アイギス三姉妹もにこやかな笑顔で応じる。

メイが言ったように、アイギス三姉妹がレオニス邸を訪れるのは実に約一年半ぶりのこと。

カタポレンの森を飛び出して、ラグナロッツァに辿り着いたマキシの身体に巣食う穢れを祓う場面に居合わせて以来だ。

月日が経つのは早いものだ、と思うと同時に、レオニスがセイの言葉に反応する。

「特に用事なんかなくたって、いつでも遊びに来てくれていいんだぞ?」

「フフフ、じゃあ今度暇な時にでも遊びに来ようかしら?」

「いつでも歓迎する。ただ……カイ姉達が暇な時なんてあるのか?」

「レオ、それを言っちゃあお終いよ? そもそもレオだって結構忙しいでしょ?」

「まぁな。でも、もし俺が不在の場合でも、この屋敷には常にラウルがいるからな。いつでも遊びに来てくれ。何ならラウルのスイーツを食べに来るだけでもいいぞ」

「ラウルさんのスイーツ!? それなら毎朝毎晩でも食べに行きたいわ!」

「セイ姉なら、本当に毎日朝晩来そうだな……」

久しぶりに平穏な時に会えた嬉しさで、話が弾むレオニスとアイギス三姉妹。

一方でマキシはラウルに話しかけていた。

「ラウル、申し訳ないんだけどカイさん達の分の御飯もお願いできる?」

「もちろんだ。というか、もう追加の三人分の席と皿の用意はできてる」

「ありがとう!さすがラウル、言わずとも分かってくれるんだね!」

「お褒めに与り光栄だ。さあ、皆、そろそろ飯にしよう」

ラウルの呼びかけに、マキシやアイギス三姉妹も席に着く。

アラエル達四羽の八咫烏には、八咫烏の姿でも食べやすいよう唐揚げや一口大のコロッケ、サイコロステーキなどが用意されており、急遽増えたアイギス三姉妹の分もライト達と同じく豪華な食事が温かい状態で出されている。

そうして今日は、ライト達は思いがけない客人達とともに楽しい晩餐を過ごすことになった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

アラエル達マキシの家族来訪の歓迎会を兼ねた、賑やかな晩餐。

皆で食事を摂りながら、カイ達までレオニス邸を訪ねた理由などを話していく。

「あー、確かになぁ……アラエル達に本当の人族の姿を学ばせるなら、温泉旅行は最も適しているわなぁ」

「でしょう? だから、今回の私達の温泉旅行にアラエルさん達も連れていったらどうかと思って。せっかくの良い機会だし、これを活かさない手はないでしょう?」

「そりゃまぁ、俺達だけじゃどうすっ転んでも女湯には入れんし、カイ姉達に任せることができればそれが一番良いとは思うが……でも、カイ姉達はいいのか? それこそせっかくの年一の、家族水入らずで骨休めの旅行なんだろうに」

カイからの説明に、レオニスも一応理解は示しながらも躊躇している。

黄金週間のバカンス旅行は、一年中仕事に追われるカイ達三姉妹の唯一の息抜き。それを邪魔しちゃ申し訳ない、とレオニスは思っているのだ。

そんな遠慮がちなレオニスに、すぐさま三姉妹が揃って反論した。

「レオちゃんってば、何を言っているの? 私達に遠慮することなんてないのよ?」

「そうよそうよ!アラエルさん達といっしょに旅行できるなんて、迷惑な訳ないじゃない!むしろ、日頃一生懸命働く私達へのご褒美と言っても過言ではないわ!」

「ぉ、ぉぅ、そうか……」

「セイ姉さんの言う通りよ!今回の温泉旅行は、今までにない超楽しい女子会になるんだから!レオ、いくらあんたでもこの楽しい女子会計画の邪魔は絶対にさせないんだからね!」

