軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1381話 クロエが得た新たなる力

レオニスが手のひらに持っていた青龍の鱗をクロエに差し出す。

それを受け取ったクロエは、鱗の美しさにしばし見惚れている。

『すっごく綺麗な鱗ね……ココにもおへそから下に鱗が生えてるけど、こんなに綺麗じゃないわ』

「そんなことないさ。ココの鱗だってものすごく綺麗だ」

『ホント? パパにそう言ってもらえると嬉しい!』

レオニスに褒められて破顔するクロエ。

そして徐に口を開けて、鱗を一気に飲み込もうとし始めたではないか。

『この鱗を飲み込めばいいのよね?』

「ちょちょちょ、ちょっと待った!」

鱗をそのまま丸飲みしようと、あーん☆と大きく口を開けて鱗を口に近づけるクロエに、レオニスが大慌てで待ったをかける。

そしてそれはレオニスだけではなく、クロエ以外の全員が「わーーーッ!」と小さく叫びながら慌てている。

しかし、レオニス達に止められたクロエは、何故制止されたのかが分からない。

きょとんとした顔で鱗を持つ手を止めてレオニスに問うた。

『なぁに、パパ? どうしたの?』

「ココ、こんな大きな鱗をいっぺんに一枚飲むのは、さすがに危険だからやめようか……青龍の力を一気に取り込むより、小分けにして少しづつ様子を見ながらの方が安全だし、何より喉に詰まっちまったら大変だ」

