軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1292話 勇者候補生の心得と戦いの成果

その後に戦った六回目のビースリーボスバトル。

ライトは五回も戦闘不能状態になってしまった。

前回の五回目では、戦闘不能状態になるのは三回に収まっていたのに。再び瀕死状態が増えてしまったのは、コヨルシャウキがライト=勇者候補生への稽古を張り切っているせいである。

コヨルシャウキはライトに、勇者候補生としての心得をいくつも説いた。

『勇者は死を恐れてはならぬ。されど死への恐怖を全て捨て去ってもならぬ。武勇と蛮勇を履き違えるは愚の骨頂、生への執着こそが生き延びる活力となる』

『痛みも同様。必要以上に痛みに怯えて動けなくなる腰抜けは論外だが、痛みに慣れ過ぎて己が身体からの警告を無視してはならぬ。体調を万全に整えてこそ戦いに挑めるというもの、己の身体を疎かにする者に勝機は掴めぬ』

『この先どれ程強くなろうと、決して慢心してはならぬ。どんなに弱そうに見える敵であっても、確実に仕留めてこそ勝利を手にできるのだ』

こうした戦いへの心得は、主にライトが戦闘不能状態の間に語られた。きっとコヨルシャウキも、ライトが戦線復帰するまでの待つ間、暇で暇で仕方なかったのだろう。

その横で、息も絶え絶えで死にかけているライトにしてみれば、心得どころではないのだが。

それでも後になって、冷静かつ平穏な時に考えれば『まぁその通りだよなぁ』とも思う。

ライトはこの先も勇者になどなるつもりは毛頭ないが、戦士として生き延びるコツを今から骨身に沁みる程叩き込めば、冒険者になった時にも絶対に役立つことだろう。

そうしてビースリーのボスバトルで戦闘不能状態になる回数も、また徐々に減っていった。

十二回目で三回に減り、二十回目で一回になった。

しかし、そこから先がまた長かった。

ライトの理想は、一回も戦闘不能になることなくコヨルシャウキを倒せるようになること。

しかし、コヨルシャウキにもイベントボスとしての意地がある。

勇者候補生の前に立ちはだかる強大なボス役として、最低でも一度は敵を死の間際まで追い詰めることができなければ!という強い思いがあるようで、そうすんなりと勝たせてはくれなかった。

だがそれも、ボスバトル三十三回目にしてようやく達成できた。

HPが三桁前半で瀕死寸前がライトが繰り出した【夜刀神】がクリティカルヒットし、コヨルシャウキに10万を超えるダメージを与えたのだ。

ちなみにこの【夜刀神】、スキルレベルは今回のビースリーバトルによってとっくにMAXまで到達しており、一回攻撃を繰り出すのにHP250が必要かつ消耗される。

攻撃系スキルは、スキルレベルが上がる程に威力を増す分、発動に必要なHPやMPも消費量が増えるのだ。

故にHP三桁前半で【夜刀神】を繰り出せる回数は、たった一回しかなかった。

しかし、そのリスクを負っても【夜刀神】を繰り出す価値はある。

自HP250で敵HP10万を超えるダメージが出せるのだから。

ズズン……という音を立てて、後ろに倒れ込むコヨルシャウキ。

こうして彼女がライトに倒されるのも三十三回目。

相変わらず双方血みどろのズタボロ。ライトはゼェ、ハァ、と肩で息をしていて、コヨルシャウキは無念さを滲ませる。

『ぬぅ……此方の全力を、以ってしても……其方を、一度も、死の淵に……追いやることも、できぬとはの……』

「ぼくだって、この戦いで……どんどん、レベルアップ……してますからね……」

『さすがは、勇者候補生……此方が、見込んだ、だけのことは……ある……』

「ありがとう、ございます……」

ライトの健闘を称えるコヨルシャウキに、ライトも深々と頭を下げて礼を言う。

倒れた直後は無念そうだったコヨルシャウキも、ライトの顕著な成長ぶりに満足げに微笑んでいる。

そしてライトがコヨルシャウキに言った礼も、本心から出たものだ。

サイサクス世界においても、この短期間でここまでレベルアップできる方法は他にない。

これまでライトは、素材集めのためにこっそりと魔物狩りをすることはあっても、今回のように大量の魔物相手に延々となりふり構わず戦い続けたことはない。

何だかんだ文句を言いつつも、将来冒険者になりたいライトにとってこのビースリーは非常に良い経験となっていた。

『……さて……では此方は、しばし休む故……其方も、休憩の後に……星霊どもと、戯れておれ……三十四回目の、此方との戦いに……万全を期し、備えよ……』

「分かり、ました……三十四回目の、ボスバトルの、前に……マントと肘当ての、いつもの浄化魔法を……お願い、しますね……」

『おお、任せよ……その程度、此方にかかれば……ちょちょいのちょいー…………ぞ…………』

次の戦いを約束するライトとコヨルシャウキ。

コヨルシャウキが力尽きたようにスーッ……と消えていき、ライトの手元には三十三回目の討伐成功報酬の宝箱が降りてきていた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