「ぃゃ、その……メイ達の楽しい計画を邪魔するだなんて、そんな、滅相もございません……」

カイだけでなく、セイやメイまで大きく身を乗り出してレオニスに詰め寄る。

彼女達の『本気と書いてマジと読む!』という大乗り気ぶりに、レオニスが後ろに仰け反りながらタジタジとしている。

もともとレオニスにも反対する理由などないのだが、ここまでアイギス三姉妹が乗り気ならばもはやレオニスにも止めることなどできやしない。

「……じゃあ、今回はカイ姉達の言葉に甘えるとしよう。マキシもそれでいいか?」

「はい!カイさん達になら、安心して母様を預けることができます!」

「そうか、分かった。カイ姉、セイ姉、メイ、アラエル達のことをよろしく頼む」

八咫烏達のことを頼むために、レオニスがカイに向けて深々と頭を下げる。

そんな律儀な 弟分(レオニス) に、カイが優しく微笑みながら応える。

「ええ、全て姉さん達に任せてちょうだい。というか、何ならレオちゃん達も私達といっしょにティファレトに旅行に行かない?」

「ン? 俺達もか? 今からじゃ宿なんて取れないだろ?」

「そこら辺は大丈夫。十人まで泊まれるコテージを三泊四日で貸し切りにしてあるから、増えた人数分の追加料金を払えば問題ないわ。だから、もしレオちゃん達さえよければ、姉さん達と温泉旅行に行かない? もちろんそれは、レオちゃん達の方に明日から四日目まで特に大事な予定が入っていなければ、の話だけれど」

「十人が宿泊可能か……なら俺とライト、ラウルが増えても大丈夫そうだが……」

カイからの思わぬ誘いに、レオニスがしばし思案する。

今ここにいる全員は、アラエルを除き未婚者だ。

八咫烏と人族では全く問題ないが、同じ人族で未婚の男女が一つ屋根の下で三泊も過ごすなど、如何にサイサクス世界が基本奇抜な世界観であろうともさすがにモラルに欠けた非常識な行動である。

しかし、アイギス三姉妹とレオニスは完全に姉三人と弟という関係であり、決して男女の仲にはなり得ない。

これは四人全員の共通認識であり、この関係が崩れることは一生ないだろう。

そしてこの『男女の仲にはなり得ない』というのは、レオニスだけでなくライトやラウルにも同じことが言える。

ライトの場合、中身はともかく外見は十歳未満のお子様だし、如何に中身がアラフォーであってもライト自身に全くその気がない。

ラウルに至っては人族ですらない妖精族。人族の女性とどうこうなろうという気など、ラウル自身微塵も持ち合わせていない。

そして、カイ達が宿泊するのが貸し切りコテージならば、他人の目を気にする必要も然程ないだろう。

聞けばその貸し切りコテージは二階建てで部屋数も多く、室内だけでなく外にも露天風呂があるというし、露天風呂にも目隠しの高い柵が設けられているのだとか。

それならアラエル達も存分にカイ達の『人族の女性の身体』を存分に観察できるだろうし、レオニス達もカイ達とは別の部屋で寝泊まりすればいい。

そして、カイが唯一危惧した明日以降の予定は、どれもずらしても問題のないものばかり。

初日の鑑競祭り第一部は観覧自由のイベントだから今年は行かなくてもいいし、『五月病御祓いスタンプラリー』だってティファレトから帰ってきてからでも十分に参加可能だ。

今年の黄金週間中で絶対に外せない用事といえば、最終日の鑑競祭り第二部参加とその前日のレインボースライム戦隊ショー、そしてクロエの初めてのお泊まり会、この三つのみ。

