軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1361話 砂の女王とガベリーナ

満月の夜のノーヴェ砂漠で、突如現れた巨城に拐われたライトとレオニス。

巨大なガントレット様の手に捕まり、強制的に引きずり込まれるようにして城の中に入った。

「くそッ、一体何なんだ、この手は……ッ!」

レオニスが何とか巨大な手から抜け出そうと、懸命に押し返そうとしている。

しかし、何しろその手は巨大過ぎて、如何にレオニスであろうと素手で押すだけではどうにもならない。

そうして藻掻いているうちに、鷲掴みにされていた指の力が緩んでレオニスを床に置くように解放した。

床に降ろされたレオニスが周囲を見回すと、そこはまるで演劇場のような空間が広がっていた。

前方には上の階に上がるための階段が何十段と聳え、壁にはアーチ状の柱が何本も建っていてかなり豪奢な作りだ。

もしこれが普通に訪れていたなら、その豪華さに誰もが思わずため息を漏らすところだろう。

しかし、今のレオニスにそんな余裕などない。見渡す限りライトの姿がどこにもないからだ。

「おい、ライト!ライト!」

「どこにいる!? いたら返事をしてくれ!」

レオニスが大きな声で呼びかけるも、ライトからの返事は返ってこない。

どうやらレオニスのいる空間とは別の場所に連れ去られたようだ。

このことに、レオニスが歯ぎしりしながら呻くように呟く。

「くそッ、ここは一体どこなんだ…………いや、難しく考える程のことでもないか」

そう呟いた後、レオニスは上を向いて再び大きな声で呼びかけた。

「砂の女王!いるんだろう!いるなら隠れてないで、姿を現せ!」

腹の底からあらん限りの声を張り上げるレオニス。

劇場のような作りの空間で張り上げられた大声は、まるで木霊のように響き渡る。

すると、レオニスの目の前に聳える上の階に続く階段、その踊り場に誰かが現れた。

『そんな大きな声で呼ばなくても、ちゃんと聞こえてるわよ?』

すっきりとした顔立ちに流れるような肢体、凛としたよく通る声。

全体的に砂色で陰影が分かりにくいが、その面立ちは水の女王や炎の女王などによく似ている。

そう、レオニスの前に現れたそれは、紛うことなき砂の女王であった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

