軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1293話 ビースリー勃発の真相と奇跡の大改造

「ヴァレリアさん!? 一体どうやってここに来たんですか!?」

突然現れたヴァレリアに、ライトが心底驚く。

ここは、ビースリーボスであるコヨルシャウキが支配者として君臨する空間。実際にライトがここに来てから、コヨルシャウキと星霊群以外の生命体を見たことがない。

そんな特異な空間で見る 人型の他者(ヴァレリア) は、ライトにはものすごく新鮮に思えた。

そんなライトの様子に構うことなく、ヴァレリアは悠然と答える。

「ライト君、知らなかったのかい? このヴァレリアさんはね、神出鬼没の素敵魔女なんだよ? 特にBCOイベントに直接関する場所ならば、私が行けないところなんてほぼないからね!」

「そ、そうなんですか……」

エッヘン☆とばかりに胸を張りながらふんぞり返るヴァレリアに、ライトはただただ呆気にとられる他ない。

ヴァレリアがただのNPCではないことは、ライトも分かっていたつもりだった。

だが、まさかこのビースリーの異空間にまで直接割り込んでくる程とは、正直夢にも思っていなかった。

どこまでも底が知れない魔女である。

そんな魔女に、今度はコヨルシャウキが声をかける。

『何じゃ、ヴァレりんではないか。何用ぞ?』

「何用ぞ?って、コヨるん……君、ホントに分かってないの?」

『うむ。今の此方は勇者候補生との戦いで忙しいのだ。要件があるなら手短に頼むぞ』

「………………」

シレッととぼけるコヨルシャウキに、ヴァレリアのこめかみにピキピキと血管が浮き出る。

そして間髪置かずにヴァレリアの特大の雷が落ちた。

「コヨるんってば!何勝手にビースリーなんて物騒なもんをおっ始めてるのさ!予定にないことを勝手にやられちゃ困るんだよ!」

「てゆか、よりにもよってあんな大都市、ラグナロッツァのド真ん中でビースリーをおっ始めるなんてあり得ない!本来この星海が現れる場所は別の街のはずだろう!?」

「ライト君が身体を張ってくれたおかげで、何とか事なきを得たけど……それがなかったら、サイサクス世界はとんでもない大惨事になるところだったじゃないか!」

ヴァレリアがガーーーッ!と怒鳴り散らしながら、右足を何度もダン!ダン!と見えない地面に力一杯踏みつけて不満を大爆発させている。いわゆる『地団駄』というヤツである。

本気でキーキー激怒しながら地団駄を踏むヴァレリアに、ライトとコヨルシャウキが圧倒されて後退る。

するとここで、一頻り喚いて少しは鬱憤が晴れたのか、ヴァレリアが地団駄を踏むのを止めた。

そしてはるか上にあるコヨルシャウキの顔を、ギロッ!と睨みつける。

「全く……この不始末の落とし前、どうやってつけてもらおうね?……コヨルシャウキよ、 覚悟はできてるんだろうね?」

底冷えするようなヴァレリアの冷酷な声に、ライトは震え上がる。

その冷たさは、ライトが知っている普段のヴァレリアの声ではない。

そしてコヨルシャウキのことを、最初に呼んでいた『コヨるん』という愛称ではなくそのままの名で呼んでいる。

このことからも分かるように、ヴァレリアの怒りはとっくに沸点を超えていた。

そんなヴァレリアに対し、コヨルシャウキはプルプルと震えながら口を開いた。

『だって……だって……』

ヴァレリアに激怒されたコヨルシャウキが俯く。

その黄色い瞳があっという間に潤み、ほろり、と零れた涙が彼女の真っ黒い仮面を伝う。

『勝手にも何も……いつまで経っても、此方の出番なぞ一向に来ぬではないか……此方とてずーーーっとここで、一人おとなしく待っておったのだぞ?』

『其方だって、ここには滅多に来ぬし……ここを訪れし者など、其方くらいしかおらぬというに……此方はここで一人、来もしないビースリーを待ち続け……ひたすら星霊どもの素を作り続けるのみ……』