先の二つは黄金週間後半なのでカイ達のティファレト旅行とは全く被らないし、クロエのお泊まり会も旅行から帰還直後の黄金週間中盤のうちにすればいい。

そうした諸々の状況を判断し、レオニスが徐に口を開いた。

「……分かった。そしたら俺達もカイ姉の旅行に同行させてもらうとしよう」

「ホント!? レオちゃん達とお泊まりの旅行できるなんて、姉さんとっても嬉しいわ!長生きはしてみるものねぇ♪」

「おいおい、長生き云々なんてよしてくれよ。カイ姉はまだそんな歳じゃないだろう?」

「あら、そうでもないわよ? 人間なんていつどうなるか分からないものなんだから」

「そりゃそうだが」

レオニスがティファレト旅行の同行に応じたことに、カイが殊の外大喜びしている。

アイギス三姉妹がレオニスと旅行することなんて、今まで一度もなかったことだ。

それは、レオニスやカイ達の仕事の多忙さというのもあったが、互いに孤児院を卒院して以来そうした機会に恵まれなかったというのも大きい。

そしてここで、レオニスがコホン、と軽く咳払いをしながら再びカイに話しかける。

「ただし。俺達の分の宿泊の追加料金は俺が全額出すぞ。つーか、何ならカイ姉達の宿泊料金だって俺が出してもいいし」

「あら、それはダメよ。これは姉さんから言い出したことなんだから、レオちゃん達の追加料金だって姉さんが出すわ」

「いいや、それじゃ申し訳が立たん。今回は、ただでさえアラエル達の人化の術のために八咫烏達のことを任せるんだ。俺達の分の金まで面倒を見てもらう訳にはいかん」

「ンもう、レオちゃんってば頑固者なんだからー」

「カイ姉には負けるさ」

「なら、ここでもレオちゃんが姉さんに負けておくべきね」

「いや、カイ姉が相手でも今度ばかりは負ける訳にはいかん。追加費用は絶対に俺が出す」

レオニスとカイ、どちらがティファレト旅行の宿泊料金を負担するかで揉めている。

いや、空気的にはそれほど揉めている感じではないのだが、両者それぞれに言い分があり一歩も引かない。

これを見たライトが、話に入ってきた。

「あのー……カイさん、旅行中の食事はどういう予定なんですか? 貸し切りコテージってくらいだから、多分自分達で食材とか用意して料理も自分達でするんですよね?」

「ええ、そうよ。台所やバーベキューなどの設備はコテージに完備されているから、食材は持ち込みか現地で調達して、その都度自分達で調理する予定よ」

「そしたら、食材や料理はレオ兄ちゃん持ちってことで、追加の宿泊料金だけカイさん達に出してもらうってのはどうですか?」

ライトが出した妙案に、カイだけでなくセイやメイまで飛びついた。

「まぁ、それはいいわね!」

「旅先でラウルさんの料理が食べられるの!? 何ソレ、最高じゃなーい!」

「旅行先で炊事からも完全に解放されるなんて、これぞまさに完璧な旅行よ!」

レオニスとカイの膠着状態を解消するためにライトが出した案は、カイ達にとってとても魅力的なものだ。

貸し切りコテージは他者の目を気にせず、広々とした空間でゆったりと寛げるのが最大の魅力だが、唯一の憂鬱点は『食事は自前で用意する』ということ。

これが多少の金銭で解消されるなら、アイギス三姉妹にとっては万々歳である。

そしてレオニスの方にとっても、ライトの案は存外悪くない。

食材や料理を提供するというのは、宿泊料金負担同様にお金を出すことに相違ないからだ。

ただし、その食材や料理は主にラウルが出すことになるので、レオニスはまずラウルに確認を取ることにした。

「ラウル、カイ姉達はこの通り大喜びしているんだが……食材と料理を出してもらえるか?」

「もちろん。食材や料理のストックは、常に俺の空間魔法陣の中に大量に入っている。六人と五羽の三泊四日の食事くらいなら、いくらでも出せるから全く問題ない」

「すまんな。それにかかる費用は後で俺が出すから、よろしくな」

「了解」

レオニスとラウルの労使交渉も円満に進んだところで、今度はマキシがレオニスとカイに声をかけた。

「レオニスさん、カイさん……僕達家族のためにここまでしてくださって、本当にありがとうございます」

「何、気にすんな。全部俺がしたくてしてることだ」

「そうよ、マキシ君。貴方だって既に私達の家族でもあるんだから。家族皆で楽しく旅行しましょう?」

「……はい……ありがとう、ございます……」

レオニスとカイ、穏やかな笑みを浮かべながらマキシを見つめる二人の言葉に、マキシの瞳が潤む。

マキシが親友ラウルの後を追って、八咫烏の里を飛び出してから早一年と半。

こんなにも素晴らしい人達に、家族とまで言って温かく受け入れてもらえる日が来るとは、夢にも思っていなかった。

そしてそれはマキシの本当の家族、アラエル達も同じことだった。

カタポレンの森を出ていった息子や弟、兄が外の世界で本当に自立してやっていけるのか、とても気がかりだった。

だがその心配は杞憂だったことを、アラエル達は今改めて思い知る。

マキシと人族との絆の深さを実感したアラエル達の瞳も、マキシに負けないくらい潤み滲んでいた。