軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1294話 コヨルシャウキの行く末とサイサクス世界への帰還

ヴァレリアが施した大改造により、身体の大小を自由自在に変えられるようになったコヨルシャウキ。

今までとは全く違う視線の高さが面白いのか、そこら中をスキップしたり走り回ったりしながら動いている。

その間ライトとヴァレリアは、様々な打ち合わせ?をしていた。

「コヨルシャウキさんが、サイサクス世界に遊びに来れるようになるのはいいですが……どこを出入口にするんです?」

「ンー、そうだなぁ……コヨるんの身体のサイズは問題ないけど、見た目はそのままだからねぇ。まずはあの異様な見た目をすんなりと受け入れてくれそうなところ、これが第一条件かなー」

「ですよねー……そうなると、やっぱBCOの知識があるNPC、転職神殿かロレンツォさんのところですかねぇ?」

「だねぇ……」

二人が真っ先に考えたのは、コヨルシャウキのサイサクス側の出入口及び受け入れ先となる場所。

サイサクス世界側に受け入れると決めたはいいが、万が一そこでコヨルシャウキが見た目を理由に迫害されたり差別されようものなら、受け入れる意味がなくなってしまう。

いや、それどころかコヨルシャウキを深く傷つけることになり関係悪化は免れない。

ちなみにコヨルシャウキの胡散臭い見た目を変更する、というのは今のところ無しだ。

彼女はあの黒いマントのことを『創造神から下賜された二つとない品』『まさしく此方にとって掛け替えのないもの』と言っていた。

それ程に大事にしている品なら、身なりを整えるために着替えるなどということを了承するとは到底思えない。

そうなると、コヨルシャウキの見た目を許容してくれそうな受け入れ先を選ぶのが肝心だ。

そしてそれは、もとよりBCOの知識がある者が最適である、とライト達は考えていた。

「ンーーー……ロレンツォ君のところは別の異空間があるし、居候先としては最適なんだけど。話し相手がロレンツォ君一人だけってのがイマイチなんだよねぇ」

「ですねぇ。その点、転職神殿にはミーアさんとミーナ、ルディもいて賑やかではあるけれど……」

「転職神殿は、敷地がそんなに広くないからね……これ以上大型の住人を増やすのもキツいよねぇ」

「ですよねぇ……」

二人して目を閉じ、しかめっ面をしながらぬーーーん……と唸り続ける。

するとライトが何か思いついたのか、パッ☆と目を開けた。

「……そうか。要は人目につかなくて、そこそこ賑やかで、コヨルシャウキさんの見た目にも理解が得られそうな場所ならいいんですよね?」

「うん、それが一番理想的だけど……そんなとこ、転職神殿やロレンツォ君のところ以外にあんの?」

「はい。BCO関係者ではないんですけど、受け入れてくれそうな先に心当たりがありまして。ただ、もちろんそれには先方の許可が先に必要ですけど、それはまたぼくがサイサクス世界に帰ってから聞いておきますね!」

「分かったよ。ライト君がそう言うならきっと大丈夫。私はライト君の考えを支持するよ」

先方の都合を聞いてからでないと答えられないので、どこに打診するのかはまだ明かさないライト。

ライトが思いついた行き先は不明のままだが、ヴァレリアがそれを無理矢理聞き出すことはない。笑顔でライト支持を表明するのみだ。

「そしたらさ、私からライト君に一つ頼みがあるんだけど」

「何でしょう?」

「時々でいいからさ、これからもコヨるんの対戦相手になってやってくれないかな? コヨるんの使命は『勇者候補生と戦い、彼らの糧になる』ことだからさ。それを取り上げてしまったら、彼女の存在意義がなくなってしまうんだ」

「………………」

ヴァレリアの頼みに、ライトはしばし思案する。

コヨルシャウキとのビースリーを行うにあたり、メリットとデメリットを脳内で挙げていった。

まずはメリット。

莫大な経験値と職業習熟度が上げられること。

ほんの五回程度でライトのレベルが100以上にまで上がる。これはサイサクス世界の雑魚魔物狩りでは絶対に到達不可能な成果だ。

短時間でレベル上げしたい時には、非常に有効な手段となるだろう。

また、コヨルシャウキ戦での勝利報酬としてレアアイテムが得られるのも良い。これも、普通の魔物狩りでは絶対に得られない品ばかりだ。

次にデメリット。

痛い、キツい、苦しい。星霊群はそこまででもないが、何しろコヨルシャウキ戦がキツくて毎回血みどろのズタボロになる。

サイサクス世界での雑魚魔物狩りでは、ここまで痛い目に遭うことはまずない。

あと、素材の類いは一切取れない。

ハイポーションやハイエーテルなどの回復剤はドロップするが、それとてコヨルシャウキ戦で全部消費するどころか足りない有り様である。

さらに言えば、コヨルシャウキとのバトルの勝利報酬でハズレを引く率が高いこと。特に中級回復剤ダース程度では、戦闘中に使用する回復剤の方がはるかに多くて大赤字もいいとこである。

