軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1362話 法廷と証言台

時は少し遡り、レオニスと同じくジャッジ・ガベルの巨大な手に捕まったライト。

抵抗する間もなくジャッジ・ガベルの中に引きずり込まれ、とある空間で降ろされた。

それは前世のテレビドラマなどで見た法廷によく似ていて、ライトは何と証言台に立たされているではないか。

証言台に立たされたライトの右側には弁護人席、左には検察官席があり、ライトの後ろには傍聴席が数列並べられている。

しかし、弁護士や検察官はおらず、傍聴席にも誰一人いない。完全に無人の空間である。

さらに前方には裁判官と書記官が座る席が二段あり、後方かつより高い位置にある裁判官席には何とジャッジ・ガベルの木槌が鎮座ましましていた。

え、え、何ここ、裁判所!?

…………って、ジャッジ・ガベルってそもそも裁判官や議長が使う、あのカンカーン!って音を鳴らす道具のことだし、ジャッジ・ガベルの見た目も裁判所っぽいもんな。

つーか、裁判官席にジャッジ・ガベルの木槌がいるんだが……何で?

でもって、どうして俺はこんなところに立たされているの?

ライトは自身が置かれている現状が全く分からず、ただただ困惑している。

そして、何より困惑したのが『身体の動きがほとんど取れない』ということだった。

いや、全く身動きが取れない訳ではない。首を左右に振って周囲を見るくらいはできる。だが、首から下の身体が全く動かせないのだ。

手足を動かすことができず、腰をひねることもできないから後ろを振り向くこともできない。

まるで首から下が金縛りにでもなったかのような感覚に、ライトは何をどうすればいいのか戸惑うばかりだ。

とりあえずライトは動かせる首を必死に左右に振り、周囲の状況を見回し確認する。

見たところレオニスの姿はない。どうやらレオニスは別の場所に連れていかれたようだ。

そしてレオニスだけでなく、ここにはライト以外の者がいる気配はない。

すると、突如どこかから声が聞こえてきた。

『お前は私の敵か?』

それは、ジャッジ・ガベルがライトに問いかける声だった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

突然何者かから質問されたライト。

びっくりしたように大きな声を上げた。

「え、何、敵ってどういうこと!? ていうか、今喋ったの、誰!?」

『私の名はガベリーナ。審判を司る城にして神殿守護神も兼任している』

「え!? 神殿守護神!? てことは、やっぱりここは砂の女王様の神殿で、しかも喋ることができる守護神なの!?」

『然り』

慌てふためくライトに、ガベリーナが冷静な声で答える。

その声は男性とも女性ともつかない中性的な印象だが、『ガベリーナ』という固有名と一人称が『私』であることから察するに、もしこの城に性別があるとするならおそらくは女性寄りなのだろう。