『あまりにも長き月日を待ち侘びる間に、作り上げた星霊どもの数はビースリー五万回分を優に超えたわ……』

「「ごごご五万回……」」

ライトの入浴用の巨大桶一杯分よりはるかに多い、大粒の涙がぽたり、ぽたり、とコヨルシャウキの顎から零れ落ちる。

真下を向きふるふると身体を震わせながら小声で語るコヨルシャウキの声からは、寂しさに耐えかねた彼女の悲しみが溢れ出ていた。

自分一人しかいないこの広大な宇宙空間で、出番を待つ間の孤独は如何ばかりだったであろう。

果てしなく続く待ち時間の間、コヨルシャウキができることといえば前座を務める星霊群を作り続けることくらいしかない。

その量何とビースリーの戦い五万回分超え。数にして一億体を超えるというではないか。

一日十回の戦闘ループを毎日欠かさずこなしたとして、全部を消化するまでに十三年以上はかかる計算だ。

空恐ろしいまでの星霊群の量に、ライトの背筋が凍る。

もしコヨルシャウキが、あのままラグナロッツァでビースリーを開始していたら―――総数一億体もの星霊群と、イベント期間中はいくらでも蘇るコヨルシャウキを相手にして二週間も持ち堪えられる訳がない。

二週間を待たずして、ラグナロッツァはおろかサイサクス大陸全土の全ての国家や多くの種族が滅んでいたであろう。

やはり自分がこっちに来て正解だった―――コヨルシャウキの話を聞いて、ライトは心からそう思った。

そして、嗚咽を堪えながら語る彼女の悲しみは、ライト達の想像をはるかに絶するものだった。

ヴァレリアの方もそれに気づいてか、気まずそうな顔でコヨルシャウキに問いかける。

「ぁー……コヨるんをずっと放ったらかしにしていたのは、確かに私の落ち度だ。それは認めよう。しかし……何でよりによってラグナロッツァなんて場所に出現したんだい? それさえなければ、私だってここまで慌てることはなかったよ?」

『それは……あの日、とある場所から勇者候補生の気配がしたのだ。だから此方は、ようやく出番が来たか!と思い、張り切ってその気配がする場所をこじ開けてみたというに……そこにいたのは勇者候補生ではなく、勇者候補生の残り香をまとっただけの赤い人間だったのだ……』

「……(レオ兄のことか)……」

「……(ライト君の保護者のことか)……」

ヴァレリアの問いかけに、コヨルシャウキが素直に答える。

その答えの中に出てきた『赤い人間』という言葉に、ライトとヴァレリアの頭の中にほぼ同時に同一人物が思い浮かぶ。

レオニスはこれまでに、旧ラグナロッツァ孤児院を何度も訪れていた。

しかしその頃はまだラグナロッツァ孤児院として稼働していたので、シスターや多数の子供達の気配に紛れていたためにコヨルシャウキも感知できなかったと思われる。

そしてスラム街の再開発計画が持ち上がり、ラグナロッツァ孤児院は他の場所への移転を余儀なくされた。

これにより旧ラグナロッツァ孤児院は無人となり、そこにレオニスがラウルとともに訪れたことでコヨルシャウキが勇者候補生の気配を察知し、コヨルシャウキは喜び勇んで空間を裂いて飛び出した―――

これが、今回ラグナロッツァでビースリー問題が勃発するに至った真相であった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

コヨルシャウキの話を静かに聞いていたライトとヴァレリア。

凡そのことを察し、しばし言葉を失う。

その間、スン、スン……というコヨルシャウキの啜り泣きだけが静かに響く。

「ヴァレリアさん……連れ去られたぼくが言うのも何ですけど……あまりコヨルシャウキさんを怒らないであげてください。彼女もここでずっと一人っきりで、とても寂しかったようですし……」