これらを総合的に考え、ライトが出した答えをヴァレリアに告げた。

「……分かりました。ぼくも急いでレベルアップしたい時もありますし、たまには厳しい戦いで鍛錬もしないといけませんしね」

「ありがとう!恩に着るよ!」

「ただし、二つほど条件がありますけど、いいですか?」

「何だい?」

「一つは、ぼくの気が向いた時にやらせてもらうこと。もう一つは、そんなに頻繁に戦う約束はできません。ぼくはまだラグーン学園初等部に通ってるので、冒険関連は土日休みや長期休暇に限られるし。本当に月一やるかやらないかの頻度になると思うけど……それでも良ければ、ですね」

「もちろんもちろん!それくらいは全然許容範囲さ!」

ライトが先んじて出した条件に、ヴァレリアは一も二もなく快諾する。

ライトは戦闘狂ではないので、そこまで積極的にビースリーをこなす気は起きない。必要に迫られたらバトルをしに行く、くらいの感覚で利用したいと考えたのだ。

「そしたら、コヨルシャウキさんの移住計画?が決まるまで、ぼくからの連絡はどうすればいいですか?」

「ライト君のオススメの引っ越し先が決まるまで、ロレンツォ君のところに居てもらおう。ロレンツォ君のところなら、ライト君も簡単に連絡が取れるよね?」

「はい、そうしてもらえたらぼくも助かります」

コヨルシャウキへの処遇がとんとん拍子に決まっていく。

そうやってこの先の大まかな予定が決まったところで、ヴァレリアが改めてライトに声をかけた。

「さて、コヨるんのことはほぼ決まったし。そしたら次は、ライト君の怪我を治さなくちゃね」

「え? 怪我? ハイポーションとか飲んでるし、HPも満タンだからぼくは大丈夫ですよ?」

「いやいや、ライト君。君ね、自覚ないの? 自分の身体を見てごらん? 腕やら足やら頬やら、あちこちそこら中が傷痕だらけじゃないか」

「………………」

呆れ顔のヴァレリアに促されて、己の腕や足を見るライト。

確かにヴァレリアの言う通りで、切り傷などが塞がった傷痕が至るところにあった。それはまるで歴戦の強者の如き有り様である。

そう、ハイポーションなどの中級回復剤類はHPやMPを回復させる効果があるが、こうした傷痕を完全に消すまでには至らないのだ。

「ライト君、君はまだこれからどんどん大きく成長していく子供だ。こんなにたくさんの傷痕が残ったままだと、成長するにつれて皮膚が引き攣れて傷が痛むし、見た目も酷いことになるよ?」

「そそそそれは困ります……」

「でしょ? だから特別に、私からこれをあげよう」

「え"ッ!? ここここれは……ッ!!」

ヴァレリアが収納魔法を発動させて取り出した品。

それはエリクシルだった。

「ヴァレリアさん!これ、エリクシルですよね!?」

「そうだよー。この手の傷痕まで完全に治すなら、エリクシルを一本飲むのが一番手っ取り早いからね!」

「そそそそんな……ここここんな貴重なものを、傷痕を消すためだけに使うなんて……」

ヴァレリアからヒョイ☆と気軽にエリクシルを手渡されたライト。その手がプルプルと震えている。

BCO及びサイサクス世界で最強無比を誇る最上級回復剤、エリクシル。これを手にするのは二本目で、神樹襲撃事件で瀕死の状態に陥ったユグドラツィのためにラウルに全部譲って以来、実に久しぶりのことだ。

ライトはヴァレリアをちろっ……と見遣りながら、おずおずと口を開いた。

「ヴァレリアさん……これ……一口だけ飲んで、残りはぼくがもらっても……」

「ダーーーメ。君の身体中に残る傷痕を消すためのものなんだから」

「ででででも……もったいなさ過ぎt」

「早よ飲みなさい」

新しいエリクシル、その半分だけでも持ち帰りたいライトの提案を、ヴァレリアは即時却下する。

ライトが何か言いかける度に、ヴァレリアがズズイッ!と顔を近づけて、ライトに『とっとと全部飲め!』という圧をかけてきた。

最終的にはライトの顔面から10cmの近距離まで詰められて、観念したライトは仕方なくエリクシルの蓋を開けてクイッ!と一気飲みした。

すると、腕や足や頬にあった傷痕が、みるみるうちに消えていく。

エリクシルの中身を全て飲み終える頃には、ライトの身体はすべすべお肌になって傷一つ残っていなかった。

「ぷはー……ごちそうさまでしたー」

「お疲れさん。全くもう、ライト君ってばこんなところでまでもったいない精神を発揮しないでよね。私は君の保護者に、君を無事に帰すって約束したんだからさ」

「え? ぼくの保護者って……まさか、レオ兄ちゃんに会ったんですか!?」

「うん。私が転職神殿で、ミーアからラグナロッツァのビースリーの話を聞いていた時にね、ちょうどそこに君の保護者が現れたんだ」

ライトのもったいない精神に文句をつけるヴァレリア。

その中でレオニスのことに言及し、ライトがびっくりした顔になる。

ヴァレリアがここに来たのは、ラグナロッツァで起きた事態を何らかの経緯で知ったからだろう、というのはライトも推測していた。

だが、まさかその過程でレオニスにまで遭遇していたとは予想外だった。

「ヴァレリアさん……レオ兄ちゃんは、何か言ってましたか……?」

「ライト君、君が五体満足で無事帰ってきてくれるなら、いくらでも待つし勇者候補生が何であるかも聞かないって。そう約束してくれたよ。他の人達にもそうするよう徹底周知させるってさ」