レオニスの前に現れた砂の女王。

階段をゆっくりと降りて、やがてレオニスの前に立った。

しかし、この砂の女王は今までの他の女王と大きく異なる点がある。

それは、身長が10メートルくらいあるのだ。

ラキ達オーガ族をはるかに凌ぎ、ともすれば竜の女王である白銀の君と大差ないくらいの体格の誇る砂の女王。

同じ地属性である地の女王も、他の属性の女王とは全く異なる姿形をしていたが、地属性の女王ならではの違いでもあるのだろうか。

だが、自分より五倍は大きな相手であろうとも、レオニスが怯むことはない。

むしろ顔を真上に上げて、砂の女王をギロリ!と睨みつけながら怒鳴る。

「おい!俺といっしょにいたライトをどこへやった!もしライトに危害を加えたら、絶対に許さんぞ!」

『だぁーからぁー……そんなに大きな声で怒鳴らなくても聞こえてるってー』

「ふざけんな!人のこと勝手に拐っておいて何ほざいてやがる!」

『あー、うん、それはまぁ、申し訳ないとは思うんだけどー……こっちにもちょっと事情があってね?』

「事情? 何だその事情って」

ライトの行方が分からないことに、レオニスは不機嫌さを隠そうともせず砂の女王に詰め寄る。

そんな猛り立つレオニスに、砂の女王がのんびりとした口調で答える。

こののんびりとした口調も、どことなく地の女王に似ている。

『何かね? ガベリーナが貴方の連れに用があるらしくてね? 今はこことは別の場所でお話をしていると思うわぁ』

「ライトに用があるだと? ……つーか、何だその『ガベリーナ』ってのは」

『ガベリーナはこの城のことよー。ガベリーナはねぇ、城でありながら意思を持っていて、神殿と守護神も兼ねているスゴい子なのよー』

「……つまりここは砂の女王が住む神殿で、神殿自身が自我を持って守護神も兼任しているってことか?」

『そゆことー』

砂の女王は、そののほほんとした口調に反し何気にすごいことをサラッと語っている。

これまでの属性の女王は必ず個人の神殿を所持していて、それに付随する形で守護神がついていた。

しかし、この砂の女王が持つ個人の神殿は『ガベリーナ』と名付けられた巨大な浮遊城で、しかもこの城自体に自我があって守護神も兼ねているというではないか。

驚愕の事実に、レオニスは一瞬だけ絶句するものの、すぐに気を取り直して再び砂の女王に詰め寄った。

「……つーか、この城の名前なんざどうでもいい。とにかくライトがいるところに案内しろ。この目でライトの無事を確認できなきゃ話にならん!」

『えーとねぇ、貴方のお連れさんのライトってのは、人族の小さな子供のことよね? 』

「ああ、そうだ。このくらいの背で、赤茶色のマントを羽織っている子供だ」

『その子のことなら大丈夫。ガベリーナは意味もなく誰かを拐ったりなんてしないし、ましてや 自分の身体の中(・・・・・・・) で殺生なんて絶対にしないから』

「…………」

またものほほんとした口調で答える砂の女王に、レオニスが思わず絶句する。

よくよく考えれば砂の女王の言う通り、ここはガベリーナ=ジャッジ・ガベルの体内にも等しい。

言ってみれば熊や鯨に食べられて胃の中に入ったようなもので、さらに言えばこの巨大な城には自我があるというのだから恐ろしい。

つまりジャッジ・ガベルが自身の体内にいるライトやレオニスに対し、『こいつらを殺そう』と思えばいつでも実行できるということになるのだ。

そのことに瞬時に気づいたレオニス、今まで以上に猛り立つ。

「そんなん口で言われただけで『ハイ、ソウデスカ』なんて納得できる訳ねぇだろう!何でもいい、とにかく今すぐ俺をライトのところに連れていけ!」

『えー、ちょっと待ってよぅー、ガベリーナには『話が終わるまで待ってて』って言われてるのよぅー』

「だから!ライトにしなきゃならん話ってのは何だ!」

『それは私にも分かんなーい。ガベリーナに聞いても答えてくれなかったから……』

ガベリーナ=ジャッジ・ガベルの目的が全く分からないことに、レオニスの苛立ちが止まらない。

さらには砂の女王ののんびりのほほん口調も相まって、レオニスの苛立ちはピークに達するどころか限界突破寸前である。

「……よし、分かった。そっちがその気なら、俺も勝手に動かせてもらうぞ」

『え"、ちょっと待ってー、勝手に動くって、どこに行くの?』

「ライトを見つけるまで存分に家捜しするまでだ。少しばかり壁に穴が開いたり、柱が何本か折れるかもしれんがな」

『そそそそれは困るわぁ、ガベリーナが『ぽんぽん痛いー』って泣いちゃうじゃなーい』

「そんなもんそっちの勝手っつーか、むしろ自業自得だ」

交渉決裂と判断したレオニスが、背中に背負った大剣をスラリ……と鞘から抜き取る。

そんなレオニスの尋常ならざる様子に、砂の女王が慌てたように止めに入る。

『ね、ねぇ、貴方は私の姉妹から何かをもらっているんでしょう? 私、そのことがずっと気になっていたの』

「勲章のことか? ……勲章なら炎、水、火、闇、海、光、雷、氷、地、風を持っている。既にあんた以外の属性の女王全てに会っていて、勲章をもらっていないのはあんただけだ」

『そうなのねぇ、私の姉妹全員に会ってきたなんて本当にすごいことだわぁ』

「俺とライトは、炎の洞窟にいる炎の女王に頼まれて他の女王達の無事を確かめてきた。その最後の最後に、こんな目に遭わされるとは思わなかったがな」

『それは……ごめんなさい……』

砂の女王の問いかけに、レオニスは吐き捨てるように答える。

これまでレオニスはライトとともに、属性の女王達の無事をその目で確認するべく世界中を飛び回った。

そのおかげで女王達の加護や勲章も得てきたし、何より属性の女王達は皆ライトとレオニスに好意的に接してくれた。

それが、よもや最後の女王となる砂の女王のところでこんな理不尽な目に遭わされるとは。レオニスが不機嫌になるのも無理はない。

一方砂の女王は、レオニスに対し申し訳なさそうに謝る。

彼女もライト達への仕打ちが理不尽なものであるという自覚はあるようだ。

しかし、砂の女王にただ謝られたところで何にもならない。その言葉だけでライトの身の安全が約束される訳ではないのだから。

一向に埒が明かないことに、レオニスの堪忍袋の緒はもはやブチ切れ待ったなしである。

「砂の女王、とりあえずそこを 退(ど) いてくれ。でなきゃ俺はあんたを斬らなきゃならん」

『私を斬ったところで殺せやしないわよ? だって私は砂だもの。いくら斬られてもすぐに元通りになれるから、時間と労力の無駄になるわよ』

「……あんたまで俺の邪魔をしようってのか? 良かろう、ならば推し通るまでだ」

レオニスと砂の女王、一触即発でピリピリとした空気が漂う。

といっても、ピリピリしているのは主にレオニスの方で、砂の女王は何とか穏便に済まそうと努力はしているのだが。

レオニスが砂の女王の前で大剣を構え、今まさに斬りかかろうとしたその瞬間。

砂の女王が現れた場所、階段最上段の踊り場から声が聞こえた。

「あ、いた!レオ兄ちゃーん!」

その声は、ライトが発したものだった。