「うん、まぁね……あんな悲しそうにシクシクと泣かれたら、さすがに私もこれ以上怒ることはできないよ……」

ライトがヴァレリアに向けてゴニョゴニョと囁き、ヴァレリアもまたライトに向けてゴニョゴニョと返事をしている。

そしてヴァレリアは、ふぅ……と小さいため息を一つつくと、コヨルシャウキのいる方に向かって歩き出した。

「分かったよ、コヨるん。君がそんなに寂しい思いをしていたなんて知らなかった……これはもう完全に私が悪い。本当にごめんね。その詫びという訳ではないが、君の身体をちょいと弄らせてもらうよ」

「『…………???』」

ヴァレリアはそう言いながら、コヨルシャウキの黒いマントをペロッ☆と捲り上げて、マントの中に入っていった。

それから数瞬の後、今度はコヨルシャウキが身を捩りだした。

『あひゃひゃひゃ!ちょ、待、ヴァレりん、やめよやめよ、くすぐったいーーー!』

「あー、コヨるん、あんま動かないで? 手元が狂うから」

『いやいや、無茶言うでない!あひゃーーーん!』

身の丈100メートルを超える巨体が、前後左右にウゴウゴと身を捩り続ける図は何ともシュールである。

するとそのうちに、コヨルシャウキの巨体がシュルシュルシュル……と小さくなっていくではないか。

コヨルシャウキの身体がどんどんと縮んでいき、半分以下になった辺りでヴァレリアが黒いマントから出てきた。

そして最終的には、コヨルシャウキの身長は2メートル弱、レオニスやラウルと同じくらいの高さになっていた。

いきなり目線の位置が変わったことに、当のコヨルシャウキは己の両手や周囲を見つめながら『?????』となっている。

そんなコヨルシャウキの前に、改めてヴァレリアが立ちながら声をかけた。

「ま、これくらいでいっか。そしたらコヨるん、ちょっとこっちに屈んでくれる?」

『ぬ? こうか?』

「そそそ、君のそのお顔の仮面もちょいと弄らせてねー」

『???』

長身のコヨルシャウキが、ヴァレリアの言う通りに前屈みになる。

するとヴァレリアはコヨルシャウキの両頬を両手で包み込み、何やらムニムニ、ムニムニと動かし続けた。

そうしてしばしコヨルシャウキの両頬を揉み続けていくと、彼女の顔のほぼ全てを覆い隠していた黒い仮面が次第に形状を変えていき、最終的には鼻の根元から目元を隠す程度の大きさになった。

コヨルシャウキの仮面の形状が変化したことで、彼女の名前の由来でもある両頬の鈴が露わになった。

ヴァレリアはこの金色の鈴にも何やら手を加えていく。

頬の鈴を指で撫でるように触り、シャラン、シャラン、と美しい音色が何度か響く。

そうして右頬の鈴が金色、左頬の鈴が銀色という色違いになった。

「ハイ、とりあえずこれで完了ー」

「……ヴァレリアさん、何がどうなってるんですか?」

「ン? これはねぇ、コヨるんの身体を改造したんだよー」

「そ、それは見ただけで分かりますけど……何でそんなことを?」

ヴァレリアの一連の謎の行動、その意図がさっぱり分からないライトがその真意を問うた。

実際ヴァレリアは何をするのかを解説することなく、突然行動に移した。故にライトもコヨルシャウキもその意味が全く分かっていない。

そんなライト達に、ヴァレリアが解説をし始めた。

「要はさ、コヨるんがここにずっと一人っきりで孤独なのがいけなかったと思うんだよ」

「そうですよねぇ……ぼくだって、こんな広いところでずーっとひとりぼっちだったら、寂しくて気が狂うと思いますもん」

「でしょ? だからね、サイサクス世界にも遊びに来れるようにちょいとばかり改造したの。ほら、あのデカい図体のままだとさ、どこに現れても大騒ぎになるし何をするにも不便極まりないっしょ?」