「……レオ兄ちゃん……」

レオニスが自分の最大の秘密、勇者候補生であることに目を瞑ってくれるという話を聞いたライトの目が潤む。

ライトはレオニスやラウル達を欺くような形で、コヨルシャウキのもとに向かった。

そのことについてきっと皆業腹だろうし、家に帰ればしこたま怒られることだろう。小一時間の説教どころか、『あの時のライトは……』とか一生言われ続けるかもしれない。

だが、それでもいい。ライトは何としても、レオニス達が待つサイサクス世界に戻りたかった。どんなに怒られてもいいから、皆が待つカタポレンの家やラグナロッツァの屋敷に今すぐ帰りたかった。

そんなライトの気持ちを察してか、ヴァレリアがライトの頭を優しく撫でる。

「君はよく頑張った。君が勇気を出してコヨるんとともに星海に渡ってくれたおかげで、ラグナロッツァとサイサクス世界は事無きを得た。本当にありがとう」

「そ、そんな……ぼくなんて、意気地なしの卑怯者で……」

「そんなことはないさ。君は正真正銘サイサクス世界を救った勇者だ。ただし、そのことを知る者はほんの一握りだけだけどね……」

ライトの功績を称えるヴァレリアが、残念そうな顔で微笑む。

ラグナロッツァでのビースリー勃発が中断に至ったのは、間違いなくライトのおかげだ。

だがしかし、この功績は世に広く知られてはならない。

そんなことになれば、ライトの平穏な日々がなくなってしまう。

この真実を知っているのは、ヴァレリアや転職神殿組やロレンツォなどのBCOの一部のNPCと、ライトに最も近いレオニス、ラウル、マキシ、ラーデのみ。

ヴァレリアにはそれがとても残念なようだ。

だが、当のライトに悔いはない。

大事なものがたくさんあるラグナロッツァを、その手と身体で守り抜くことができたのだ。そこに何の不満があろうか。

「ヴァレリアさん、ぼくのことなら大丈夫です。今から救世主とか英雄とか祭り上げられても困りますし」

「だよねぇ……そんなことになったら、今以上に面倒なことにしかならないのは目に見えてるし」

「そうそう。だからぼくは、今回のことはヴァレリアさんやレオ兄ちゃんなんかの、本当に大事な人達だけが知っていてくれるだけで十分なんです」

「そっか……この小さくも勇敢な勇者候補生は、本当に謙虚だね」

ライトの言葉に、心底残念そうな顔をしていたヴァレリアが優しく微笑む。

そう、ライトの重大な秘密『勇者候補生』は、ライトを本当によく知る一部の者達だけが知っていればいい。

今回思わぬ形で勇者候補生という存在が世に広まってしまったが、幸いにもそれがライトのことだとは殆ど知られていない。

ビースリー勃発自体が青天の霹靂だったが、それでも何とか最悪の事態には至らなかったことにライトは満足していた。

「さあ、そしたらサイサクス世界に帰ろうか」

「はい!」

「コヨるーん、こっちおいでー!」

『ぬ? 何ぞ?』

いよいよサイサクス世界に帰る時がやってきた。

ヴァレリアがコヨルシャウキを呼び寄せ、その声に応じて小さい身体のコヨルシャウキがライト達のもとにスキップしながら駆け寄ってきた。

三人集まったところで、ヴァレリアが今後の行動予定を説明していく。

「まず三人で、ツェリザークのルティエンス商会に行くよ。先にコヨるんをロレンツォ君に預けないといけないからね。その後ロレンツォ君と、いろいろお話をしなくちゃならないから……ライト君、申し訳ないんだけど君一人でおうちに帰れるかい?」

「はい、大丈夫です。マッピングスキルにルティエンス商会を登録してあるので、そこからカタポレンの家に移動できますから」

「おお、さすがはライト君だ!じゃ、早速皆でルティエンス商会に行こっか」

「はい!」

『?????』

ヴァレリアの掛け声に、ライトは破顔し、コヨルシャウキは小首を傾げている。

コヨルシャウキの処遇に関して、当のコヨルシャウキは全く関与していないのだから、何が何やらさっぱり分からないのも無理はない。

しかし、後のことはヴァレリアが上手くまとめてくれるだろう。

こうしてライトはようやく星海世界を脱出し、ヴァレリアやコヨルシャウキとともにサイサクス世界へと帰還していった。