軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1360話 満月の夜に現れたもの

満月の夜に砂の中から突如現れた城が、人を攫って地中深くに潜ってしまう、と言われている―――

商人の間でまことしやかに言い伝えられているという話を、商隊を率いていたアーネストから聞くことができたレオニス。

次の満月の夜に備え、五日目の昼はライトとともにテントの中で昼寝して過ごすことにした。

ワカチコナが見えるくらいの位置にテントを張り、広めの範囲でその周囲に退魔の聖水を撒いておく。

テントの中には氷の女王の氷槍を十個置き、タオルを巻いた氷槍を枕にして寝袋で寝る。これで、日中の茹だるような暑さの中でも快適に寝ることができる。

途中レオニスが二度ほど起きて、退魔の聖水を撒き直したりして日が落ちるまで過ごした。

相変わらず退魔の聖水の結界の外に魔物達が押し寄せていたが、それら雑魚魔物に退魔の聖水の結界を突破する力などない。

そしてレオニスもわざわざ雑魚魔物を退治せずに放置している。

何故ならそれらの雑魚魔物達は、そのまま放っておけば日が落ちてどこへともなく消えるからだ。

そうして太陽が地平線の向こうに沈み、夜がやってきた。

今日も満天の星空がノーヴェ砂漠の頭上に広がり、東の空には登り始めた満月が煌々と輝く。

退魔の聖水の結界の外で、あれだけキーキーと騒いでいた魔物達はスーッ……と跡形もなく消えた。

快適な昼寝を堪能していたライトも起きてきて、テントの外でレオニスとともに晩御飯を食べ始めた。

「ライト、もうノーヴェ砂漠の探索を始めてから五日になるが、どうだ? そろそろカタポレンやラグナロッツァに帰りたくなってきたか?」

「ううん、そんなことないよー。冒険者になれば、きっと一週間や二週間くらい続けて野営するのなんて当たり前だろうし」

「おお、よく分かってんじゃねぇか。そうだぞー、パーティーや単独に関係なく探索や護衛依頼を受けるようになったら長期間の野営は必須だからな。この程度のことで飽きたり音を上げてたりしてちゃ、とてもじゃないが冒険者にはなれんからな」

「だよねー」

レオニスのちょっぴり意地悪な質問に、ライトは意に介さずさも当然の如く否定する。

ライトのパーフェクトな回答を聞いたレオニス、嬉しそうに破顔する。

景色はどこを飛んでも変わり映えしない、見渡す限り砂地だらけのノーヴェ砂漠。こんなところに五日も連続で滞在していたら、いい加減飽きてくるところだ。

しかし、冒険者たる者その程度のことで飽きただの帰りたいなどと言ってはいけない。階層が何十層もあるような巨大ダンジョンに潜ろうと思ったら、それこそ月単位で滞在し続ける覚悟がいるのだから。

ライトはまだ正式に冒険者登録していないが、まだ未登録のうちからそうした冒険者としての覚悟をしっかり持っていることに、レオニスは感心していた。

ちなみに風呂だけは、ライトが持っている巨大桶で一日一回は必ず入浴して汗を流すことにしている。

一週間や一ヶ月の野営はできても、その間ずっとお風呂に入らないのは無理!衛生上よろしくないし、何より砂埃だらけの身体で寝袋に入ったらジャリジャリして気持ち悪いし!というライトの主張により、入浴だけは欠かさずすることになったのだ。

レオニス的には『そこは浄化魔法でいいんじゃね?』と思わなくもないのだが。ライトの強い希望に折れる形で認めた。

巨大桶などの道具もあるし、水魔法と火魔法をかけ合わせてお湯を張ることだって難なくできる。そして何より、それでライトの気が晴れてストレス解消になるならいいか……とレオニスは考えたのである。

そしてライト達が晩御飯を食べ始めてから、しばらく経った頃。

急にグラグラと地面が揺れだした。

「えッ、地震!?」

「いや、これは……ライト、気をつけろ!砂の女王の城が出てくる合図かもしれん!」

「う、うん、分かった!」

「いざとなったら空に飛んで逃げるぞ!」

「うん!」

胡座で地べたに座っていたライトとレオニス、地震のような揺れに急いで立ち上がる。

しかし、そうしている間にも地面の揺れはどんどん大きくなり、ズズズ……という地響きのような音まで鳴り始めた。

そのうち普通に立っているのも難しくなってきたため、ライトが急いで横に置いておいたアイテムリュックを背負い空を飛んだ。

レオニスも急いで空間魔法陣を開き、テントをそのまま放り込んで空を飛ぶ。

ライトとレオニスが逃げるようにして空を飛んでから約十秒後。

それまでライト達がいた場所の少し後ろの砂が、突如大きく盛り上がりだした。

そうして砂漠の中から現れたのは、まるで裁判所のような外観をした巨大な建物だった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「何ッだ、こりゃ…………もしかして、これが砂の女王が住むという巨城か……?」

突如現れた建築物に、ライトもレオニスも呆然としつつ見上げる。

それは歴史的建造物のような厳かな見た目をしていて、いわゆる『バロック様式建築』と呼ばれるものである。

レオニスはその建物が何であるか、確信は持てないながらもそれが砂の女王が住む城なのではないか、と推測しているようだ。

実際に外観だけで言えば、それは巨大な城に見えなくもない。

しかし、ライトはレオニスとは全く別のことを考えていた。

何故ならライトには、その建物そのものに見覚えがあったからだ。

『これは……ジャッジ・ガベルじゃねぇか!』

『何でレベル15のレイドボスが、こんなノーヴェ砂漠のド真ん中にいるんだ!?』

ライトは絶句しながら、頭の中で必死に考えを巡らせる。

砂の中から出てきた巨大な建造物に見えたそれは、実はBCOにおけるレイドボスの一つ『ジャッジ・ガベル』であった。

そのレベルは15。レベル13のドラリシオ・マザーよりも高レベルであり、ライトが知る限りBCOのレイドボスの中で最高峰である。

また『ジャッジ・ガベル』という名の通り、裁判所をイメージした建物となっている。

見た目は四階建ての建物なのだが、その高さは全高50メートル超えの超巨大サイズだ。

当然その全てが人間サイズではなく、オーガ族ですらも小人扱いされてしまいそうな大きさである。

そして何故か階の間や小窓など建物の様々なところから、大小いくつもの砲門が左右対称で何本も突き出ている。

これは、ジャッジ・ガベルがレイドボスである証。

この砲門で、レイドボス討伐に向かってくる勇者候補生達を迎撃し蹴散らすのだ。

実に威風堂々とした威容に、ライトもレオニスもしばし言葉を失う。

すると、ジャッジ・ガベルと思しき建物から何と巨大な手が二つ、ニョキッ!と出てきたではないか。

人間のような五本指の作りで、ガントレットのような金属の質感をしているその手は尋常ではない速さで伸びて、瞬時ににライトとレオニスを捕まえてしまった。

「「ッ!!!!!」」

突然のことに、反応する間も全くなく二人とも巨大な手に捕まってしまった。

ガントレットのような巨大な手は、右手にライト、左手にレオニスを捕まえている。

そしてライト達が抗う間もなく、二人を捕らえたまま建物の中に引っ込んでいった。