しかし、ライトの知るBCOではジャッジ・ガベルの性別など語られたことなど一度もないし、ましてや『ガベリーナ』などという名は見たことも聞いたこともない。

ライトの混乱は深まるばかりだ。

「てゆか、ガベリーナって何!? この城はジャッジ・ガベルじゃないの!?」

『ジャッジ・ガベルとは私の種族名。ガベリーナとは、私が持つ固有の名前』

「ぇぇぇぇ……ジャッジ・ガベルって、種族名だったんだ……」

厳つい外観に反し微妙に愛らしい固有名に、ライトは一気に脱力する。

しかし、心は脱力しても身体は未だに直立姿勢のままだ。

そんなライトの困惑など構うことなく、ガベリーナは再びライトに問いかける。

『今一度問う。お前は私の敵か?』

「ぼくが敵って……ぼくと貴女?は、今日初めて会った者同士ですよね? なのに、何故ぼくが貴女の敵になるんです?」

『それは私にも分からない』

「理由も分からないのに敵って……それ、何気に酷くありません?」

再度ガベリーナに敵かどうかを問われたライト。

何故初っ端からこんな質問をされなければならないのか、全く理解できない。

あまりにも不躾かつ理不尽な話に、ライトの顔は次第にむくれていく。

そんなライトに、ガベリーナは話を続けた。

『これは、私の本能がしきりに訴えてくる、というのだろうか……』

「え、ぼくが敵だってことを、ですか?」

『そう。お前を見ていると、何故か無性に破壊衝動が涌いてきて……お前を叩きのめしてやりたくなるのだ』

「………………」

躊躇いがちに心情を吐露するガベリーナ。

何故そんなことを思い感じるのか、ガベリーナ自身にもよく分かっていないようだ。

しかし、ライトはガベリーナの話を聞いて腑に落ちるところがあった。

それは、 勇者候補生(ライト) とレイドボスの関係だった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ライトはBCOというソシャゲの中で、勇者候補生という名のユーザーの一人として日々仲間達と遊んでいた。

冒険、素材集め、ファッション着せ替え、期間限定イベント、仲間達とのチャット形式の会話、様々な遊び方があった。

そして、レイドボスの討伐もBCOの重要なコンテンツであった。

ライト達ユーザーは『騎士団』というユーザー同士の集まり、他のゲームでは『ギルド』や『クラン』と呼ばれる集団を結成することで、レイドボスの討伐任務に挑むことが可能になる。

討伐後二十三時間経過すれば復活するレイドボスを、ライト達は毎日欠かさず討伐していた。レイドボスを討伐することで、討伐報酬や経験値を得ることができるからだ。

もちろん仲間達とともに日々討伐していたレイドボスには、ジャッジ・ガベルも含まれる。

特にレベル二桁のレイドボスからは、強力なプラスステータス補正をもたらす称号やレア装備品が稀にドロップするので、それを目当てにソロで騎士団を複数所有するユーザーも多くいたくらいである。

そうした前世での状況を考えると、ジャッジ・ガベルがライト=勇者候補生を目の敵にするのも分かる。

本来勇者候補生とレイドボスは敵同士であり、敵を見たら無性に叩き潰したくなるのも自然な感情だ。

だが、今のライトは違う。

このサイサクス世界に生まれついてから、一度だってレイドボスと敵対したことはない。

水神アープのアクアやノワール・メデューサのクロエ、朱雀や玄武、青龍は卵の孵化に尽力したライトを生みの親と慕っているし、ライトが生まれるよりずっと前に神殿守護神として存在していたディープシーサーペントのデッちゃんやグリンカムビ、ヴィゾーヴニル、ドラリシオ・マザー、白虎のシロだってライトとは友好的な関係を築いている。

唯一の例外は、ロドンと呼ばれるドラゴタイラント。

これだけはクエストイベントの素材に指定されている上に、守るべき神殿を持たない粗野な野良ドラゴンなので、将来的には討伐に向かう予定である。

だが、それ以外のレイドボス達は全てライトの友達だ。

もちろん今対峙しているジャッジ・ガベルのガベリーナとも、ライトは敵対する意思などない。むしろ仲良くなりたいとすら思っている。

何故ならガベリーナは、砂の女王を守る神殿守護神。

砂の女王の相棒と懇意になることはあっても、敵対することなど女王ファンのライトには絶対にあり得ないのだ。

そのことを伝えようと思った、その瞬間。ライトの背中にゾワリ……とした悪寒が走る。

それは、ライトの目の前にある裁判官席から発せられていた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

『お前……私が持ち感じるこの違和感について、何か知っているな?』

「え"ッ!? そそそそれは……」

『お前のその表情、顔つき、仕草を見れば、お前が何か知っていることは明らかだ』

「…………」

突如重苦しい圧を放つガベリーナに、図星を指されたライトが挙動不審になる。

実際ライトはこのサイサクス世界のベースであるBCOのことを熟知していて、ガベリーナ=ジャッジ・ガベルがレベル15のレイドボスとして生み出されたことも知っている。

しかし、この事実をどう明かしていいものやらさっぱり見当がつかない。

この世界がゲームをもとにした世界だなんて、荒唐無稽なことを話したところでガベリーナが信じるかどうか分からないし、むしろ鼻で笑われてお終いな可能性の方が高いとすら思える。

