軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1382話 青龍の名付け問題

暗黒の洞窟でクロエの誕生日会を盛大に行った日の夜。

二人は帰宅後晩御飯やら入浴を済ませてから、リビングで真剣な話し合いをしていた。

カタポレンの家のリビングで、二人して改まって一体何をしているのかというと―――

「レオ兄ちゃん、またとんでもない依頼を引き受けたもんだねぇ」

「ン? そうかー? ライトが言う程のことでもないと思うけどなぁ?」

「ぃゃぃゃ、絶対に責任重大でしょ……」

「ンなこたぁないさ。俺もこの手の依頼はもう何度もこなしてきたし、そのおかげでだいぶ慣れてきたからな!」

「………………」

レオニスが楽観的で非常に軽い口調なのに対し、ライトはジトーッ……とした半目でレオニスを睨む。

そう、二人の議題は『青龍の名付け問題』であった。

「じゃあさ、一応だけどレオ兄ちゃんの考える青龍の名付け候補を先に聞かせてもらえる?」

「青龍ってドラゴンの一種だろ? だからドラゴンの『ドラ助』とかどうだ? あるいは下の二文字を取って『ゴン太』……ああ、それか真ん中の二文字で『ラゴ兵衛』なんてのもいいかもな!」

「………………」

ライトが先んじて聞いてみた、レオニスの青龍名付け案。それらの何とまあ酷いこと酷いこと。

ライトもある程度予想はしていたが、その予想をはるかに上回る悲惨な回答である。

それまでおとなしく聞いていたライトの半目は、ますます薄く細くなっていく。

このレオニスの名付けセンスに、ライトはとある出来事を思い出していた。

それは、かつて転職神殿で四番目の使い魔である黄金龍のルディを孵化させた時のこと。

その時のミーアの名付け候補も『ドラ太郎』『ゴン兵衛』『ラゴ助』など、それはもう惨憺たるものだった。

今回のレオニス同様、黄金龍という種族に拘った結果がこれである。

ミーアは転職神殿の専属巫女にして完璧なる淑女。

そしてレオニスも、こう見えて当代随一の現役最強冒険者。

二人とも普段は溢れんばかりの才能に満ち溢れているのに、何故名付けセンスに関してだけがこうも非常に残念なことになるのだろうか。

というか、同じ致命傷でもミーアの場合は苦笑い程度の微笑ましいものに思えるのに、レオニスの場合は笑えないレベルに感じるのは何故だろう。

ライトの半目の細目はついに全部閉じられ、非常に渋い顔で判決を言い渡す。

「……うん、全部却下ね」

「え、何でだよ。ドラゴンらしくていいじゃねぇか?」

「とりあえず一つ言えるのは、種族名をそのまま使おうとするレオ兄ちゃんの名付けセンスは捻りがなさ過ぎてダメだと思う」

「ぇー……分かりやすい方がいいのにー……」

ライトに却下の判定と名付けセンスのダメ出しを食らったレオニス。

口を尖らせながらブチブチと文句を言っている。

そんなレオニスに、ライトがさらに反論を重ねる。

「てゆか、愛称ならともかく真名は他者に知られちゃいけないものでしょ? 間違っても他の人が簡単に推察できるような名前じゃダメでしょ」

「そりゃまぁ……うん、確かにそうだよな……」

ライトの真っ当な言い分に、今度はレオニスも渋々ながらも認める。

確かにライトの言う通り、真名というものは親兄弟などの親しい者以外には決して知られてはいけないとされている。

そう、レオニスが出してきたような安易な名前は他者にも推察されやすいため、秘匿が必須の真名には絶対に用いるべきではないのだ。

「じゃあ、ライトはどんな名前がいいと思うんだ?」

「ンーーー……ちょっと待っててね、今考えるから……」

レオニスの問いかけに、ライトが再び目を閉じしかめっ面になりながら考え始める。

レオニスから青龍の名付けを引き受けてきた、という話は昨日聞いたばかり。

しかもこんな重大任務を引き受けてきた理由―――クロエの誕生日プレゼントに青龍の鱗をあげたかった、だから鱗をもらう対価として風の女王の願いを受け入れた、と聞けばライトも納得はできる。