『ン、それもそうね……じゃあ、どれくらいの大きさに分ければいい?』

レオニスの尤もな説得に、クロエも同意しつつ思い留まった。

クロエの周りで見守っていたライト達も、心底ホッと安堵している。

そしてクロエにアドバイスを求められたレオニスは、右手を顎に当てながらクロエへの適量?を考えている。

「ンー……俺やライト、ラウルの場合は、本当に小指の爪の先程の欠片を数回飲むだけで飛ぶのが早くなったりしたが……そうだな、俺が細かく千切ってやろうか?」

『うん!パパ、お願い♪』

クロエから青龍の鱗を渡されて、再び手に取ったレオニス。

右手人差し指と親指で鱗を摘み、パキッ!と小さく折り取る。

それはレオニスの親指の爪くらいの欠片で、青龍の鱗の十分の一程度の大きさだ。

これくらいの大きさなら、クロエが飲み込んでも喉に詰まらせることはないだろう。

「さ、ココ、まずはこれを飲んでみな」

『うん!』

『ささ、ココ様、喉に詰まらせぬよう、これでお飲みください』

『ママもありがとう!』

レオニスから青龍の鱗の小さな欠片を受け取り、パクッ☆と口に含んだクロエ。

横にいた闇の女王がクロエの冷めかけた紅茶を勧め、彼女はそれに従い紅茶を一口含んで鱗の欠片とともに飲み込んだ。

コクン、と紅茶を飲み込んだクロエを、ライト達が息を呑みつつ見守る。

そして数秒が経ち、レオニスがクロエに問いかけた。

「ココ、どうだ? 何か変化を感じるか?」

『ンーーー……身体がちょーっとだけ、軽くなった、ような、気が……する?』

「そうか……やっぱココにはこの程度じゃそこまで効力は出ないか……」

レオニスの質問に、クロエが身体の中に何か変化があるかどうかを探るように己の胸やお腹などを手でペタペタと触りながら答える。

しかし、親指の爪程度の大きさの欠片ではあまり変化が感じられないようだ。

レオニス達人族ならともかく、クロエは暗黒神殿守護神。

もとより脆弱な人族には溢れんばかりの力をもたらす量でも、生まれつき強大な力を持つクロエには効力が薄いようだ。

それを受けてレオニスが再び青龍の鱗を指で折り取る。

二個目の欠片も、先程と同じくらいの親指の爪程度の大きさにした。

レオニスとしては、ここで一気に欠片の大きさを増すよりも飲み込む回数を多めにして、青龍の力をクロエの身体に徐々に馴染ませる方がより安全だ、と判断したのだ。

そうしてクロエが青龍の鱗の欠片を紅茶で飲み込むこと五回。青龍の鱗の半分を飲み込んだ。

すると、クロエが突然立ち上がった。

『何か、身体がとっても軽くなった気がする!』

そう言いながら椅子から離れ、テーブルの少し後ろに移動した。

そして何と、クロエの身体がふわりと浮き上がったではないか。

それは下半身の大蛇部分も全部宙に浮いていて、完全に地面から離れていた。

地面から30cm程の高さのところを、ふよふよと浮いているクロエ。その姿を見て、その場にいた全員が驚きの声を上げる。

「うわ!ココちゃんが浮いてる!」

「ホントだ!ココちゃん、すごい!」

「青龍の鱗の効果が出てきたんだな!」

『ほう……青龍の鱗の力は絶大だな』

それまでじっと見守っていたライトやマキシ、ラウルにラーデ、皆それぞれに大喜びまたは驚愕しながら席を立ち、クロエの周りを取り囲み口々に囃し立てる。

一方でレオニスは、冷静に状況分析しつつクロエに話しかけた。

「ココ、その浮いた状態から前に進んだりもっと上に飛んだりできるか?」

『ンーーー…………まだそこまでは、できない、かも……』

「そっか、じゃあもう少し鱗を飲んでみるか」

『うん!』

クロエが感じている結果を聞き、レオニスがさらに青龍の鱗を折り取り欠片をクロエに渡す。

確かにクロエは宙に浮いたし、それはとてもすごいことなのだが、たかだか30cm浮いた程度では何の役にも立たない。

その後欠片を一つ飲む度にクロエの様子を伺いつつ、鱗の欠片を飲み進めていく。

そうして青龍の鱗の欠片をさらに飲み込むこと五回。青龍の鱗を一枚全て飲み込んだ。

これでクロエの身体の中に、青龍の鱗一枚分の力が全て取り込まれたことになる。

「ココ、どうだ? これで鱗一枚全部飲んだが……」

『さっきより浮いていられるよ!ほら、見て!』

レオニスの問いかけに、クロエが嬉しそうにその成果を披露する。

クロエが宙に浮いたままスススー……と前に進んだり、浮いている位置も地面から1メートル程とかなり高さが増している。

それを見たライト達が「すごいすごい!」「ココちゃん、本当に飛べるようになったんだね!」と大喜びしているが、レオニスだけは険しい表情をしていた。

「青龍の鱗を一枚全部飲んでも、ここまでしか浮けんか……もうちょい何とかなるかと思ってたんだが……ココ、すまんな」

『え? パパ、何言ってるの? ココがこんなに飛べるようになったんだよ? これってすごいことでしょ?』

クロエに謝るレオニスに、当の本人はきょとんとした顔で問い返す。

そんなクロエに追随するように、闇の女王がレオニスに話しかけた。

『そうだとも、ココ様の仰る通りだ。あのメデューサ族が空を飛ぶなどと、この吾ですら夢物語としか思えなかったことだ。レオニス、其の方はそれをこうして実現させた。これはとんでもない功績ぞ』

『だよね!ココもね、自分が空を飛ぶなんて絶対無理!って思ってたもん!』

レオニスの功績を讃える闇の女王に、クロエもすぐに賛同する。

ダメ元でやってみたことがここまでの成果を出したのだ、これは彼女達にとって本当に賞賛に値する出来事であった。

しかし、クロエ達には満足できてもレオニスには納得できない結果らしい。

レオニスが悔しそうに呟く。

「いや、これじゃ飛んだとは言えん……せめてもう少し飛行速度や高度が増してくれれば、ココ一人でも自由に空を飛んで移動できるようになるのに……」

『それは致し方あるまい。それに、この状態でも十分飛んでおられるぞ? 何、もっと早く移動したければ吾なり其の方らなりがココ様の手を取り、皆で飛びながらココ様を引っ張って差し上げれば良いだけのこと』

「そうだよ!そしたらこないだのように洞窟の外に出た時だって、皆で素早く動けるようになるし!」

眉を顰めて悔しがるレオニスに、闇の女王やライトがフォローに回る。

レオニスは自身が当代最強の冒険者なので、常に高みを目指し力を追い求める傾向にある。

それ故思っていたよりクロエが飛べていないことが悔しいし、この現状に満足できていないのだ。

するとここで、思わぬ方向からレオニス達に声がかけられた。

『ならば、後は我に任せよ』

その声は、ラーデが発したものだった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

これまでライト達とともに、ハラハラしながらレオニスとクロエのやり取りを見守り続けていたラーデ。

スススー……と前に出て、クロエの目の前まで進んだ。

『闇の娘、ココよ。もともと我も、今日は其方の生誕を祝う贈り物として我の加護を与えようと思っておった』

『ラーデ君の加護をクロエにくれるの? ありがとう!』

ラーデの言葉に、クロエが嬉しそうに礼を言う。

ラーデは今でこそぬいぐるみサイズのちびドラゴンだが、その真の姿は皇竜メシェ・イラーデ、全ての竜の始祖であり天空の覇者。

そんなラーデが施す加護は、間違っても貧相なものではない。

きっとクロエに絶大な力を与えることだろう。

『我は皇竜、見ての通り羽毛の翼を持ち空を自由に駆けることができる。とはいえ、我の加護一つでメデューサ族が空を飛べるようになるはずもない。だがしかし―――レオニスが我より先に与えし青龍の力と併せれば、さらにその先に辿り着けるやもしれぬ』