何をどう答えればいいか、必死に悩むライトにガベリーナがさらに重圧をかける。

『私の問いに嘘偽りなく答えよ。もしこの場で一つでも虚偽を述べれば、お前の生命はない』

「え"ッ!? それって、ガベリーナがぼくを殺すってこと!?」

『そもそもここは裁きの場。この法廷内で嘘偽りを述べる者は生かして帰さぬ。お前が嘘を述べた瞬間、その全身が瞬時に砂塵と化すであろう』

「ええええ、そそそそんな……」

ガベリーナの無情な宣告に、ライトは愕然とする。

嘘をついただけで生命を奪われるとか、考えただけで恐ろし過ぎる。

「ていうか、ぼくが嘘をついたかどうかをどうやって判断するの!?」

『それは私が判断する。お前が証言台に立ち、言葉を発している間、私はお前の表情、声音、仕草から、何から何まで一挙手一投足を余すことなく監視している。私は裁きを下す者―――私の目を誤魔化せるとは思わないことだ』

「………………」

自信満々に言い放つガベリーナに、ライトはただただ絶句する。

ガベリーナの言い分だけ聞くと、それはかなりライトに不利なように思える。ガベリーナの心象一つでライトの生死が決まってしまう、ということなのだから。

しかも、ガベリーナはライトを見ると無性に叩きのめしてやりたくなる、とまで言っていた。

第一印象、特にガベリーナ側からのライトの印象がものすごく悪い現状では、もはやライトの生命は風前の灯である。

しかし、事ここに至ってはライトに拒否権などない。

身体の自由が効かない以上逃げ出すこともできないし、ライトとガベリーナしかいないこの場を逃れる術などライトには全く思い浮かばなかった。

こうなった以上、もはや観念して全てを話すしかない―――そう考えたライトは、徐に口を開いた。

「……ぼくが命懸けで話す以上、ガベリーナさん、貴女にも約束してもらいたいことがあります」

『何だ?』

「ぼくが今から話すことは、決して誰にも言わないと誓ってください。もちろん貴女の最も身近な砂の女王様にも秘密です。それができなければ、ぼくから話すことは何もありません」

『……いいだろう。裁きを下す者には、当然守秘義務も課せられるからな』

ライトの言い分に、ガベリーナも異論を挟むことなく認める。

この場で真実を打ち明けるに当たり、ライトが考えたのは『裁判官の守秘義務』だ。

ガベリーナが裁判官を務めるならば、当然この法廷で知り得た情報全てに守秘義務が発生する。

幸いここには、ライトとガベリーナ以外の者はいない。

BCOの秘密も、ガベリーナだけが聞いて他者に一切漏らさないならば、ここで話しても然程問題にはならないだろう―――ライトはそう考えたのだ。

そしてライトの思惑は見事に当たり、ガベリーナも守秘義務を認めて他言無用を約束した。

その後ライトは、前世の記憶を持っていること、そしてその前世でBCOというゲームと出会ったこと、そのBCOの中に勇者候補生やレイドボスがいたこと等々、ガベリーナに話して聞かせていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「―――以上が、ぼくが知っていること全てです」