しかし、高位の存在への名付けはとても重要かつ慎重に行わなければならない。

責任重大な任務を丸投げされる羽目になったライトだが、このままレオニス一人だけに青龍の名付けを任せる訳にはいかない。

ライトは持てる力の全てを出し切るつもりで思案し始めた。

『青龍かぁ……どんな名前がいいだろう?』

『ブルードラゴン……確か中国語読みだと『チンロン』だったっけ……『チロ』はさすがに子供っぽいというか、可愛らし過ぎるな』

『青色って、ブルー以外にもいくつか複雑な言い方があったよな? てゆか、ココちゃんの同族のアズール・メデューサの『アズール』も青色を指す言葉だけど……アズール・メデューサは、もしかしたらこのサイサクス世界のどこかに実在するかもしれんから、避けといた方が無難か……』

『アズールの他に青色を指す言葉というと、コバルトブルーとかセルリアンブルー、ゼニスブルーにセレストブルー、インディゴブルー、プルシアンブルー…………』

頭の中で、様々な案を考えるライト。

本当はラグーン学園の図書室で調べられたら一番いいのだが、できることなら明日にも青龍に名前を届けたい、とレオニスとも先に話し合っている。

青龍のもう一つの願いである『他の神殿守護神と会いたい』というのは、先方の都合なり合わせやすい相手や組み合わせ等も考慮しなければならない故にすぐには実現できないが、真名と愛称だけならすぐにでも伝えに行けるからだ。

なので、できれば今日中に良い案を出してコレだ!というものを決めておきたい。

そうすれば、ライトも明日の日曜日にレオニスとともに辻風神殿に行くことができる。

そのためには、今ここでライトが良案を提示して決めておかなければならなかった。

ライトはしばらくの間、腕組みしつつ目を閉じたまま上下左右に頭を振りうんうんと呻り続けた。

すると、何とか頭の中で考えがまとまったのか、パッ!と目を見開いて口を開いた。

「よし、決めた!」

「お、何か良い案が浮かんだか?」

「うん。えーとねぇ、青色の一種であるコバルトブルーの『コバルト』から『バルト』、空色を意味する『セレスト』から『レスト』、もう一つは空を意味する『ゼニス』から『ゼス』ってのはどう?」

「おお、どれもそれっぽくてカッコいいな!」

「でしょ? しかもどれも一文字抜いてるから、真名に使ってもバレにくいし」

ライトが出した三つの案に、レオニスも明るい笑顔で賛同する。

どれも青色や空を意味する言葉で、名前として用いても違和感なく使うことができそうな響きだ。

「その三つの中で、一番推察されにくいのは『ゼス』だろうな」

「じゃあ『ゼス』を真名にしようか。そしたら愛称は残りの二つのどっちがいいかな?」

「『バルト』と『レスト』か……敢えて選ぶとすれば『バルト』かな。『レスト』より強い響きがあって、風の女王が所望していた『強くてカッコいい名前』に当てはまりそうだし」

「そうだね。じゃあ、青龍につけてあげる真名は『ゼス』で、普段呼びに使う愛称は『バルト』ね!」

「決まりだな」

ライトが出した三つの名前候補『バルト』『レスト』『ゼス』。

レオニスの意見も取り入れて『ゼス』を真名に、『バルト』を愛称にすることに決まった。

絶望的にダサいレオニス案を通すことなく、ライトの必死の思案により何とかまともな名前になり何よりである。

「つーか、ライト、青色や空色を意味するいろんな言葉をよくそんなにたくさん知ってんなぁ。一体どこでそんなん覚えてくんの?」

「そりゃもちろん!ラグーン学園の図書室の本だよ!ぼくはいつも昼休みに、図書室でいろんな本を読んでるからね!」

「そうなのか……ラグーン学園の図書室ってのは、本当に偉大な場所なんだな……」

ライトの青色やら空色の知識の豊富さに、レオニスは心底舌を巻く。

もちろんそれらの知識は図書室由来ではなく、前世で得ていた知識だ。

普通に考えれば、九歳の子供がそこまで色に詳しいことなどなさそうなものだが。レオニスはライトの言を疑うことなく信じている。

ラグーン学園の図書室は、今日もライトの良い隠れ蓑として大活躍である。

そうして青龍の名付けという重大任務に目処がついたところで、二人は食後のコーヒーやぬるぬるドリンクを用意してほっと一息つく。

レオニスが冷めかけたホットコーヒーを一口二口啜り、改めて口を開いた。

「そしたら次は、どこの神殿守護神を青龍と引き合わせてやるかを考えるか」

「だねー。これは今すぐ叶えてあげられるものじゃないけど、それでも今のうちからちゃんと考えておかないといけないことだもんね」

「そうそう。何もお前の夏休みまで待たなくても、週末の土日でもいけそうだしな」

レオニスの提案にライトも賛同する。

そうして二人は、新たなる議題『青龍と他の神殿守護神を合わせてあげる順番』などを夜遅くまで話し合っていった。