「ぁー、確かに……」

ヴァレリアの解説に、ライトが思わず頷く。

100メートルを超す巨体が顕現した日には、どんな田舎であろうと大騒ぎになるはずだ。

例えそこにコヨルシャウキ側に悪意など全くなくても、巨大な魔物らしき者が現れただけで他の種族にとっては脅威と恐怖をもたらす者でしかない。

それを払拭するために、身長を人族サイズに変更した、という訳だ。

そしてヴァレリアの改造は、身長を縮めるだけに留まらない。

先程の仮面の改造にも言及し始めた。

「でもね、コヨるんのビースリーボスとしての役割まで放棄させる訳にはいかないんだよね。だから、ほっぺの鈴で身長の大きさを変えられる作りにしたのさ」

「身長の大きさを変える!? どうやって変えるんですか!?」

「こっちの金色の鈴を押すと、元の大きさに戻る。銀色の鈴は、身体が元の大きさの時に押し続けることで、身長を小さくすることができるんだよ」

先程ヴァレリアがコヨルシャウキの顔や頬をムニムニしていたのは、両頬の鈴で身長のサイズを変更する仕様に改造していたらしい。

己の身に起きた変化に、未だに全くついていけないコヨルシャウキ。彼女の頭の上に『???』という記号がたくさん浮かんでいるようだ。

そんなコヨルシャウキに、ヴァレリアが優しい声で話しかける。

「ほら、コヨるん、こっちの鈴を指で押してごらん? ちょっと強めに押すのがコツだよ」

『う、うむ……』

「あ、ごめん、ちょっとだけ押すの待ってね、私とライト君が少し離れてから押して!」

コヨルシャウキに左頬の銀色の鈴を押すように指示を出したヴァレリア。

その前に、ライトの手を掴んで急いでピューッ!と遠くに離れていく。

コヨルシャウキが元の大きさに戻った時に踏み潰されないための緊急避難である。

ライト達が十分に離れたところで、コヨルシャウキが左頬の銀色の鈴を右手の人差し指でグッ、と押した。

すると、コヨルシャウキの身体はみるみるうちに大きくなっていき、十秒もしないうちに元の大きさに戻った。

『おお……これはまた何と摩訶不思議なことか……』

「うん、コヨるんの身体の大改造はとりあえず成功したっぽいね!そしたらコヨるん、今度は反対側の鈴を押してみてー!」

『相分かった』

コヨルシャウキの身体が元通りの大きさに戻ったことに、当のコヨルシャウキは狐につままれたような顔で感嘆している。

一方のヴァレリアも、改造は大成功!と喜びながら右頬の鈴も押すように指示を出す。

その指示にコヨルシャウキは素直に応じ、右頬の金色の鈴をポチッ☆と強めに押した。

すると、コヨルシャウキの巨体は再び小さくなっていき、先程の2メートル弱の大きさになった。

縮小化の改造も大成功したようだ。

小さくなったコヨルシャウキのもとに、ライトとヴァレリアが駆けつける。

巨大化と縮小化、その度に遠くに避難したり近づいたりとなかなかに大変だが、ライト達がその手間を厭うことはない。

「コヨルシャウキさん、すごい!これでいつでもサイサクス世界に遊びに来れますね!」

『あ、ああ……本当にすごいのは、こんな奇天烈な術を事も無げに成し遂げてしまえる、ヴァレりんなのだがな……』

「もちろんです!ヴァレリアさん、ホンットすごい!尊敬します!」

「でしょでしょー? そう、私は偉大なる魔女なのだよ!さあ、諸君、私のことをどんどん褒め讃えてくれたまえ♪」

目の前で起きた奇跡の大改造に、ライトが大興奮しながらコヨルシャウキに声をかける。

コヨルシャウキは改造された側なので、本当に褒められるべきはヴァレリアであると呟き、続けてライトにも褒めちぎられたヴァレリアは鼻高々でふんぞり返る。

これまでずっと、異空間で永遠にも思える孤独に耐えてきたコヨルシャウキ。

そんな彼女にようやく希望の光が射し込んだ瞬間だった。