その後もライトとコヨルシャウキの戦いは続いた。

どの戦いも最後はライトがコヨルシャウキを倒して終了するが、ライトは戦闘不能状態になったりならなかったりを繰り返している。

そうして迎えた五十七回目のボスバトル開始前。

ライトはコヨルシャウキとともに、報酬宝箱開封の儀に挑んでいた。

「そろそろルジェアの魔剣か、ルジェアの魔杖が欲しいんだけどなー……運のパラメータだってかなり上げてるってのに、五十回以上もバトルをこなして未だにどっちも一本も出ないって、どゆこと?」

『早いとこ、其方の欲しいものが出ると良いのにのぅ……』

宝箱を目の前にして、二人してぬぅーーーん……と唸りながら睨み続ける。

コヨルシャウキがボスを務めるビースリーイベント『昏き星海からの来訪者』には、イベント限定アイテムがいくつか存在する。

今のライトが欲しいのは、片手武器の『ルジェアの魔剣』と両手武器の『ルジェアの魔杖』。

性能的にはどちらもガンメタルソードを少し下回るのだが、それを差し引いても『イベント限定品』という付加価値は捨て難い。

それに、見た目もアクセサリーの『ルジェアの星屑の翼』と似ていて、剣は美しい瑠璃色の細身の剣身にピンク色のオーラが陽炎のように揺らめいていて、杖は同じく瑠璃色で魔法使いが持つ如何にもな形の杖の天辺に、ピンク色の大きな宝珠が煌めいている。何しろどちらも非常に見目美しい武器なのだ。

ちなみにこれまでライトが得たビースリーイベントボスバトルの報酬は、以下の通りである。

・ハイポーションダース 12個

・ハイエーテルダース 15個

・エネルギードリンク(1本) 3個

・エネルギードリンクダース 1個

・スペーススーツ・ヘッド 2個

・スペーススーツ・アーム 6個

・スペーススーツ・ボディ 3個

・スペーススーツ・シューズ 5個

・ルジェアの星屑の翼 1個

・背景『昏き星海』 4個

・身代わりの実 3個

・コーティング魔法 1個

この中で最も大当たりなのは『ルジェアの星屑の翼』、かなり嬉しかったのが『エネルギードリンクダース』と『コーティング魔法』と『身代わりの実』。

身代わりの実は早速ライトがボスバトル時に身につけて、即死攻撃を三回回避した。

一方で、他の報酬は微妙もしくはハズレの類いだった。

もちろんハイポーションダースやハイエーテルダースは大ハズレ。これが出てくる度に、ライトは苦虫を噛み潰したような顔になり、コヨルシャウキもまた何だか申し訳なさそうな居た堪れない空気に包まれた。

そして、アクセサリーの一つである背景『昏き星海』も一個目は嬉しかったのだが、二個目以降はがっかり要員となった。

BCOでは、装備品の一種であるアクセサリーの装備欄は一ヶ所のみ。つまり、他のアクセサリーとの併用や複数装備はできない。

故に同じアクセサリーを複数個引き当てても、何の足しにもならないのである。

これは限定ファッションも同様で、一個取れれば十分なファッションが、まあ何度もダブることダブること。腕パーツなど、現時点で六個も出てくる始末である。

報酬の宝箱を開けて、ダブりのファッションが出てくる度に二人の耳には『チーーーン☆』という美しくも虚無に満ちたおりんの音色が鳴り響いていた、ような気がする。

しかし、それでも二人はめげない。

いつかは必ず良い物が手に入る!と信じて戦い続ける。

ライトは己の引き運の悪さに何度も心が挫けそうになったが、その度にコヨルシャウキが懸命に宥め励まし続けた。

そうして迎えた、五十七回目の報酬宝箱開封の儀。

ライトはおそるおそる箱に手をかけ、蓋をそっと開ける。

するとそこには、ピンク色の大きな宝珠がついた瑠璃色の杖があった。

「ヤッターーー!やっとルジェアの魔杖がキターーー!!」

『おお、これが其方の欲しがっていた杖か!良かったのう、良かったのう!』

「はい!ありがとうございます!」

『これも其方の弛まぬ努力の賜物ぞ!』

ようやく引き当てたイベント限定品『ルジェアの魔杖』を手に入れて、ライトが飛び上がって大喜びしている。

そしてライトの後ろで、ライトにも負けないくらいコヨルシャウキも大当たりの報酬品が出たことに歓喜していた。

そんな風に二人してキャッキャウフフ☆しているライト達に、何者かが声をかけた。

「二人とも、何やら楽しそうだね?」

「『!?!?!?』」

誰かに声をかけられたことに、ライトとコヨルシャウキが心底びっくりする。

この異空間には、言葉を用いて会話する知性を持っているのは、ライトとコヨルシャウキ以外にいない。

そんな特異な空間に突如現れたのは、鮮緑と紅緋の渾沌魔女ヴァレリアだった。