『その先……?』

ラーデが言わんとしていることが、今一つ理解しきれていないクロエ。

不思議そうな顔をしているクロエの頬を、ラーデが両手でそっと包み込む。

そしてラーデが己の額をクロエの額にコツン、と軽く触れた。

その瞬間、二者は眩い程の赤い光に包まれた。

『ッ!!!』

突如起こった眩い光に、ライト達は思わず目を瞑り手で目上を覆い隠す。

その光は周囲の紫炎を掻き消す程の強さだったが、一分程かけて徐々に薄れていき消えた。

思いがけない出来事に皆言葉を失っていたが、真っ先に気を取り直したのはライトだった。

「ラ、ラーデ、ココちゃんに何をしたの?…………って、ええッ!? ココちゃんの背中!!」

ラーデとクロエが向かい合っている状態が真正面に見える位置にいたライト。

最初はラーデに声をかけていたが、クロエの異変に真っ先に気づいて驚愕している。

クロエの身体に起きた異変―――クロエの肩甲骨辺りから、左右対称の一対の翼が生えていた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

クロエの背中に翼が生えたことに、ライトだけでなく他の全員が目を大きく見開きながら驚愕している。

その翼はラーデと同じく羽毛タイプで、力天使ミーナや天空島のパラス達天使が持つような翼だ。

大きさは折り畳んだ状態でクロエの背中全体と同じくらい。広げればかなり大きいだろうと思われる。

ただしその色は、純白ではなく漆黒。錫色の肌を持つ暗黒神殿守護神ならではの艶やかな黒い翼だった。

『ン……何か背中がむず痒いー……』

「……ココ、背中のそれ、動かせるか?」

『背中? …………何だか背中に、新しい腕が二本生えた?』

おそるおそるクロエに声をかけるレオニスに、クロエがその翼を無意識のうちにパタパタと動かし始めた。

背中に新たに生えた翼が、クロエにとっては腕が新しく二本生えたような感覚らしい。

そして一対の翼を大きく広げたクロエ。彼女が得た新たな翼は、とても大きくて美しいものだった。

翼を大きく広げたクロエの身体が、ふわり、と高く浮き始めた。

その直後にヒュン!とものすごい速さで上空に飛んでいくクロエ。

その数秒後に『ふぎゃッ!』というクロエの小さな叫び声が聞こえてきた。どうやら勢い余って洞窟の天井に頭をぶつけたようだ。

クロエの叫び声に、闇の女王が『ココ様!大丈夫ですか!?』と叫びながらクロエが飛んでいった上空にすっ飛んでいく。

そうしてしばらくして、闇の女王がクロエの肩を抱き抱えながらライト達のもとに戻ってきた。

『痛タタタ……』

『ココ様、無茶をなされてはいけません』

『う、うん……そんなに力を強く入れたつもりはなかったんだけど……』

クロエの身を案じて苦言を呈する闇の女王に、クロエがぶつけた頭を自分の手で擦りながら答えている。

上空から戻ってきたクロエ達に、ライト達が興奮した声で話しかけた。

「ココちゃん!すごい速さで飛べるようになったんだね!」

「背中の黒々とした翼がすっごく綺麗です!」

「ココちゃん、とうとう完全に飛べるようになったんだな。こりゃすげぇ、誕生日会だけでなく飛べるようになったお祝いもしなくちゃならんな」

『えへへ……皆、ありがとう』

クロエを取り囲み大喜びしているライトにマキシ、そしてクロエの飛行能力獲得のお祝いを新たにするというラウル。

そんな彼らにクロエが照れ臭そうに礼を言う。

そして少し遅れてレオニスとラーデもクロエの近くに来た。

「ココ、ラーデのおかげで飛べるようになって良かったな!」

『いや、これは我の力だけではない。青龍の力という大きな下地があったからこそ成せた業だ』

レオニスとラーデも我が事のようにクロエの新しい力を喜んでいる。

そんなレオニス達に、闇の女王が話しかけた。

『レオニス、皇竜、ココ様に新たなる力を授けてくれたこと、心より感謝する。本当にありがとう』

「何、これは俺達からココへの誕生日プレゼントだ。喜んでもらえたなら何よりだ」

『然り。闇の娘に相応しき能力だ、それを活用できるようこれから鍛錬せねばならん。それには闇の女王がしっかりとついて指導せねばな』

『もちろん。もとより吾はココ様のために存在するのだからな』

レオニスとラーデに向かって深々と頭を下げる闇の女王。

いつも背筋を伸ばして凛とした佇まいの闇の女王が、クロエ以外の者にここまで頭を下げるのは異例中の異例だ。

それだけ闇の女王は、レオニスとラーデに深い感謝と敬意を感じていた。

しばらくして頭を上げた闇の女王が、小さく微笑みながら呟く。

『其の方らには、返しきれぬ恩ばかりが溜まっていくな』

「気にすんな。俺達だって、天空島の戦いでは闇の女王に助けられたし。それに、何より俺達は家族だろ?」

『……そうだな。吾らは家族だ』

『そうだとも。我らの絆は永久不滅だ』

闇の女王の言葉に、レオニスがニカッ!と笑いながら応える。

その笑顔は、暗闇の中で輝く満月のように眩しいものだった。