『………………』

ライトはBCOのことを一通り終え、それまでライトの話を黙って聞いていたガベリーナは未だ一言も発しない。

その沈黙が何とも怖く居心地が悪いが、とりあえずライトはガベリーナからの返事を待つ。

そうしてしばらく経ち、ようやくガベリーナが言葉を発した。

『…………そうか。この違和感の正体は、別世界におられる創造神から植え付けられたものであったか』

「そういうことになります」

ライトの話を聞き、己の内から湧き出る違和感の正体を知ったガベリーナは静かな口調で呟く。

その様子からすると、ガベリーナは少なくともライトの話を嘘八百の妄言とは捉えていないようだ。

ひとまずガベリーナからの嘘判定は回避できたらしいことに、ライトは心底安堵する。

するとここで、ガベリーナがとんでもないことをライトに尋ねた。

『それで、お前はこれからどうするのだ? 創造神の導きに従い、前世の時分のように私を屠るのか?』

「え"ッ!? そんなこと絶対にしませんよ!? てゆか、こんなか弱い子供一人で、一体どうやってガベリーナさんを倒せってんです!?」

『そんなもの、やってみなければ分からないだろう。何せお前は創造神が遣わした勇者候補生だ、やってやれぬこともなかろう』

「ぃゃぃゃぃゃぃゃ、絶対に無理ですって!」

ガベリーナの無茶振りに、ライトが今唯一動かせる首を必死に左右にブンブンと振り続ける。

実際ガベリーナの言う通りで、何事もやってみなければ分からない。

特にライトは既にコヨルシャウキとのビースリー対戦で死闘を潜り抜けてきているし、やりようによってはこのジャッジ・ガベルですらも本当に倒してしまうかもしれない。

しかし、ライトにはそんなことをするつもりは毛頭ない。

砂の女王の相棒を手にかけるなど言語道断だし、もとより全高何十メートルもある巨大な城をライト一人で斃せようはずもない。

とりあえず、こんな物騒な話は無し!とばかりにライトは必死に話題を逸らす。

「そういえば、ガベリーナさんはBCO……いや、『ブレイブクライムオンライン』や『勇者候補生』という言葉を、これまで聞いたことはありますか?」

『一度もないな。だが……その言葉は何故だか不快に感じる』

「そうなんですかー……具体的な記憶はなくても、勇者候補生であるぼくに対する恨みや憎しみのようなものを本能として感じていたんですね」

『ああ。私自身、何故こんなどす黒い感情が沸き起こるのか、全く分からず戸惑っていた』

ライトの苦し紛れの問いかけに、ガベリーナがきちんと答える。

他のレイドボス達はBCOのことなど全く知らなかったし、勇者候補生であるライトのことも快く受け入れてくれた。

しかし、ガベリーナだけは無意識の奥底、本能レベルでBCOにおける日々の凄惨な戦いの記憶を感じ取っていたのだ。

そしてガベリーナの告白は続く。

『お前達二人がノーヴェ砂漠に現れた時、砂の女王はすぐにでもお前達をここに招きたいと言ったのだ。何しろお前達は、砂の女王の姉妹の勲章をたくさん持っていたからな』

『だが、私が強硬に反対した。何故なら赤い人間の方はともかく、ライト……お前への生理的嫌悪が、どうしても拭えなかったのだ』

『しかし、この嫌悪感が創造神から植え付けられたものだと分かった今なら、お前の存在を認め受け入れる努力をしよう。何故ならお前達は、砂の女王の客人なのだから』

「……ありがとうございます!」

ガベリーナの独白に、ライトが破顔しつつ礼を言う。

ライトとガベリーナ、つまりは勇者候補生とレイドボスの関係性を思えば、ガベリーナがこのままライトのことを嫌い続けても何ら不思議はない。

しかし、ガベリーナの方から折れてくれた。それはひとえに砂の女王のためである。

ライトにとっても、ガベリーナの歩み寄る姿勢は大歓迎だ。

そして両者の和解が成り立ったことで、ガベリーナはライトの身の拘束を解いた。

首から下が金縛り状態だったライトの身体から、緊張感が一気に消えた。

それにすぐに気づいたライト、両手をプラプラと振ったりストレッチ運動よろしく腰を左右に捻って身体の自由が効くことを確かめている。

「はぁー、やっと動けるようになったー!」

『裁きの時は終了したからな。お前への嫌疑が晴れた以上、証言台に拘束し続ける必要はない』

「そしたら、ぼくといっしょにここに来ているレオ兄ちゃんを探しにいってもいいですか!?」

『ああ、お前の連れと合流するのか。いいだろう、私が案内してやる故私の言う通りに移動しろ』

「ありがとうございます!ガベリーナさん、よろしくお願いしますね!」

先程までの重苦しい圧が嘘のように消え、穏やかな口調でライトをレオニスのもとに導くと言うガベリーナ。

レオニスもガベリーナの体内にいるので、彼が今どこにいるのか分かるようだ。

そうしてライトは法廷部屋から出て、ガベリーナの声に従いレオニスのもとに向かっていった。